【ワンランク上の日本酒と魚】池袋「坐唯杏」で“オトナの階段”を上る

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「もうすぐ社会人になる」

「部署が変わって、新しい部下や後輩ができる」

そんなことを意識するようになると「少し落ち着いた雰囲気のお店を探さないと」なんて考える人も多いんじゃないでしょうか。たしかに仲間内でわいわい飲むなら、チェーン系の居酒屋さんもいいけど、部下や後輩ができると、そうもいかなくなりますよね。 

 

そんなときにぜひおすすめしたいお店が、池袋の「坐唯杏」。なにしろ日本酒の種類が豊富。出てくる酒と肴はトリプルAクラスで、なにより抜群に魚が美味しい。

 
「俺、日本酒って頭痛くなるから苦手だし。魚って臭いから肉のほうが好きだし。」

「美味しい和食って、めっちゃ高いんじゃね?」

ご安心ください。そのイメージがすべて吹っ飛ぶお店です。

 

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JR池袋駅東口から約5分。こちらがその店構え。 

 

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お店は地下1階にあるのですが、階段入口から日本酒のラベルが壁や天井にずらり。

 

まるで、千社札が貼られた神社の鳥居をくぐるような荘厳な雰囲気。

取材当日は、お正月明けということもあってか、なんだか本当に神社へ初詣に行くような錯覚を覚えました。

 

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お店のスタッフの方に快くお迎えいただいて、靴を預けたら、あらら、今日はご予約がいっぱいなのかな?  

 

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テーブル席に通していただき、そこではたと気がついたのがこれ。

 

そう、割り箸です。これは、ささくれだつ木でできた割り箸ではなくて、ワンランク上の割り箸。一般的に「お店のランクと割り箸のランクは比例する」といわれており、こうした細部にもこだわりが感じられます。

  

利き酒セットでスタート

さっそくお酒のリストを見せていただきました。

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お酒のメニューには、生ビールや焼酎、ワインなどがありますが、こちらの本懐は日本酒。銘柄も豊富です。

一方、「一言イメージ」の欄には名だたる名画や昭和の名曲が並んでおり、遊び心もたっぷり。

 

でも、さすがにこれだけ銘柄があると、ちょっと迷いますよね。

 

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そんなわけで、同じ銘柄で、酒米を変えて仕込んだ利き酒セットがリーズナブルだったので、お願いしてみました。

 

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▲酉与右衛門(よえもん)利き酒セット 1,200円

 

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日本酒は、酒米という日本酒造り専用のお米を発酵させて造ります。

酒米に使うお米は、いくつか代表的な銘柄がありますが、左から「美山錦」「雄町」「吟ぎんが」を使った日本酒です。

 

はぁぁぁぁ、どれも美味い。

 

お米の香りが残っているけれど、べたべたした甘さはないし、果物のようなフルーティーな香りも感じます。 「お米が違うだけで、こんなに風味が変わるんだ」という驚きと、本物の日本酒の底力を感じる味ですね。

 

無理にたとえるなら、YouTubeで気に入ったバンドのライブチケットが手に入ったんで出かけてみたら、一曲目のイントロから、全身にずしんと響く音が飛び出してきて圧倒されてしまった。

 

「なにこれ、YouTubeの音源と全然違うじゃん!」

……そんな感じでしょうか。

 

仕事が効いている絶品刺身

いやいや、これで驚いていてはいけません。日本酒はワインと同じで、料理と合わせることで味がまた深くなります。

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さっそく、メニューから肴を選ぶことに。

 

ん?

 

では、「不味かったらお金は要りません」と、メニューに堂々と載せてある「〆鯖(サバ)」と併せてはいかがか。

 

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▲〆鯖(ハーフサイズ) 880円 ※大盛は1,280円

 

「〆鯖」というと、目にしみるくらい酢の匂いがきつい味を想像する方もいるのでは? いえいえ、あれとはまったく別物です。

 

一言でいうなら、刺身より美味い「〆鯖」。全く酢のきつさは感じないし、むしろ酢が、魚の生臭さだけを見事に消していて、魚の脂と身の美味さをきれいに残してくれた感じです。

 

先ほど入れていただいた、酉与右衛門のセットをまた一口。日本酒の香りのあとに、鯖の脂の風味、身の美味しさが追いかけてきて、実に美味しい。

「時間が経っても生臭くならない、きちんとした仕事がなされているのが、『坐唯杏』の酒肴のすごさ」ではないかと思います。

 

ところで日本酒の醍醐味は、他の肴と合わせながら味の変化を楽しむことも一つです。
そこで別の肴をと思ったんですが、これがまた種類が多い。

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日本酒に合うと評判の肴に、赤丸がつけてあるとのこと。

なるほど、なんだか学生時代にお世話になった参考書「傾向と対策」みたいですね。さっそく、この中からいただいてみましょうか。

 

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▲鰹たたき(ハーフサイズ) 780円 ※普通盛は1,280円

 

「あれ? なんでラップがかけてあるの?」と思うでしょう。本来、鰹(カツオ)のたたきは、藁(わら)を燃やして表面をあぶり、香りをつけるんですね。こちらのお店では、その煙の風味を楽しんでもらうために、わざわざラップをかけて出されているんだそうです。

 

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取材したのが1月ということもあって、「歯鰹(ハガツオ:きつねと呼ぶことも)」という種類の鰹を使っているとのこと。

 

たしかに、初夏の初鰹や、秋の戻り鰹とは別物です。

とはいえ、いぶした煙の風味の後に、口の中で溶けてくるような身の美味さはたまりません。

 

合わせてあるトマトの酸味が、濃厚な歯鰹の味をいいタイミングで消してくれるのがまたうれしい。もちろん、日本酒との相性は最高です。

 

続けて、こちらの一品を。

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▲ウツボたたき(ハーフサイズ) 780円 ※普通盛は1,280円

 

ウツボというと、どうしてもどう猛でグロテスクな外形をイメージしてしまいますよね。ところがどっこい。味は、あの外形のイメージとはほど遠い上品な味。

 

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ご覧ください。皮と身の間がゼラチン質でぷりぷり。身の味は、魚というよりチキンに近い風味。

 

これなら、魚が苦手な人でも、どんどん箸が進むんじゃないでしょうか? ちなみにウツボは、鉄分とタンパク質が豊富な魚です。また、身と皮の間のゼラチン質は、肌によさそうなイメージだから、女性に喜ばれるかもしれません。

 

外見がおっかない魚でも、美容と健康によさそうとなると、案外女性は進んで召し上がることが多いですからね。気になる女性と一緒に来店した時に勧めたら、一気に心の距離が近づくかも。(おっと、これは別の“オトナの階段”ですかね)

 

素直におすすめを尋ねるべし

それにしても、これだけ手頃な価格で、これだけのクオリティの高い酒と肴を提供してくださるのには何か強い信念があるに違いない……。

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というわけで、「坐唯杏」武内剋己社長にお話を聞いてみました。

 

武内社長は、ホテルの飲食部で料理人としてのキャリアをスタートされて以降、著名なうなぎ料理店である渋谷の「宮川」で、うなぎ職人として包丁を振るわれていたそうです。また、土佐料理の名店といわれる「祢保希(ねぼけ) 銀座店」などを経て独立し、豊島区の東長崎に割烹を開業。池袋にお店を移して現在に至っていらっしゃいます。


まさに和食の道を歩かれてきた方ですが、なぜこんなリーズナブルな価格で、上質な和食を?

 

「祢保希」で働かせていただいた時の影響でしょうね。「祢保希 渋谷店」で出している料理を見て、俺がやりたいのはこれだと思ったんですよ。魚は天然物を使ってるし、率直にいって嘘のない商売をされていますからね。そもそも和食のお店は、クオリティの高いお料理を出すと、どうしても利益が薄くなりがち。だからこそ、お客さんには安心して楽しんでいただける価格で、しっかりしたものを召し上がっていただきたいんです。

 

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それと自分にとって大きかったのは、東長崎時代に開いたお店の近くに地酒の名店があったこと。その時に酒について学びを深めました。料理と酒の組み合わせでより重厚な世界が作り出せる。そのことに魅了されましたね。

 

なるほど。ところで、和食のお店って、若い人にはハードルが高い気がするし、どれがおすすめなのかわからないこともあると思うんですね。どうやって酒やつまみを選べばいいんでしょうか。

 

そうですね、少しでもそのお店が気に入ったら「ファンになって通い続けたいんですけど、どれが一番おいしいでしょうか」と素直に聞いてみたらどうでしょうか。だいたいのお店の方は熱心にすすめてくれるはずでしょうから、その中から試してみるといいと思いますよ。


ごもっともです!

そういえば、周囲を見回すと、

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お客さんは若い人ばかり。

 

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飲んで盛り上がってるグループもあるけど、チェーン系居酒屋さんのように、がやがやとした雰囲気にはならないですね。しっとりとした落ち着いた雰囲気が、店内に漂っています。人間、おいしいものを食べると静かになるものですけど、たぶん、みなさんも私と同じ状態なんでしょうね。

 

イチオシの酒「宗玄」

さて、いい気分になってきたところで、もう一杯いただきましょうか。

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つらつらと日本酒のリストを見ていると、こんなものが。

 

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チョーが付くほどおすすめということでしょうか。中でも筆頭に挙げてある「宗玄」はイチオシのお酒のようです。

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武内社長、直々にお持ちいただきました。

 

「宗玄」もいくつか銘柄がありますが、武内社長におすすめいただいたのは、「宗玄 純米吟醸無濾過生原酒・山田錦(100㏄グラス 900円、1合 1,600円)」。

 

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さっそくいただきます。

 

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はぁぁぁぁ、実に美味い。


濃厚だけど、軽やかな風味。たとえていうなら、甘さをほんのり感じる花の蜜を飲んでいる感じでしょうか。

それなりにアルコール度数があるはずなのに、酒がかろやかに喉元を落ちていくのがわかります。

 

なんと「無料メニュー」も!

そうそう、日本酒の醍醐味は、料理と合わせること。その中で、気になった肴がこれ。

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▲鯨ハツ刺 1,500円

 

鯨(クジラ)の心臓の刺身です。鯨は現在、口にできるお店が少なくなっています。しかし、筆者の世代までは、鯨は普通に食べられていました。

 

ふだん僕たちは意識することは少ないですけど、おいしいものをいただくってことは、生き物の命を食べているんですよね。今よりも、はるかに食べものが乏しかった昔の日本では、鯨は、一頭で何人もの人が食事を取れるありがたい食材でした。


とはいえ、多くの人は、現代以上に、生き物の命をいただくことに対して恐れが強かったようです。特に捕鯨については、厳格なルールを設けていました。子供の鯨を妊娠した母鯨は獲らないようにし、万が一、子供の鯨を殺めてしまった場合は、産着や子供服を着せて供養することもあったそうです。

 

そんな歴史のある食材ですが、味はというと、わかりやすく言うなら血のにおいが全くしない「レバ刺し」といったところでしょうか。もっとも、牛や豚のレバ刺し(生食)は、肝炎などの深刻な病気に感染することがありますから、今では法律で提供が禁止されています。この鯨のハツ刺しは、そういった衛生上の心配はまったくありません。安心して召し上がっていただけます。

 

ごま油のタレが添えてあるのですが、醤油とにんにくのスライスでもいただいてみました。これがまた、日本酒によく合う。

 

最高の酔い心地。やおら、武内社長がメニューを差し出して一言。

 

日本酒を一杯注文いただいた方には、「無料メニュー」を一品ご用意させていただいてるんですよ!

 

本当ですか!? とメニューをよく見てみると、

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本当でした。確かに「無料メニュー」とあります!


なるほど、他の食材を調理する際に出るもので、酒肴をこしらえてあるのですね。それにしても、酒に合いそうなものばかり。いや、絶対に合う。

 

また、その下には、

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全品300円均一、うれしい肴たちのオンパレード!

 

どれも気になりますが、一番気になったのがこれ。

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▲タコ卵塩辛 300円

 

タコの卵の塩辛です。タコの卵って、細長い形をしているんですね。

透明なままの状態に仕上げるには、タコをさばいて洗ったりする作業が大変だと思うんですが、これをコインたった3枚でいただけるとは脱帽です。

 

味は不思議なんだけど、塩辛なのに全然のどが渇かない。酒と一緒にいただいても口の中でするりと卵が割れて、うま味がしみ出してくるのがたまらないですね。

 

寒ボラの刺身を熱燗で

季節の魚のメニューをみると、これまたいい仕事してくれそうな肴ばかり。

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目移りしてしまいますが、一番僕が気になったのが、これ。

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▲鳴門産 寒ボラ刺身 1,480円

 

東京近郊の海沿いの町にお住まいの方は「あんな泥臭い魚を食べるの?」と思う人もいるはず。実際「真夏のボラは、臭さのあまり猫もまたぐ」という言葉があるそうですが、チッチッチッチッ。違うんだなあ。

 

鳴門のきれいな水の中でもまれただけあって、このボラは全然別物です。わかりやすくいうなら鯛の食感・ヒラメのうま味

お出しいただいたのは、熟成させて3日目のもの。少し身が柔らかくなっているので、厚めに切ってあるそうです。

 

ちなみに、さばいたばかりのボラなら身が弾力がすごくて、薄造りにしないと食べにくいくらいなのだとか。寒い時期のボラだけあって、脂がのっていて日本酒も進みます。

 

寒い時期の魚といっしょにいただくなら、熱燗でしょう。

ええいっ、もう一本追加。

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▲神亀ひこ孫 グラス750円、1合は1,300円

 

神亀酒造といえば、埼玉の銘酒。さすがにいい酒は熱燗にしても、全然刺激臭がしません。

 

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寒ボラの刺身を一つ口にして、熱燗をちびり。魚のうま味が、あたたまった日本酒の中ではじけて濃厚な風味が広がります。その後、ほんのりお米の風味が舌の上に残る。 

 

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いや、もう、たまりません。

この美味さがわかれば、“オトナの階段”を上ったといってもいいでしょうね。

 

もっとも、熱燗の上には、さらに上へと続く“オトナの階段”があります。

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+500円で、ひれ酒も楽しめるうれしさ。

寒ボラも、ひれ酒も冬の寒い時期だけ楽しめる醍醐味。是非おためしくださいね。

 

お店情報

坐唯杏(ざいあん)

住所:東京都豊島区東池袋1-31-1 バロックコートB1
電話:03-5957-2207
営業時間:11:30~14:00、17:00~24:00(LO 23:30)
定休日:年末年始(臨時休業あり)
ウェブサイト:https://zaian777.jimdo.com/

※この記事は2017年1月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:松沢直樹

松沢直樹

1968 年福岡県北九州市生まれ。SE、航空会社職員などを経て、1994年よりフリーランスの編集者・ライターとして活動。主に扱うジャンルは、食全般、医療、 農業、安全保障、社会保障など。マグロ解体ショーの実演、割烹の臨時板前などとして、メシを作ることも。近著に「うちの職場は隠れブラックかも(三五 館)」。

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