風呂上がりに食べたいものというと、さっぱりそば、酒に合う煮込みや揚げ物、キンキンに冷えたアイスと、人それぞれ、多岐にわたります。
「ひだまりの泉 萩の湯」は、2017年4月末に建て替えオープンした最新型の銭湯です。そこに併設されている食事処では、カレーが店長の一押しとして紹介されています。いや、汗を流した後にカレーを食べて汗かきたくないよ! そのイメージを踏まえたうえでなぜオススメするのか、話を聞きに行ってきました!
やってきたのは、改札を抜けた瞬間から食の誘惑だらけ、山手線の鶯谷駅。
駅前の言問通りを越えて歩くこと3分、通り沿いの巨大なビルに「萩の湯」の表記が。
こ、これが銭湯……! 2階がフロントと飲食店、3階が男湯、4階が女湯と、敷地を広々と使い尽したビル銭(ビル型銭湯)です。早速ビールを迎え入れる準備をしに、風呂へ向かいましょう。
都会のど真ん中でこの規模かよ……!
こちらが内湯(男)です。デケェ!! 私は風呂デューサーを名乗り、150軒ほどの銭湯に行っていますが、確定で1番デカイです。手前には週替わりの入浴剤(この日はヨモギ)が入った高温湯、その隣に3種類のジェットと電気風呂があります。どの湯船も大の字になれる広さです。
背景画の下にはモリモリの泡付きを体験できる炭酸泉があります。
炭酸泉というと評判で順番待ちしがちな湯船。「萩の湯」の場合は炭酸の湯船もでかいので、順番待ちはなさそうです。背景画は、山と桜のシンプルな日本画風。ふんわり優しい雰囲気の背景画を眺めながら、ぬるめの炭酸泉で心が穏やかになってゆく……!
露天風呂もあります。これがまたでかい!!
しかも露天風呂のお湯は「光マイクロバブル湯」。0.02mm~0.03mmの細かい泡をつくりだし、その泡が汚れを洗浄、そして肌に浸透することで保湿効果があるのだとか。湯船に注ぐ日の光、それを受けて輝く湯……温泉地に来たかのようなゆったりした時間が流れています。
充実した湯船に加えサウナと水風呂も装備しています。本来サウナは有料ですが、6時~9時の朝湯時間はなんと無料! 460円でこの規模と設備、これ以上の銭湯はないんじゃなかろうか!!
そこまでやらんでも……徹底的に店内で手作り
素晴らしい風呂に入ってビールを迎え入れる準備が整わないわけがない!
ドライヤーもそこそこに、髪半乾きで食事処へ向かいます。
ここが「食事処 こもれび」。またデカイな! 席数は全73席。その気になれば結婚披露宴もできそうです。
まず注文したビールのお供は「皮から手作り焼き餃子(420円、土日祝日のみ)」と「定番自家製モツ煮(390円)」。風呂屋さんについている食事処って、厨房では解凍、加熱するだけのことが多いですよね。そんななかでここは手作りにものすごくこだわっているんです。
厨房をのぞかせてもらうと名前の通り、自家製皮に自家製あんを、職人さんの手で詰めていました。粗びき肉を使用したあんは、かむほど肉汁が出てきてうまい! 厚めの皮は自然とかむ回数を増やし、一層肉汁のうま味が感じられます。
モツ煮も大鍋で2日間、店内で煮込んでいます。驚かされたのは大根。煮込むとグズグズになりがちですよね。しっかりと歯ごたえを残しつつ、奥深くには大根らしい味わいが詰まっている! 酒のお供を超え、完成された食事に仕上がっています。
ガッツリ食べたいかたには「ビーフカットステーキ(980円)」がオススメ。
THE 肉のこのステーキ、信じられないほど柔らかい! そして塩コショウで味を誤魔化すことなく、合わせるソースもステーキの味を活かすさっぱり味。この細やかさはもはや和食、ステーキでここまで繊細さを感じられるなんて……。
その秘密は生の塊肉を直接買い付け、店内でカットすることです。さらに話をうかがうと、ビーフカットステーキは肉のさまざまな部位を、厳選した状態で提供されています。部位が違っても一律で同じレベルのおいしさに仕上げる職人の腕も、この味に大きく関わっているのだそう。
銭湯の食事でこんなに質の高い食事ができるとは思わなかった! 風呂上がりのビールももちろんうまいんですが、ビールの存在を忘れるくらい引き込まれるメシもすごい! 感激しました。
監修した人とこだわりがすごいイエローカレー
ひとしきりビールを楽しんだところで、名物メニューのカレーをいただきましょう。
パプリカが乗っているこのビジュアル……本格的なやつだ! イエローカレーは俗にいうバターチキンカレー。トロトロに溶けた玉ねぎと、溶けつつも味がしっかり感じられる鶏肉が入っています。
店長オススメイエローカレーということで、とっても歯がきれいな店長さんに話をうかがってみました。お名前はラマさん。「萩の湯」はネパール人店長の銭湯なのです。
ーーなぜ日本に?
音楽が好きで、SONY製のウォークマンを愛用していたのが、日本に興味を持ったきっかけです。それから電化製品にも興味を持つようになり、大学生のときに日本に留学しました。
――なぜ銭湯で働こうと? ネパールには入浴の習慣がないと聞いたことがありますが……
そうです、ネパールではお湯には浸からず、常温のシャワーを浴びるのが一般的です。銭湯のことはまったく知りませんでした。銭湯で働き始めた理由はとにかく仕事を探していたからですね(笑)。そんなときにたまたま「萩の湯」の社長と出会い、姉妹店で経験を積んで、現在は「萩の湯」で店長として働いています。
――イエローカレーはどうですか?
おいしくできていますよ! 濃すぎず薄すぎず、バランスがいいです。スパイスの香りが強い本格的なネパールカレーにする案もあったのですが、女性や子どもでも食べてもらえるような味付けを求めて、いまのイエローカレーにたどり着きました。
カレーの本場、ネパール出身の店長が言う「おいしい」。日本人のそれとは重みが違う……! そしてラマさんのチャレンジ精神ですよ。そのおかげで本来存在しえないイエローカレーを、ここで食べることができる! 前置きは十分でしょう、いただきます!
ココナッツの風味が口に入って喉を通り抜けるまで、ずっと濃厚に感じられる! その風味をベースにごまだれのようなコク、あと引く辛さもあり……和風、かつアジアなカレーだ! ネパール人店長の銭湯で出すものとして、これ以上象徴的な食べ物はないんじゃないか!
仕込みの様子をのぞいてみましょう。玉ねぎにココナッツミルクを加えて煮込んでいきます。ちなみに一度の仕込みで使うココナッツは約10缶、4リットル! これで70人分です。
12種類のスパイス、鶏肉を加え煮込むこと3時間。完成後は、真空パックができる機械で密封、衛生的に管理できる温度まで一気に冷やすブラストチラーで急速冷却します。どちらも保健所のかたが「銭湯でこの設備!?」と驚くほどの調理設備なのだそう。
解凍、加熱だけなんでしょ? というイメージとはかけ離れた徹底手作り。この工程ならどうしたってうまくなる!
こだわりを支える人と覚悟がアツイ!
スーパー銭湯と差別化をするため、徹底的な手作りがこだわり、そう語るプロデューサーの駒崎さん(写真右)は、ここで食事を担当するために前職を辞めてきました。なんという覚悟……!
料理長を担当する平原さん(写真左)はホテルや迎賓館のシェフとして腕を振るった経歴の持ち主です。さらに厨房にはホテル、レストランで経験を積んだ手練れをスカウトしています。
この人選、設備、そして覚悟……! 付属の料理店、そのイメージで「萩の湯」を見てはいけないのです。
昼間っから都内最大規模の銭湯でのんびり風呂に入って、手作りの料理を肴に酒……天国じゃなければなんなのか。閉店まで腰をあげることができそうにありません。
風呂、食ともに頂点を目指した「萩の湯」。風呂好きはもちろん、食通のかたにこそ来てほしい! 鶯谷の新名所で究極のいやしを体験してみては?
お店情報
ひだまりの泉 萩の湯
住所:東京都台東区根岸2-13-13
電話番号:03-3872-7669
営業時間:銭湯、萩の湯…6:00~9:00、11:00~25:00 食事処こもれび…11:30~22:00
定休日:第3火曜日
※この記事は2017年9月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
※浴室内は許可を得て撮影しています。営業中は撮影厳禁です。
※餃子は平日でも「平日餃子(390円)」を販売しています。