下町の庶民文化をハシゴする……? 「老舗の湯丼」と「天丼(ハ)」とは?

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風呂デューサーとしても活動している毎川直也です。メシ通レポーターでありながら小さめの胃袋の持ち主な私ですが、「丼のハシゴ」をしたことがもちろんありません。想像するだけでうぷっとなります。

今回ご紹介するのは、そんな私と同様に小食のみなさんに是非挑戦してほしい、湯丼と天丼(ハ)のハシゴメシ。丼をハシゴしてうまくなる? 湯丼って……お粥? そして(ハ)って……?

 

いきなり盛大にネタバレ

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台東区、日本堤エリアにやってきました。
住宅街のなかにスカイツリーの穴場ビューポイントが多数点在しています。

 

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東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅から歩いて10分、やってきたのは銭湯「湯どんぶり 栄湯」。
屋号でもろに湯丼の秘密がわかっちゃいましたね。そう、湯丼とは湯どんぶり、銭湯のことです。ただ、丼にひっかけているのは屋号だけではないんです。

 

はみ出す具材は……自分!?

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内湯には水風呂に2種のジェット、バイブラに電気と、銭湯の基本設備をしっかりと装備。このほかにも岩風呂風の薬湯もあります。実装当時これほど設備が豊富な銭湯はあまりなく、どんぶりのようにさまざま味わいが楽しめる、ということで「湯どんぶり 栄湯」に改名したのだそう。

 

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設備が具ならお湯は米、どちらが欠けても丼は成り立ちません。実は「湯どんぶり 栄湯」のお湯はすべて温泉、加えて硬度成分を取り除いた軟水になっており、柔らかい肌触りが特徴です。具材の種類が豊富、米も一級品。シャレっぽい湯丼ですが、シャレにならないハイレベルなのです。

 

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こちらは2017年5月にできた新名物、露天風呂! 結構デカイ!
そしてなんでしょう、白い! これ入浴剤ではなく、細かい泡です。これはナノファインバブルとよばれるもので、手に書いた油性ペンの文字がこするだけで消えたという逸話があるのだそう。すさまじい洗浄力です。

 

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奥に佇んでいるのは「丼(どんぶり)湯」! 丼を食べる、いや、丼になれる!
この湯船のお湯は常にあふれさせているため、ほぼ一番風呂を味わうことができます。入ってみると、ザザザザーっとぜいたくな音! 家の風呂だとあふれるお湯がもったいなくて、心から楽しめないんですよね。ここではあふれさせ放題です!

 

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露天風呂の横にはヒマラヤ岩塩サウナを完備。湿度のあるサウナなので、岩塩の塩気が室内に飛散し、その塩気を吸引すると気管支によいと言われているようです。サウナのあとは水風呂に漬かるもよし、露天風呂で涼むもよし。

これで入浴料金460円、サウナ料金200円の合計660円! 都内なので、温泉地に行くより交通費がかからない!

 

戦火を逃れた奇跡の登録有形文化財

さて、湯丼で心が満たされ、腹が減りました。ハシゴメシでこんなに2軒目を求めることってそうそうない! 精神衛生的にも大変よいハシゴメシ、続いてはこちら。

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「湯どんぶり 栄湯」から徒歩2分、2軒目は天ぷら屋さんの「土手の伊勢屋」です。
おお……なんという老舗! 創業は1889年、現在の店舗は1927年に建築したもの。この一角だけタイムスリップしたような雰囲気です。

 

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1945年、このあたりは空襲の被害を受けました。しかし「土手の伊勢屋」は風向きの関係で奇跡的に焼け残り、当時の姿のまま営業を続けている貴重な存在。いわばパワースポットなのです。2010年には登録有形文化財に指定されました。

 

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のれんをくぐってすぐ左手は揚げ場となっており、4代目が黙々とてんぷらを揚げています。その後ろ姿はまさに職人、集中力がこちらにも伝わってきます。
※取材のため特別に撮影させていただいています。

 

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ちなみにご主人の正面の引き戸を開けると外とつながっています。昔は火災の原因となるため、屋内で天ぷらをつくれませんでした。そのため屋台で、軒先に具材を並べてお客さんが注文したものを揚げていたのだそう。

香ばしい油のにおいで、通りがかりの人も思わず天丼を食べたくなる! そんな宣伝効果もありますね。

 

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ちなみに「土手の伊勢屋」ではごま油にコーン油をブレンドした油を使用。ごま油で香りとコクを、コーン油で衣に軽さを出しています。
油物を食べると胃もたれしやすい私でも、「土手の伊勢屋」の天丼はまったく胃もたれしませんでした。老若男女問わず天ぷらを満喫できます。

 

天丼の味を支える、天丼屋さんじゃない仕事

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「土手の伊勢屋」の天丼は(イ)、(ロ)、(ハ)の3種類。それぞれ乗る具材が違います。
そう、天丼(ハ)の(ハ)とは、どんぶりの種類のこと。ちなみに松竹梅といった表現をしないのは、(イ)(ロ)(ハ)のどの天丼にもそれぞれの良さがあり、ランク付けされた印象を持ってほしくないからだそうです。

 

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それではいただきましょう、これが天丼(ハ)(2,500円)! はみ出してる……! 現在のご主人の代から、見た目のインパクトを求めていまのスタイルになりました。
まず手前に野菜3種、この日は左からミョウガ、ししとう、枝豆。春にはソラマメ、夏には紅芋、秋には栗など、季節ごとに変わります。
口当たりが軽い衣、そしてタレの味が優しいため、野菜のみずみずしさが強く感じられる!

 

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野菜の下には、丼から飛び出すサイズのエビ。大きいほど大味と思いきやさっぱりとした繊細な味! 弾力のある身はかむほどに味が出てきます。
その隣にはいわゆる小鯛のカスゴ。人生で食べた白身魚のなかで一番の柔らかさでした。店主さんにうかがうと、天丼の具材として提供しているのはおそらくここだけとのこと、大変貴重な天ぷらを味わえます。

 

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魚介2種の下には一粒一粒甘みが閉じ込められた小エビのかき揚げと巨大な穴子です。
そして天ぷらを下から支えるご飯、これはお米屋さんと天丼に合う米を探し求めて見つけた宮城県のひとめぼれを使用しています。夏場きちんと米を冷蔵する農家さんから仕入れることで、1年中同じ品質を保っています。べチャっとせず、タレと絡みつつも米の味が感じられますね。

 

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そして最高にこだわっているのがこの穴子。
いままで食べてきた穴子は何だったのかと衝撃を受けるほどの柔らかさ。かむ必要もなく、舌ですりつぶせます。外パリ中フワの究極が穴子の天ぷらだったとは!
なぜそこまで柔らかくできるのか、店主さんにその秘密をうかがうと、とある場所へ案内してくれました。

 

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案内していただいたのは、大きな水槽がぽつんと置かれている小屋。水槽をのぞくとたくさんの穴子が! 伊勢屋では穴子を生きたまま保存し、当日の朝締めています。
穴子の硬さは「死後硬直」によってでるもの。当日の朝締めれば死後硬直の前に調理ができ、柔らかさを維持できるのです。とはいえ維持管理は難しく、穴子が生息する汽水域の塩分濃度、2.7%を維持しつつ、穴子にストレスを与えない水質維持等、天丼屋さん以上の仕事をおこなうことであの柔らかさが提供されています。

 

ハシゴしたのは、庶民文化だった

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「天丼は庶民の味だ。」先代からそう伝えられてきたご主人。その味、価格を守りながら、インパクトのある見た目、穴子の朝締めといった挑戦にも取り組んだ結果、営業時間中はいつも行列という大盛況となりました。

 

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そして湯どんぶり。銭湯は本来、地元の人向けのお風呂です。露天風呂、温泉認可によって、地域の外、果ては外国からのお客さんも獲得するようになりました。

老舗が古きよきものを残しながらチャレンジに取り組み、地域に人を呼んでいるのです。1日休みの日は、2つのどんぶりをはしごして、心身ともにリフレッシュしてみては?

 

お店情報

湯どんぶり 栄湯

住所:東京都台東区日本堤1-4-5
電話番号:03-3875-2885
営業時間:14:00~24:00(日曜祭日は12:00~)
定休日:水曜日

sakaeyu.com

 

土手の伊勢

住所:東京都台東区日本堤1-9-2
電話番号:03-3872-4886
営業時間:11:00~14:30
定休日:水曜日、第4週火曜日

www.dotenoiseya.jp

 

※この記事は2017年7月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
※浴室内は許可を得て撮影しています。営業中は撮影厳禁です。
※「湯どんぶり栄湯」から「土手の伊勢屋」の順番にハシゴできる日は限られています。それぞれの営業時間をご確認ください。ちなみに、逆の順番のほうがハシゴしやすいです。

 

書いた人:毎川直也

毎川直也

風呂が好きで、風呂デューサーを名乗り活動中。銭湯、スーパー銭湯、温泉旅館での勤務経験を持ち、銭湯に勤めながらメディア出演をしている。酒が弱いうえに小食なため、「メシ通」には間違いなく向いていないライター。

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