伊丹十三の愛した、あの「タンポポオムライス」の原点。“うつくしいプレーンオムレツ”のレシピ【料理ハック】

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あの「タンポポオムライス」の原点かもしれないプレーンオムレツ

伊丹十三監督の映画『タンポポ』で有名になったいわゆる「タンポポオムライス」にあこがれています。

『メシ通』でも記事になっていましたね。

 

チキンライスの上に乗せたオムレツにナイフを入れると、ふわとろの卵が開いていく。おいしさの演出として至上のものです

 

伊丹十三はエッセイストとしても抜群の才能の持ち主でありました。語り口の親しみやすさや、内容がすっと入ってくる絶妙な文体は、いま読んでもうなるほどです。現在活躍しているエッセイストにも彼の影響を受けている人は多くいるはずです。

 

「タンポポオムライス」の原型ではないか

伊丹十三のエッセイの中に、プレーンオムレツを作る話があります。これがタンポポオムライスの原点となったんじゃないかと筆者は考えているのです。

日本世間話大系

伊丹十三『日本世間噺大系(新潮文庫刊)

 

『日本世間話大系』に収録されている『プレーン・オムレツ』というお話は、伊丹十三が洋食屋のオヤジさんにオムレツの作り方を尋ねるもの。対話形式で書かれていて臨場感がすばらしいのですが、オムレツを作る様子が、ものすごくおいしそうなのです。楽しそうなのです。

自分でもやってみたくなるのです。

やってみよう。

 

洋食屋のオヤジさんが作ってたプレーンオムレツ

卵は3つくらい。

バター、塩、胡椒、うま味調味料。 

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エッセイの中では、オヤジさんが玉子専用の鉄フライパンを育てていく話も書かれていてたいへんおもしろいのですが、今回も一般的なキッチン事情に合わせてフッ素樹脂加工のフライパンを使います。

 

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卵に塩、胡椒、うま味調味料を適量入れまして、

 

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ちゃちゃっと混ぜます。白身が切れたらオッケーくらいの気持ち。

  

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温めたフライパンにバターを入れるんですが、最初にサラダ油を入れてすぐに捨てる。その後にバターです。そのほうが「馴染みが良い」とオヤジさんは言っております。

 

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そこに溶いた卵をサーッと流し入れます。

焼き始めたところですが、ここで『プレーン・オムレツ』より引用します。

 

オヤジ

右の手は、箸の先をひろげて、こう。左の手は、こう。——(左手でフライパンを激しく前後に揺すりながら右手の箸で丸く玉子を掻きまわす。左手はピストン運動。右手は円運動。しかも驚くほど激しい。火は終始強火)

ハハア、左手が相当活躍するのね。これが素人と全然ちがうところだな。

[伊丹十三『日本世間噺大系』新潮文庫(2005)より引用]

 

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伊丹十三が観察したオヤジさんの言葉と動作を真似て、右手の円運動と左手のピストン運動で卵をかき混ぜます。 

 

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オヤジ

この、搔きまぜるのをいつやめるかってえと、まだですよ、まだですよ(右手の箸の掻きまわす、その箸の先を注視する。初めは液体を掻きまわすのだからフライパンの底は見えないが、そのうち、玉子が少し固まって、グジュグジュになり始めた途端、箸の通った跡に黒い鍋底が見え始める)ホラ! 箸の跡が見えるようになったですね。

[伊丹十三『日本世間噺大系』新潮文庫(2005)より引用]

 

黄色い卵の中に鍋底が見える、この瞬間はあっという間にやってきます。スリリングな一瞬です。興奮する。

 

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そしたら火を止めて、フライパンを向こう側に45°傾けて、卵を寄せていきます。

 

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オヤジ

この柄の、根元から三分の一くらいのとこを、こう叩くわけですね。トーン、トン(叩くにつれて、玉子がまくれ返ってくる)

アレッ。

(伊丹十三『日本世間噺大系』新潮文庫(2005)より引用)

 

フライパンの柄を叩いてオムレツを巻いていくなんて、職人みたいなテクじゃないですか。伊丹十三によって描写された手際に触発されてちょっとやってみたら、これがマア実際になんか「できた気分」になれるんですよ。

 

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フライパンを「とんとーん」と叩いていると、オムレツの形ができあがってくるんですよ。楽しい!

 

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不格好ながらいちおう「タンポポオムライス」のようなものが自作できました。教わったんじゃないんです。エッセイを読んだらやってみたくなったんです。

 

できなかったことができるようになる

できなかったことができるようになるのは楽しいことです。料理であれスポーツであれ初めての自転車であれ、練習して上達する過程にはやっぱり喜びがあるんですわ。

『プレーン・オムレツ』の中でも、伊丹十三はオヤジさんに促されてオムレツを焼いて、何度も失敗します。しかしそれが実に楽しそうに書かれているんですな

 

筆者も何度もしくじりました。

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遅い。

  

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巻けてない。

 

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オムレツっていうかダサめの卵焼きになっちゃった。

 

失敗はするんだけど、なんかうまくいきそうな手応えがあるので再チャレンジしたくなるんですよ。次はうまくいきそうだとか、さっきいい感じだったところをもっとちゃんとやろうとか思って、もう一回作ろうと思えるんです。上達をしているという確実な手応えがあって、やってておもしろいんです。

 

極めてプレーンで黄色が綺麗なオムレツ

そんな感じで、筆者が何度もプレーンオムレツを作ってみてわかった「うまくいきやすいポイント」がこちら。

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 『日本世間噺大系』には、ほかにもたくさんのイイ話が書かれているので興味を持たれたらぜひ読んでほしいです。あとプレーンオムレツも作ってみると楽しいです。ホントに。

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。好きなエッセイ集は伊丹十三の『女たちよ!』『ヨーロッパ退屈日記』。

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