寄せ箸、刺し箸、迷い箸……「正しくない箸のマナー」をあらためて知っておきたい

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箸ヘタマンのみなさん、そしてメシ食いフォームが凛(りん)としてかっこいいみなさん、こんにちは。

以前、この記事↓で「正しくない箸の持ち方」について考察しました。

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覚えている人は幸福であります。

心豊かであろうから。

前回は箸の「持ち方」のことでしたが、今回は箸の「使い方」について一緒に勉強していきましょう。

いわゆる和食のマナーですね。

 

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和食マナーのなかで、とくに箸の使い方は「きらい箸」と呼ばれます。

たとえば上の写真は、食べ物を突き刺す「刺し箸」

ほかにも箸で器を引き寄せる「寄せ箸」

何を食べようか迷って箸がお膳の上をウロウロする「迷い箸」

食事の席でお行儀が悪いとされるムーブがいろいろあります。

 

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今回は、美しい箸づかいや“日本人の心”の継承を目的とする「日本箸文化協会の運営委員長、中道久次さんに「きらい箸」について解説をいただきました。

 

「きらい箸」のあれこれ

①拝み箸

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食事の前、ゆっくりと「いただきます」を唱える時のこの仕草。わりとよく見かけるし、行儀の良いことのように思っていました。

しかし意外なことに、これって「きらい箸」のひとつ「拝み箸」だそうです。

 

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainそうそう、「拝み箸」。そもそも合掌の作法には、物を持ってこんなふうにすることはないんですよね。

 

ーーなるほど。食事以前に、合掌の作法として間違っているということなんですね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainまず合掌して「いただきます」として、それからお箸を持てばいいんです。順序が逆なんです。本来、箸は箸置きに置いてあるものです。箸置きがないからこういうことになるんでしょう。

 

②手皿

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食べ物を口もとにもってくるとき、手のひらをお皿のようにする「手皿」

行儀が良いことだと思われがちで、実際にテレビでタレントさんが手皿をしている様子はよく見られますが……。

 

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainで、実際に落としたらどうなるの(笑)。

 

ーーあっ……そうか。

 

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f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainあたかも上品そうに見えるけど、実際に落ちたらもう、拭くかなめるかするしかない。だったら小皿持ってくりゃいいじゃない(笑)。小皿が無いなら仕方ないけど、あるなら使おうよと。

 

③渡し箸

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器に箸を渡してしまう「渡し箸」。ラーメン屋さんとかでやってしまいがちですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain渡し箸は「ご飯食べ終わりました」の合図であることもそうだけど、もうひとつ、縁起が悪い。「“三途の川を渡す”という意味なのでやめてくれ」という地域もある。箸を置く方法がほかにないなら仕方ないけど、あえてやる必要はないんです。

 

ーーどうやら「きらい箸」は箸置きがあることが前提になっているようですね。

 

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f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainそうなんです。いまは箸置きのないお店が多いでしょう。箸を置くなら小皿の内にかけるとか、箸袋を折って箸置きとして使うとか、いい方法はいろいろありますよね。

 

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▲「渡し箸」はダメだけど、皿のふちに引っ掛けるのは良い

 

ひとに迷惑をかけなければいい

ーー以前、箸の持ち方の記事へのリアクションで「ひとに迷惑をかけなければいい」というものがありました。一見正論のようですが、ちょっとひっかかるのです。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain箸を正しく持たなければいけない理由がわかっていないんですね。我々が学校に講習に行ったりすると、子どもたちも言ってきますからね。「僕そんなのどうでもいいよ、自分が食べられればいいから」と、こういう子はいっぱいいるんですよ。
ひとに迷惑をかけなければいいと言いますが、もう迷惑がかかっているんです。「正しくお箸を持つ」とは、まわりの人たちに不愉快な思いをさせない動作、所作なんです。だからそれを見てまわりの人は不愉快になっているんですよ。でも誰も言わないんです。自尊心を傷つけることだから。

 

ーーたしかに、箸ヘタは指摘しにくいですね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain僕、一回だけありますけど、殴られましたからね。イベントで豆つまみをやっていたら、男の人が来て、その人が全然できない。よくよく見てると、お箸をちゃんと持てていないんですよ。四苦八苦していて、そうとう苛立っているんだろうなと思って。だから「お客さんね、お箸がちゃんと持てていないから豆がつまめないんだよ」と言ったら、ドンと殴られた。

 

ーー本当ですか!

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain自尊心が傷ついたんだと思うんですよね。普通は言われたりしないですから。よほど仲のいい相手じゃないと「あなたのお箸の持ち方おかしいですね」とも言わないですから。

 

「ご両親になにを教わったの?」とは言えない

ーー箸の持ち方や食事のマナーの話題になると、どうしても親のしつけ、つまり家庭の事情に触れないといけなくなってきます。ところが、いろいろな事情で親からマナーを教えてもらえるような環境ではなかった人たちも多くいます。個人の事情がわからないので軽々しく「君の箸の持ち方はおかしいね。ご両親になにを教わったの?」とは言えないんですよね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain先ほど申し上げたように「なぜお箸を正しく使わなければいけないのか」、これに尽きると思うんです。僕なんか「お箸はなぜ正しく持たないといけないのか聞いたことある?」というところから始めるんですよ。
それに「お箸を正しく持つ」という言い方はね、あまりよくないんです。「正しい」というのは価値観の違いになってくるから。だから言い換えるなら「伝統的な持ち方」「美しい持ち方」という風に変えられたほうがいいと思うんですよね。

 

ーー「まわりの人を不快にさせないための所作」ということですね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain日本の箸文化は長く伝えられてきて、どこにも書かれていない。親から子に言い伝えられてきたことなんだけど、最近はその言い伝える人がいなくなったんです。
僕の年代の前まではいいんですよ。僕たちがダメなんですよ(笑)。

 

ーーそんな、身もふたもない(笑)。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain僕は昭和19年生まれで、いまの日本を作ったと言われる団塊の世代なんですけど。まさに戦後ギリギリで生まれた人たちがね、一生懸命働いてきたんですよ。高度経済成長をさせて、バブル経済を生んで。
ところが「子育て」をしてきていないんですよ。
一生懸命がむしゃらになって働いてきたから、ぜんぜん子育てをしていなかった。いまのお父さんお母さん世代は僕らの子どもですけど、僕らが教えていないわけだから。

 

ーー戦後復興と引き換えに食育が手薄になったという。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainなかには見よう見まねで自分で覚えてきた人や、途中で気がついて、これじゃダメだ、なんとかしようと思って、自分で直した人がいるくらいで。お箸を正しく使えるのは、いま10人のうち3人だって言われるのはそういうことですよね。
もうそういう時代になってきているので、ただダメだって言うだけじゃなくて、お箸が持っている日本の文化を、きちっと継承していく時代になっているんだなと思っているんですよね。

 

「きらい箸」の中にある合理性

ーーマナーの書き方として、「伝統的」というより「合理的である」としたほうが、説得力があるように思うのですが。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainたとえば「お箸の先は、自分の手の甲よりも上には上げないこと」というのがあります。お箸を上に上げたまま夢中でしゃべっていたりすると、うっかりお箸で人を指すことになりますから。でも先を下げていれば、少なくともそういうことはないから。

 

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▲箸で人を指してしまう「指し箸」。ひどいやつもいたものだ

 

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▲手の甲を上にして箸先を下に向けていれば、絶対に人を指すことはない

 

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f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain合理性ということで言えば、お箸ってだいたい1/3のところに重心があるんですよ。「伝統的な持ち方」は重心位置を持つようになっているので、上手にきれいに箸を使えますよ。これね、「鉛筆の持ち方」という人もいるんです。

 

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ーー僕も鉛筆を持つようにと習いました。でも、伝統的というなら毛筆グリップになるのではないですか。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain毛筆の二本掛けもそうですけど、毛筆の場合はね、指が伸びるんですよ。鉛筆持ちの場合は指が丸まるけど、毛筆はまっすぐ。指がまっすぐだとね、「きらい箸」の中に「並行箸」ってのがあるんです。箸の角度が三角形になってなくて、箸が動かないから食べ物をすくうことになるんです。

 

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▲指がまっすぐだとあまり箸が動かない

 

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain人間の五感に「触感」というのがあるんです。触れる感覚。
いまインドあたりの手食の人も、左手はダメでしょ。不浄の手とされて厳しいマナーがある。それはともかく、食べ物に右の三本の指でしっかり触れて、しっかり味わう。おそらく古代日本人が手食から箸の食事に変わったときも、箸で食べ物に触れられるように、この三本の指で持つようになったのではないかと。

 

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f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain冷ややっこの柔らかいやつなんか、しっかり指先に神経を伝わらせたらお箸で持ち上げることができますよね。そのためにこの「三本の指でしっかり持つ」というのが合理的でいろいろ楽になるんだと思います。
外国の人が言うんですよ。フォークやスプーンでは食べ物に触れられないんだと。日本の箸は食べ物に触れることができる。だからすばらしいと。

 

お箸は人間に横着させないようになっている

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain日本は明治以降から西洋化してきているので、日本独自の文化というのは江戸時代で止まっているんです。合理性をただ追求すればいいというものではなくて。お箸は人間に横着をさせないようになっている。簡便性や合理性だけで追求していくと、文化は壊れてしまいます。

 

ーーたしかに合理性だけでいくと、「点滴がもっとも良い食事」とかいうことになりかねない。

 

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▲「箸先一寸(およそ3センチ)は濡らさない」というマナーがあるが、現代の提供方法だと守るのは難しい

 

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainたとえば、箸で持つのが難しい里芋やコンニャクなんかは、箸で刺してしまえば合理的じゃないかと。そういうことなら、箸じゃなく串を使えば、そのほうがより合理的じゃありませんか。食べ物が大きければお皿の上でお箸で切って口の大きさにして持ってくる。じゃないと箸で刺してあぐっとかみ切ることになります。

 

ーーかなり箸ヘタな見た目になりますね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain本来、かぶりつくのもいけないということになっているんですよ。お箸で切れと。でも、切れない。イカの天ぷらなんかね、本来は切れるように包丁が入っているものなんです。食べやすいように、切りやすいように。いまは大きなイカをそのまま揚げちゃうから、そのままかぶりつくしかない。

 

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▲かぶりつき

 

ーーしっかりしたお店でちゃんと切れ目を入れて出してくれているのに、そこで刺し箸してかぶりついちゃったりしたら、そりゃTPO的にみっともないよねということですね。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plain「きらい箸」が作られたころからは、食べ物の提供の仕方も変わってきているので、昔言われたマナーがいまも絶対かというと、必ずしもそうとは言えないんです。だからといってかぶりつきはいいのかと言われたら、基本的にはダメなんです。手で口元を隠したりね。

 

日本箸文化協会の役割

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainお箸の使い方を教える人がもういないんですよ。核家族になってるから、おじいさんやおばあさんと一緒に生活してないし。昔の家族は食事の時に集まって、そのときに親やおじいさんおばあさんが、子どもに教えていたんですよ。学校行ってるし、仕事してるし。唯一家族が話し合える時間は、食事の時間しかないんですよ。
もういまは、子どもは塾で、親は共働きでいない。家族で食事をする機会すらないというのが現状だと思うんですよね。
だから、お箸や食事のことを教えられる人材を育成しようというのが、「箸検定」なんですよ。お箸の検定を通していろいろ身につけてもらおうと。これは資格のための資格じゃないんです。 

 

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▲「寄せ箸」

 

ーーもう大人になっている我々は、箸の持ち方や使い方を自力で身に着けないといけなくなっています。自分が格好悪い食事スタイルになっているかもしれないけど、それに気がつくこともできない状態です。

f:id:Meshi2_IB:20170729131946j:plainお箸使いが上手にできない人は必ず、器を持たずに器の方に口を近づけていくんですよ。で、テーブルだから肘をつくでしょ。こうなっちゃうんですよ(と、犬食いの体勢をしてみせる)。

 

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▲犬食い

 

f:id:Meshi2_IB:20170802195700j:plain正しくお箸を使えると、姿勢も食べ方も美しくなる。それが「周りの人を不愉快な気持ちにさせない自分の所作、行動」ということになるんです。
「ひとに迷惑をかけなければいい」って、つまり「自分勝手」じゃないですか。自分さえ良ければいいという。そこには他者を思いやる心がないんですよ。だから「どうでもいい」ということになる。
大事なことは、まわりの人が不愉快な思いをしないように工夫してやりなさい、ということなんですね。それでいいんですよ。

 

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▲かきこみ箸

 

細かいルールに直接ひっかかっていることよりも、気づかいが見えない態度のほうが、まわりから見てマナー違反と感じられることってありますもんね。

周囲に配慮している気配さえ出す様子がないというのは、かなりイラつくものです。

口を開けて食べ物をかんで、無自覚にクチャクチャという音を響かせる人は、「クチャラー」と呼ばれて大変嫌われていますが、「きらい箸」についても似たようなことが言えそうですね。

 

※この記事は2017年8月の情報です。

日本箸文化協会ホームページ

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。

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