味噌も、醤油も、めんつゆも。調味料は人類のレガシーです
調味料って、昔の人が試行錯誤してつくってきたものを、人類が数百年とか千年以上かけて練り上げてきたわけで。
その結果、現代人の我々は簡単に利用できているんですよね。
もちろんラー油もそうです。
今回は、「自家製ラー油」を作りましょう。
先人たちの積み上げてきた数百年か数千年かの試行錯誤の上澄みを、小一時間で教えていただけると。そう考えると、お得感ハンパねーです。
教えてくれるのは、おなじみ、四川料理の達人・人長良次(ひとおさ よしつぐ)さん。
人長:本場でもわりとイイカゲンな感じで作ってるんで、気楽にやってみましょう。
──動画とかで向こうのおじいちゃん料理人の手つきを見ると、わりとイイカゲンな感じですよね。
人長:今回はラー油を500ml作るんですけど、家庭だとちょっと多いかなと思ったんですね。材料を調節すれば半分でも四分の一の量でも作れますからね。
人長:保存する場合は、洗って乾かしたペットボトルや、口の広い保存瓶がいいでしょう。タッパーでもいいです。それに、わざわざラー油のために油を用意する必要もなくて。家庭にある市販の1リットルの食用油、ありますよね。あれのボトルで半分まで使ったヤツがあれば、残りをラー油にしちゃうとかでいいんです。
で、唐辛子の粉とかも入るんで、500mlで作ったら600から700mlになっちゃう。だったら1リットルくらいの容器のほうが安心して作れる。常温で保存できますし。
人長:お店ではこんなふうに一度に10リットルくらい作るんですよ。できれば自家製ラー油はご自身で作ってみて欲しいですね。市販のものとはぜんぜん違うんですよ。なんで本格的なラー油がスーパーで売ってないんですかね。
──日持ちの問題とか?
人長:確かに。これも1ヵ月くらいで使い切って欲しい。使い切れないならラー油を飲むしかないくらいに。
──飲みませんよ! ところで油はなにがいいんですか。ごま油?
人長:ごま油じゃないほうがいいです。香りが合わないんです。普通の「油」がいいんです。
──おっと。ラー油の原料はごま油だと思ってました。
人長:ごま油はダメなんです。中国だと「菜種(なたね)油」です。現地ではあまり高くないので。逆にサラダ油みたいなものは、あまり売ってないんです。
──現地で普通にたくさん使われているのが、菜種油なんですね。
人長:ラー油作りでいちばんの理想は、菜種油です。なんですけど、値段が高いのでサラダ油でいいと思います。あんまり違いはわからないかもしれませんが、いい油は加熱したときの香りが違うんですよ。
──今回、材料に使うのもサラダ油ですね。
まずは香味野菜の香りを油に移します
【材料】自家製ラー油(500ml分)
- 油 500ml ※サラダ油でも可。菜種油がSO GOOD
(香味油)
- 長ネギ 100g 青い部分がベスト・だいたい丸1本使うイメージで
- 生姜 40g 皮付きでよい・5mmくらいのスライス
- 鷹の爪 10g 半分に切る・タネも入れる・辛さの好みで増減
- 花椒(粒) 3g もっと辛くしたい人は1.5倍で。しびれがいらない人は入れない方が良い
(唐辛子)
- 一味唐辛子 100g
- 水 30ml
人長:香味野菜を揚げて、油に香りを移していきましょう。
人長:まずはネギと生姜を切っていきます。フライパンに入りやすい大きさでいいです。ネギの青い部分だけで100gそろえるのは家庭では難しいと思いますので、ご家庭では長ネギ1本でいいです。
人長:これ、今日は100g入れてます。お店だとこの部分は使わない。でも、捨てちゃうのももったいないのでラー油なんかに使うんですよね。
人長:ちなみに長ネギでもワケギでもいいですけど、万能ネギはやめたほうがいいです。水分が多すぎるんですよね。なので、長ネギかワケギを、ザクザクっと適度な長さに切ってもらって。
人長:生姜も適当にスライスでいいです。これ今日は皮をむいてますけど、皮つきでもいいです。むしろ皮ついてるほうがホントはいいんです。香りがしっかり出るので。これは40gくらいです。
人長:スライスは5ミリ幅くらい。あまり薄いと焦げちゃうんですよ。これはラー油に香りを移すための生姜なので厚めです。
人長:鷹の爪は、手でちぎっちゃいます。これは種もそのまま使うんで、だいたいでやります。10gです。
人長:花椒は3gです。で、で、次なんだっけ? (アシスタントがレシピをこっそり教える)
自分ではレシピを取らない人長さん。自分で作ってるのに、メモをとるのはスタッフ。本人は片っ端から忘れているんです。
人長:てへへ……。
人長:フライパンに油を入れます。このとき、火は消しておきましょう。危ないですからね。気をつけないといけません。
人長:油を入れたら火をつけます。はい長ネギの青〜。
人長:と生姜〜。
人長:ちぎった鷹の爪〜。
人長:花椒〜。
──おおおお、すごいシンプル。
人長:簡単でしょ。油が沸くまで火は全開でいきましょう。沸いたら弱火にしますので。
──これは、天ぷら鍋みたいなのでも可能ですか。
人長:できます。できれば深鍋のほうがホントはいいです。でも、フライパンだったらとりあえずどの家にもありますよね。深鍋だと、家によっては置いてないじゃないですか。レシピ紹介の場合は、極力フライパンでできるものと思ってやってるんです。でも、深鍋のほうが安全面としてもいいんですよ、絶対に。僕もできれば深鍋でやりたいですけど、最近はフライパンだったら百均でも売ってますからね。
──できれば深鍋がおすすめだけど、フライパンでもOKと。
人長:ちなみにこのフライパンはドンキホーテで買ってきました。1,980円です!
──ちょうどいい普及タイプ。
人長:このネギ、生姜、花椒、鷹の爪は、ラー油の香りを作るために入れてます。最後は漉(こ)しちゃいますから具材ではないんです。
人長:油がグツグツ沸いたら火を弱めます。なんで火を弱めるかというと、このままガンガン火を全開にしちゃうと、油に香りが移る前に材料が焦げちゃうんです。
──つまり、香ばしいんじゃなくて、焦げ臭い油ができちゃう。
人長:そうなんです。麻婆豆腐とかと一緒ですね。香辛料を焦がしたくない。香辛料を真っ黒にするんじゃなくて、香ばしくするためにやってることをイメージしながらやってもらう。このまま約10分ですね。弱火でコトコトです(キッチンタイマーをピッとスタート)。
一味唐辛子の粉を用意する
人長:香味野菜を揚げる間に、こいつの登場です。一味唐辛子。これだけの量の一味唐辛子は普通のスーパーには置いてないでしょうから、業務用スーパーやドン・キホーテ、amazonなんかで購入するのがいいでしょうね。
ザザーーーーーー。
──おおおおー! 豪快。こんなの見たことない。
人長:まずボウルに唐辛子の粉を入れます。100gです。
人長:ここにお水を30ml。あとで熱い油を使うので、ボウルはステンレスのものを使ってくださいね。
人長:唐辛子100gに対して水を30ml入れてるんですけど、軽く握ってお団子になるくらい。これがちょうどいい具合なんですよ。
──すごい、一味唐辛子をまるで小麦粉のように。
人長:なんでお水を入れるかっていうと、乾燥した粉に沸いてる油をそのまま入れると焦げちゃうじゃないですか。だから、焦がさないための水なんです。味がどうこうじゃなくて、調理過程で焦がさないための水です。
──人長さん、目になにかついてますよ。
人長:(唐辛子を揉んだ指で目をこするフリをしながら)はいはい、痛い痛い。
──ここで使う一味唐辛子にグレードの良し悪しってあるんですか。
人長:専門店なんかで探すと、もちろんグレードの高い一味唐辛子もあるんですけど、やっぱり高いです。そして、それはお料理に使うためのものなんで、ラー油のためには使わなくていいです。
油の様子を確認する
人長:弱火でコトコトしてますと、ちょっとずつネギの色が変わってきます。この子たちがカリカリくらいになるのが目安なんです。今はちょうどこの子たちの水分が抜けて、香りが油に入っている段階です。
人長:これを作るときはキッチンから離れないでくださいね、危ないので。この時間はスマホで『メシ通』を見ながら10分待ってください(笑)。
──わははは、なに言ってんだ。
人長:お店ではボウルで油を沸かして、唐辛子を入れた寸胴にザルで油を濾しながらザーって作るんですよ。
人長:ネギも生姜も、また色が変わってきましたね。
(カメラマンが辛味のある空気を浴びて汗だくになっている)
人長:カプサイシンは皮膚に来ますからね。
──催涙弾の成分ですからね。暴徒鎮圧用ラー油ですね。
(キッチンタイマー:ピピピピッピピピピッ)
人長:はい10分経ちました。黒くなりましたね。カリカリになりました。これくらいだと焦げずに、いい具合に、仕上がるんですね。危ないのでいったん火を止めます。そして香辛料の食材を取り除きます。
人長:で、細かいのが下に残ってるじゃないですか。本来はきれいに取り除くんですけど、残っちゃってもいいです。ただ、ネギと生姜だけはきちんと取ってください。水分があるとカビが生えやすいんです。でも、鷹の爪や花椒は、軽く残してるほうがうまいかもしれないです。
▲10分でこれくらい色が変わり、香ばしい油ができる
人長:そして、もう一回火を全開にして沸かします。ここは細心の注意を払ってやってください。火傷すると危ないんで。油の温度はだいたい180℃です。しっかり温度を上げてから、唐辛子のボウルに入れます。180℃の目安は、油をこう入れると、一味唐辛子がジャジャーとなる。これが目安です。
人長:一味唐辛子は生なんで、ちゃんと火を通してあげたいんですよ。直前でちゃんと沸かして火を通すことで、香ばしい、生っぽくない香りになるんです。温度が低いとちょっと生っぽくなるんですよ。お水も入ってるのでカビの原因にもなるという。
──これ、フライパンから一気にジャーっと流すことはできるんですか。
人長:やっても大丈夫なんですけど、まず最初はちょっとずつやってあげないとダマになりやすいんです。いったん、熱した油で馴染ましてあげる。馴染んだら最後バーっとやりますんで。
──うっわー、辛い空気が! このとき風下にいたらエライことになりますね。
人長:だいたい馴染みましたよね。そしたらこの子たちを。
ジュワワワワー。
──おおおおおー。ゲホゲホ!
人長:菜箸みたいに長い道具でやってください。これをしっかり混ぜてください。真剣な顔で。真剣なふりして! じゃないと危ないから。
──お、これが真剣な顔ですね。
人長:違います。真剣なふりしてます。
人長:はい、冷めるまで置いておく。これで完成です。
──温度が高いからしばらく泡が出続けますね。これで、沈殿するまで待つと完成と。ここから漉したりとかは。
人長:漉したりはしないです。このまま使ってほしいです。この下に沈んでる粉もうまいんです。たとえば辛めにしたい人は上澄みだけじゃなくて下の粉も使うといいです。お店で「辛めでお願いします」ってオーダーが入ったら、下の粉も入れるんですよ。
──冷めて、ペットボトルに移すときにどうしたらいいですか。
人長:漏斗(ジョウゴ)で移し替えですね。レードル(おたま)を使って。あと、口の大きな保存容器がいいでしょうね。なんならタッパーでもいいです。冷めていたらこんなふうにダーッと入れられる。
人長:できたてよりも、2日から3日置いたほうが、馴染んで、より辛味も出てきます。1ヵ月以上過ぎてくると、こんどは油が酸化してきて匂いが出てくる。極力1ヵ月以内に使い切るようにしたいですね。日にちを置くと色もにじんでくるというか、香りも変わってくるんで、そこも楽しんでください。
人長:使ってて上澄みがなくなってきたら、下の粉をザルで濾してあげるとまたラー油が出てきます。
──下の層に染み込んでいた油を呼び戻すみたいな感じですね。
人長:辛さの調整は、唐辛子の量でやってください。25gの幅で増やしたり減らしたりするといいです。花椒が無ければ入れなくてもいい。好きなやり方で作ってほしいですね。
▼ちなみに自家製ラー油の作り方はyoutubeでも見ることができます
香味野菜の残りの「出汁ガラ」もおいしい
人長:ちなみにさっきの香味野菜の揚げたあとのやつがこちら。これにお砂糖とお塩。で……。
サクッ。
人長:うまっ! マジでうまいす。びっくりした。ちょちょちょ、ネギ、ネギ、ネギ食べてみてください。早く。
──(サクサク)これはうまい、わけわかんない。
人長:いやあ、こんなもの食えねえだろと思ってたら意外や意外(笑)。
──初めてなんすか、ぶっつけ本番だったんすか。
人長:これ、塩だけじゃなくて砂糖があるから味が……サクッ……うま!
人長:鷹の爪も食べてみよ……。辛っ、でもうまっ!
──やみつきじゃないですか。
自家製ラー油で簡単なおつまみを作ろう
人長:さて、今日はこの自家製ラー油を使ってなにか1品作りましょうか。簡単なものを。
──お、こんなところにキュウリがありますよ。
人長:いま思いつきました。自家製ラー油のたたきキュウリみたいなものを。よし。ひと手間かけて、よりおいしいおつまみを作ってみましょう
【材料】自家製ラー油のたたきキュウリ
- キュウリ 1本
- ザーサイ 1パック
- ごま油 小さじ1
- 塩 ひとつかみ~ふたつかみ
- 自家製ラー油 大さじ1(お好みで)
人長:キュウリのヘタを落として、包丁の平で叩く。そして手でちぎる。
人長:包丁で切るより、このほうが味が染みやすいんですよね。ラップでくるんだり、ポリ袋に入れて棒で叩いてもいいです。
人長:ボウルに入れてザーサイを入れます。コンビニで買ってきたザーサイです。
人長:お塩をひとつまみ。
人長:そしてラー油を好きなだけ。できればこの中に沈んでいる一味唐辛子の粉も入れてほしいですね。オイルだけじゃなくて。
人長:ちなみにいまのでラー油は大さじ1くらい入ってます。
人長:ごま油を小さじ1杯足して。そしてモミモミします。つまみ食いします……うむ、塩が足りない。塩ふたつまみにします。ザーサイに塩分があるんで、あまり入れすぎると塩辛くなってしまいますから、加減してください。完成です。
──はやーい。
人長:なんかお店で出てきそうですねー。
──お店で出してもいいんですよ。
人長:ラー油のうまさが正面に出てくる、ラー油の料理ですね。ポイントは下に沈んでる粉です。せっかく手作りしたんだから、これを使わない手はないです。
人長:ラー油をちゃんと丁寧に作ってると、こういうのを簡単に作れるんで。あとはもう応用なんで。もちろんキュウリじゃなくても、セロリでもいいし、ネギを切って入れてもいいし。
──いろいろ応用がききそうです。
人長:もうひと手間かけるんだったら、キュウリの代わりにネギをぱんぱんぱーんって切って、フライパンで煎り焼きしたものを使ったり、ネギを魚焼きグリルでちょっと焦がしてもおいしいかもしれないですね。
ザーサイも、漬物ならなんでもいい。タクアンなんかいいと思いますね。ラー油はいろんなものに使えます。そういうふうにして、いっぱい使ってくださいねっと。
定番の「焼き餃子」でラー油を楽しむ
人長:うちの餃子、おいしいんですよ。こうなったらもう、焼いちゃいましょう。食べましょう。
人長:お店で使っている鉄板は250度くらいなんですけど、あれで焼くと皮がパリパリになっておいしいんですよ。だから皮を厚めにしているんですよね。
──水蒸気の勢いがすごい。
▲鉄板棒餃子・2本より〜(2本346円/4本691円)
人長:ジューシーでしょ。白菜の汁と、豚肉は粗挽きを使ってるんですよ。スタッフのみんなががんばって包んでくれたやつなんですよ。
人長:棒餃子だからスープが入ってないと思われるんですけど、意外とあるんですよ。
人長:キュウリとザーサイには追いラー油。なんでもかけちゃう。
人長:「追い」するとラー油の香りがさらにして、いいですよ。
──いっぺんに500mlもラー油ができちゃうと、いろいろなものに使ってみたくなっちゃいますよね。「中毒性ある」とか言われそうですけど、味と香りに深みというか厚みがあって、単なる辛味の油じゃない。市販のやつに戻れなくなりそう。それになんだか頭皮から汗が出て止まらないんですが。辛さにパワーがあるんですが。
人長:いろんなものに使ってほしいですね。なんでもかけちゃう。冷奴とかいいですよ。あと例えばですよ、カップラーメン。
──いいすね。ここに家でやってみた写真を入れておきますね。
▲筆者が自宅で撮影した「カップラーメン味噌味に自家製ラー油」。食の質が上がり、衣食住のバランスが崩れる。自家製ラー油はキラーアイテム
人長:ぜひぜひ、自家製ラー油でおいしく「ラー活」してください。
──指でマル……。ヒト「オ」サの「O」ポーズですね。
人長:ちがいますけど、まあいいです。
人長さんがつくる中華料理が食べたくなったら
人長さんが料理長を務めるお店「リバヨンアタック」は、東京・日本橋の室町エリアにあるシャレオツな中華レストラン。
なぜか卓球台やカラオケルームもある個性的なお店。
▲旨辛! 四川火鍋ラーメン (1,598円)
この時期のオススメはこれ。本格的でウマ辛い火鍋ラーメンです。人長さんがこだわって調達した中国のスパイス中国産山椒や草果などの薬膳も入った、まさに麻辣好きにはたまらない逸品。
皆さんもぜひリバヨンアタックで汗でだくだくになるまでマー活しましょう。
お店情報
リバヨンアタック
住所:東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビルB1F
電話番号:03-3548-0840
営業時間:ランチ/月曜日〜土曜日11:30~15:00(14:30 LO)、祝日11:30~14:30(14:00 LO)
ディナー/平日17:30~翌0:30※金曜日のみ翌1:00まで(23:00 FLO/24:00 DLO)、土曜日17:30〜翌0:00(23:00 FLO/23:30 DLO)、祝日17:30〜22:00(21:00 FLO/21:30 DLO)
定休日:日曜日(20名様以上のご予約の場合は、営業させて頂きます)
撮影:平山訓生