写真:吉崎貴幸
食べ物を自由に「印刷」できる未来
3Dプリンターは、コンピューターで作った3Dデータを立体的に出力する機械。
フィギュアやロボットなどのホビージャンルから建物の建築まで、立体物を作る場所ですでに広く使われています。
その「どこでも誰でも立体物を作ることができる」という技術に注目し、なんと食べ物を出力してしまうという目的で研究が進んでいるのが3Dフードプリンター。
つまり樹脂や建材ではなく、「食材」で立体物を印刷する3Dプリンターです。
書籍『COOK TO THE FUTURE 3Dフードプリンターが予測する24の未来食』(グラフィック社)では、3Dフードプリンターによって近い未来に起こりうる食の変化が予測されています。
さらには、新奇な食べ物を作れるだけではなく、社会や人間の意識が革命的に変化するかもしれない「フードテック」の可能性が語られています。
著者である宮城大学食産業学群教授の石川伸一さんに、詳しいお話を伺いました。
お話を伺った人:石川伸一(ISHIKAWA Shin-ichi)
宮城大学 食産業学群 教授
東北大学農学部卒業。東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現在、宮城大学食産業学群教授。専門は、分子調理学。関心は、食の未来学。
3Dフードプリンターは「固定観念に縛られない食が作れる装置」
──ご執筆された書籍を拝読しました。各章が「概要テキスト」「食品サンプルを使った3Dプリントフード紹介」「それにちなんだショートSF」という3つの要素で構成されていて、非常に読みやすく興味深かったです。
石川伸一教授(以下・石川):なにぶん、未来もの、SFものでもあるので、リアリティーを感じてもらうためには技術的な解説だけでは駄目だなと思っていました。未来の日常を切り取ったような形で紹介できればと考えました。どうでしたか。
──なじみ深いショートショートSFみたいで楽しかったです。
石川:ありがとうございます。意識しました(笑)。
──やっぱりそうですよね。そもそも3Dフードプリンターはどのような機械で、何が期待できるのでしょうか。
石川:それが一番難しい質問ですね。まだまだ研究段階なので実用化していないということもありますし、あとは利用される範囲や可能性がものすごくたくさんあるので、そこを一つに絞って語ってしまうと、それだけだと思われてしまう。それはちょっと避けたいなと思っています。
▲2055年、北国の漁協が経営しているお店の看板メニュー「ほたて殻バーガー」。貝柱のようなパティの中にはチーズが封入されており、貝ひもの部分はトマト味のソース(写真:吉崎貴幸)
──普通の3Dプリンターは、細いノズルから樹脂をニューッと押し出して、それを積み上げて物体を作ります。対して3Dフードプリンターは樹脂ではなく、粉末化またはペースト化した食材を使うというイメージでよろしいですか。
石川:基本的には積み上げ式ですけど、素材をレーザーで硬化させて印刷するものもあります。「3Dフードプリンターって何ですか?」って言われた場合は「これまでにない新しい調理法」みたいな言い方がいい気はします。
「固定観念に縛られない食が作れる装置」という言い方もできますし。でも、改めて定義するとなると難しいですね。
──新しい調理法……たしかに。
石川:3Dプリントの材料であるカートリッジの中身が食材になったものが3Dフードプリンター。それだけなんですけど、例えば廃棄される食材を使うといろいろな社会問題の解決につながったりしますし、個人に合わせた食べ物を作れば「食の個別化」という広がりもあります。とにかく、可能性がたくさんあるというところはお伝えしたいです。
▲「ほたて殻バーガー」の貝殻の部分はバンズ。廃棄される貝殻を利用していてカルシウムたっぷり(イラスト:石川繭子)
──3Dフードプリンターの可能性は「きれいでかわいい食べ物が自動で作れる」以外のところにあるんですね。
石川:そうですね。よくあるのは「調理が自動化される」とか、「人間では作れない造形のものが作れる」とか、そういうところが真っ先に取り上げられると思うんです。しかしそれは3Dフードプリンターの利点の一つにすぎなくて、もっと可能性があるのは「作り手を選ばない」という部分です。
──誰でも、それこそ機械でも食事を作れるという。
石川:お寿司などの特定の人しか作れないイメージの強いもの、あるいは機械にしか作れないものを作ってもらったり。あと食べる場所も、例えば被災地でも宇宙でも場所を選ばずに作れる。またその食べ物自体も食べる人に合わせてカスタマイズできる。
いろいろな利点がある中で、どうしても一番インパクトが強い「見た目」に皆さんの関心が偏ってしまうのもやむを得ないかもしれないですけど、私としては、利点はもうちょっと他にもあるんだよと言いたい。
3Dフードプリンターの研究のきっかけは宇宙食
▲「伝説の寿司職人」のデータを再生して、いつでもどこでも極上の江戸前寿司を食べることができる(イラスト:石川繭子)
──例えば被災地や宇宙などの調理環境が整えられないような場所でも、満足できる食事を作れることがメリット、可能性だったりするわけですね。
石川:そうですね。ちなみに僕や山形大学の古川英光先生が入っているオープンミールズというグループが、宇宙でお寿司を印刷して宇宙飛行士が食べる動画を2018年に発表しています。それが一つのゴールというか、一般の方がイメージしやすいものなのかなと思います。
──宇宙食といえば、昔のSF映画のようにペーストをスプーンですくったり、チューブから吸ったりする時代から、今は缶詰やカップ麺など食べ物の形をしているものを食べられるようになってますね。
石川:結局、地上と同じものを食べたくなるのが人間の心理なので。宇宙食は災害食と非常に似ていて、強いストレスがかかる状態のときにペースト状のものを食べて元気になれるかっていうと、なかなかなれないじゃないですか。
対して、バリエーションのある食べ物を作れれば、2年から3年もある宇宙生活も過ごしやすくなるはずです。3Dフードプリンターの研究のスタートは宇宙食向けなので、原点ではあると思います。
味や香りは変わらないです。変わるのは食感
▲3Dフードプリンターで作る「ほたて殻バーガー」は、驚くほど多様な食感と味を楽しめる(イラスト:石川繭子)
──3Dフードプリンター普及のポイントは、おいしいのか、味がどれだけ再現できるのかということになってくると思うんです。現時点ではどのぐらいのものなんでしょうか?
石川:基本的に成分は同じなので、粉末化したものの持ってる味とか香りは変わらないです。変わるのは食感。もちろん食べたときのかたさややわらかさは3Dフードプリンターで自在に変えられます。既存の食べ物に寄せて作るという考え方もありますし、逆に未体験の食感にもできます。
──味は素材そのまま。食感に自由度があると。
石川:おいしくすることは私も普及の一番大きな鍵だと思うんですけど、その人のもっとも好きな食感に合わせるとか、高齢者にとってより飲み込みやすい形にするとか、そういった部分が3Dフードプリンターの特徴なのかなと思います。
▲蛹(さなぎ)の形だったショートパスタは、ゆでることでチョウに羽化する(写真:吉崎貴幸)
──今の技術で可能な3Dフードプリンター食に一番近い既存の食べ物は練りもの系、つまりかまぼこ状やハンバーグ状と考えていいんでしょうか。もうちょっと他の可能性もありますか。
石川:肉もかまぼこもたんぱく質なので加熱調理をしなきゃいけません。まだまだ改良の余地はある気はします。それよりもでんぷん系の、形を作ってそのまま食べるようなものでですね。こういったタイプであれば、いろいろな造形がもう作られています。
──今現在、でんぷん系で研究が進んでいるものは何ですか。
石川:和菓子みたいなものはもう完全にいろいろな造形ができますし、あとマッシュポテトで作るものもありますし。面白い形のものが作れるんだろうなと思います。ただ、(そこばかりに注目が集まると)成形しやすい素材を使った料理、というジャンルに狭まってしまう気がします。
「回転寿司は、人間よりも機械が握ってくれた方がいい」
──3Dフードプリンターが一般化した未来には、今の冷凍食品のように電子レンジやフライパンでユーザーが加熱するなど、ひと手間加えてから食べるスタイルもイメージできそうですね。
石川:そうですね。人間ってわりと最後のひと手間をやりたがるものなので。家庭に普及するとたぶん、ある程度機械が作って最後のひと手間は人間、という使い方もあると思います。
海外のレストランでは、3Dフードプリンターが料理を印刷して最後にシェフがちょっと飾り付けして出すところもあります。共同作業じゃないですけど、人とフードプリンターが一緒に作るのはありえますね。
──あ、どこか回転寿司に似てますね。
石川:そうですね(笑)。シャリは機械が握って、ネタは人間がのせるという回転寿司的なパターンが最初の普及のきっかけになるかもしれないです。人間と機械の共同作業、共同調理っていうのが今後どんどん増えていくんじゃないのかなと思います。
▲チョウの形のショートパスタ「ファルファッレ」は、3Dフードプリンターによって蛹(さなぎ)からチョウに羽化するメタモルフォーゼ・パスタに進化(イラスト:石川繭子)
──よくある「プリンターで印刷した食べ物は気持ち悪い……」みたいな思い込みは、ひょっとしたら回転寿司やソフトクリームのたとえで乗り越えられるんじゃないでしょうか。
石川:はい。食に関するテクノロジーの受け止め方は時代によって変わると思っていて。学生に聞いたら「回転寿司は、人間よりも機械が握ってくれた方がいい」と言うんです。いわゆるコロナ禍の非接触需要みたいなことの影響でしょうか。
いずれお寿司も「え、人間が握るんですか。3Dフードプリンターのほうがいいです」って人が増えるかもしれないですね(笑)。
──人間が握るお寿司屋さんがより高級品の扱いになったりもしそうですね。
石川:人は新しいもの、特に食べ物に関しては、誰が作ったのかわからないことに恐怖したり拒否したりする心理があるので。
ただ、だんだん人は慣れますし、食べておいしかった経験をすると変わっていくと思います。食の未来の姿について、今の感覚だけで考えては駄目なのかなっていう気はすごくしますね。
3Dフードプリンターで食料危機や食品ロスを解決できるかもしれない
──3Dフードプリンターで解決できそうな社会的課題といえば、食品ロスなどもありますね。
石川:今、実際にそういう研究をやっています。食品ロスで捨てられている食材ってたくさんあるんです。例えば野菜でも、形が悪いなどの理由で市場に出ずにそのまま捨てられている「規格外野菜」があります。
魚の場合も、いわゆる「未利用魚」といって、形が小さかったり、あまり食べられていない品種の魚だったりが捨てられています。そういうものを全部粉末化して、プリンターのカートリッジとして利用できれば、未利用資源を有効利用できて食品ロスの削減につながっていくということですね。
──利用してこなかった野菜や魚も、プリンター用の食材にして食べちゃうことができる。
▲現代のコンポストは生ゴミから肥料を作るが、未来のコンポストは生ゴミを完全食に再生する(イラスト:石川繭子)
石川:とはいえ生ゴミのような食材からは難しいので(笑)。今は食べられていないけど、本来は食べられるものが前提となりますね。それらを粉末化して安定的に保存できれば、有効利用につながります。特にタンパク源が将来的になくなるという「プロテイン・クライシス」はすでに言われているので。
──プロテイン・クライシス。たんぱく質危機。世界の人口増加によって食料の供給が切迫し、特に畜産や水産によるたんぱく質の供給が追いつかなくなるという予想ですね。
▲廃棄食材を微生物の力で発酵させて完全食を作る未来のコンポスト。カプセルベンダーのような形をしているのが楽しい(イラスト:石川繭子)
石川:その解決策として代表的なのが、豆などで作る植物性のお肉や培養肉。その中に昆虫食みたいなものも入ります。
特に昆虫は見た目が嫌だっていう人も多いので、おいしそうな見た目にしたり、よりおいしい食感にしたりすることを3Dフードプリンターでうまくできれば、新しい食材でも普及する可能性はある気はしますね。
──規格外野菜や未利用魚の裏側には、値段を維持して生産者の収入をある程度保証するという面があります。今、廃棄されている食材が食品として利用できるようになってくると、生産者は楽になると考えていいんでしょうか。
石川:正直に申し上げると、そこは非常に複雑です。厳選されている野菜や魚を高く売ることで収入が安定している面もあるので、捨てられているものを粉末化して安価に売るとなると、生産者さんの収入は減ってしまうのだろうと考えられます。
しかしそこは別にプリンターと関係なくて、どう利用するか工夫したり、あとはカートリッジ化したりすればいろんな国に輸出もできる。そういう視点で考えると、生産者さんにとってもいいことなのかなっていう気はしています。
▲未来のコンポストは、廃棄した食材から完全食を作り出す(イラスト:石川繭子)
恐竜の肉、思い出の料理、もう作られていないメニュー
──3Dフードプリンターの可能性として、絶滅動物や恐竜、あるいは実在しないモンスターの料理も作れちゃうかもっていう話も書かれていました。実在しない食べ物も作れるとなると、どのような食の未来が考えられるでしょうか。
石川:3Dフードプリンターの特徴の中で、わりと見えにくいのがデータ活用なのかなと思っていて。書籍では三葉虫や恐竜の遺伝子を取ってきて、それを増やして食材にするってアイデアをわかりやすい例として挙げたんですけど。
──ご著書の中で紹介されていた「ティラノサウルスとアンモナイトのミックスグリル」、食べたいです。
▲テーマパークのレストランの目玉メニュー。化石のDNAデータから復元された古生物のミックスグリル(写真:吉崎貴幸)
石川:データ利用をもうちょっと現実的なところで言うと、人が作る料理はそれぞれ違っていて、食べたらなくなります。
プロのシェフだけじゃなくて、特に家庭の料理、いわゆる「おふくろの料理」みたいなものの記録は残らないものです。もしその形や成分を分析して保存できれば、時間がたってから再現することも可能かなと思っているんです。
──料理をデータ化する「録食」。それを3Dフードプリンターで「再生」するという話が書籍にありましたね。
▲個人の過去の食事データからメニューを作り印刷する「My御膳」。成人式や結納などの門出の日にどうぞ(イラスト:石川繭子)
石川:世の中の料理自体も時代とともになくなっていく絶滅危惧種的なものなので、データをもとにそれを再現する手法として3Dフードプリンターはたぶん有効なんです。
もちろん新奇性のある料理を作るのも大事なんですけど、家庭料理や伝統食などの「なくなっていく料理や食文化」の保存という意味合いでのデータ利用は、この分野ではすごく大事だなと思います。
──たしかに「死んだおふくろのあれが食べたい」って料理が再生できるんであれば、うれしいですね。
石川:そうですね。ただ、それを食べられるのが果たして本当にいいことなのかっていうと、思い出のまま保存しておいたほうがむしろ大事に思えたりもするので……(笑)。
──うはははは!
石川:食べられないからこそ「昔、食べたあれ、おいしいかったな」って思えることもあるので。いつなんどきでも食べられちゃうことがいいわけでもないですからね。
3Dフードプリンターが最初に普及する場所は介護施設
▲2055年のしゃぶしゃぶは、おめでたい席にふさわしいデザインの培養肉を食べることができる(写真:吉崎貴幸)
──3Dフードプリンターの可能性の一つとして、個人に最適化したメニューが作れる。例えば栄養やカロリー、アレルゲンに関してパーソナライズできるということですが。
石川:そこが3Dフードプリンターの特徴や価値として私が一番訴えたいところです。本当に特定のものしか食べられない人たちがいらっしゃるので。高齢者で飲み込みが不自由な嚥下(えんげ)困難者の方もいますし、アレルギーの方もそうですし。
そういう方に向けて、よりおいしいものを作る手法として3Dフードプリンターが普及してほしいと思います。おそらく最初に普及するのが介護施設だろうという予測はいろんな方もされてますし、私もそう思うんですよね。
──その予想の根拠は、「やわらかいものが作れる」からですか。
石川:それと、個人個人で食べられる食感は違うんですね。現状、介護施設の方が食べる人それぞれに合わせて食事を作っているのですが、とっても手間がかかって大変なんです。そういうところで強く求められているのが現状なので。
──あ、そうか。現場で求められているんですね。
石川:そうなんです。ミキサーにかけた状態のものを出す場合もあれば、もうちょっとかための食感で食べたい人もいたりと、人によって個別に合わせているので。その手間や大変さを軽減できる可能性があるんですね。
避難所で「普通の食事」ができる
▲旅客機の座席のような狭いところでお寿司をプリントするためにコンパクトに設計された「寿司ゲタ型3Dフードプリンター」(イラスト:石川繭子)
──3Dフードプリンターが生きるのが、防災食や災害食の場であるというトピックもご著書にありました。今、必要な料理をオンデマンドで作れる。食材も省スペースで長く保存できる。非常に納得できるお話でした。
石川:私は仙台に住んでいることもあって、災害食には個人的な体験もあります。東日本大震災で食べ物がないときに、決してごちそうが食べたいわけではなくて、ただ「普通の食事」がしたいなって思ったんです。
流通が止まって食材も限られているような災害時にこそ、個別化された、その人にとっておいしく感じる「普通の食事」を3Dフードプリンターで提供できればと。
──冷たいお弁当や菓子パンばかりでは栄養も偏るでしょうし、元気も出ない。それが3Dフードプリンターであれば、コンパクトな備蓄でたくさんの人の「普通の食事」を賄える可能性があると。
石川:やっぱりそういう災害の現場などでは、どうしても足りなくなる栄養もある。そういうときに「普通の食事」で栄養も補給できると、心も温まるなと感じます。
食のディストピアもありうるけれど
▲培養したしゃぶしゃぶ用の肉は赤身と脂身の割合もデザインできる(イラスト:石川繭子)
──3Dフードプリンターがもし本当に完全実用化して普及すると「食のディストピア」みたいなことが起こるんじゃないかという不安があります。安くて量産できてお金もかからないし、かつ味はそこそこなんだけど、安く作れるもんだから貧しい人だけが食べるものみたいになっちゃう。そんな未来も想像してしまうんですけど。
石川:私はわりと技術をフラットに見ているので、一つの可能性としてディストピア的な未来もありうるだろうなと。あと貧富の差によって、食べる人が限られるみたいなこともあるだろうなと考えているんですけど。
──ううむ。考えれば自然な帰結かもしれませんね。
石川:その逆にユートピアが何かって考えると、それは3Dフードプリンターで印刷したものも食べられるし、人間が作ったものも食べられる。それを好きなときに選べる。それがユートピアだなと思います。
3Dフードプリンターがすべてを支配するような世界になってしまったら、それはもうディストピアだなと思うんですけど(笑)。新たな食の選択肢が増えることは食文化的には豊かなことなので、そんな未来になるといいなと。
われわれはすでに3Dフードプリンターの食事を食べている
▲コーンの部分が3Dフードプリンターになっていて、富士山やマッターホルンの形のアイスクリームを出力する2055年の遠足のおやつ(写真:吉崎貴幸)
──現在、3Dフードプリンターで印刷したものを食べられる場所はありますか。海外の有名なレストランとか。
石川:チョコレートぐらいだったら、もう市販されています。ショートパスタも3Dフードプリンターで出力しているのがありますね。あとは、例えば小麦粉で作ったパンとかも同じ系だと思うんです。結局、粉を造形するので。
──たしかに。同じホームベーカリーでパンを焼いても、小麦粉、全粒粉、ライ麦で焼いたパンはモノが違う。カートリッジを替えるって考え方は、たぶんそこで納得できますね。
石川:同じ機械でいろんな食べ物を作るという部分で似ていますね。
▲ゆでると蛹(さなぎ)からチョウに羽化する2055年のショートパスタ「メタモルフォーゼ・パスタ」(写真:吉崎貴幸)
──3Dフードプリンターで出力した食べ物に近いもので考えると、今の段階では回転寿司かソフトクリームでしょうか。
石川:3Dフードプリンターに近いイメージで作っているものがソフトクリームなのかもしれないですけど。
──あとは某定食チェーンのご飯もそうだろうなとは思っているんです。
石川:あの、ご飯を盛りつける機械ですね(笑)。
──あれも3Dフードプリンターだよって言い切ってもいいのかな~と。そう考えるとトコロテンも3Dフードプリンター的ですね。
石川:トコロテンはまさに押し出し式なので。そう考えてもらうと身近に感じてもらえるんじゃないかなと思います。
──3Dフードプリンターは、意外とすでに身の回りにあったという。
石川:「われわれはすでに3Dフードプリンターの食事を食べていた」。いい落としどころじゃないですかね(笑)。3Dフードプリンター的なものはもう世の中に非常にたくさんあって、その延長上にあるのが本格的な3Dフードプリンター食になるんだと思います。
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3Dプリンターが樹脂や金属で微細な工作をするように、3Dフードプリンターはユニークな形の食べ物を印刷するための機械だと思い込んでいたら、利用の可能性はもっと広く大きかったです。
食品ロスや食料危機を解決できる光明であったり、介護食や災害食を作る切り札であったり、まったく未知の食べ物を生成する魔法じみた能力があったり、絶滅していく食事を保存する役割もあったり。
想像もしていなかった3Dフードプリンターの大きな可能性を知ると、未来が楽しみになってきます。記事を書くためのインタビューでしたが、お話を伺っていると蒙(もう)を啓(ひら)かれる思いがしました。
▼『クック・トゥ・ザ・フューチャー 3Dフードプリンターが予測する24の未来食』(石川伸一 著/石川繭子 著/グラフィック社 刊)