▲瓶ビールからウーロンハイに移行した玉さん。町中華飲みも佳境を迎えています
町中華のテレビ番組の企画書を読んだら「ボールが止まって見えた」
こんにちは。町中華探検隊のライター、半澤と申します。
前回の記事で玉袋筋太郎さんに「町中華の飲(や)り方」を伺いました。
今回も阿佐ヶ谷の老舗町中華「開々亭」さんで「本当にいい町中華とはどんなお店か」について伺いたいと思います。大きなテーマだけど、たくさん町中華を巡っている玉さんから、どんなお話が伺えるでしょうか?
── 本題に入る前にまず伺いたいのですが、テレビ番組『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)には、どんな経緯で出演することになったのでしょう? 玉さんがメインキャストというのは、まさにピッタリな人選だと思いました。
玉袋筋太郎(以下、玉さん):いい番組名だよね。オレはもともと普段から町中華で飲っていたんだけど、東京・赤坂で金曜日にラジオをやらせてもらってて、次の仕事まで時間があったから町中華で飲んでたんだよ。そこで、周りのお客さんも巻き込んで、一緒に飲んでた。
それをたまたまBS-TBSのスタッフが見てくれていたみたい。そんで企画書をあげてくれたらしいんだ。その企画書を読んだら、まさに「ボールが止まって見える」ってやつ。これはオレじゃねーとできない、オレ以外のキャスティングじゃイヤだなって思って、始めさせていただいたわけですよ。
お店を「プロファイリング」する楽しみ
──まさに玉さんにピッタリの番組だったというわけですね。それまでたくさんの町中華に行ってらっしゃったんですか。
玉さん:生まれ育った東京・新宿をはじめ、家の近所で好きな町中華はあったけど、そんなに数は行ってなかったよね。今、仕事でいろんなところに行かせてもらっていて、何がいいかって、それぞれの店のパワー、地域に根付いた店のパワーをもらって、味も最高、人も最高ってのを味わえること。
本当、大感謝だよ番組に。芸人人生40年近いけど、なかなかないからね、こういうのって。
──僕の周りでも番組のファンが多いですね。単なる食べ物の紹介ではなく、食文化を見ているというか。
玉さん:それ、スタッフが一番喜ぶ意見よ。店とか、その地域の歴史を見てるっていう感じかね。うちの番組はお昼の気やすいワイドショーじゃねーんだから。あ、これは書いていいよ!
──(笑)。確かに、歴史や人と人との関わりとか、深いところまで描いていますよね。
玉さん:説教くさくなっちゃうんだが……町中華は、今はやりの「ファスト」な店じゃないってことよ。もちろんチェーン店が悪いっていうわけじゃないんだよ。最先端のものを安い価格で出すっていうのは、ものスゴい企業努力。かといって、町中華に企業努力がないかっていうと、当然あるんだよね。
──例えば「開々亭」さんは、金曜はラーメンが200円ですからね! 他のメニューもやたらに安い。
玉さん:そう、それをちょっと疑いながら食らうっていうのがいいよね。毒を食らわば皿まで……みたいなところも面白いのよ。
合理化されたお店では味わえない楽しさ
──確かに玉さんの番組では、お店のメニュー紹介だけではなく、そこに行き交う人だったり、人情模様だったりにスポットライトを当てています。
玉さん:だから番組も話題になったんだと思うよ。当たり前にある自然、だけど手付かずにある。なんでみんな気付かなかったんだ、というところに目を向けたいわけ。町中華って、本当に宝の山なんだよ。
それで一回バードビューで見るというか。客観的にプロファイリングする楽しみができちゃって。逆に言うと店のプロファイリングをしなくなっちゃった人へのカウンターだと思うんだよね、町中華は。個人店でないと絶対味わえないことだと思う。
──「プロファイリングしない」というのはネットの評判だけを見て、お店に行ってしまうというようなことですかね?
玉さん:そう、最短距離を狙うっていうのはハズレはないんだろうけどね。町中華にしても、スナックにしても、そりゃハズレはあるさ! 例えば競輪を朝からやって全レース勝つヤツなんていないのよ。そう考えると、なんか、もったいないなあって思っちゃうわけ。
▲そう言って玉さんが注文したのは麻婆豆腐(小・300円)。「暑いからさ、汗が出ないような麻婆豆腐がいいな」と玉さんが言うと、ママは「そんなに辛くないから大丈夫」と一言。このやりとりが町中華の醍醐味(だいごみ)だ
「参拝している気持ち」で町中華に行く
──となると、玉さん独自のプロファイリングに引っかかるお店というものがあるんですね。例えばどんなお店でしょうか。
玉さん:町にポツンとあって長くやっている店はやっぱりいい店が多いと思うよ。八百万の神の国、ここ日本にあって、地域にある町中華は神社とか仏閣とか、お地蔵さんとかと同じでさ(笑)。この店もそう。参拝している気持ちっていうかね。
──開々亭さんは2023年で52年目だそうです。
玉さん:でしょ! スゴいよ。東京・阿佐ヶ谷の商店街から離れてるのにさ。いろいろと創意工夫してさ。それで、「原価いくらなんだ」みたいな野暮ったいことは言わないんだ。
いい町中華の見極め方。料理を頼む前にチェックすべきポイント
──今までたくさんお店に行ってらっしゃいますけど、町中華ではどういうところを見ていますか。先ほどおっしゃっていた「プロファイリング」についてぜひ教えてください!
玉さん:外観とかね。店自体はオレ、一発でプロファイリングしちゃうからさ。例えば、店の前に原付バイクがあったら、出前をしている店ってこと。出前をしているってことは、古くから住んでいる人が多いエリアだ、味にうるさい人が多い中でずっと生き残っている店だろう……とかね。
──なるほど。その意味でもお店に入る前から見るべきポイントは多いですね。
玉さん:あとはやっぱり「年季が入っているかどうか」でしょう。町中華の大将が白魚のような手だったらイヤだからね(笑)。絶対火の近くで毎日のように焼かれているわけだから。店の空気として、なんとなく歴史が漂っていることが大事だな。歴史を背負っているなっていうね。この店は52年でしょ。
──かなりの老舗ですよね。
玉さん:もうそうなると、大将、背負っちゃったねって! 人生の神輿(みこし)ダコが肩にできてるんだよ。でも、同時にお客さんにも背負われているという。店の奥でスポーツ新聞を読んで競馬を予想している人がいつもいる店とかね。
それって、まだ味にたどり着く前に店で見ておきたいところ。店に入って、すぐには料理を注文しないからね(笑)。まだまだ、注文しないよ。
図書館であり博物館、これぞ店内の見どころ
──本当ですね、料理を注文しない段階でもこんなに町中華は味わえるものなんですね。他にはどんなところに目を向けていますか。
玉さん:あと、これはよく言っているのだけれど、「図書館(※)が充実しているかどうか」もあるね。店にどんな雑誌や漫画が置いてあるかはまず見るよね。あと、コンビニによくある、読み切り編の漫画ね。お客さんが置いてってくれるんだ。仕事終わりにお客さんがコンビニで買ったであろう漫画が、どんどん上に積み重なってくる。
(※)玉袋氏の用語で、お店の中の雑誌や漫画などが置いてある書棚のこと
──このお店の図書館も、おやじ好みの渋いチョイスの漫画ばかりです。
玉さん:ここはもう、スミソニアン博物館だよ(笑)。いつからあるのかな、みたいな飾りとかあるからね。
▲開々亭の博物館に並ぶのはかわいらしい猫グッズ。マスターやママのお店への愛情や、お客さんへのおもてなし精神、そして単純に好みが現れ、ほっこりさせられる
玉さん:ここはメニューも多いからスゴいよね。オレ、「番付」って呼ぶんだけど、このメニューの日焼け加減とかも良い。
▲メニューが多いうえ、価格もとにかく安い開々亭。全料理を頼むのは不可能と思えるほどに、多種多様。つまみが多くてあれもこれも食べたくなってしまう
──この壁一面のメニューは壮観ですよね。
玉さん:トンカツなんかもあるし。例えば腹が減ったヤツがここに来て、たまたま目に入ったトンカツを頼んだら、たちまちここはトンカツ屋になるわけだよ。ここを、ヘトヘトでたどり着いた先のエイドステーションとする人もいるわけだ。
──ガッツリ食べたい人の味方です。
玉さん:店の混雑状況を見ながら、「ママ、今注文してもいいかな」って声を掛ける。そういうやりとりがいいわけよ。
▲トンカツ(300円)。 町中華というのはただの言葉でしかない。トンカツをいただく人にとってはトンカツ屋。ラーメン屋にもカレー屋にも、中華居酒屋にもなってしまう
町中華に来ると「自分のギア」をニュートラルに落とせる
──いい町中華の見極め方を教えていただいて、ありがとうございました。
玉さん:でもさあ、オレも成長させてもらっているって思うね。100軒近く行かせてもらっているけど、それは感じるなあ。番組自体が自分をニュートラルにしてくれるもの。
──ギアチェンジできる場所ということですね。
玉さん:そう、ニュートラルに落とせる。仕事なのにニュートラルになれるって、オレってどんな人だよ! ……そうそう、町中華は自分をニュートラルに落としてくれる場所なんだわ。
──前回お話に出た「許される場所」というのも同じですね。玉さんは昔から町中華に行ってらっしゃったので、そういう思いもあるのでしょうか。
玉さん:そうね、郷愁はあるよ。9歳の頃から東京・大久保の「日の出」って店に行ってたからね。その前に地元・新宿の店はいろいろ知っていたけど。
──「日の出」はもうなくなってしまった名店ですね。本当にすてきなお店で、僕も何度も行かせていただきましたよ。
玉さん:最高だったよなあ。オレはあの店の家族も見てたから。
──お母さんがハキハキされてお元気で、お父さんの料理はどれもおいしくて、町中華の良さがつまっていました。活気があって笑顔が絶えないお店だったなあ。
玉さん:そこだけでもさ、一篇の物語になるよね。オレはそう思うよ。そうだね、やっぱり「ニュートラル」だわ、これは。この記事を読んでくれている人にもいろんなことがあると思う。でも、若い子も、オレより上の人も町中華に来たら絶対ニュートラルになる。ガチャーンとギアを落とせる場所だと思うね……すいません、ママ、ウーロンハイがなくなってきたよ。
マスター、ママの温かさにほっこり
▲と、ここでママへの取材が突然スタート。52年も開々亭が続いてきた理由を伺うことに
玉さん:ところでママさん、ここで52年、アーケードから外れた場所でさ、どうして続けられたのよ? これってスゴいことだよ。
ママ:なんででしょうね。とにかく食べるために、生きるために(笑)。
玉さん: おっ、こりゃ深い。
ママ:子どもを育てるためにね。
玉さん:出たっ! その上でお客さんに喜んでいただくってのがナンバーワンだもんね。本当にサービス精神満点の店。おい……ほら、ここでこの名曲(※)が流れてきちゃうんだから。スゴいよ!
(※)某大御所演歌歌手の名曲
▲ずっと演歌がかかり続けている開々亭では、飲んでいる最中にしょっちゅうドラマチックな瞬間が訪れる
マスター:(厨房から現れながら)いやさあ、玉さんのおかげでうちも忙しくなっちゃって!
玉さん:じゃあ売り上げの3%ください(笑)。みんなに「玉袋はいいヤツだ」って言っておいてくださいよ。
マスター:そう、大先生だって言ってんだ、いつも!
▲マスターがホールに出てきてくれて談笑。開々亭の温かさ、優しさを体感できました!
玉さん:コロナで大変だったと思うけど、大将も元気そうで良かったよ。
マスター:いやあ、玉さんには本当にありがたいと思ってるんだ。
玉さん:じゃあ売り上げの30%を……(一同爆笑)。
町中華は人と人をつなぐ場所
▲町中華は食べる場所でありながら、コミュニケーションを取る場所でもある。玉さんとママ、マスターの和やかなやりとりを見ながらそんなことを思いました
──今のやりとり、『町中華で飲ろうぜ』を生で見せてもらったような、すてきな時間でした。
玉さん:あの番組はね、スタッフが少ないの。3人くらいであちこちの店を当たってんのよ。若い子たちが頑張ってるわけ。それが良くてね。で、収録が終わるでしょ。それで、スタッフと収録の後にそのまま店で食べるときもあるんだけど、店の大将とかママが、若い子たちに「良かったね、無事に撮影できて」と声を掛けている……。オレ、それが一番感動。
──お店の人も準備段階から見てるから、感動もひとしおなんですね。
玉さん:本当、素晴らしいのはスタッフですよ。オレはあの最後の瞬間が好きだね。そういう人間関係がつながっていく瞬間っていうのかな。町中華にはそれがあるっていうことも言いたいね。
──今の玉さんとお店の方とのやりとり一つ取っても、町中華は間違いなく人と人とをつなぐ場所だと思いますね。
玉さん:だから、店に行くと毎回感動するんだよ。大将が2代やっているところにお客さんは親子3代でやって来るとかね。もう、最高だよ。最高の家系図。まあ、語る家系図をね、感じてしまうとか良いよね……ちょっと、酔っぱらっちゃったな今日は(笑)。
***
僕自身、今までけっこうな数の町中華を訪れてきましたが、今回、あらためて玉さんのお話を伺ってみて、町中華とは本当に不思議な場所だと感じました。
本来はごはんを食べる場所、それだけが目的のはずなのに、癒やされ、許され、そして満たされ、感動までさせられる。なんて素晴らしいことでしょう。
うーん、僕もちょっと酔っぱらっちゃったかな。
撮影:平山訓生
お店情報
開々亭
住所:東京都杉並区阿佐谷南2-12-1 丸伊マンション1F
電話番号:03-3315-1501
営業時間:11:00~14:00、17:30~22:30
定休日:日曜日
※営業状況は変更になる場合がありますので、店舗にご確認ください。
DVDリリース情報
書いた人:半澤則吉
1983年福島県生まれ。2003年大学入学を期に上京。以来14年に渡りながく一人暮らしを続けている。そのため自炊も好きで、会社員時代はお弁当を作り出勤していた。2013年よりフリーライターとして独立。『散歩の達人』(交通新聞社)にて「町中華探検隊がゆく!」を連載するなどグルメ取材も多い。朝ドラが好き。