支持される理由は「辛味×うま味」
麻婆豆腐や回鍋肉などの四川料理に使われる辛~い豆板醤は、日本でもかなりポピュラーな調味料。
豆板醤が、なぜ日本でこんなに有名になったのかといえば、「唐辛子の辛味」と「発酵のうま味」という、アジア料理全般で味わいのキーとなる、2大要素を兼ね備えているからじゃないでしょうか。
スパイシーなカレーと、うま味のきいたスープが決め手のラーメンが「2大国民食」と言われるように、「辛味×うま味」が好きな人は多いですよね。
中国・四川省にルーツを持ちながら、日本人の味覚にも、ばっちりヒットする調味料。そんな豆板醤をディープに楽しみたい──。
それには、手作りしてみるのが一番!
さっそく、作り方を解説していくことにしましょう。
大豆ではなく空豆を使う
まず最初に、発酵をともなう豆板醤の手作りにあたっては、調理用具を煮沸消毒するなどして清潔に保つことが肝心です。今回は、ジッパー付き保存袋を使用しますが、これについては新品を用意してください。もちろん、自身の手も石鹸で洗う、アルコールで消毒するなどして清潔を保った状態で作業にのぞむべきなのは言うまでもありません。
また、万が一発酵の途中で腐臭・異臭・強烈な酸味がするなど明らかな異変を感じたら、口にせず廃棄すること。以上の注意点をクリアしたら、さっそく始めましょう。
まずは、材料から紹介していきます。
ざっくり言えば、豆板醤は「唐辛子の入った味噌」のようなもの。
日本の味噌と違うのは、唐辛子を大量に入れることと、主材料が大豆ではないことです。
大豆ではなく、いったい何を使うかと言えば……
空豆です。
味噌のペースト状テクスチャーは主に発酵した大豆によるものですが、豆板醤では空豆。
さや入りの生の空豆を用意してもいいですし、茹でた冷凍モノでも構いません。乾燥空豆を使用してもよいでしょう。
もちろん、空豆ではなく、大豆で代用することも可能ですが、せっかくなので本格的な材料である空豆を用意したいところ。
辛味を出す食材はやはり唐辛子
そしてもちろん、唐辛子は必須。
今回は、粉唐辛子と、
生唐辛子を用意してみました。
言うまでもなく、豆板醤は唐辛子が決め手。粉唐辛子と生唐辛子で、出来上がりにどんな違いが出るのか、実験してみましょう。
アジア系の食材店などにいくと、冷凍された生唐辛子が比較的安めの値段で売られているので、それを使うのも手です。今回使うのも、冷凍生唐辛子を解凍したもの。
発酵をうながす乾燥米麹
豆板醤の発酵をうながすのは、
乾燥米麹です。
今回はスーパーマーケットで手に入るメーカーのものを用意しました。
本場四川のローカルなレシピでは、なんと空豆に天然のカビを生やして発酵させるのですが、それはちょっと高度過ぎるので、今回は日本で市販されている米麹を使います。
ちなみに、麹も「ニホンコウジカビ」という名のカビの一種。日本の味噌も、四川の豆板醤も、カビによる発酵が大豆や空豆のたんぱく質を分解し、うま味成分であるアミノ酸を作り出しているのです。
最後に、塩も必須の材料。
今回は天然の粗塩を用意しましたが、一般的な食塩であればどんなものでもOKです。
粉唐辛子で豆板醤を作ってみる
では、まずはじめに粉唐辛子で豆板醤を仕込んでみましょう。
分量は下記の通りです。
- 空豆(茹でて皮をむいた状態) 100g
- 粉唐辛子 30g
- 乾燥米麹 30g
- 塩 20g
生の空豆の場合は茹でて、熱が冷めたら皮をむきます。
次に、すべての材料をジッパー付き保存袋に入れます。
中はこんな感じです。
袋をモミモミして、麹の塊かたまりをほぐし、空豆も良い具合につぶしていきます。
空豆は、完全にペースト状にしてしまってもよいし、すこし粒々の残るテクスチャーにしておくのも悪くありません。
袋をモミモミして、あらかたペースト状になって全体が混ざり合ったら、ジッパー付き保存袋の空気を抜くようにして平らにし、口を閉じます。
この状態で清潔な冷暗所に保管。
1カ月後くらいから調味料として使えるようになりますが、1年以上など、熟成するほど美味に。
発酵、熟成中は、たまに様子を見て保存袋をモミモミし、中身を混ぜてください。
生唐辛子でも作ってみる
次に、生唐辛子で作ってみましょう。
さきほどの分量のまま、粉唐辛子を生唐辛子に置き換えるだけです。
生唐辛子は写真のように刻んでください。素手だと大変なことになるため、ビニール手袋着用が望ましいです。
先ほど同様、ジッパー付き保存袋にいれた材料をモミモミし、ほぐしていきます。
袋から空気を抜いて、口を閉じます。
粉&生のミックスも作ってみる
もう1種類、粉唐辛子(15g)と生唐辛子(15g)を半々でミックスして仕込んでみましょう。
手順は、まったく一緒です。
モミモミします。
できました。
結論:唐辛子はミックスがオススメ
以上を半年間、発酵・熟成させたものが、こちらです。
粉唐辛子の豆板醤。
生唐辛子の豆板醤。
粉唐辛子と生唐辛子を半々で仕込んだ豆板醤。
並べてみると、色合いも結構違います。
左の粉唐辛子の豆板醤は色が一番濃く、唐辛子の粉っぽさが若干残っており、辛さは比較的マイルド。うま味は濃厚です。
中央の生唐辛子の豆板醤は、色が一番薄く、とにかく辛い! すこし水分が多めで、うま味はあっさりな感じ。
右の乾燥&生唐辛子ミックス豆板醤は、色合いは上記2つの中間。味も、両者のいいところ取りで、辛味にも奥行きがあります。マイベストはこれ!
というわけで、粉唐辛子と生唐辛子をミックスして作るのがオススメです。
それにしても、手製の豆板醤はどれも味わい深く、高級感すらあります!
キャベツの入らない本格四川回鍋肉
これを使った簡単レシピをひとつご紹介しましょう。
四川風回鍋肉です。
回鍋肉の材料と言えば、豚肉とキャベツと決まっていますが、それは日本式の回鍋肉。
本場四川では、キャベツは使いません。
豚肉と「葉ニンニク」で作るのが一般的。
ただ残念ながら、日本のスーパーや青果店で葉ニンニクを見かけることはあまりないので、今回は長ネギで代用してみます。ネギの青い部分までたっぷり使いましょう。
材料(2人前)
- 豚ばら肉スライス 180g
- 長ネギ斜め切り 1本ぶん
- ニンニクみじん切り 2~3かけぶん
- 生姜みじん切り 2~3かけぶん
- 豆板醤 大さじ1
- 味噌(なるべく色の濃いもの) 大さじ1
- 醤油 大さじ1
- 紹興酒(なければ日本酒) 大さじ1
- 砂糖 小さじ2
- ごま油 適量
作りかた
- たっぷり目のごま油をフライパンで熱し、豚ばら肉を加える。
- 肉におおよそ火が通ったら、フライパンの端に油だけ寄せて、ニンニクと生姜を投入。香りを出すように熱する。
- 香りが立ったら、全体を混ぜ合わせる。
- あらかじめ合わせておいた、豆板醤、味噌、醤油、紹興酒、砂糖を加え、全体をなじませるように炒める。
- 最後に斜め切りにしておいた長ネギを加え、シャキシャキ感が残るくらいまで火を通して完成!
豆板醤というと、定番の麻婆豆腐を思い浮かべる人が多いと思いますが、四川回鍋肉も絶品。
豚肉と長ネギの甘みを、豆板醤の辛味とうま味が包み込み、白いご飯がとまりません。もちろん、ビールのお供にも最高!
発酵ついでに「手前味噌」な話になりますが、味噌や豆板醤の自作については、こちらの本『発酵はおいしい!』でも解説しているので、ぜひ読んでみてください。
(よ)ことワダヨシの運営するferment booksと、麹研究家のおのみささんの共著で、いろいろな発酵商品について解説したイラストたっぷりの発酵図鑑です。
それではみなさんも、唐辛子と発酵の絶品調味料、豆板醤を自作し、辛ウマな料理に役立ててみてください!
書いた人:(よ)
「ferment books」の編集者、ライター。「ワダヨシ」名義でも活動中。『発酵はおいしい!』(パイ インターナショナル)、『サンダー・キャッツの発酵教室』『味の形 迫川尚子インタビュー』(ferment books)、『台湾レトロ氷菓店』(グラフィック社)など、食に関する本を中心に手がける。