酒粕は汎用性の高い「発酵調味料」である
みなさんは酒粕(さけかす)を料理に使ったことがありますか?
酒粕と言うと、田舎のおばあちゃんの料理みたいなイメージだったり、あるいはオーガニック系やヘルシー系の意識高そうなレシピを思い浮かべる人もいるかもしれません。
でも酒粕は、もっともっと自由に使っていいと思うんです。本来、醤油や味噌と同じく日本で長く親しまれてきた万能発酵調味料ですし、一般的なイメージよりずっと汎用性が高い食品のはず。
酒粕を料理に使うメリットとして、すぐに思いつくのは下記のとおり。
- うま味がアップする
- 料理がクリーミーになる
- 独特の風味をプラスする
- 日本酒に合う
- 漬け床として使える
- パン種として使える
- からだに良い
うま味とクリーミーさは、わかりやすいですよね。粕汁などが好きな人なら、多くの料理に酒粕がマッチするのを容易にイメージできると思います。
ただ、酒粕の独特の風味は、好き嫌いが分かれるところ。
個人的には酒粕の味わいは大好きです。料理に深みと複雑さを与えますし、なによりこれが加わることによって日本酒に合う料理になってしまうのが、酒飲みにとっては最大のメリットかも。
また、奈良漬けなど酒粕を使った漬け物や、粕漬けにした肉や魚を焼いて食べてもとてもおいしく、むしろ王道の使い方なのですが、「漬ける」系は多少手がかかるので今回あえて外しました。パン種としての活用も同様です。
健康への効能についてもあえて触れませんが、ウェブや専門書などには多くの情報が掲載されていますので、興味がある人は、ぜひそっちを参照してみてください。
筆者が所属するferment booksと、おのみささんの共著『発酵はおいしい! イラストで読む世界の発酵食品』(PIE International・刊)にも、酒粕の基本がチラっと掲載されておりますので、機会があれば手に取ってみてください。
そんなわけで今回は、調味料としての酒粕のハードルを一気に引き下げるべく、「何かに酒粕を混ぜるだけ」の超簡単レシピを基本に、さらには「レトルトやインスタント食品にも酒粕を混ぜてみる」という、酒粕料理らしからぬジャンクな領域までトライしてみようと思います。
きっと、酒粕のさらなる可能性を探れるはずです。
「基本の酒粕ペースト」を作る
まずは酒粕を用意しましょう。
左が「板粕」、右が「練り粕」と呼ばれるものです。いずれも、近所の普通のスーパーで買ってきました。日常的に使うようになったら、ネット通販などでまとめ買いすると、
そもそも酒粕はどうやって作られているのか、最初に軽く解説しておきましょう。
名前のごとく、酒粕は「酒のかす」です。
日本酒の作り方をすごく簡単に言うと、米麹と蒸米と水を混ぜたものを発酵させてから搾る、となりますが、この搾ったあとに残った「かす」が酒粕です。いわば酒づくりの廃棄物なので、なんとなく軽い存在に見られたりもするわけですね。
でも、逆に考えてみてください。
酒づくりにはめちゃくちゃ手がかかります。醸造の長である杜氏(とうじ)や、それを支える蔵人たちの職人的な技術によって、丁寧に、思いを込めて醸されます。副産物とはいえ、こうした日本の発酵文化の頂点とも言える日本酒の蔵で生み出されるのが酒粕なわけで、なかなかあなどれません。実際、酒粕のおいしさに開眼したら、「これまで『かす』なんて呼んできて申し訳ない!」なんて気持ちにもなろうというもの。
通になると愛飲している酒蔵の搾りたての酒粕を、新酒が出回る12月~1月ごろを狙って入手したりします。当然ですが、おいしい日本酒の酒粕は最高。
さて、「板粕」と「練り粕」に話を戻しましょう。米と米麹と水を発酵させ、搾る前の醪(もろみ)を専用の圧搾機で搾って清酒を取り出し、プレスされて残った板状の酒粕そのままのものが「板粕」。それを練ったものが「練り粕」です。
今回は板粕を使っていきますが、もちろん練り粕でも特に問題はありません。
さて、まずは最初に「基本の酒粕ペースト」を作ることから始めます。酒粕に水分を加えてペースト状に加工しておけば、いろんな料理にすぐ使えて便利なのです。
【基本の酒粕ペースト 材料】(作りやすい量)
- 板粕(練り粕でも可) 300g
- 水 300ml
まず、酒粕と、同量の水を鍋に入れ、コンロで熱を加えながら酒粕を木べらでほぐしていきます。今回は酒粕300g、水300ml(300g)の分量です。沸騰させず、弱火でゆるゆる温める程度が良いでしょう。
火にかけながらほぐすのは、熱で酒粕をやわらかくするのと、酒粕に残ったアルコール分などを飛ばすため(※)です。子どもや、お酒に弱い人でも、こうやってアルコールを飛ばしておけば安心。酒粕に残った酵母なども殺菌され、再発酵も防げます。
(※)アルコールの沸点である約78℃以上の温度で加熱しましょう。
気長に木べらでペースト状になるまで練ってもいいのですが、適当なところでハンドブレンダーに切り替えて、一気に攪拌(かくはん)してしまうのも手です。
あっという間にトロトロのペースト状になります。
基本の酒粕ペーストが、たっぷりできました!
生の酒粕の風味やアルコール分などの成分を残したければ「生酒粕ペースト」もアリです(※運転前に食べたり、未成年への提供はNG)。その際は、酒粕と水を火にかけずブレンダーで攪拌すればOK。
酒粕そのものはけっこうもちますが、酒粕ペーストは加工品なので、清潔な容器に入れて冷蔵庫で保管し、数日程度で消費すること。
さっそく、これをいろいろなものに混ぜて、味わいを確かめていきましょう。
「インスタントの袋ラーメン」に酒粕を混ぜてみる
歴史ある日本三大銘醸地のひとつ、京都・伏見。酒蔵見学ついでに街をぶらぶら観光したとき、飲食店の定番メニューだったのが「酒粕ラーメン」。 インスタントの袋ラーメンのスープに酒粕を混ぜることで、これをお手軽に再現してみましょう。
まずは、シンプルなインスタントの袋ラーメン(塩ラーメン)に酒粕を混ぜてみます。
パッケージの指示どおりに麺を茹で、粉末スープを加えたあとに、酒粕を投入します。分量は塩ラーメン1人前に対して酒粕ペーストが大さじに3杯程度。スプーンにすりきりではなく、すくったまんま、写真のような盛り加減で3杯です。
酒粕ペーストを入れたら、よく混ぜます。
丼に盛ってみます。スープの見た目は、とんこつラーメンのように白くてクリーミーになりました。
お好みで具を盛り付けて、さっそく食べましょう。
見た目どおり、味わいも濃厚でクリーミー。塩ラーメン自体のスープの塩味とうま味が、酒粕の甘味とうま味に重なり合い、分厚い味わいとなって、かなりの満足感です。
次に、別タイプの辛口のインスタントの袋ラーメンでトライ。韓国系の辛いヤツです。
こちらもパッケージの分量どおりに袋ラーメンを作っていきます。麺とスープがぐらぐら煮立つ鍋の中に、先ほど同様、酒粕ぺーストを大さじ3杯投入。よく混ぜ合わせます。
普通に作ると赤っぽい色のスープが、オレンジやピンクに近い、こんな色あいに。
お好みで適当な具を盛り付けて、いただきます。
なるほど! かなり辛さが緩和されてマイルドになりました。韓国風の激辛味と酒粕の甘味の相性が非常にいいです。このあと、小さじ1くらいごま油をたらして食べてみたら、風味がさらに良い感じになりました。
インスタントの塩ラーメン、インスタントの辛口ラーメン、いずれも酒粕ペーストを加えることで、うま味と甘味がアップ。クリーミーな濃厚さも加わって、インスタントの袋ラーメンにさらなる食べ応えと、
味わいを見ながら、お好みで酒粕ペーストの量を増減してみても良いでしょう。
トマト味の料理と酒粕の相性は抜群
酒粕とのコンビで注目すべきなのが、トマト味の料理。
トマト味に酒粕を合わせると、酒粕特有のクセがトマトの風味と相殺されて、クリーミーさとうま味だけがプラスされたような感じになります。つまり、酒粕自体の味わいがちょっと苦手という人にも、これならオススメ。
参考料理ですが、以前作ってみた酒粕ペースト入りラタトゥイユです。
ラタトゥイユに酒粕を加えたことでクリーミーさとコクが出てとてもおいしいのですが、酒粕はあまり主張してこないのが不思議です。
手っ取り早く、トマト+酒粕の味わいを楽しむなら、ケチャップと酒粕ペーストを1:1の同量で混ぜた「酒粕ケチャップソース」を作ってみましょう。
ケチャップと酒粕ペーストを同量、ボウルへ入れます。
かき混ぜます。
これを、例えばウスターソースやとんかつソースの代わりに、メンチカツのソースとして活用してみるのは、どうでしょうか。
酸味と甘味の効いた酒粕ケチャップソースが、あつあつジューシーなメンチカツを引き立てます。ぜひお試しあれ。
「酒粕マヨネーズ」でポテサラを作る
ケチャップと酒粕ペーストのミックスがおいしいなら、マヨネーズと合わせたらどうだろう。そう思って試してみたのですが、肝心な酸味が弱くなってしまい、思ったような味わいになりません。
酢を補って味を調えることもできますが、もっと別の良いレシピがあるので、こちらは分量をご紹介しましょう。
【酒粕マヨネーズ 材料】(作りやすい量)
- 酒粕ペースト 大さじ3
- オリーブオイル 大さじ1
- 酢 大さじ1
- 砂糖 小さじ1
- 塩 小さじ1/2
マヨネーズそのものや、卵も使わずに、酒粕ペーストをベースに作る「マヨネーズもどき」ですが、これがけっこういけるんです!
さっそく作ってみましょう。
材料すべてをボウルに入れて、よく混ぜるだけです。
こんな感じに仕上がりました。
普通のマヨネーズのように、泡だて器やブレンダーで必死に乳化させる必要もなく、スプーンなどで普通に混ぜるだけで、かなり簡単に写真のようなクリーミーさになります。
もっとマヨネーズ感を強めたい場合は、
でも、そこまで本物のマヨネーズに近づける必要もないかもしれません。独特の風味がオツな酒粕マヨネーズは、あえて卵の風味などつけずとも、十分に使えるからです。
酒粕マヨネーズでポテトサラダを作ってみました。
ごくごく一般的なポテサラのレシピにあるマヨネーズを、酒粕マヨネーズに置き換えただけなので、あえてレシピは省略させていただきます。
みなさん自由に、ポテサラなり、マカロニサラダなり、作ってみてください。
しかし、酒粕マヨのポテサラ、日本酒が欲しくなるんですよねぇ。
このポテサラに合う、「酒粕と日本酒のカクテル」があるので、それもご紹介しましょう。
酒粕と日本酒のカクテル
【酒粕と日本酒のカクテル 材料】(1杯分)
- 日本酒 1合(180ml)
- 酒粕ペースト 小さじ1
冷えた日本酒をコップに注ぎます。
そこへ、酒粕ペーストを投入。
ぐるぐるかき混ぜて溶かします。
溶け切らない分は、茶こしなどで濾(こ)して……。
完成。
これ、ほぼ「にごり酒」に近いものです。もっと酒粕を多くすれば「どぶろく」に近くなるかもしれません。
同じ酒粕ペーストが入っているので、合わないわけはないです。
酒粕をお湯に溶かして「甘酒」として飲むのは定番の楽しみ方ですが、これはその「にごり酒ver.」と言えるかもしれません。
注意点ですが、この「酒粕と日本酒のカクテル」、あくまで自己消費用に楽しんでいただき、作った分はすぐ飲んで保存しないようにしてくださいね。
晩酌に最高な「酒粕のクリームチーズ」
さて、日本酒のつまみとしては、もはや定番の「酒粕のクリームチーズ」もぜひ試してみてください。
じつは、スーパーなどではなかなか買えない、某酒蔵の熟成タイプの酒粕を入手したのですが、これで酒粕クリチを作ったら最高でした。
【酒粕のクリームチーズ 材料】
- 練り粕 適量(クリームチーズと1:1の同量になるように)
- クリームチーズ 適量
熟成タイプの酒粕は、こんな褐色の色あいで、味わいも熟成感があり濃厚で、ちょっとチョコレートのようなコクも感じられます。もちろん普通の練り粕でもOKです。
これを同量のクリームチーズと合わせます。
しっかり混ぜ合わせます。味を見ながら、塩(分量外)を適宜加えて風味を強調します。お好みで砂糖(分量外)を加えてもいいかもしれません。
ディップ的にクラッカーなどにつけてもOKですが、個人的にはこのままを少量ずつ舐めながら、日本酒をちびちび……が最高です!
最初にこしらえた酒粕ペーストとクリームチーズを同量で合わせても、おいしい酒粕クリチができました。
「レトルトカレー+酒粕」は、相性を見極める必要あり
さて、メシ通編集部から「レトルトカレー+酒粕」も試すべしとの指令が出たので、これもいざ実験です。
実験用のレトルトカレーには、ビーフカレー、バターチキンカレー、キーマカレーの3種をチョイス。3種類はメーカーも別々です。
方法としては、1食分のレトルト袋を湯煎するのではなく、鍋にあけて温め、まず半量をノーマルな状態で小皿に盛り、残り半分のカレーには大さじ1程度の酒粕ペーストを混ぜた酒粕バージョンにして小皿に盛ります。
これを3種すべて行い、6つの小皿を並べて、食べ比べをしてみたいと思います。
上の写真、左から、ビーフカレー(ノーマル)、バターチキンカレー(ノーマル)、キーマカレー(ノーマル)、ビーフカレー(酒粕入り)、バターチキンカレー(酒粕入り)、キーマカレー(酒粕入り)の順で並んでいます。
試食してみて、最初の感想ですが、酒粕入りはどれも少々甘さが目立ちます。
ちょっと酒粕ペーストの量が多すぎたのかもしれませんが、おそらく3種類ともノーマルな状態ですでに甘味がかなり効いており、酒粕を加えることで、さらに甘味が突出してしまう感覚だと思います。
酒粕を混ぜて一番おいしかったのは、バターチキンカレー。
もともとの材料がトマトと生クリームなので、合わないはずはありません。酒粕とトマト味の相性の良さは、先述のとおりですし、乳製品ともマッチします。
残りのふたつもわるくはないのですが、スパイスの味わいと甘い香りがぶつかっている部分も感じたりしました。
もうちょっと探求してみないとはっきり言えませんが、レトルトカレーと酒粕は、相性が良い組み合わせを探す必要があるかもしれません。もしくは、工夫を凝らした自作のオリジナルカレーに酒粕を使ってみるのも面白いと思います。
さて、口直し的にフルーツと酒粕について。
「フルーツ+酒粕」が相性良し
酒粕と相性がいいのは、個人的には柿だと思います。
適度に熟した柿を一口大に切って、お好みの分量の酒粕ペーストであえる。
これだけです。
塩をひとつまみ加えてもいいですが、味を見ながら控え目に。
今回はジャンクなインスタントの袋ラーメンや、レトルトカレーを使ったレシピも紹介してきましたが、「柿の酒粕あえ」だけは、それとは大きく違う上品な味わいで、うまく工夫すれば「柿の白あえ」に代わるような、気の利いた和食の一品に高められそうな気もします。
お菓子や、果物など、甘いものにも酒粕は合います。参考料理として、以前作った酒粕入りの生チョコレートの画像を。
お見せする予定でなかった試作のため見た目が不格好でお恥ずかしいのですが、いちおう作る手順と材料の目安を簡単に記しておきます。
【酒粕チョコレート 材料】(作りやすい量)
- 板チョコレート 50g
- 板粕 50g
- ココナッツオイル 大さじ1
- メープルシロップ 大さじ1
- ココア 適量
- 板チョコレート50gをボウルで湯煎して溶かす
- 別の容器に酒粕(ペーストではなく板粕そのもの)50g、ココナッツオイル大さじ1、メープルシロップ大さじ1を入れ、ハンドブレンダーなどで混ぜ合わせる
- 1.の溶けたチョコレートに、2.を加えてよく混ぜる
- 3.を冷蔵庫で冷やし固めてから、小さなボール状に丸めてココアをまぶす
酒粕のコクがチョコレートの風味と一体化し、パティシエが作ったデザートのような上質なおいしさになります。
いろいろな料理に活用できる酒粕という食材に、底なしの可能性を感じる今日この頃です。
※アルコールを飛ばさないで酒粕を使う場合、飲酒運転や未成年への提供などは法に触れる可能性があるため、十分注意してご利用ください。
書いた人:(よ)
「ferment books」の編集者、ライター。「ワダヨシ」名義でも活動中。『発酵はおいしい!』(パイ インターナショナル)、『サンダー・キャッツの発酵教室』『味の形 迫川尚子インタビュー』(ferment books)、『台湾レトロ氷菓店』(グラフィック社)など、食に関する本を中心に手がける。
- Twitter:@fermentbooks