まいど憶良(おくら)です。
カンガルー、トド、ワニ、ダチョウ。珍しい物が食べられる居酒屋さんがあると知って、大阪は四条畷にやって来ました。
大阪では有名な四条畷(しじょうなわて)ですが、関西全体としては、名前と読み方は知っているものの、行ったことがあるという人は、私の周りにあまりいません。
しかし、この四条畷に、全国から「このお店に食べに来たんです」という人が押し寄せてきているんです。
それどころか、インターネットでこのお店を見た人が世界各国から集まって来ます。
そのお店がここ、「宝雪酒坊」。
一見すると普通の居酒屋さんのようです。
でも壁を見てみると、実は創業から半世紀を超える老舗の居酒屋さん。
そのメニューも至って普通……。
ミンク鯨造り 1,000円。至って普通のメニュー。
と、思いきや。先ほどのメニュー写真上段左に気になる項目が。「オオグソクムシ入荷」
チャレンジメニューがあるだけの、普通の居酒屋さん
そうなんです。ここ「宝雪酒坊」の最大の特徴がこちら、チャレンジメニュー。そのラインアップは、
- ウーパールーパー唐揚 1,500円
- トド焼 950円
- カンガルー焼 950円
- ダチョウ刺身 1,200円
など、個性的な物。そして常時あるわけではないためにこのメニューには載っていない、
- オオグソクムシ
今日はこれにチャレンジするためにやって来たんです。
深海の甲殻類、オオグソクムシ
静岡県の、駿河湾周辺では深海魚を食べさせてくれるお店があり、私も静岡まで深海魚を食べる旅に行ったりしていました。いろんな深海魚を食べた私ですが、オオグソクムシは食べたことがありません。
深海魚を捕る船ではこのオオグソクムシを船の煙突で調理して食べるという、いわゆる漁師料理として、テレビなどでも紹介されることが度々ありました。そこでいろいろなゲストが口々に「これはおいしい」と絶賛していました。私も「ああ、そんなにおいしいなら一度は食べてみたいものだ」などと思っていたんです。
水族館でも人だかりができる展示物としてニュースで取り上げられたり、また静岡の名物としてオオグソクムシのせんべいが売り出されるなど、食用としても注目されています。
これだけインパクトのあるフォルム、
見る分には確かに格好いい! という感じがしますが、食べるのはどうなんでしょう。調べてみますと、その身はシャコに似ていて、おいしいんだそうです。
こちらはシャコ君です。フォルムに関してはいい勝負だと思いますが、味はどうなんでしょう。
メキシコサンショウウオ、ウーパールーパー
ぼくってウパッ!
その姿かたちが印象的なウーパールーパー。爬虫(はちゅう)類かと思いきや、意外と両生類なんですって。メキシコサラマンダーとか、メキシコサンショウウオとも呼ばれています。その名の通り、サンショウウオの仲間なんです。
サンショウウオと言えば、攻撃されると皮膚から白い粘膜を出し、この粘膜が山椒の匂いに似ているということからその名がついたと言われているんですが、これって食べられるんでしょうか。
調べてみたところ、メチャクチャ意外な文章にぶち当たりました。北大路魯山人さんが山椒魚について書いたエッセイがあるんですが、この中で魯山人さんが山椒魚をさばいたところ、「部屋中に山椒の匂いが広がった」ということや、食べてみると「味はすっぽんを品よくしたような味で、非常に美味であった」というようなことが書かれてありました。
山椒魚とメキシコサンショウウオが同じ味とは考えにくいんですが、どうやらおいしい物のようです。さらにメキシコでは長寿の食べ物として重宝されているのだとか。
お待たせしました。なんだかんだと言いながら食べるのを先延ばしにしていましたが……。
今回の最大の眼目、オオグソクムシとウーパールーパーを食してみたいと思います。
尚、その姿から苦手、という方もおられるかと思います。この先はこの二つを食材として扱い、食べるところをレポートしますので、苦手な方はご遠慮ください。
では、この食材に挑戦してみましょう。
ウーパー&グソクを調理する
こちらが今回のびっくりどっきり食材。
ウーパールーパー、オオグソクムシ共に揚げられます。
裏はこんな感じ。こうやって見てみると、なかなかの姿ではないですか。
ウーパールーパーはここまでのところ、山椒の匂いなしです。
では、調理に入っていただきましょう。
ウーパールーパーは内臓を取り、丁寧に水洗いされます。
これを揚げていくんですが、なんと味付けは塩のみ。
油に投入されます。
さぁ、だんだん揚がって来ました。
カラリと揚がった様子。
盛り付けられます。
躍動感をテーマとした盛り付け方で、出来上がりです。
骨は全て軟骨のように柔らかいので、骨を気にせず、頭からガブリとかぶり付くのが正しい食べ方。
思ったよりちゅうちょなく頭半分にかぶり付けました。
こっ、これは! おいしいっ!
なるほど、骨もそのまま食べられます。その骨はイカ軟骨を薄く削ぎ切りした感じの食感です。味は、白身魚に似てはいますが、もっと深みがあります。すごくふっくら柔らかに揚げられたフグにも似てますし、身がしっかりとしたゲンゲみたいな感じもします。
これは、うまい。とても塩のみで味付けされた感じではないです。ほのかに、山椒の感じがしないでもないですが、はっきりと山椒でもない感じ。でも、単に塩の味だけではない、うま味をしっかりと感じることが出来ます。
オオグソクムシを丸揚げに
尻尾には細かく包丁を入れます。
この辺の処理はエビなんかと一緒ですね。
そしてこれを丸揚げにするんです。
オオグソクムシについて調べたところ、その身はシャコにも、カニやエビにも似ていて美味と紹介されていました。
が、多くの記事で内臓部分はとても食べられないと書かれています。そして殻部分は煮ようが焼こうが揚げようが、硬くて食べられないとも。ところがこのお店では殻ごと、丸ごと食べるそうです。
低温で15分、じっくりと揚げられたオオグソクムシに特製の塩を振りかけます。
頭からガブリ、と行くのも良いのですが、
ママさんの、「切りましょうか」の声で切っていただくことにしました。
縦に切ります。
中はこんな感じ。白い部分が身なので、普通ならやっぱり食べるところが少ない食材です。
身の部分は確かに、カニにもシャコにも似た感じ。アサヒガニにも似た味ですね。さて、その他の部分はどうか。
いろんな味がする。珍味! オオグソクムシ
一般には硬くて食べられないという殻は、エビフライの尻尾みたいな感じです。違和感なく食べられるレベルでした。そして、味噌部分というか、内臓部分は、
……おいしい。
事前調査では、「内臓は食べない方が良い」「メチャクチャ苦い」という事でしたが、このお店で食べる限り、おいしい物でした。
能登の名産品に、イカの丸干しという物があります。魚醤に付け込んで、イカのワタが入ったまま干したものなんですが、これがうまい。そして、このお店で調理されたオオグソクムシの内臓が、この味に近いんです。そこに、ほのかにカニ味噌の風味がプラスされた感じ。
これまでオオグソクムシに関して集めたどの情報も、内臓には手を出すな! という物でしたが、「宝雪酒房」はそれをあっさりと覆してくれました。「宝雪酒房」、恐るべし。
おいしいから食べる
ママさんにお話を聞きました。
憶良 : そもそも、チャレンジメニューを始めようと思ったのは何故なんでしょう。
ママさん : 変わった食材を扱いだしたのは、先代からなので、もう何十年も前からなんですよ。
憶良:オオグソクムシなんて、どんなルートで入ってくるんでしょう。
ママさん:今の仕入れ先からアプローチしてもらったんです。こんな食材があるんですが、扱いませんかと。いろんな食材を長く扱っているんで、その辺の信用もあるんだと思います。
憶良:ここならおいしく提供してくれると。
ママさん:食材があって、それをよりおいしく食べてもらうために調理する。でもこれはもう、どんなメニューに対してもそうです。
憶良:そこには特別感はないんですね。
ママさん:そうですね。ウーパールーパーは食用に養殖されていますし、トドなんかはトドカレーが発売されていたりしますし。まぁ、珍しくはありますけれど。
憶良:考えてみると、見た目が気持ち悪いからとか、かわいいからということで食べる食べないを決めるのって、変ですよね。全て同じ1つの命なんだから、食べることに感謝しながら食べないといけない。珍しい食材に出会う度に、そう思います。
ママさん :ウチに来て下さるお客さんも、興味本位で来店したり、注文したりもされますけど、食べずに帰るとか、残したりする、なんてことはないですね。「おいしいおいしい」と言って全て食べて帰られます。
食材で驚いた事
憶良:これだけいろいろと扱ってきたら、食材を見て驚いた事なんてないでしょう?
ママさん:いえいえ、それが。以前、一度鹿の足を丸々一本持ってこられたことがあって。足一本って! こんなのどうしたらいいのよって思いました。さすがにゴロンって足を持ってこられると途方にくれますね。
憶良:た、確かに。その足、結局どうしたんですか。
ママさん:ちゃんと皮もむいで、さばきました。半泣きで。
憶良:私はオオグソクムシなんて持ってこられたときに途方に暮れたかと思ったんですが、そうじゃないんですね。
ママさん:新しい食材は、いろんなアイデアをスタッフで出し合って調理法を考えるのが楽しいんです。塩ひとつとっても、この食材ならこの塩が合う、なんてこだわってやっているんですよ。
憶良:例えば、今回のウーパーも、グソクも、塩だったんですが、これも違う塩なんですか。
ママさん : ウーパーはヒマラヤの岩塩を使っていますし、オオグソクはエビの殻を炒った物と岩塩を混ぜて作ったオリジナルの塩を使うとかですね。
憶良:試行錯誤があってのことだと思いますが、オオグソクムシを丸ごと食べられるという事も驚きです。滅多といないと思いますが、オオグソクムシを食べたことがある人にも、是非ここでもう一度食べてみて欲しいですね。では、最後に読者の皆さんに何かメッセージをお願いします。
ママさん:ウチはお客さんとスタッフの距離が近いお店です。スタッフが女性ばかりという事もあって、アットホームな感じの空気を作るようにしてます。「常連さんも多いけれど、ネットを見て来るお客さんも多い」というお店ですが、常連さんも初めての人を暖かく迎える雰囲気があるので、女性一人で来られても楽しんでいただけると思います。気軽に来てもらって、楽しんでもらえたら何よりですね。
バイタリティーあふれる感じのママさんに見送られながら家路につきました。
お店情報
宝雪酒坊
住所:大阪府大東市学園町3-11
電話番号:072-876-5001
営業時間:17:00~(LO 翌23:00)
定休日:日曜日