あの名店「梁山泊」の味を再現
「チャーハン専門店」
これ、実はありそうでなかった業態だと思うんですよ。でも、都内に数店舗「肉あんかけチャーハン 炒王」というチャーハン専門チェーンがあるんです。
チャーハンの名店と言えば、チャーハン通の間では知られる、あの有名な歴史のある「梁山泊(りょうざんぱく)」が思い出されます。
実はこのお店、その名店の味を食べて育ったという男のロマンが実現したお店でもあるんです。さっそく伺ってみました。
最強の火力で、たった20秒で炒めるチャーハン
綺麗な店内は、なるほどチャーハン専門チェーンといった雰囲気です。
事前にアポイントを取った担当者が出迎えてくれました。
山田さん:お待ちしておりました。
とても優しい物腰の男性が我々を迎えてくれました。
「肉あんかけチャーハン 炒王」取締役の山田さんです。
この後、持ち前の「チャーハン愛」を熱く語ってくれました。
まずはメニューから。
定番のチャーハンをはじめ、さまざまなスタイルの魅力的なチャーハンが並びます。
──おすすめはやはり定番の肉あんかけチャーハンですか?
山田さん:そうですね、まずはこだわりの肉あんかけチャーハンを食べていただきたいです。ポイントは本格中華料理店で10年以上修行を積んだ料理人が強い火力で、たった20秒しか炒めていないチャーハンです。
──え? 20秒!?
厨房を実際に見せて頂きました。本当に何がおこっているのかわからないレベルの早さで、テキパキとチャーハンを炒めています。
山田さん: 美味しいチャーハンというと「パラパラしている」イメージがあると思うのですが、かといって炒めすぎると水分が飛んでしまい、旨味まで逃してしまっている可能性があるんです。
うちで考える美味しいチャーハンとは、パラパラでありながらお米の水分と旨味をバランスよく残したチャーハンなんです。
──想像していたよりも一瞬で炒めるんですね。
山田さん:この20秒で、一気に米の表面を油と卵でコーティングします。炒め時間を短時間にすることにより、米の内部の水分を残せるんです。米の水分は最大限に残しつつ、油を炒めた香ばしさと、卵のふわふわ感を残しておきたい。そのためには最大の火力でさっと炒めるバランスが一番大事になります。
──この火力は、家庭では無理ですもんね。
山田さん:うちで使用している調理器具は、業務用厨房機器メーカーのマルゼンさんのものですが、通常の中華レンジのバーナーよりも強火を出せる「ブラストバーナー」にし、非常に強い火力での炒めを実現しています。
「しっとり」と「パラパラ」を両立させたい
▲肉あんかけチャーハン(680円)
──出来たては本当に舌がヤケドしそうなくらい熱々ですね! 肉あんかけもたっぷりで、もはやチャーハンが見えなくなっています。こうなると、チャーハン部分の食感が気になるところですが……。
山田さん:よくチャーハンを表現するときに言う、「しっとり」と「パラパラ」の食感を両立させるようにこだわっているんです。このチャーハンの食感がウチの売りですね。
▲さっそくいただきます
──おおお、たしかに……「しっとり」と「パラパラ」感が両立してますね。これは今までにないチャーハンです。味もサラッとしていて濃すぎず、上にかけてある肉あんと絶妙なバランスです。これはうまい!
山田さん:そうなんです。実はこの味は先代の社長の寒川登代志が、子供の頃に「この味で育った」というチャーハンの名店・梁山泊さんの看板メニュー、肉あんかけチャーハンの味なんです。ウチは、先代社長がこの味でチェーン展開したいという野望をもったところからスタートしました。
──先代社長、よほど梁山泊の肉あんかけチャーハンに惚れ込んでいたんですね。
山田さん:先代社長が、梁山泊の店主様に「ぜひこの味でやらせてくれ」と直接働きかけてチェーン展開させてもらうことをお願いしていたのです。しかし、先方の店主様の体力的な問題などで、残念ながら断られてしまったという経緯があるんです。
──おお、それは残念……。
山田さん:だけど、先代社長のあまりの熱意に負けて梁山泊の店主様から全面的に応援していただく形で始めさせていただいたのがこのお店なんです。僕は「公式にパクらせていただいた」と言ってます(笑)。
──いきなりいい話ですね。普通のチャーハン屋さんかと思ったら、そんな熱いバックストーリーがあったとは。
山田さん:はい、もはや先代社長のチャーハンにかける情熱は社内では伝説となっています。
チャーハンを味変してみよう
▲卓上に並ぶ調味料類
──ちなみにこれらはどう使うのでしょうか。
山田さん:チャーハンにオススメのトッピングです。「食べるラー油」「紅生姜みじん切り」「お酢」です。ぜひ試してみてください。
山田さん:まずは、いわゆる「食べるラー油」ですね。
▲辛そうなので少しだけのせてみます
──むふう……これは当然ありですね。いい感じの爽やかな辛味が食欲をそそります。
▲紅生姜みじん切り
山田さん:これは肉あんかけの部分にのせてみてください。
▲「紅生姜みじん切り」のっけます
──おっ! これは素晴らしい。爽やかな酸味が肉あんかけとマッチして、油っぽさを中和してくれます。いくらでも食べられそう。
▲そして「お酢」いきまーす
──うわ! これもいい。チャーハンにお酢、合いますね。というか、肉あんかけとの相性を重視されているんですね。
山田さん:ありがとうございます。あとウチの推しはチャーハンだけじゃないんです。こちらをご覧ください。めっちゃお得なセットがありまして……。
「唐揚げ食べ放題」という楽園
──これは……大丈夫なんですか? 基本の肉あんかけチャーハンとスープにコールスローまでついていて、唐揚げが食べ放題で990円って、かなり大盤振る舞いですね。
山田さん:本当に何個食べても大丈夫ですよ。ぜひ試してみてください。
──マジですか。取材とは言え、遠慮なんかしませんよ……。
▲いきなりドーン
──やばい量を頼んでしまいました。ちょっと最初からとばしすぎましたかね。
山田さん:自信がある方は最初からたくさん頼まれますよ! 若い方の間でクチコミで広がってるみたいです(笑)。
──頼んじゃいましたからね。全部いただきます……うん、柔らかくサクサクした食感で、いくつでも食べられそうな唐揚げですね。この味、好みです。味変でお酢とかもかけちゃいます。
ふわとろな玉子が絶妙
▲エビ玉あんかけチャーハン(850円)
── 美しい佇まいのチャーハンですね。
山田さん:はい、エビ玉あんかけチャーハンです。
── むむ。この餡(あん)、ただの餡じゃない! ほんのりとアジアンテイストな甘酸っぱい感じ……これまた海老に合いますね。
山田さん:夏にいいでしょう? あ、そう言えば今日はちょうど新商品開発の店長会議をやってるんです。
チャーハン専門店の悩み=夏に弱い
▲新商品開発の店長会議
── なるほど、この会議で新商品や季節限定の商品が生み出されているんですね。
山田さん:そうですね。これは重要な仕事のひとつになります。
── 本当にどれもウマかったです。チャーハン専門店だけあって、チャーハンへの熱いこだわりを感じます。とはいえ、専門店ならでは悩みみたいなものはないんですか?
山田さん:ありますね……実はチャーハンって、やはり夏が宿敵なんです。普通に考えて、やっぱりお客様は夏はサッパリひんやりしたものにいきたくなるじゃないですか。いろいろ試行錯誤したんですけど、なかなかいいメニューが開発できなくて。
── ですよね。それに「チャーハン専門店」とうたっている以上、冷やし中華を提供するわけにはいかないし。え、でも、まさか……。
山田さん:はい、その「まさか」をやってしまいました。
迷走したこともあります
▲夏の特別メニュー「冷やし坦々チャーハン」(※現在は発売終了)
山田さん:はい、「冷やし坦々チャーハン」です。これはさすがに全然売れませんでしたね……。
──夏場が悩みだったとはいえ、め、迷走ぶりが出てますね……。
山田さん:どうしても売上が下がる夏場向けのメニューを試してみたくて……味は美味しかったと思うんですけど……。
──ちなみに主力商品の「肉あんかけチャーハン」以外のシンプルなチャーハンを注文されるお客さんはどれくらいいらっしゃるんですか?
山田さん:全体の1割くらいですかね。肉あんかけにあわせてチャーハンを軽めの味付けにしてありますので、うちとしてもまずは肉あんかけチャーハンを召し上がっていただきたい、というのもあります。
──ところで、サイドメニューも気になりますね。定番の餃子、ドリンク類もなかなか良心的な価格設定です。
山田さん:そうですね。これでもメニューはあえて減らしてきてるんですよ。もっと多い時もありましたが。ドリンクはお手軽に飲んでいただけると思います。
──チャーハンに合わせてちょっと一杯、お酒を飲みたくなりますしね。メガビールも気になります。
山田さん: あと29日は肉あんかけチャーハンが500円なので、未体験の方はその日を狙って食べていただきたいですね。しかも大盛り300グラムも無料でオーダーできます(※普通盛りは230グラム)。
──いい! それ絶対に行きます。
チェーン店と聞いて正直ちょっと油断していましたが、設立の背景や企業努力の話を伺って感動しました。
かつては実際にお店に立ち、毎日のように中華鍋を振っていたという山田さん。
彼のチャーハンへの熱い想いは深く、ここには書ききれないほどでした。
この店が神田のサラリーマンの皆様に愛され続けている理由がわかる気がしました。
今年の新商品は夏場でも大ウケらしい
▲シビ辛排骨炒飯(780円)
そしてこちら、取材の後日にご連絡をいただいた新メニュー。
取材していた日の会議で生み出された、その名も「シビ辛排骨炒飯(パーコーチャーハン」。現在すごく好評で売れ行きも上々なんだそうです。
夏バテ防止効果がある辛さと、しびれる花椒餡、そして大きな排骨のインパクト。お客様からは「美味しいけど 、チャーハンというよりほぼ排骨(笑)」と言われてるそうです。
夏季限定メニューですので、皆さんもぜひお試しください。
お店情報
【閉店】肉あんかけチャーハン炒王 神田西口店
住所:東京都千代田区内神田3-12-2
電話番号:03-3525-4112
営業時間:平日 10:00~24:00(L.O.23:30)、土曜日、日曜日、祝日11:00~22:00(L.O.22:00)
休日 : 年中無休
※このお店は現在閉店しています。
※飲食店の掲載情報について。
書いた人:大盛頼子
(おおもり・らいす)ライター。お仕事で訪れた世界各地の店で、生姜焼きを注文して食べます。白いごはんも大好で大盛りサービスのあるランチ店では必ず大盛り(あれば特盛)を注文。最近は健康を考えて普通盛りにしていますが、若い男子が「ご飯少なめで」といっているのを見ると説教したくなります。最近近所のお米マイスターのいるお米屋さんが長い歴史に幕を降ろして閉店してしまいました。寂しいです。