シュウマイの地位はもっと向上していい

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シュウマイ(焼売)。

それは、日本人ならほぼ間違いなく誰でも知っている中華料理のメニュー。そして大半の人が“おいしい”というイメージを持っているだろう。

しかし好きな食べ物ランキングには入らないし、お祝いの日のごちそうにもならない。認知度に比べて、シュウマイの地位は低いのではないだろうか?

そんな現状を変えるために、シュウマイの布教活動を続ける男がいる。“シュウマイ潤”こと種藤潤さんだ。

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▲シュウマイ潤さんの右手のポーズは、シュウマイを表現しているらしい

 

彼のシュウマイへの深い愛と地道な活動が実を結び、2018年5月にはテレビ番組『マツコの知らない世界』に出演。あのマツコ・デラックスさんにシュウマイの世界を説いた。

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今回は、そんなシュウマイ潤さんにシュウマイの魅力やトレンド、シュウマイの可能性などを余すことなく語ってもらった。

これを読み終わる頃には、きっとあなたもシュウマイを食べたくなるだろう。

話す人:シュウマイ潤さん

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1977年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。本業はフリーの編集者・ライターで、日本のローカルやオーガニックをテーマに活動中。

タネクリエイション 種藤潤のホームページ

 

シュウマイの専門家がいない!

待ち合わせ場所に指定されたのは、東京渋谷にある「miniyon 坂ノ上」

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フレンチ出身のシェフが作る和食と自然派ワインがウリのビストロだ。なぜかのれんには、デカデカと「焼売(しゅうまい)」の文字が。

 

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中はビストロ風の店内。

 

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間接照明を使ったおしゃれな雰囲気で、正直シュウマイには似つかわしくない印象。ここでシュウマイが食べられるの……?

 

── 今日はよろしくお願いします。まずはシュウマイを好きになったきっかけと「シュウマイ潤」を名乗るまでの経緯を聞いていいでしょうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:僕は神奈川県生まれなので、小さい頃からシュウマイを日常的に食べていました。神奈川県民にとってシュウマイは、ソウルフードみたいなもんですよ。でもそれはあくまで“崎陽軒のシウマイ*1”なんですよね。横浜に崎陽軒の本社があることもあって、みんな崎陽軒のシウマイは食べるし大好きだけど、シュウマイそのものに対しては意外と反応が薄いというか……。

 

── 言われてみればそんな気もしますね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:かくいう僕自身もシュウマイのことはあまり知らないなと思って、それでシュウマイの食べ歩きを始めました。仕事柄、全国各地に行く機会があるので、そのたびにシュウマイを食べていたら、その土地の食材を生かした個性派シュウマイや、全国的にはマイナーだけど地元民にはすごく愛されているシュウマイがあることに気づいたんです。餃子とは違うシュウマイならではの文化の根付き方があったというか。それでシュウマイの専門家に話を聞きに行こうと思ったんですね。そしたら点心や中華、餃子の専門家はいるんですけど、シュウマイの専門家はいなくて。だったらもう僕が専門家になっちゃうしかないなと。

 

餃子はやはりライバルなのか

── シュウマイならではの文化の根付き方とはどういうことでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:シュウマイって、ルールがないんですよ。たとえば調理方法でいえば、蒸すのが一般的だけど、お店によっては焼くのもあるし、水もあるし、揚げる場合もある。それに皮も、小麦粉で作ったものだけでなく、米粉のもちもちした皮だったり、卵焼きで包んだりとさまざま。その反面、具材は豚肉と玉ねぎだけといったふうに餃子に比べるとシンプルな傾向が強い。他にも、お肉を使わない野菜だけのベジシュウマイがあったり、群馬県桐生市には「コロリンシュウマイ」といって、具が入っていない皮だけのシュウマイがあったりと、変化球が多いんですよね。

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── 具がないシュウマイって、ちょっと想像がつかないですね。でもそうなると、シュウマイの定義って何なのでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:先ほども言ったようにシュウマイの専門家がいないので、シュウマイの定義づけを誰もしていないんですよ。だから僕の中では、作った人が「シュウマイです」と言ったら、それはもうシュウマイ。つまり自由なんです。面白かったのは、東京・湯島にある「炉ばた焼 樽平(たるへい)」という居酒屋さんのジャンボシュウマイ。ここのは、1個がげんこつサイズほどのデカさなんですが、提供時はすでに4等分されているんですよ。「だったら最初からジャンボシュウマイにしなきゃいいじゃん!」と思わずつっこみを入れたくなるメニューでして(笑)。シュウマイはこういうノリもできる、懐の深い料理なんですよ。それに比べ、餃子は市民権を得たこともあり、ややルールが限定的なのかなぁと。

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── 先ほどから「餃子」というワードがちらりと出てきますが、やはり餃子はライバルなのでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:いやいや、餃子はシュウマイの家族ですよ! 餃子側はシュウマイを相手にしていないと言うかもしれないけど、こちら側は家族だと思っていますから、餃子が困ったことがあれば、シュウマイが助けてあげようという気持ちです。

 

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── 家族……。

 

名シュウマイあるところに名店あり

── 話を戻しますが、シュウマイはルールがなく自由とはいえ、グリーンピースがのっているなど、なんとなく固定されたイメージもありますよね?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:グリーンピースのイメージは強いですが、それはシュウマイのイラストを描くときにグリーンピースがのっているほうが、わかりやすいからだと思いますよ。絵的にも、緑色があるほうが映えますから。ただ僕の調査によると、実際のグリーンピース率は全体の1割もないですね。お店によっては枝豆をのせているところもあります。

 

── 1割にも満たないというのは意外でした。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:ただ、なぜか中華の名店のシュウマイには、グリーンピースがのっていることが多いんですよね。一説によると、ニチレイさんが冷凍シュウマイを開発する時に、子どもが喜ぶようにイチゴのショートケーキに見立ててグリーンピースをのせたそうです。でもそれを中華の名店がまねしたとは思えないので、別の起源があるのではないかと僕は思っています。

 

── へぇ~、ショートケーキに見立てたんですか! ところで先ほど、シュウマイは変化球が多いとおっしゃってましたが、素人はシュウマイを食べたいと思った時に、どのお店に行けばいいかわからないです。たとえばラーメンやカレー、それこそ餃子はいろんなメディアで特集されているから、評判のお店や変わり種の情報もいっぱい転がっているじゃないですか。一方、シュウマイは……。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:それはもう地道にインターネットで検索するしかないですね。僕は「地域名  シュウマイ」で検索しています。でもこれ、思った以上にヒットする情報は少ないですよ。検索に引っかかったお店に行っても、ランチをやっていなかったり、逆にランチしかやっていなかったり。またはコース料理でしか食べられないとか……。僕は、そういう状況を“空振り”と呼んでいます。ただ食べ歩きをしていてわかったことがあって。それは名シュウマイあるところに名店ありです。

 

── 名言が出ましたね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:手間暇かかるシュウマイがおいしいお店は、他の料理もおいしい。これはほぼ間違いないです。あとは、昔ながらの町中華が根付いている街にも名店がある確率が高いですね。東京だと銀座や日本橋。中央線沿線もなかなかいいです。全国的にみると、京都大阪・神戸、長崎あたりがシュウマイの集積地かなと。

 

絶品シュウマイが食べられるお店

── シュウマイにもトレンドってあるんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:ありますよ! 今は肉が粗めで、ゴロりとした大振りがトレンドですね。味の素さんの「ザ★シュウマイ」という冷凍シュウマイが、そのトレンドのスタートを切りました。がちっとした食感で食べ応えがあり、メイン料理にもなるシュウマイです。

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── そんな今話題のシュウマイを食べられるお店を教えてください!

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:都内だと、恵比寿にある餃子が有名な「大豊記(たいほうき)」のシュウマイが、大きくてインパクトがありますね。食べた瞬間にゴリっと音がするくらい粗めのひき肉でジューシーなんです。

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f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:あとは新宿の「浪曼房」というお店。ここのも大きくて肉々しさがありますね。

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── 肉々しい粗びきのシュウマイ、たまらないでしょうね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:実は今日「miniyon 坂ノ上」で待ち合わせたのも、トレンドのシュウマイが食べられるからでして。

 

── そうだったんですね! では、ここでシュウマイをいただきましょう!

 

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▲こちらがミニヨン坂の上の「特製岩中豚(いわちゅうぶた)焼売」(1個 160円/3個から注文可)

 

岩手県のブランド豚である岩中豚を100%使用したシュウマイ。実は、この「特製岩中豚焼売」こそが「miniyon 坂ノ上」の看板メニューなのだ!

特徴は、シュウマイに山椒を振りかけること。お好みで醤油をかけてもOK。そしてシュウマイと合わせていただくのは、なんと……白ワインのシャルドネ! シュウマイの味に負けないしっかりした味わいのワインである。

実は「特製岩中豚焼売」と白ワインは『マツコの知らない世界』でも紹介され、マツコさんも絶賛した組み合わせだった。

 

かたまり肉のような歯応え

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:いただく前に恒例の儀式をやっていいですか?

 

── え、儀式ですか?

 

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シュウマイ潤さんの言う儀式とは、まずはシュウマイを半分にカットし、断面を見ること。ここで具材とひき肉の粗さをチェックするためだ。

そして最初は何もつけずに“素シュウマイ”でいただく。2口目は、お店がおすすめする食べ方を、3口目以降はお好みの付けダレで食べる。

 

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▲ひと口ひと口大事にかみ締めてから、ワインを。幸せそう

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:肉々しく、岩中豚の甘みも感じられ、まるで肉を食べているような感じのシュウマイですね。「じゃあそのまま肉を焼いて食べればいいじゃん」と思うかもしれないけど、シュウマイのほうがより手軽に食べられますし、僕みたいに40代にもなると、そんなにガッツリお肉は食べられないし、体型も気になってくるので、これくらいがちょうどいいんですよ。せっかくなので試しに食べてみてください。

 

シュウマイ潤さんがおいしそうに食べる姿を見て、よだれが出そうになっていた筆者。ついに「特製岩中豚焼売」をいただくことに。

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▲山椒をパラっと散らして、パクっ!

 

……っんん……

これ、シュウマイなんですか!?

 

シュウマイ素人の筆者にとって、これほど肉々しいシュウマイを食べるのは初めての経験。こりこりとした食感のシュウマイは、たしかにかたまり肉を食べているような味わい。だから最初のひと口目は、驚きのほうが勝ってしまった! 

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:ははは、驚いていますね(笑)。さっきも言ったように、作った人が「シュウマイです」と言ったら、もうそれはシュウマイなんです。でも、ここまで個性的なシュウマイもそうそうないですよ。

 

「特製岩中豚焼売」は、岩中豚のさまざまな部位のひき肉をブレンドすることで、豚肉のうま味を引き出し、こりこりとした食感を出しているそう。

そのほかの具材は玉ねぎとシンプル。添加物は一切使用せず、皮も無添加のものを使っている。岩中豚の良さを伝えるために生まれたシュウマイであり、一般的なシュウマイ像を打ち壊す一品だ。

 

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▲「特製岩中豚焼売」はお土産としても販売している

 

まだまだある! 全国のローカルシュウマイ

── これまでのお話と特製岩中豚焼売をいただいて、シュウマイは自由であるというのが、なんだかわかったような気がします……! 今後、未来のシュウマイはどうなると予想しますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:僕は、ジビエシュウマイが来るんじゃないかなと思っているんです。今は日本全国で獣害が深刻だし、国もジビエを推している背景もありますし。それに今のジビエ料理ってたいてい高級なレストランが主で、食べるのも簡単じゃないじゃないですか。もっと気軽にジビエを食べてもらうという意味では、冷凍もできるシュウマイは相性がいいんじゃないかと。

 

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── なるほど、その発想はありませんでした。社会問題をシュウマイが解決させると。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:はい。それから全国各地にローカルシュウマイがあるので、それらがもっと注目されればいいなと思っているんです。そしたら地域活性化につながるかもしれないですよね。たとえば佐賀県呼子のイカシュウマイは、完成度が高いです。地元で捕れたイカの加工を考えて生まれたシュウマイで、「萬坊(まんぼう)」というお店が有名です。東京でもデパートなどで買えますよ。

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f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:あと僕が注目しているのは、シュウマイとレモンサワーの組み合わせですね。餃子とビールは最強の組み合わせとして定番になっているけど、シュウマイとレモンサワーの組み合わせもなかなかイケるんじゃないかと。

 

── その組み合わせは盲点でした。認知度のあるシュウマイなら飲食業界に新たなブームを巻き起こせそうな気がします。なんだかシュウマイのマーケットには、希望しか感じられないですね!

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:個人的な目標は「シュウマイフェス」をやることですね。シュウマイ好きのミュージシャンを呼んで、シュウマイをテーマにした曲を野外ライブで奏でてもらうんです。シュウマイ好き芸人を呼んでもいいかもしれませんね。で、全国各地のローカルシュウマイを集めてコンテストを開き、出演ミュージシャンたちや参加者がそれぞれのお気に入りを投票するんです。1位になったメーカーが泣いて喜んだら、僕は絶対にもらい泣きしますね(笑)。そんな光景を、シュウマイを食べながら見てみたい。

 

── 壮大な夢に思えますけど、意外とあっさり実現できちゃいそうな気もします。

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:2020年は日本が世界中から注目される年なので、その時に実現できたら最高ですね。そのためにも2019年には協会を立ち上げ、一緒にシュウマイ界を盛り上げてくれる人を募れればうれしいですが……。あと協会の下部組織に、シュウマイ総合研究所を作って、シュウマイに合う付けダレを研究したり、海外のシュウマイ事情を調査しに行ったり。餃子とは違う広がり方をしていきたいですね。

 

── やっぱり餃子はライバルなんじゃ……

 

f:id:Meshi2_IB:20181117160804p:plainシュウマイ潤さん:(キッパリと)いいえ、餃子は家族です!

 

シュウマイ潤さんの話を聞いていたら、いろんなシュウマイを食べたくなってしまった。今まで、こんなにもシュウマイを欲したことがあっただろうか。

 

決めた。今夜はシュウマイにしよう。

 

お店情報

miniyon(ミニヨン) 坂ノ上

住所:東京渋谷渋谷3-1-10
電話番号:03-6427-9324
営業時間:ランチ月曜日・水曜日・金曜日 12:00~14:00、ディナー月曜日~金曜日 18:00~23:30、土曜日 18:00~23:30
定休日:日曜日、祝日
ウェブサイト:http://www.miniyon.com/sakanoue/

 

*1:崎陽軒はシウマイと表記

書いた人:名久井梨香

名久井梨香

フリーライター。東京都出身。新卒で大手広告会社に就職するも、会社員は向いていないと挫折。1年で退職し、その後フリーライターの道へ。趣味は、Jリーグとカレー。週1回、新宿ゴールデン街でバーテンダーもやっています。

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