怪しすぎる「古本喫茶酒場」に行ってみたら極楽だった【ヒョイ飲み】

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ライターが経営する古本屋さん兼飲み屋さん

このところ、ライターや編集者から飲み屋さんのマスターに転職したり、飲み屋さんでバイトしたりって話をよく聞きます。

まぁ、昨今ライターという商売が経済的に厳しくなってきてるというのも理由ではあるんでしょうけど、それよりもライターと飲み屋さんというのは、相性がいいんじゃないか、という気がするんですよね。

僕自身、実家がずっと飲食店をやってたなんてこともあって、いつかは飲み屋さんをやってみたいなぁなんて気持ちがどこかにあるんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:確かにライターは、飲み屋さんやるのに向いてると思うよ。客商売って、やっぱりいろいろ大変なんだけどさ、ライターってそういうことでも、「お、これはいいネタだ」って思えるじゃん。だからトラブルがあっても、楽しめちゃうんだよね。

 

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そう言ってくれたのは、先輩ライターのブラボー川上さんです。川上さんは6年半前から、埼玉県の北浦和で「古本喫茶・酒場  狸穴堂」というお店を経営しているのです。「古本と酒のお店」というのは聞いていて「それはおれの理想!」と気になっていたのですが、北浦和ということもあって、つい行くのにちゅうちょしちゃってたんですよね。

実は僕は浦和出身者なのですが、今は親も引っ越しちゃってて、なかなか浦和に行く機会もない。でも先日、こちらも先輩ライターである藤木TDCさんが原作の『辺境酒場ぶらり飲み』(画:和泉晴紀 リイド社)という漫画を読んでいたら、狸穴堂をモデルにした飲み屋さんが登場していて、それが大変面白そうなお店だったんですよね。

辺境酒場ぶらり飲み (LEED Cafe comics)

辺境酒場ぶらり飲み (LEED Cafe comics)

  • 作者: 和泉晴紀,藤木TDC
  • 出版社/メーカー: リイド社
  • 発売日: 2017/09/15
  • メディア: コミック
 

これは行かねば、と思いました。そしてついでに「ライターが飲み屋さんをやること」についても聞いてみなければ! 教えて先輩!

 

いざ、怪しさMAXの狸穴堂へ

浦和は京浜東北線で、赤羽から6つ目の駅。僕の仕事場のある高田馬場から、わずか40分ほどで行けてしまうのでした。あれ、こんなに近かかったのか。

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適度にレトロ感のある商店街を抜けると、その外れにあるのが「狸穴堂(まみあな)」です。

 

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いや、しかし、なんでしょう、この謎すぎる外観。

半分シャッターは降りてるし、その前には植木がずらりと並んでいる。そして何よりも、かなり年季の入ったテント屋根に書かれている「メルヘン」の巨大な文字。これは、本当に営業しているのでしょうか。

 

恐る恐る店内に入ってみると、これまた外観以上に怪しさが渦巻いているカオスな状態。

 

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壁一面を覆い尽くす本棚いっぱいの本、漫画、CD、DVD、VHS。そして招き猫に狸にアコースティックギターなどが、ところ狭しと置かれています。

 

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f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:やぁ、安田君、久しぶり。

 

黒い猫を抱いたエプロン姿の川上さんが声をかけてくれます。

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とりあえず、中央の大きなテーブルの席に座ります。キョロキョロと店内を見回します。とても営業中の飲み屋さんとは思えません。

 

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これは、どう考えても、川上さんの部屋に遊びに来た、という感じです。うん、本好きの友達の部屋そのまんまです。

 

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f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:何、飲む?

 

テーブルの上にプラスチックケースに入ったドリンクメニューがあります。

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「狸穴名物酒 当店でしか味わえないお酒!!」と書かれたメニューには、ラムホッピー狸酒猫酒カッパ酒と確かに聞いたことのない酒の名前が並んでいます。

酒はすべて600円。

 

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── あれ、この一升瓶は何ですか?

 

黄色いラベルの貼られた見たことのない一升瓶。

日本酒? 焼酎? ラベルを見ると「BLENDED WHISKY」の文字。

 

── え、ウイスキーなの?

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:ピーク・ウイスキーだよ。岐阜で作ってる地ウイスキー。あんまり置いてあるお店、ないよ。

 

── じゃあ、これをハイボールで。

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ほほう、なかなかクセのある味で刺激的。うん、炭酸によく合います。同行したカメラマンのねじ君はラムホッピーを注文。

ホッピーというと、普通は焼酎を割るんですが、これはラムを割ったもの。

 

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ひと口飲ませてもらうと、ラムの風味とホッピーの苦味がいい感じにマッチしてます。

ラム以外にもテキーラや日本酒などのホッピー割もあります。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:けっこういけるでしょ? ラムホッピーはうちでは人気あるんだ。他のお店でもやればいいのにと思ってるんだけどさ。

 

川上さんは、猫をなでながら笑います。

 

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この猫がおとなしくて人懐っこくて、試しに抱かせてもらうと、いつまでも膝の上にいたりしてかわいいことこの上なし。

この猫目当ての女性客も多いとのことです。

 

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猫はもう一匹いて、こちらは相当なお年寄りのようです。

 

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「楽しさ3割、しんどさ7割」

川上さんは浦和出身ですが、20代後半で東京へ出てきて、編集プロダクションに入り、その後ライターとして活躍します。最初は風俗記事を中心に書いていましたが、やがて映画やアニメ、街探訪といったジャンルも手がけるようになります。

前述の『辺境酒場ぶらり飲み』原作者、藤木TDCさんとのコンビで、各地の闇市跡の飲み屋さんを訪ね歩く『まぼろし闇市をゆく 東京裏路地<懐>食紀行』シリーズ(ミリオン出版)は、裏グルメジャンルの名著として高く評価されています。

まぼろし闇市をゆく 東京裏路地「懐」食紀行

まぼろし闇市をゆく 東京裏路地「懐」食紀行

  • 作者: 藤木 TDC,ブラボー川上
  • 出版社/メーカー: ミリオン出版
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 単行本
  • クリック: 64回
 

 

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そんな川上さんが、埼玉県へ戻ったのは10年代の初頭でした。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:母親の介護をしなくちゃいけなくて、こっちに戻ってきたんだ。で、ちょうど叔母さんがここで服屋さんをやっていたんだけど、もう高齢で辞めることになったんだよね。じゃあ、このお店をどうしようという時に、藤木さんとかが、「川上さんがお店やればいいじゃない」って言ったんだよ。

 

ちなみにこのお店、叔母さんの服屋さんの前は川上さんのお母さんが和風スナックをやっていたそうで、つまりまた飲み屋さんに戻ったとも言えるわけです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:いきなり飲み屋さんなんか出来るかなとも思ったけど、ゴールデン街っぽいお店ならいいんじゃないって言われたんだよね。酒と簡単な料理くらいで、あとは居心地のいいムード。ゴールデン街のお店は手伝ったりしてたから、それなら出来るかと。

 

古本酒場=ブックカフェバーにしたというのも藤木TDCさんのアイディアでした。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:内装をどうしようかって話したら、本をまわりに並べちゃえばいいって言われたんだ。本ならいくらでも持ってるし、防音効果もある。下手な内装をやるより面白いんじゃないかってね。

 

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こうして、酒と古本のお店、狸穴堂が誕生することになったのです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:もともとお店をやることには興味はあったんだよね。おれたちの世代のライターって、みんな古本屋さんか喫茶店をやるのが夢じゃない? その両方が出来るんだから、これはいいと思ったね。

 

たしかに僕も憧れてるな(笑)。こういう自分の好きなものに囲まれたお店というのは、僕らの夢でありますね。ただ、開店当初は、お店のコンセプトを貫くことが、なかなかできなかったそうです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:若者に受けるかなぁと思って(笑)チェ・ゲバラのポスターを飾ったら、団塊オヤジに嗅ぎつけられちゃったんだよ。最初は政治の本なんかも置いてあったからさ、「ここは政治の話が出来るお店だ!」って思われちゃって、そういうオヤジのたまり場になっちゃった。いや、まぁ、それはそれでいいんだけど、彼らは若者に対して拒絶反応が激しいんだ。若者に絡んで追い出しちゃうの。勉強不足だ、とか言って。

 

これはよくないと考えた川上さんは、お店から政治の本を排除して、サブカル色を増す方向へとシフトさせました。すると、次第にそうしたお客さんは足が遠のき、若いお客さんが集まるようになりました。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:それで客層は完全に変わったね。それで、ここで集まったお客さんの間で、バンドやろう、サークルやろうなんて動きも出てくる。でも、難しいのはそうなると、そのバンドが空中分解しちゃったりすると、みんな来なくなっちゃったりするんだ。あと、女がらみでけんかしちゃったりとかね(笑)。

 

特に狸穴堂のようなタイプのお店では、お客さん同士の関係性も濃密になってしまうため、気を使うことが多くなるらしいのです。

 

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f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:飲み屋さんをやるってことは、3割くらい楽しくて、7割がしんどいって感じかな。人間関係のぐちゃぐちゃがすごくて、それに耐えられるか。あとね、お客さんの悩みを聞くことが多いんだよ。もうカウンセラーみたいな感じ。人の悩みって聞いてると、自分のなかに澱(おり)が溜まっていって、だんだんダウナーになって来ちゃうんだ。だから胃を壊しちゃう人が多い(笑)。

 

でも、それを楽しめたのは、川上さんが長い間、ライターという仕事をやっていたことが大きかったと言います。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:ライターって、どんなことでも「お、これはいいネタになるな」って考えちゃうところがあるじゃない? だから人間関係のゴタゴタなんかも、楽しめちゃうんだよね。書くべきネタを仕入れてるんだと思えば大丈夫。だからライターは飲み屋さんをやるのに向いてるんじゃないかな(笑)。

 

ああ、確かに自分もトラブルに巻き込まれたり、不幸なことがあったりしても、どこかで「これはネタになるな」と客観的に考えてたりすることがあります。これはもう職業病なわけですが、なるほど、飲み屋さんをやるにおいても武器になるとは。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:あと、こんなものもここで作ったんだよ。

 

そういって、川上さんが見せてくれたのは3冊の小冊子。

 

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常連客たちで作った同人誌です。コピーをまとめて切り貼りしたりと、今どき珍しいくらいの手作り感覚。

 

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f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:すごいアナログでしょ。でもあえてこういう作りにしたのは、誰でも参加できるんだって思って欲しかったからなんだよ。きっちりしたものにしちゃうと、参加しづらいじゃない。「おれは文章下手だから」とか「人に見せられる絵じゃない」とか尻込みしちゃう。でも、これなら自分でも出来ると思えるんじゃないかな。ハードルを低くしてるんだ。これで書き始めた人が、この後にちゃんとオフセットで印刷した本を作って文学フリマで売ったりしてるよ。

 

こういうことが出来るのも、川上さんがライターだからですね。

また、店内で弾き語りのライブをやったりと、狸穴堂は北浦和の文化発信基地というべき存在になっているようです。

 

おつまみには埼玉名物のB級グルメも

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:つまみはこういうのがあるんだけど。

 

しばらく奥のキッチンに引っ込んでいた川上さんが出してくれたのが、2皿の料理。パッと見ると、お好み焼きとコロッケのようですが。

 

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f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plainフライとゼリーフライだよ。行田の名物。

 

── おお、あの埼玉級Bグルメの!

 

ここ数年に急に脚光を浴びた埼玉県の名物料理であるフライゼリーフライがここで食べられるとは! いや、僕も埼玉出身ですが、当時は全くその存在を知らなかったんですよね。

 

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お好み焼きのようなものがフライ(500円)。

フライと言っても揚げてあるわけではなく、水で溶いた小麦粉に具をのせて薄く焼いたもの。まぁチープなお好み焼きですね。ソースをかけていただきます。想像どおりの味です。

 

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一方、コロッケのようなものがゼリーフライ(500円)。

名前からするとゼリーを揚げたものみたいですが、ゼリーは関係ありません。ふかしたジャガイモとおからを素揚げしたものです。銭の格好をしてるから、銭フライ。それがなまってゼリーフライとなったと言われています。

こちらもソースをかけていただきます。おからのせいか、コロッケよりも軽くてソフトな食感です。

 

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まぁ、どっちも駄菓子っぽいというか、チープな味わいなんですが、これが酒のツマミには合うんですよね。それも、ピーク・ウィスキーのハイボールとか、ラムホッピーみたいな酒にはすごくマッチします。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:こういう埼玉独自の料理、いろいろ研究してるんだよね。面白いでしょ。

 

いやぁ、店内だけじゃなくて酒も料理も変わってますよ、狸穴堂。

酒をもう一杯。今度はカッパ酒(600円)いきましょうか。キュウリのスライスがたくさん入った焼酎ハイ。爽やかな口当たりです。

 

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このなんとも怪しいカオスな店内で飲んで食べていると、心地いいことこの上なし。お店のラジカセからは、ひなびたスカが流れていてこれまた最高に気持ちいい。

 

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── このお店は、入ってくるのは勇気いりますけど、入っちゃえば心地いいですよね。

 

猫を抱きながら、ねじ君がそう言います。彼は猫の写真集を出しているほどの猫好きです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:ここは「異界」なんだよ。これが居心地がいいと思う人しか来ない。ここに来れば、思う存分オタクトークとか音楽トークが出来る。それで気が済んだら、みんなそれぞれの現実に帰っていくんだ。

 

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並んでいる本をひとつひとつ眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎていきそうです。気になる本があれば、買うこともできます(非売品もアリ)。

 

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ああ、おれもこういうお店、やりたいなぁ……。

正直そう思いました。うん、ライターの仕事が無くなってきたら、おれもお店をやろう。古本酒場、やろう。

 

f:id:Meshi2_IB:20180613165158p:plain川上:でも、まずもうからないよ(笑)。やるならライターの副業としてやる方がいいね。それならブレずにコンセプトどおりに出来るから。最初からこれで食っていこうなんて考えると、お客さんに振り回されて、結局何のお店だかわからなくなっちゃう。

 

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実体験に基づいた川上さんのアドバイスであります。

うーん、そうか。それなら、もうそろそろ物件探し始めた方がいいかな……。

 

お店情報

古本喫茶・酒場 狸穴堂

住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤10-9-11
電話番号:048-834-7799
営業時間:20:00~翌2:00
定休日:不定休

www.facebook.com

 

書いた人:安田理央

安田理央

1967年生まれ。フリーライター、居酒屋お通しコレクター、アダルトメディア研究家、ニューウェーブ歌手、イベント司会、駅弁大会エバンジェリストなど、色々。好きなサッポロ一番はしょうゆ味。

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