こんにちは! 酒場案内人の塩見なゆと申します。
いきなりですが皆さん、ホッピーはお好きでしょうか?
実はこのホッピー、非常に奥が深いんです。
ホッピーの注ぎ方、合わせる焼酎の種類やその割合、氷の有無など……。同じホッピーといえど、店舗ごとに味わいが変わってくるんです。
そもそもホッピーとはどんな飲料なのか?
まずは、ホッピーの基本情報から簡単にご紹介させてください。
ご存じの方も多いかと思いますが、ホッピー自体はお酒ではなく、1948年にホッピービバレッジ株式会社が発売したビールテイストの清涼飲料水(アルコール度 約0.8%)です。
戦後すぐに発売され、当時は高価だったビールよりもリーズナブルなことに加え、粗悪品が多かった酒を美味しく飲める割り材として支持を得て、「焼酎との割り飲料」の先駆けとして広く認知されていきました。
麦芽とホップで作られており、製造工程もビールとほぼ同じなのが特徴。
現在はプリン体ゼロ、ビールよりも低カロリー、低糖質ということで、健康志向な人が好む他、もつ焼きなどのこってりとした料理に合う飲料として定着しています。
全国的にも非常にレアな樽ホッピーの存在を知ってるか?
ホッピーの基本情報を簡単にご紹介したところで、皆さんにお伝えしたいのが、全国には非常にレアな樽に詰められた「樽ホッピー」を提供するお店があるということです。
ホッピーファンの間では生ホッピーとも呼ばれており、樽ホッピーを提供するお店は、通常の瓶ホッピーを置くお店の多さと比べ圧倒的に少なくなっています。
その理由は、鮮度管理です。一般的な生ビールのアルコールが約5%に対し、樽ホッピーは0.8%。さらに熱の入り方が瓶製品と異なり、お刺身のようにフレッシュなため、慎重かつ丁寧な鮮度管理が求められます。
だからこそ、ごく限られた店舗のみで展開されています。
そんな貴重な樽ホッピーを飲ませてくれるお店の中で、筆者が特におすすめしたいお店が、横浜の野毛にある「ホッピー仙人」です。
今回はホッピーをこよなく愛し、ホッピー好きが集まる名店「ホッピー仙人」を取材してまいりました。
ホッピーの名店「ホッピー仙人」に行ってきた
塩見なゆ(以下、塩見):今日は店主の熊切さんにお話を伺えるとのことで、楽しみにしていました。よろしくお願いします。全国でも希少な樽ホッピーについて詳しく教えてください。
熊切憲司さん(以下、熊切):ホッピーに関することなら何でも聞いてください。できる範囲でお答えしますので。まずは塩見さん、何にしましょうか? 今日は樽ホッピーの白・黒・ミックス、瓶ホッピーの白・黒がありますよ。
塩見:では、樽ホッピーの白をお願いします! せっかくなので樽ホッピーの注ぎ方を詳しく解説いただいてもよろしいでしょうか?
熊切:はい、大丈夫ですよ。まずは、25度と20度の甲類焼酎を混ぜたオリジナルの焼酎をホッピージョッキに注いでいきます。
塩見:25度と20度の甲類焼酎をブレンドしているんですね。なぜ度数の異なる甲類焼酎を混ぜているんでしょうか?
熊切:これまでさまざまな焼酎でホッピーとの相性を試してきたんですが、度数の違う甲類焼酎をブレンドすることによって、より口当たりがマイルドになると気付いたんです。
塩見:ホッピーと合わせる甲類焼酎をブレンドしているなんて、他ではあまり聞かないですよね。
熊切:僕自身ホッピーが大好きですので、何十年もホッピーを出しているお店に行って、どんな焼酎をホッピーで割っているのか研究してきたんです。
塩見:ホッピー仙人という名前を掲げるだけあって、こだわりがすごいです! ちなみにホッピーを美味しく飲む上で、甲類焼酎とホッピーのベストな割合ってあるんでしょうか?
熊切:甲類焼酎1に対して、ホッピー5がベストな割合だと思ってます。これはホッピーを製造するホッピービバレッジさんでもこの割合を推奨しています。
ちなみに、うちではこのホッピージョッキを使っているんだけど、焼酎を注ぐ量の目安がわかるんですよ。
塩見:えっと、どういうことでしょう?
熊切:ホッピーの文字の下に、小さく星マークが2つあるでしょう? 実は、下の星に合わせて25度の甲類焼酎を注げば、アルコール度数5%のホッピーになります。上の星に合わせて25度の甲類焼酎を注げば、アルコール度数7%のホッピーになるようにデザインされているんです。
塩見:ホッピージョッキにはそんな秘密があったんですね。だから仙人は、ジョッキと平行になるような目線で甲類焼酎を注いでいたんですね。
熊切:そういうことです。お店で自らホッピーを作る時には、この星マークと甲類焼酎とホッピーの割合を意識すると、美味しいホッピーを作ることができますよ。
熊切:では次に、タップからジョッキの縁を伝うように樽ホッピーを注いでいきます。樽ホッピーの白と黒をそろえたお店はかなり希少なので、両方の樽ホッピーを目当てに飲みに来てくれる方も多いんです。
塩見:ちなみに、樽ホッピーと瓶ホッピーにはどんな違いがあるんですか?
熊切:ものすごくわかりやすく言うと、生ビールと瓶ビールの違いだと考えてもらうと良いかなと思います。生ビールと瓶ビールは同じ液体ですが、口当たりや味わいは全然違うものになるでしょ?
樽ホッピーにも、瓶ホッピーにもそれぞれ違った良さがあるので、うちでは両方を用意しているんです。
塩見:確かに生ビールと瓶ビールって全然違う味わいですもんね。例えがわかりやすいです!
熊切:それは良かったです。最後に、サーバーから細かな泡を注ぎ入れたら、樽ホッピーの完成です。
塩見:では失礼して、いただきます!
樽ホッピーは泡が細かくマイルドな味わいで、のどごしもすごく優しく本当に飲みやすいです! 表現が難しいんですが、いつも飲んでいるホッピーとは別物に感じられました。甲類焼酎とホッピーのバランスがなんとも絶妙で、明確に違いがわかりました……。
樽ホッピーをまだ飲んだことのないホッピー好きの方には、ぜひ一度味わっていただきたいと思いました!
塩見:ちなみに熊切さんは、いつからホッピーの探求をされているんですか?
熊切:僕が初めてホッピーを飲んだのは47年前になるかなぁ。当時は甲類焼酎も過渡期で、良い印象があったわけではなかったの。
塩見:そうなんですね。
熊切:当時は横須賀で働く会社員だったんだけど、その時は氷の有無や甲類焼酎の種類や量もバラバラで。お店ごとにホッピーの味わいが変わるのが面白くてハマっていったんですよ。
次第に全国各地のホッピーを出しているお店に飲みに行くようになって。気付いたら自分でお店を出すまでになっちゃってましたね。
ホッピー仙人直伝 「瓶ホッピーを最高に美味しく注ぐ方法」
塩見:樽ホッピーが残りわずかになってきましたので、おかわりしても良いですか? 味わいの違いを感じるために、次は瓶ホッピーの白をお願いします。
熊切:では、先ほどと同様に瓶ホッピーの注ぎ方もお見せしますね。
塩見:ありがとうございます!
熊切:まず瓶ホッピーの特徴なんですが、樽ホッピーと比べると炭酸が強くないことが挙げられます。
そのため、いかに炭酸が抜けないように甲類焼酎と混ぜ合わせるかが重要になると僕は考えてます。よく瓶ホッピーを頼むとマドラーがついてきますが、うちでは使わないようにしています。
塩見:マドラーで混ぜないほうが炭酸が抜けないので、よりホッピーを美味しく味わえると考えているわけですね。
熊切:そうですね。ただかなり細かい個人的な好みになりますので、これが絶対とかではないんですけどね。
塩見:では、仙人はマドラーを使わずにどうやって甲類焼酎と瓶ホッピーを混ぜ合わせるんですか?
熊切:先ほどと同様に、星マークまで甲類焼酎を注いだら……、
熊切:ジョッキと瓶ホッピーを逆回転させるように注いでます。
熊切:最後は少し高い場所から瓶ホッピーを注ぎ入れることで、キメの細かい泡を作っていきます。こうすることで、泡が口当たりをよくしてくれることに加えて、炭酸が抜けていくのを抑えてくれるんですよ。
いろんな注ぎ方を試したんですが、これが甲類焼酎と瓶ホッピーがよく混ざって、炭酸も抜けない方法だと気付きました。常連さんは「トルネード注ぎ」って呼んでくれています。
塩見:トルネード注ぎ! ホッピーを注ぐことにこんなにこだわっている方は他にいないでしょうね。どんな味わいになっているのか気になります。
熊切:細かい泡がしっかり蓋をしていて、炭酸が抜けていくのを防いでいるのがわかるんじゃないかなと思います。ビールに比べて炭酸が弱いのでビールのキレの良さに負けないようにトルネード注ぎを考え出しました。これでホッピー仙人流瓶ホッピーの完成です。
塩見:樽ホッピーと同じように上のほうがキメ細やかな泡になっていますね! というか瓶のホッピーってこんなに美しく注ぐことができるんですね……。
自宅で注ぐと泡をうまく持ち上げることができなかったのですが、これは驚きのテクニックです。炭酸がしっかり感じられることに加えて、本当に口当たりが優しいです。瓶ホッピーを飲む時には、ぜひこの方法で注いでみようと思います!
塩見:ちなみに、注文は樽ホッピーと瓶ホッピー、どちらが多いですか?
熊切:初めて来てくださるお客さんは、樽ホッピーを注文される方が多いんですが、常連さんになると瓶ホッピーを注文される方が多くなりますね。瓶ホッピーのほうが、いつも飲んでいるホッピーと違いが感じやすいんだそうです。
塩見:確かにホッピー仙人でいただく瓶ホッピーは、いつものホッピーと全然違ったので納得です。
自宅やお店で瓶ホッピーを最大限に美味しく注ぐための3つのコツ
塩見:ちなみに、自宅やお店でもホッピーを美味しく注げるようになりたいのですが、一般の方でも真似できるコツはありますか?
熊切:一般の方でも真似できるコツはたくさんあるんですが、今回は3点ご紹介しましょうか。
まず1つ目は甲類焼酎の割合を適切にすることですね。よくお店でホッピーを頼むと、甲類焼酎が入ったグラスと瓶ホッピーが運ばれてきますよね。
塩見:はい。
熊切:ホッピーを美味しく飲むためには、甲類焼酎とホッピーのバランスを取ってあげることが大事なので、注文する時に甲類焼酎の度数を確認して、ホッピージョッキの星マークまで(もしくは適正量)入れてほしいと伝えると、良いバランスのホッピーが作れると思います。
塩見:甲類焼酎が多い場合は、グラスに移すなど自分で調整しても良さそうですね。
熊切:2つ目のポイントは、瓶ホッピーをたっぷり注ぐことです。
甲類焼酎の適正量とされている90~110mlに対して、瓶ホッピーを1本使うのが最適なバランスになります。だいたいのジョッキは450ml程入るので、変にホッピーを残さずに入れきってしまうのが良いと思います。
塩見:ちなみに、ホッピーには氷が入っていることがよくありますよね? その場合はどうしたら良いでしょうか?
熊切:これは完全に好みの話なので、正解は人それぞれというのが前提なんだけど、僕はホッピーには氷を入れずに提供しています。時間が経つと味が薄くなってしまうので。
甲類焼酎、ホッピー、グラスがしっかりと冷えていれば、氷がなくても十分冷たくて美味しく飲めるので、氷なしで注文してみるのも良いんじゃないでしょうか。
塩見:あ〜なるほど! それは盲点でした。
熊切:最後は注ぎ方のコツです。一般の方がトルネード注ぎをするのは難しいと思うので、簡単に美味しく注げる方法をお教えしますね。
熊切:まずは、ジョッキを伝うように瓶ホッピーを傾けて注ぎ入れ、ジョッキの中が7割程度満たされたら、瓶を垂直にして泡を作ります。
このようにホッピーを注ぐと、炭酸が抜けにくく、細かい泡が蓋の役割をしてくれるので美味しいホッピーができますよ。
塩見:ビールの注ぎ方はなんとなく知っていたんですが、瓶ホッピーの注ぎ方は初めて知りました。このコツを使いこなして、自宅やお店でも美味しくホッピーを注げるように練習してみます!
ホッピー仙人考案の「オリジナルホッピーカクテル」
塩見:ちなみに、カウンターに置いてある色鮮やかなホッピーを見つけてしまったんですが、これは一体なんですか?
熊切:これはね、僕がオリジナルで作ったホッピーカクテルなんですよ。
樽ホッピーの白と黒のハーフや、シソや青りんごの割り材で樽ホッピーを割ったカクテルを作ってみたんです。
塩見:ホッピーを使ったカクテルですか!? ものすごくきれいに色が分かれていますが、どうやって作っているんですか?
熊切:じゃあ青りんごのホッピーカクテルを作ってみますね。
まずは青りんごの割り材を入れたら……
熊切:ジョッキの上にオレンジ色のアイテムをのせます。これは、ジョッキの中にゆっくりと液体を注ぐアイテムなんだけど、いろんなものを研究しているうちに出会いました。
塩見:わたしもそのアイテムは初めて見ました。面白いですね!
熊切:割り材と樽ホッピーが混ざらないように注ぐのはかなり難しくて、いろいろ試してようやくできるようになったんですよ。このアイテムを使って、白の樽ホッピーを注いで、最後に泡をのせれば完成です。
ちなみに、割り材とホッピーはアルコール度数が違うので、ゆっくりとホッピーを注ぐことできれいに上下が分かれる構造になっています。
塩見:ホッピーのカクテルって珍しいですよね。初めて見ました! ホッピー部分と割り材部分が明確に分かれているので、一口一口味が変わっていってすごく美味しいです! 割り材とホッピーを合わせるという発想自体が斬新で面白いですね。
熊切:確かにホッピーでカクテルを作って出しているお店はあんまりないかもしれないですね。これからもいろんなホッピーの可能性を探っていけたらと思います。
まとめ
樽ホッピーを提供している「ホッピー仙人」にお伺いしました。
1番の感想は、注ぎ方次第でホッピーの味わいが大きく変わることでした! いままでなんとなくホッピーを注いでいた方も、これを機にぜひいろんな注ぎ方を試してみてはいかがでしょうか。
また、「樽ホッピーの存在を初めて知った!」「樽ホッピーに興味を持った」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ提供している店舗を探してみてください。
カラフルなサワーを配合したホッピー仙人考案のオリジナルカクテルが気になったら、状況が落ち着いた時にお店に行ってみてくださいね。
お店情報
ホッピー仙人
住所:神奈川県横浜市中区宮川町1-1-214 都橋商店街2F
電話番号:045-242-1731
営業時間:19:00〜22:00
定休日:日曜日、仙人(店主)が告知した日
※営業状況は変更になる場合がありますので、店舗にご確認ください。
書いた人:塩見なゆ
酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。