「就職するまで和洋菓子を食べたことがなかった」1万種類以上の和菓子を食べたバイヤーのあくなき探求心

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2018年6月、知人に「和菓子のフェスがあるんだけど行かない?」と誘われて、ふらっと出向いた玉川タカシマヤの地下食品売場。そこでは「<ワカタク=若き匠たち>の挑戦」と題された催事が行われていて、全国各地の有名な和菓子店が集まっていた。

 

老舗のどらやきから、ニューウェーブ和菓子と呼ばれる目新しいものまで、多種多様な和菓子が並んでおり、30~40代の若い店主たちがそれぞれの和菓子についてのうんちくをお客さんに向けて楽しそうに話していた。それを見て、これまで和菓子に抱いていた取っつきにくいイメージを覆された。

 

爆買いしながら店主の方と話すうちに、イベントを企画された方として、紹介されたのは、高島屋全店の和菓子を担当する和菓子バイヤー、畑主税(はた ちから)さん。

 

混雑する会場で話しかけてきた一般客の私に、「和菓子の甘さは季節によって変わるんですよね」などと楽しそうに話してくれたのが印象的だった。

 

畑さんが、全国1千軒以上の和菓子店をまわり、「1万種類以上の和菓子を食べた男」と言われる業界の有名人だということを、帰宅後に買った和菓子を頬張りながら見たネットの記事で知った。

 

そして彼がお気に入りの和菓子店を店ごとに紹介するプライベートのブログ「和菓子魂!」の過去の記事をむさぼるように読んだ。

blog.livedoor.jp

その日以来、私は和菓子にハマり、暇さえあれば都内の和菓子店に足を運んでいる。今回、畑さんに取材を申し込み、これまでの経歴や、知ってるようで知らない和菓子についてのあれこれを聞いた。また新宿タカシマヤで購入できる畑さんオススメの和菓子を3つ紹介してもらった。

 

肉とおやつを食べない家庭に育つ

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──子供の頃から和菓子は好きだったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑主税さん(以下、畑):それが私の家は少し変わっていて、実はほとんど甘い物を食べる機会がなかったんです。肉とおやつは、家で食べなくても好きになるだろうからという両親の考えで、子供の頃は魚と野菜以外はほとんど食べなかったんですよ。

 

──それは珍しいですね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:バレンタインデーの2月14日が私の誕生日なので、チョコレートケーキを毎年食べていたぐらいで、他にはほとんどお菓子を食べなかったんです。友達の家に行くとおやつを食べるからポテトチップスなんかは知ってましたけど、自分の家で食べることはなかったし、特に食べたいとも思わなかったですね。
誕生日以外だと、親と地元の百貨店にある喫茶店でチーズケーキを食べることはありました。当時は生クリームといちごが苦手だったので、ショートケーキが食べられなかったんです。

 

──おやつの代わりに何を食べてたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:ちりめんじゃこが好きでよく食べていました。あとはさつま揚げとか、塩辛といったものを。だから、2003年に高島屋に入社するまでお菓子にあまり縁がないまま育ったんです。そして入社して最初に配属されたのが洋菓子売場……。食の素材に興味があったので、生鮮三品(魚・肉・野菜)の売り場に行きたくて食品売場を希望してはいたのですが、まさか洋菓子売場に配属されるとは思わなかったですね。

 

──ショートケーキが食べられないのに洋菓子担当はつらそうですね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:正直ショックでしたね。ブランドも全然分からないし、食べて味を覚えるところから始まって、ありとあらゆるブランドのケーキを食べていきました。分からないことは、それぞれのブランドの店長に質問して勉強していくうちに、味の違いや材料の配分も舌で分かるようになりました。
当時はパティシエブームもあって、ちょうど洋菓子が盛り上がっていた時代。楽しく仕事をしていたのですが、高島屋は入社4年目でほぼ全員が異動するんです。

 

──会社の方針としてですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:そうです。だから私も異動すると思っていて、パティシエの方々やお取引先様にお別れの挨拶をして、最後のスケジュールを組んで、さあ異動だって思っていたら、異動しなかったんです……。そこで、思い切って同じ和洋菓子売り場の中で、和菓子担当にしてくださいと担当替えを希望しました。

 

和菓子と洋菓子の境は気にしない

 

──和菓子ならではの魅力を教えてください。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:ジャンルの多さですね。いろいろありすぎて分けることすらできないお菓子も多いんです。自分でやっているブログでタグ付けして一応ジャンル分けしているんですけど、かなり強引な分類になっていますね。

 

──あまり和菓子を知らない身からすると、まんじゅう、羊羹、どらやきあたりしかパッと思い浮かばないですけど……。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:たとえば羊羹だけでも、蒸し羊羹、練り羊羹、水羊羹、そして上がり羊羹と4種類あるんです。大福もお餅生地と求肥のものがあって、さらに餡子を包んでるもの、餡子を載せてるもの、そして餡子がないものがあるんですよね。そうして分類していくとたくさんの種類になるんです。

 

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山形の菓子店「乃し梅本舗佐藤屋」の8代目が作った「りぶれ」(1,320円)。黒糖とラム酒の羊羹の上に愛媛県怒和島の国産レモンを蜜にした寒天を重ねている

 

──ぜんざいなんかもそうですが、地方によって呼び方が違うものもありますよね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:呼び方も違いますが、関東と関西では和菓子の作り方にも違いがあります。たとえば京都東京だと、小豆の炊き方から違うんです。「渋切り」って作業があって、渋み、つまりアクを取り除くために小豆を水に浸したあと、上澄みを捨てて、沈殿した生あんだけを取り出して水分をギュッと絞り出すのを繰り返して、その後、砂糖を加えて炊いていくという作業なんですけど、関西だとお店によっては、それをまったくやらない場合もあります。水に浸して寝かしたあと、渋切りをせずに炊いていくんです。

 

──渋切りをやらないのは、素材感を残したいからですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:パンチが強くなるというか、渋みを含めた上で小豆の個性がそのまま出ます。だから、その作業を何回やるかによって味が違ってくるわけです。まったくやらないお店もあれば、1回だけやる、逆に3回、5回やるってところもある。こしあんだとそれをギュッとしぼって、小豆の粉にするんですね。粉末になるぐらい絞りきる。その絞り方によってもまた味が変わるし、絞る回数によっても変わってきます。

 

──関西はパンチを強くする傾向があるのでしょうか。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:一概には言えません。まずはその土地に行って、その土地で売られている和菓子を食べるのが一番良い楽しみ方かと思います。原料にその土地の産物を使ってることも多いですしね。

 

──個人経営が多くて、地域性が高いのも洋菓子との大きな違いと言えますね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:和菓子店は繁華街にもあるし、田舎にもあります。あと、新しいお店も変わった場所にできたりする。有楽町にある甘味処「銀座かずや」さんは、「かずやの煉」というババロアのような和菓子が名物なんですが、見過ごしてしまうほど小さな店舗なんです。繁盛しているのに、店舗を広げないんです。

 

──なぜなんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:結局、職人が1人で作られているので、人を雇って大きくする考えはないんです。和菓子店は自分で手の届く範囲でやる方が多い気がします。

 

──最近出てきたニューウェーブ系和菓子と呼ばれている斬新な和菓子の中には、洋菓子の手法を取り入れたものも結構あるし、どこまでが和菓子かと考えると難しいですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:個人的には和菓子、洋菓子の境はなくていいと思ってます。明治時代に西洋文化を取り入れようという欧化政策があって、それまで服と呼ばれていたものが和服と言われるようになって、それ以降に入ってきた服を洋服と言うようになった。そのタイミングで和菓子と洋菓子も分けられたんです。

 

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新宿タカシマヤに店舗を構える広島の和菓子店「COCONCA」の「淡雪花」(2個入り 420円)。マシュマロの間にレモンの寒天が入った和菓子と洋菓子の垣根を越えたお菓子

 

──それまでに日本にあったものが和菓子と言われてるだけだと。たしかにカステラもポルトガルの食べ物ですもんね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:丸ボーロも金平糖もポルトガルです。明治時代以降に、日本に入ったお菓子が洋菓子と言われてるだけで重要な区分けではないと思うんです。だから私はひとくくりに「お菓子」でいいと思ってるんですよ。

 

たった1人の新幹線輸送で和菓子の歴史が変わった

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──畑さんの経歴に話を戻しますが、入社4年目に洋菓子担当から和菓子担当になったわけですが、和菓子もほとんど食べたことがなかったんですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:代表的な商品すら食べたことがなかったので、最初は書店に行って5冊ほど和菓子の本を買いました。それで、どの本にも出てくるお店を調べて、夏休みに大阪の実家へ帰ったときに自転車をこいで、幾つかのお店をまわったんです。そのときは和菓子バイヤーだと名乗らず、ひたすら和菓子を買って食べました。
それを勉強していくうちに、発送できないお菓子を東京に持って行きたいと思ったんです。京都の豆大福やお団子は作ったその日に食べないといけない。そうすると宅急便で送れないので、自分で運ぶしかないなって。

 

──それが今でも続く、京都の和菓子を東京で販売する「京都航空便」につながるんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:とにかく一度やってみようと。それで京都の「嘯月(しょうげつ)」さんというお店の生菓子をメインに、京都にあるお店の和菓子を東京に運ぶことにしました。「嘯月」さんは繊細な味わいの生菓子を作るんですが、このお店の上生菓子は事前に予約が必要でなかなか手に入りにくいんです。それを、東京に持って行こう! って思ったんです。

 

──お店には通いつめてOKをもらうんですか。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:はい。どんなお菓子を出してるかを勉強することも含めて、相手の懐を知るために通います。伝統と歴史があるので自分の親よりも年上の人たちがやっているお店が多いのです。これだけウェブが発達していて情報も簡単に得られるはずなのに、飲食店の情報サイトなどを見ても分からないことはたくさんある。そうすると電話で話していても、イメージが湧かないまま話すことになるんです。
実際にお店に行って、ショーケースの位置や、商品の配置が分かってると、「お店では手前の棚に置いてあるあの羊羹ですが」と話せますからね。そうするとあちらも「この人、来店したことがあるんだ」となる。

 

──たしかに、そこで信頼関係が生まれますよね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:それもあって今もなるべく私自身が行くようにしています。そうやって「嘯月」さんのほかにも6店ほど許可をいただいて、イベントのために京都のお菓子をそれぞれ30~50箱ずつ台車に積んで、1人で運んだんです。

 

──たった1人で!

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:タクシーでお店を回って品物を預かり、京都駅で駅員さんとバケツリレーでホームに上がって、積み込みました。東京駅では同僚が3人ぐらい待っていてくれて、それを新宿店に持って行って、16時からの販売に何とか間に合わせました。

 

──お客さんの反響はいかがでしたか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:東京で初めて「嘯月」さんの上生菓子を販売したのですが、折り込み広告に載せたら、大変なことになったんです。京都のお店をまわっている時間に、朝9時半からお並びになっているお客様がいると新宿店の担当者から電話がかかってきたので、急遽、整理券を作ってもらいました。

 

──ネットでも話題になったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:2006年のことですから当時はまだSNSは浸透してなくて、折り込み広告をご覧になった、潜在的な和菓子ファンの方にたくさん来てもらえたんだと思います。

 

──新幹線輸送は、そのあとも続いたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:いや、1回限りです。新幹線で運んだのが2006年10月で、翌年の2007年4月には飛行機で運ぶことになりました。運送屋さんに相談を持ちかけまして、京都から伊丹空港へ運び、空輸で羽田空港へ。そして新宿店へ運ぶようにしました。

 

──それで月1のイベント「京都航空便」が定着したんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:最初は新宿店のみだったのですが人気イベントになったため、今では日本橋店、横浜店、柏店、玉川店と5店舗に拡がりました

 

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──京都の和菓子もたくさん販売されてますよね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:僕が入った頃、新宿店の売り場には、京都の商品が数店舗しかなかったんですけど、今では80店舗に増えました。

 

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──畑さんは現在、どのような仕事をメインにされてるんですか。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:今は全店の和菓子の責任者です。各店にバイヤーはいるので、私はどこかの店舗で新しいお店を入れることが決まると交渉に行ったり、どことどこのお店で合同でイベントを組めば話題になりそうだとかアドバイスをしたり、高島屋全店の和菓子のバイヤーを担当しています。

 

──畑さんは新しい世代の和菓子職人の紹介も積極的に行っていますが、老舗和菓子店の若主人を集めた催事「<ワカタク=若き匠たち>の挑戦」についても話を聞かせてください。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:ここ数年、和菓子店の世代交代がはじまっていて、それまで取引をしていたご主人から、「息子に任せることにしたから、これからは息子と話してくれ」と言われることが多くなったんです。

 

──和菓子店は息子さんや娘さんが継ぐことが多いんですか。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:ほぼそうですね。血縁者以外の人が継ぐことはめったにない。それほど大きな規模感でそもそもやっていないので外の人間が入る余地もないんです。子供が継がない場合はのれんをたたむことが多いですね。

 

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富山県の和菓子店「薄氷本舗五郎丸屋」の「T五(ティーゴ)」(5枚入り 756円)。老舗店の若旦那が手がける5つのTONE(色合い)とTASTE(味わい)にした薄い干菓子。伝統銘菓「薄氷」をもとにした新感覚の和菓子として注目されている

 

──世代交代によって変わってきたことはあるんですか。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:洋菓子店はパティシエが前に出て「僕のスイーツを食べてみて!」って方が多いんですけど、和菓子店はそうではなくて、のれんの奥のほうで作られてることが多かったんです。

 

──たしかにあまり表に出てくるイメージはないですね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:でも、若主人たちはそのあたりも柔軟に対応してくれる方が多いです。和菓子の世界には基本的に流行はありませんが、代が変わることで、これまでにない斬新な流れが生まれる可能性を秘めているんじゃないかなと思っています。

 

──今はそういったアプローチがないと広まらないですからね。

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:「<ワカタク=若き匠たち>の挑戦」はそういった部分でも共感いただける若主人に声をかけてはじめました。このイベントが面白いのは、開催スタートの前日に全員で集まって互いの菓子を食べ合うんです。そうすることで互いの情報交換にもなっています。

 

──店主の方に直接、和菓子の歴史や製作秘話を聞くことができるのが面白いですよね

 

f:id:exw_mesi:20190927163119j:plain畑:土地ごとの違い、ジャンルの多さ、それぞれの店主のキャラクター、この3つを楽しんでもらえれば和菓子の魅力が伝わると思います。

 

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和菓子の未来を見据えながら、インターネットの情報に頼らず、地道に足を使ってお店を開拓していく畑さんの姿は、 仕事熱心ということ以上に和菓子と和菓子職人への愛を感じさせる。

“若き匠”たちと共に、畑さんが今後どのようなムーブメントを起こすのか、そしてそこから一体どんなうまい和菓子が生まれてくるのか。和菓子業界の近い未来が非常に楽しみだ。

 

撮影:石川真魚

書いた人:カワカミタク

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編集者だったりライターだったり。銀座ろくさん亭には一度も行ったことないけど「銀座ろくさん亭 料亭のまかないカレー」は業者レベルで買い込んでます。ラーメンは天一が好き。

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