カップ麺に10種の豚骨エキス! 研究がガチすぎるサンポー食品「焼豚ラーメン」がすごかった

九州を中心に愛されているカップ麺「焼豚ラーメン」の秘密を探るべくインタビューを実施。販売元のサンポー食品株式会社に商品化に至るまでの裏話や独特の豚骨臭さの秘密を伺いました。

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

こんにちは。福岡在住ライターの大塚たくまです。

佐賀福岡のコンビニには必ずといっていいほど置かれている、レジェンドカップ麺があります。それが、サンポー「焼豚ラーメン」です。

「焼豚ラーメン」の魅力は、なんといっても、豚骨の臭さ。

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

九州の豚骨ラーメンファンは、このちょうどよい豚骨臭さが大好き。九州で支持を集めるラーメン屋さんは、この豚骨臭さに個性があるケースが多い気がします。バランスのよい臭さ、ガツンとくる臭さ……。どれもいいものです。

カップ麺ではなかなか表現できない「豚骨の香り」なんですが、この「焼豚ラーメン」に関しては、食欲をそそる「臭さ」をしっかりと持っています。

……と、このあたりで「メーカーさんの手前、記事で臭いなんて言って大丈夫?」と心配してくださる優しい方もいるかもしれません。ありがとうございます。でも、大丈夫です。

▲公式YouTubeチャンネルより(写真提供:サンポー食品株式会社)

い〜い臭さも、サンポーのこだわりだからです。

今回は「焼豚ラーメン」が持つ、極上の豚骨臭さはどうやって実現しているのか。開発担当者に深掘りしてみようと思います。

「焼豚ラーメン」とは?

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

サンポー食品の「焼豚ラーメン」は1978年に発売されたカップ麺です。サンポー食品の本社がある佐賀県やお隣の福岡県では、いつでもコンビニで購入できるほどの定番商品です。

「焼豚ラーメン」の魅力は、なんといっても飽きのこないあっさりした豚骨スープから香る、いい臭さ。これがクセになるんですよね。カップ麺とは思えない、この香りに魅せられるのです。

▲やっぱり、美味しい……

夏休みのお昼ごはん。受験勉強中の夜食。深夜のコンビニ前で食べたこともあったっけ。今でもたまに強烈な欲求に駆られ、最寄りのコンビニへ買いに行くことがあります。

購入できる場所は九州のスーパー、コンビニだけではありません。青森県でも一部のスーパーでは定番品として販売されているそうです。ぼくも青森に出張した時に見つけて、驚きました……。

そんなサンポー食品の「焼豚ラーメン」ですが、なぜこんなに長い間、愛されるのでしょうか。その秘密を探るため、ぼくはサンポー食品本社へ向かいました。

サンポー食品の「焼豚ラーメン」のルーツは「サンポー軒」にあり

──今回、インタビューにお応えいただくのは、サンポー食品株式会社 商品開発部課長の奥川翔吾さんです。よろしくお願いします。

奥川さん:よろしくお願いします。

──今回、調査をして知ったんですが、サンポー食品さんって、大正時代に創業されているんですね。

奥川さん:そうですね。1921年に「大石商店」という名で米穀卸店として創業したのが、始まりです。

米穀卸大石商店を創業(基山町)

▲米穀卸大石商店、創業当時の写真 (写真提供:サンポー食品株式会社)

──最初は米穀卸の会社だったんですね。製麺を始めたのはいつからですか?

奥川さん:1949年に株式会社製粉製麺所を設立したタイミングですね。そして、1965年にとんこつ味のインスタントラーメン「サンポー軒」が誕生します。そこから、インスタントラーメンに特化し始めました。

 

米穀卸大石商店を創業(基山町)

▲サンポー軒 ※2010年に販売終了(写真提供:サンポー食品株式会社)

──1965年にもう豚骨のインスタントラーメンを発売していたんですね。世界初のインスタントラーメンである「チキンラーメン」が誕生したのが1958年だから、わずか7年後ですか。

奥川さん:当時、インスタントの豚骨ラーメンはかなり珍しかったと聞いています。九州に身近な味わいの豚骨ラーメンを提供したいという思いで「サンポー軒」が誕生しました。

──そして「サンポー軒」発売の13年後である1978年に「焼豚ラーメン」が発売されるわけですね。

奥川さん:そうです。「焼豚ラーメン」は「サンポー軒」が味の礎になりました。

──まだまだ豚骨のカップ麺が珍しい中で、「焼豚ラーメン」の開発をするのは、けっこう大変だったんじゃないですか。

奥川さん:九州のラーメン屋さんの味の研究はもちろん、当時出ていた他のカップ麺を研究したり、いろんな原料メーカーさんに相談して協力してもらったりしたそうです。

──「焼豚ラーメン」は発売して、すぐにヒットしたんでしょうか?

奥川さん:発売してから売れ始めるまでに半年ほどかかったと聞いています。売れ始めてからは、供給が追いつかなくなるくらいまでヒットしたようです。

──ヒットの要因は何だったのでしょうか。

奥川さん:当時、豚骨のカップ麺があまりなかったことと、継続しておいてくれるお店が続々と増えていったことだと思います。

──なるほど。「豚骨のカップ麺」という新しさで手にとったお客さんを、味でしっかりとつかんで、リピーターにしていったんでしょうね。

「焼豚ラーメン」のアイデンティティーは「いい臭さ」

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──他のカップ麺にはない「焼豚ラーメン」の魅力は何だと思いますか。

奥川さん:やっぱり「臭さ」ですかね。「焼豚ラーメン」は、豚骨ラーメンの「いい臭さ」を研究しました。

──九州だと豚骨ラーメンが「臭い」というのは、褒め言葉ですからね。

奥川さん:最近、ようやく九州外でも「臭い」豚骨ラーメンの美味しさが一般的に受け入れられてきたんじゃないかなと思います。

──ただ、カップ麺で、あそこまで豚骨の「臭さ」が表現できている商品って、ほとんどないんじゃ……。

奥川さん:そう言っていただけるとうれしいです。やっぱり、3分待ってフタを開けた時の香りで食欲がそそられるじゃないですか。だからこそ、香りにはこだわっています。

──あのちょうどよい「臭さ」って、カップ麺で表現するのはなかなか難しいんじゃないですか。

奥川さん:おっしゃる通りで、難しいですね。「焼豚ラーメン」では、粉末スープと調味油の両方が合わさった時に初めて、この独特の「臭さ」を出せています。

──確かに粉末スープだけじゃなくて、調味油を入れた瞬間に「臭さ」が出る気がします。あれを入れた瞬間「ウマそう!」って思います。

▲カップ麺が化ける調味油

奥川さん:カップ麺の油では植物油脂が使われる割合が多いのですが、焼豚ラーメンの調味油はほとんど動物油脂でできているという違いがあります。

──それが、豚骨らしい「臭さ」を表現するための重要な要素になっていたんですね。つまりラードがたっぷり入っているということですか?

奥川さん:いえ、精製されたラードって実はあまり臭くないんですよ。豚脂にもいろいろ種類があって……。「ポークオイル」と呼ばれる脂があるんですけれども、それが「豚骨らしい臭さ」の要因になっていると思います。

──なるほど……。その「ポークオイル」にも種類がたくさんあるんですか。

奥川さん:そうですね。豚脂というと、豚肉に付いている白い脂身を想像すると思うんですが「ポークオイル」は、骨から抽出した脂を使っているものもあります。「ポークオイル」には、豚脂本来の風味やコクが残っているんです。

──おお。それは「臭さ」を持っていそうですね。

奥川さん:さらに脂を煮出す工程もいろいろ種類があって。数ある「ポークオイル」の中で、最適なものを選びぬいて、今の「焼豚ラーメン」の香りができあがりました。

粉末スープと調味油でさまざまな豚骨スープの違いを表現

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──そもそも「粉末スープ」って、かなり不思議な代物ですよね。あれは、豚骨スープから水分を飛ばしたものなんですか?

奥川さん:そういうイメージがあるとは思いますが、実際は違います。豚骨スープではなく、さまざまな「ポークエキス」を粉末化したものを、配合して作っているんです。

──豚骨スープを粉末化しているわけではないんですね! 元のスープが存在するのかと思っていました。

奥川さん:「ポークエキス」だけでなく、「チキンエキス」も配合したり、香辛料や醤油を粉末化したものを配合したりして、スープの味を作っていきます。

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──粉末の組み合わせで料理をしていくような感じですね。想像した作り方と全然違っていました。

奥川さん:100種類以上の原料を組み合わせて、粉末スープを作っています。「ポークエキス」といっても、豚骨の部位ごとに違いがありますし、エキスの抽出方法にも違いがあります。そういった原料の配合を微妙に調節しながら、スープの味を作っていくんです。

──ものすごいこだわりの世界……。サンポー食品さんでは、同じ豚骨スープでも地域ごとのスープを再現することにもチャレンジしていますよね。

奥川さん:そうですね。例えば、南の方の豚骨ラーメンになってくると、豚骨以外にも鶏ガラを利かせたような味になってきます。そこで「チキンエキス」の粉末を増やして、対応しますね。

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──ポークエキスやポークオイルの配合を変えるだけではないんですね……。さらに、お店ごとのラーメンも作っていますよね。

奥川さん:店舗の味に近づけるように、野菜と一緒にスープを炊き込んでいるお店の場合は、「思い切って、キャベツエキスをプラスしてみよう」と決断したこともあります。

▲さまざまな原料を合わせてブレンドしているそう(写真提供:サンポー食品株式会社)

──すごいですね。実際の調理過程に基づいて、カップ麺で再現していくわけですね。でも、イメージ通りの原料を見つけるのは難しいんじゃないですか?

奥川さん:店舗に近い豚骨スープを作るためには、原料のメーカーさんに「もっと臭いのないですか」などと注文して、たくさんのサンプルを試す必要がありますね。

──サンプルを頼んで、配合は自社で行うんですね。

奥川さん:いろんな配合を試してみながら、検討します。そして、配合を決めるという流れですね。作っている時は、楽しいですよ。

──「焼豚ラーメン」もいろいろ種類があるじゃないですか。もしかして、これらもそれぞれでスープの味が違うんですか。

奥川さん:はい、そうです。全部違います。

──例えば、長浜バージョンの焼豚ラーメンは、「細麺」と「ゴマ増量」以外は同じように見えるんですが……。

▲焼豚ラーメン 長浜とんこつ(写真提供:サンポー食品株式会社)

奥川さん:そう思われるかもしれませんが、ちゃんと長浜ラーメンっぽく、粉末スープや調味オイルの配合を変えていますよ。久留米ラーメンの場合は久留米っぽいミルキーさを出すために、乳製品を加えることもあります。いろいろな方法で九州のラーメンを再現しているんです。

──豚骨にもバリエーションがいろいろありますからね。

奥川さん:カップ麺でも、豚骨の中でのバリエーションの面白さを楽しんでいただけるとうれしいですね。そういった違いが楽しめるように作っています。

カップ麺の麺って、なんで揚げるの?

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──子どもの頃からずっと気になってたことがあるんですけど……。カップ麺の麺って、なぜ揚げるんですか?

奥川さん:水分を飛ばすことで、保存が利くようになるからですね。あとは湯戻りしやすいという理由です。麺の中に入っていた水分が飛ぶことで、隙間となり、湯戻りしやすくなります。

──なるほど。油で揚げることで、麺の中に隙間を作っているわけですね。

奥川さん:焼豚ラーメンの場合は、麺を植物油ではなく、ラードを配合した油で揚げています。スープにラードが溶け出すので、コクが出て、スープとの相性がより良くなるんです。

──そんなところまで、計算されつくしていたとは……。

奥川さん:小麦粉を消化するためには、加熱する必要があります。蒸した麺を一度揚げることで、アルファ化が不完全な部分があったとしても、揚げる際に完全にアルファ化されて、美味しくなるわけです。

※アルファ化……小麦粉内のデンプンが加熱されて、のり状になること。麺にうま味やコシを与える、大切な工程。

──カップ麺は注ぐお湯でアルファ化しているわけではないんですね。蒸してアルファ化したものを、揚げることでさらにロックするようなイメージか。

奥川さん:そこが棒状のラーメンと、一番違うところですね。

──ちなみに、その理屈でいうと、袋麺も、カップ麺と同じように器とお湯で作れるってことですか。

奥川さん:まあ、そうですね。作れないこともないと思います。

──えーっ、そうなんですね。

奥川さん:ただ、袋麺って茹でることを想定しているから、麺の配合も袋麺専用のものになります。そのため、お湯を注ぐだけだとカップ麺よりも戻りにくく食感も異なるとは思います。

──そうなんだ。麺自体は同じ構造のものなんですね。カップ麺用に麺を収めているだけの差なのか。

奥川さん:でもやっぱりお鍋で茹でた方が美味しいですね。「焼豚ラーメン」も鍋で煮て作ると美味しいですよ。多めの水で茹でると、麺のぬめりが取れてツルッとして、食感が変わります。

──えっ、そんな裏ワザがあったとは! それは試してみます!

▲実際にやってみると、麺にツヤが現れ、弾力のあるプリッとしたモチモチ麺になって美味しかったです。お試しあれ

変わらぬ美味しさを守るためには変化が必要

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──それにしても……。販売当時から、パッケージがほとんど変わっていないですよね。

奥川さん:実は発売当初のデザインが残っていなくて、パッケージがわからないんですが……。基本的には変わっていませんね。ただ、もともとはフタがプラスチックだったんですよね。

──そうでしたね。プラスチックのフタの上にプリントされた紙がのっている……。

▲旧パッケージの形状 ※公式YouTubeチャンネルより(写真提供:サンポー食品株式会社)

奥川さん:古いパッケージの写真が残っていなくてですね。ただ、長年大きな変更がないのは間違いありません。

──かやくは焼豚、ネギ、紅生姜、コーンというのもずっと変わっていないですか?

奥川さん:もともとコーンではなくて、「なると」が入っていたんですよね。

──あ、たしかに。焼豚ラーメン、中に「なると」が入っていた気がする……! 急に思い出した。

奥川さん:東日本大震災をきっかけに、原料の供給が難しくなって「コーン」に変更しました。確実に発売当初から同じなのは「焼豚」が入っているということですね。

──なるほど。「焼豚ラーメン」の「焼豚」は、ハート形のような独特な形をしていますよね。

奥川さん:発売当初はあの形ではなくて、もっとバラバラになったお肉がパラッと入っていたそうです。

──そうだったんですね。とはいえ、パッケージに「変わらぬ美味しさ、いつまでも。」とありますね。基本的には「焼豚ラーメン」の味は、変えずに守っていくという方針なんですよね。

奥川さん:そうですね。「変わらぬ美味しさ、いつまでも。」は私たちの大切なポリシーです。ただし、「美味しさ」を変えないようにするためには、時代に合わせて変化をしていかなければなりません。

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

──「変わらぬ美味しさ」を守るためには、変化が必要……。

奥川さん:時代によって使える原料は変化しますし、お客様の味の好みも変化します。その時代に合わせた対応を続けることで、ようやく「変わらぬ美味しさ、いつまでも。」というポリシーが達成されると思っています。

──これからも「変わらぬ美味しさ」を守るために、がんばってください。本日は貴重なお話をありがとうございました!

一杯の「焼豚ラーメン」の向こうに職人がいる

▲(写真提供:サンポー食品株式会社)

ぼくは「焼豚ラーメン」のことを、愛していたのに、ナメていたのかもしれません……。まさか、ここまで一つひとつの商品で考え抜かれていたとは……。

「焼豚ラーメン」のアイデンティティーである「臭さ」もまた、努力のたまものだったのです。ありがとう、ありがとう。

これからも、「焼豚ラーメン」は贅沢になり続ける舌を持つ、私たちの期待に応え続けてくれることでしょう。

変わらぬ美味しさ、いつまでも。変わらぬ臭さ、いつまでも。

書いた人:大塚たくま

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福岡に住む九州を愛するライターで二児の父。グルメ、旅行、子育てに関する記事を多数執筆。便利で心を動かす記事を書きたい。取材が大好きで、情報量の多い記事を目指しています。

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