炭酸水を料理に使うとどうなるのか
夏といえば! スカッとさわやか、シュワシュワがうまい!
炭酸水をそのまま飲むなんて、昭和のおじさんには考えられないフレンチな習慣が根付いた日本だが、炭酸水の真の力を知っているとはまだまだ言えない。炭酸水を料理に使うとどうなるのか? これがうまくなるのだ。
炭酸水はシュワシュワしている。このシュワシュワで粉を溶くとどうなるかといえば、当然、泡立つ。その泡立っている粉に熱を通せば、タンパク質が熱変成をしてそのまま固まる。つまり、気泡によって微細な穴が無数に開いた、フワフワサクサクの生地になるということだ。
やってみせよう。
炭酸水で卵焼きがフワッフワに?
まずは卵焼き。
卵を溶く際に炭酸水を大さじ1杯入れる。
炭酸水の代わりにサイダーやコーラを使っても問題ない。
砂糖の量をちょっと減らして調整。
普通に焼く。
ちなみに私が使っている銅の卵焼き器は、熱伝導率が高いため、鉄やテフロンよりはるかに早く熱が通る。ゆえに生地全体に熱が短時間で通り、全体が熱むらなく熱変成する。ゆえにふわっと均一に仕上がる。だいたい3,000~5,000円なので、オススメ。飲み代1回分で最強の卵焼きが焼けるのだ。
さて。
卵焼きでもホットケーキでもフワフワさせたい料理の場合、よく重曹やベーキングパウダーなどのふくらし粉を入れる。これと理屈は一緒で、ふくらし粉は炭酸水素ナトリウムが主成分。
熱が加わると……
炭酸水素ナトリウム→炭酸ナトリウム+二酸化炭素
となる。懐かしいですね。
中学3年生のテストで出たのを覚えてる? ふくらし粉は二酸化炭素を生地の中で発生させ、炭酸水は外から加えてやる。その違いというわけ。
ハイ焼けました。こっちが同量の水を入れて焼いた卵焼き。
こちらが炭酸水。
指で押すと沈むんだけど、力の加減が違うだけだろ、と言われそうだ。
この写真ならわかりやすいだろうか。左が炭酸水を、右は水を加えて焼いた卵焼き。あきらかに左の卵焼きの方がフワっていますね。炭酸水を使う利点は、さめてもフワフワが続くこと。
重曹を使うと熱が加わっている間、ずっと二酸化炭素が出ているので、上手にやらないと、冷えたらぺこっとつぶれてしまう。炭酸水は熱を加えると二酸化炭素が抜けてしまうので、気泡の跡がそのまま生地の中に残る。
炭酸水の方が、より使いやすいと思う。
天ぷらや揚げものに炭酸水を使ってみる
次に天ぷらで試してみよう。
天ぷらの衣にもふくらし粉を使う人が多い。揚げ加減が難しいけど、料理下手でも、ふくらし粉を入れておけばふわっと揚がる。
王道でエビを使いましょうか。
皮をむいたら、背中の方にバキッと折ると身がまっすぐになる。背ワタもつまようじでとっておく。
エビに粉をまぶす。粉をしない人もいるけど、衣がくっつかなくて難易度が増す。一般人は粉をつけた方がいい。
卵と小麦粉を炭酸水で溶く。
混ぜすぎると小麦粉からグルテンが出て、衣が粘ってしまう。ふわっと仕上げるには、粉がだまになってても無視する度胸が必要。
粉をつけておいたエビをくぐらせる。
市販のてんぷら粉には最初からふくらし粉が入っているので、炭酸水を加える必要はない。ただ変な味付けがしてあるから、天ぷらだかなんだかわからないものになってしまう。味付けいらないんだけどねえ。
揚げて……
右の3尾が炭酸水バージョン、左が水バージョン。右の方が衣が厚いのがわかるだろうか?
こっちだとよりわかりやすいだろう。右の方が衣が厚い。ようはフリッターっぽく、衣が膨らむわけだ。
こちらは断面。
右の方が衣が厚い。炭酸水を使うと失敗がない。フワッサクッと仕上がるのだ。
角煮に炭酸水を使ってみると
肉を炭酸水で煮てみよう。
肉をやわらかくする方法はいくつかあるが、そのひとつが酸性かアルカリ性にすること。筋繊維タンパク質にはアクチンとミオシンがあるが、ミオシンが分解されて繊維がやわらかくなり、間に水が入って保水力が増すからだ。
炭酸水は酸性なので、炭酸水で煮れば肉はやわらかくなる。ワインで肉をマリネにしてやわらかくするのも同じ理屈だ。
しょう油と砂糖、酒、ショウガで簡単に味付け。
落しぶたをして1時間加熱。
比較のため、炭酸水と同量の水でも肉を煮た。
煮上がった状態。見た目では変化はわからない。
断面。
右が炭酸水で煮た肉、左が水で煮た肉。明らかに右の肉の方が繊維がばらけているのがわかるだろうか。
右の肉にはスッと身に箸が通るが……
左の肉にはやや抵抗がある。
バラ肉を使ったが、繊維質の肉、牛肉のモモ肉や羊肉などならもっと効果的だろう。
すね肉のようにゼラチン質の肉にはあまり効果がない。炭酸飲料が余ったら試してほしい。コーラで角煮を作るとうまいと言われているのも、同じ理屈だ。塩コショウにハーブと味付けを変えれば、ビールで煮るのもおすすめだ。ビール煮はおいしいからね。
書いた人:川口友万
サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。
- サイト:サイエンスニュース
- サイト:科学実験酒場 友の会
- ブログ:高実茉衣のこあく茉衣にゃん茉衣ペースブログ