大食い界のスター、MAX鈴木をご存じだろうか。
数々のテレビ番組に出演するほか、近年はYouTuberとしても活躍。群雄割拠の大食い系YouTuberの中でもその存在感は別格で、「MaxSuzuki TV」のチャンネル登録数は47.2万人にものぼる。
常人にはとても食べきれない量を、苦悶しつつも時間内でフィニッシュするその姿はまさに「極限」といってもいいだろう。
【大食い】スパゲティのお店の過去最大量に挑戦する感じになってしまいました。。【MAX鈴木】【マックス鈴木】【Max Suzuki】
だが、その輝かしい実績とは裏腹に、彼の人生は「一発逆転」と言うにふさわしいほど劇的だった。大食い王になるまでの道のりからYouTuberとしての現在、そして壮大な夢について、腹一杯語っていただいた。
※当記事は2020年3月に取材しました
自薦YouTube①いちばん苦戦したのは……
人間離れした量をガチなスタイルでことごとく完食していくMAX鈴木さん。実際、お会いしてみると、身長180cm超とガタイこそ立派だが、実に腰の低い極めて謙虚な方である。
「夢なんか叶うはずがないって卑屈になって生きてきたし、自分に嘘をついて生きてきた。でも大食いで人生すべてが変わりました。だから今は世間から注目してもらったり、お子さんから声援を送ってもらえるのが嬉しくて仕方ないんです」
そう語るMAXさんの勇姿は、YouTubeで存分に楽しむことができる。
ということで百聞は一見にしかず。まずはご本人から代表的な動画を選んでもらった。(MaxSuzuki TVより)。
──さっそくよろしくお願いします。MAX鈴木さんといえばお店のレコードを塗り替えるような記録もこれまで成し遂げてこられましたが、今までの大食いで「いちばんキツかった」のは何だったか覚えてますか?
MAX鈴木さん(以下敬称略):ぶっちぎりでキツかったのは千葉市幕張にある「本家絶品煮込みカツカレー 幕張店」さんのMio盛りカツカレー(8kg)。これは……本気で死ぬかと思いましたね。
【⚠️閲覧注意】【大食い】カツカレー(8kg)大食いチャレンジ‼️【MAX鈴木】【マックス鈴木】
MAX鈴木:動画の尺が全部で55分あるのに、最後の20数分はほとんど進んでないんですよ。このころは顎の咀嚼力が鍛えきれてなかったですし。今改めて見てみると、終盤ずっと涙目ですもん。
▲当該の動画で繰り広げた激闘を自ら振り返る。最後の20分がずっとこの状態だった……
──それこそ、思わず口から漏らしそうになったり……。
MAX鈴木:もう喉のところまで来てますね。ちょっと気を抜くとプッと吐いちゃいそうな状態。「絶対食い切ってやる!」って全神経を集中させて自分に言い聞かせてますね。実力以上のことをやろうとしているからこうなっちゃった、という例ですね。
自薦YouTube②いちばん美味しかった大食い
──逆にこれままで一番「美味しく食べられた」のは?
MAX鈴木:千葉県市川市の行徳にある「バルスノーキークレッシェレ」さん。ここの「大人のお子様ランチ」ですかね。店主さんが大食いが好きで僕に来てほしいってことで作ってくださった特別メニューなんですけども、逆に美味しすぎて飛ばせなかったという。強制的にフードファイターのMAX鈴木が、一般人の鈴木隆将に戻されてしまいました。
【大食い】なぜか成功者がいない大人のお子様ランチ的チャレンジメニュー(4.3kg)30分に挑戦してみた‼️【MAX鈴木】【マックス鈴木】【Max Suzuki】【チャレンジメニュー】【デカ盛り】
──確かにすっごく美味しそう!
自薦YouTube③楽しさしかなかったアメリカ初挑戦
──大食いってしんどいイメージがどうしてもつきまといますよね。
MAX鈴木:でも、めっちゃ楽しい思い出もあるんです。中でも2018年に渡米して参加したネイサンズの予選は別格。ラスベガスにある「ニューヨーク ニューヨーク ホテル」の敷地に野外の特設会場が作られているんだけど、楽しくて仕方ない。立場的には完全アウェイなんですけどアウェイ感がゼロというか。全員初対面なのになぜかブラザー感があって。もうこれは言葉では言い表せないです。
【⚠️閲注、早食い】ホットドッグ『ネイサンズ』の予選にチャレンジしてきた〜Nathan's hot dog eating contest 2018【MAX鈴木】【マックス鈴木】【Max Suzuki】
──確かに野外フェスみたいな開放感がありますね!
自薦YouTube④いちばんの大失敗は……
──大失敗した大食いチャレンジを聞いてもいいでしょうか。
MAX鈴木:うーん、群馬県高崎市の「シャンゴ」さんですかね。これは、大食い仲間のゆりもりさんとコラボした動画なんですが、お店さんとの意思疎通がうまくできてなくて、ちょっとありえない量で出てきちゃった。
【大食い】デカ盛りチャレンジ超番外編‼️史上最大規模のモンスター登場⁉️【MAX鈴木】
──確かに、素人でもありえない量なのが一目瞭然です(笑)。
MAX鈴木:総重量が10kgぐらいのはずが、麺だけで10kgあるんですよ。でそれにミートソース、そしてカツが乗っかっているんですけど、これ完食しようと思ったらガチのフードファイター8人から10人が必要です(笑)。最初から完食できると思ってなくて、美味しく食べなきゃというモードでいただきました。で、笑えるほどの量を持ち帰ったという(笑)。やっぱり事前の確認は大事ですね。
大食いはスポーツ「味わったら負け」
──素朴な疑問なんですけど、大食いしているときって何を考えているんですか。真っさらになって無心な気持ちで取り組んでいるのか。それとも終始、ペースや戦術を考えながら食べているのか。
MAX鈴木:自分の中にはMAX鈴木と、本名の鈴木隆将がいてまるで違うんです。自宅で家族と食べるときは、本名の自分なんで普通の人と同じ量ですし、早く食べることもありません。味わって食べています。MAX鈴木のときは食事じゃなくてスポーツ。どうすれば胃袋に条件内で収められるかということだけを考えています。
──スポーツ、なるほど。
MAX鈴木:フードファイターといっても、かわいいのに大食いとかビジュアルが強い人もいれば、パフォーマンスで魅せる人もいます。自分は実績で見せるというか、グラム担当ですね。だから、大会などでたくさん食べるときは味わってないです。味わったら負けますから。
──YouTubeの動画(MaxSuzuki TV)を見ていると、お店に来ていたお客さんの声援に応えたり、食レポ風のコメントを挟んだり、いろいろと考えてやられているように見えます。
MAX鈴木:お店を訪問するチャレンジ動画では最初のうちこそ、声援に応えたりとリアクションするし、これでも20%ぐらいは味わっています。だけどそのうちだんだん胃袋に料理を入れることに集中していくんです。集中モードに入っちゃうと、周りの音が聞こえなくなりますね。
──テレビでの大食い番組とYouTubeとでは食べ方が変わったりしますか。
MAX鈴木:前者は純粋にスポーツだけど、YouTubeはほかの要素もあるのでいろいろと気を使っています。YouTubeで大食いだけに徹してしまったら、非難ごうごうですよ。「味わって食え」とか「味もわからないのにお前何やってるんだ」とコメントが殺到したり。評価が「bad」ばかりになったりしたら、再生回数が下がって収入も下がってしまう。そうなったら、フードファイターとして終わっちゃいますから。
──TPOによって戦い方も変わってくるんですね。YouTubeのコメント欄を見ていると「きれいに食べてて、好感持てるよね」といった好意的なコメントが目立ちます。
MAX鈴木:そこはやはり意識していますね。日本でやる以上は、それがルールだと思っているので。
──身体が資本の仕事ですけど、体調管理で何かやっていることは?
MAX鈴木:半年に1回は必ず人間ドックに行ったりとかしてますね。検査でお尻からカメラを入れたら、検査の後にオナラが出まくって超痛かった。こないだは「コレステロールの値がちょっと高いね」ってお医者さんに言われてしまいましたが、まぁそこまで気にする程度ではないですね。気になるのは……やはりお尻かな。大食い終わった後は出すというよりも勝手に出てきちゃうんです。ロケット鉛筆みたいな感じなので、めっちゃ切れますよ。もうケツ痛くて大変です(笑)。
「注意喚起」を欠かせないワケは……
──YouTubeの収録に関して聞かせてください。まずお店の選定や撮影はどうしているんでしょう。動画を見ていると、一人きりで行かれているように見えますが。
MAX鈴木:自分がやりたいと思うチャレンジメニューとかデカ盛りのお店をTwitterとかInstagramを使って探します。以前は自分の食べたいものとか戦いたい相手だけを選ぶ基準にしていました。でもそれだけだと再生回数が落ちてきちゃう。だから、最近は他の大食いYouTuberさんの動画を見たり、世の中の流行りをチェックしたりしてお店やメニューを選ぶようにしています。
──ユーザーが見たいものも意識する、と。
MAX鈴木:はい。そうやって行きたいお店が決まると、今度はアポイントですね。自分でお店に電話をかけて、チャレンジメニューやデカ盛りに挑戦したいという旨を伝え、お店に伺う日を決めていくんです。そうやって話しているうちに「失礼ですけど、鈴木さんって……もしかしてMAXさん?」って聞かれて、「あ、そうなんですよ」って。
──当日の撮影やその後の編集、配信まですべて自分で?
MAX鈴木:全部、自分でやっています。これ1台で(とスマホを見せながら)。撮影は「ごまかしていない」ことを証明するため、いつもワンショットかつFIX(固定)、長回しが基本。店内でスマホ一つで自撮りしていたりするので、どうしても他の音が入ってきてしまいますね。
──他のお客さんが入ってきたときの「いらっしゃいませー」っていうお店の方の声とか、むしろ臨場感が出ていますよね。ところで、動画のサムネイルやタイトル欄に「閲覧注意」と記されています。これはどういう意味なんでしょう。
MAX鈴木:事故防止のための対策ですね。自分の動画には必ず「閲覧注意」「大食い早食いは大変危険な行為です」とか、「良い子はマネしないでください」などのテロップを動画の中に入れたり、サムネイルに表示したりしています。というのも、早食いとか大食いって常に賛否両論を生むんですよ。「食べ物を粗末にするな」とか「小さい子がマネをしたらどうするんだ」とか。でもそれに関しては俺からは何も言えないじゃないですか。プロレスラーが「僕らはプロだからいいけど、プロレス技は危険だからマネしちゃダメ」っていうのと同じですよね。実際、過去には不幸な事故もあったわけですから、自分ができるのは大食いの危険性を普段からしっかり周知させることなのかなと思ってます。
34歳までダメダメな人生を送ってきた
──MAX鈴木さんは2015年9月の『元祖!大食い王決定戦』(テレビ東京)に登場し、新人にも関わらずいきなり優勝という衝撃のデビューを果たされました。その当時すでに34歳というから遅咲きですよね。大食い王として開花する前の話をうかがいたいのですが、幼少期のころからすでに大食漢だったんですか。
MAX鈴木:そういうわけではなかったです。小学校の給食のとき、ふざけて牛乳を3、4本飲み干したとかそれぐらいですね。ちなみにそのときはインフルエンザかなんかで学級閉鎖される寸前で6人とか7人とか休んで、牛乳が10本ぐらい余っていたんです。
──もしかすると大食いの家庭に育ったとか、もしくは体育会系の部活に入って食べるようになったとか?
MAX鈴木:父親はどんぶりめしを一杯分食べるぐらいで、普通よりやや食べる程度でしたかね。夕食でご飯がたくさん出ることもなかったですね。中学では剣道をやっていたのでそこそこ食べてました。当時はご飯がおかわり自由の馴染みの定食屋によく通っていて、どんぶり3、4杯とかは普通に。でも運動部で育ち盛りならそれぐらい食べるケースって珍しくないでしょ。
──確かに。となると大食いにハマったのは成人して以降?
MAX鈴木:いいえ。全然です。食べる量は普通でしたよ。だからまさか自分がフードファイターとして活動できるなんて考えてもみなかったです。
──意外でした。34歳のデビューまでは普通の胃袋だったと。
MAX鈴木:20歳で大学を中退した以降は、ずっとアルバイト生活を送っていました。警備員の仕事を半年ほど、父親がやっている建築系の仕事の手伝いを1年半、トラック運転手を3年ほど、ピザの配達を3年ほど。その後はずっと水商売でしたね。10年ぐらいやってたのかな。最初は呼び込みをやって、最後は雇われ店長になって。正直、食うや食わずの生活でしたね。家賃が払えなくて、食べるお金にも苦労していたこともありました。お金が全然もたないから、雇い主に頼み込んで週払いにしてもらったり。
──なかなかの苦労ですよね、それは。
MAX鈴木:いや、苦労じゃなくて、自分がダメダメな生活を送っていただけです。週7日間のうち5日間働いて、週給5万円もらうとするじゃないですか。そしたら、ご飯を買う前にまず駅前のパチンコ店に入っちゃうわけですよ。それで持ち金を全部すっちゃう。食べ物を買う前に一文無しになるような生活をしていましたね。しかも消費者金融から常に借金をしている状態が続いてて。漫画『カイジ』に出てくるギャンブル船に乗せられるような人間でした。
▲『カイジ』のエスポワール号に片足乗り込んでいた2012年、32歳の頃
「中村ゆうじさんに会えんじゃね?」
──自堕落な生活を送りながら、そこからどうやってフードファイターとしての成功をつかんでいったんですか。
MAX鈴木:テレビ東京の大食い番組のファンだったことがきっかけでした。といっても、当時は純粋に一人のファンで、自分が出ることは考えていませんでした。当時は、もえのあずきちゃん、ますぶちさちよちゃん、ゆりもりちゃんといったカワイイ女性たちが活躍してて。特にもえあずファンで、彼女がブログでチャレンジメニューに挑戦したことをよく書いていたので「じゃあ俺も行ってみよう」ってことで、餃子100個(制限時間1時間)に気軽な気持ちで挑戦したら、案外簡単に完食できちゃったんですよ。なんか俺できるな! って。それが2014年の秋でした(写真下)。
▲これがそのときの様子。まさに番組で優勝を遂げる前年のことだった
──そこで手応えというか、味を占めたというか。やっと自分の素質に気がついた。
MAX鈴木:そうかもしれません。要は楽しかったんです。賞金がもらえたし、ご飯はタダ。チャレンジ中、まわりから声援を受けたかと思えば、完食したらちやほやされる。それまで自分がちやほやされるなんてこと、人生で一度もなかったので、すごく嬉しかったんですよ。じゃあってことで、別のチャレンジメニューに挑戦したら次から次へと完食できてしまった。徐々に量を増やしたり、時間を短くしたりとレベルを上げた上で、大食い番組に照準を合わせていったわけです。
──夢なんて叶うはずがないと思い込んでいたら、あれよあれよと現実に……。そんなドラマチックな展開ってなかなかないですよ! でもそこまでトントン拍子だと、チャンスをモノにしようとか、成り上がってやろうとかという野望を密かに抱いていたのでは。
MAX鈴木:いえいえ。そのときは単にミーハーな気持ちしかなかったです。「もえあずちゃんとか、中村ゆうじさんに会えんじゃね?」みたいな。それで2015年に東京・高円寺にある「桃太郎すし」で開催された大会予選でいきなり優勝したんです。俺にとっては桃太郎すしがアナザースカイでした(笑)。
▲2015年、大会予選を制する前。 普段の食事でも大盛りを心がけた
頂点を極めた後、本当の「どん底」が待っていた
──2015年にオンエアされた『元祖!大食い王決定戦』で一躍、スターダムにのし上がって人生が開けました。
MAX鈴木:でも、そこからが大変でした。2015年に番組で優勝して天狗になっていたんですが、天下は短かった。翌16年の大会決勝で卵1個の差で負けたんです。最後の最後に卵1個で差がついてしまって。振り返ると、あれがケチのつきはじめでしたね。途端に大食い番組やイベントに呼ばれなくなってしまって。大食い大会って、優勝しないと価値がないんです。2位以下だと扱われ方がこんなに違うのかって。街を歩いてても「優勝できなかった人」として見られてしまう。それが辛かったですね。
──勝負の世界はほんと残酷ですね。
MAX鈴木:その後、ネット動画で大炎上を食らってしまいました。LINE LIVEで生配信し、後からYouTubeでも配信したのが原因です。生配信メインなので、初っぱなからイエーイとか言ったりしてテンション高めにしてると、今度はYouTubeの視聴者からはめっちゃ不評で。「あ、これライブのアーカイブじゃん」「何このテンションの高さは。うぜーよ」って。そのうち、アクセスが急落して、しまいにはYouTubeからの収入がほぼなくなってしまいました。テレビ出演もないので、収入はゼロ。気持ちは焦るばっかりで何していいのかわからない……みたいな状態でしたね。
──ではそこからどうやって再起を果たしたんですか。今のMAXさんは快活で元気そのものといったように見えますけども。
MAX鈴木:今の嫁さんがプロポーズをしてくれたんですよ。なんで? こんなどん底で取り柄のない俺に……って戸惑ったんですけど、本心は嬉しかったんですよ。だからとにかく家にお金を入れなきゃって思って、近所のキャバクラで週5、6回のペースでバイトすることにしました。でもダメなときってとことんダメなんですよね。週に3回は休んじゃってたし、世話になってる同じ大食いYouTuberたちを勝手に毛嫌いして遠ざけたりして。当時は「おちょこの裏レベルの器」でした。王者だなんてとんでもない。
──そんな中でも2017年の『元祖!大食い王決定戦』(放映は9月)に向けて準備をしていくわけですよね。
MAX鈴木:平たくいえばそうですが、そう簡単ではなかったですよ。大会の準備には約3カ月間、始めたばかりのアルバイトを再び休んで、トレーニングに打ち込み始めたんですが、当初は全然ダメでした。身も心も塞ぎ込んでいるので、いくらトレーニングをしたって強くなれるはずがないんですよ。自暴自棄になって周りの人間を振り回したりもしていたし。そんなとき、伸び悩んでいる俺を見かねた嫁さんがこう言ったんです。「頼むから(周囲に)迷惑をかけることだけはやめて」って。滅多にそういうことは言わない人なんですけどボロボロ泣きながらそう言われて。やっと「俺、間違ってた」って気づきました。
──ほんの一言であっても、身近な人が発する言葉って効きますからね。
MAX鈴木:それをきっかけに、遠ざけていたライバルたちにも謝ることがやっとできました。すると人間として強くなれた気がして。そういう状態になると不思議なことにファイターとしても強くなっていって、その結果、王者に返り咲くことができたんです。
2017年の優勝後は、伴侶の許可を得て自身のYouTubeチャンネル(MaxSuzuki TV)に専念。すると、どんどんアクセスも伸びていった。
ハードなトレーニングで「胃袋のキャパ」を知る
──先ほどからトレーニングの話が出ています。実のところ、いったいどんな内容をこなすんでしょう。
MAX鈴木:2017年の『元祖!大食い王決定戦』に向けて行ったのは「とにかく胃袋をどうやって限界まで広げるか」でした。高田馬場にある「旨辛ラーメン表裏」というお店があって、そこで働いている松下さんという方がいまして。「兄貴」って呼んでおつき合いさせてもらってるんですけど、彼に「優勝したいですけど、どうしたらいいですか」って相談して、トレーナーになってもらいました。
──ボクサーみたいにトレーニングのメニューをこなしていくんですか。
MAX鈴木:そうですね、兄貴にトレーニングメニューを組んでもらって。例えば、最初は30分でチャーハン5kg、クリアできたら今度は20分で食べてみようとか。熱々のラーメンを60分で何杯食べられるか試した後、次は時間を絞って30分でとか。ラーメンじゃなくてつけ麺やおにぎり、お肉ならどうかとか。それを試行錯誤しながら、メモを取ったり映像を残す。その後、チェックするという行程をひたすら繰り返しました。
──うわ、まんまアスリートだ。
MAX鈴木:ただ、ロジック的な裏付けについては自分もよくわかりません。あるとしてもそれは兄貴にしかわからない。俺は兄貴に従って、こなしてるだけなんで。でもそのトレーニングメニューに従ったら優勝できるんですよ、なぜか(笑)。兄貴はもともと大食いのことも全然知らなかったのに、二つ返事で引き受けてくれたし、やり始めたら俺よりも大食いとかフードファイターに詳しくなっちゃって。
──なるほど。実践に次ぐ実践がトレーニングとなっていったと。
MAX鈴木:おっしゃる通り。そうやって実践しながら、自分の体質を把握していくんですよ。例えば、麺だったら急いで食べると自分の胃袋の場合、急に満腹感が増しちゃうからゆっくり食べた方がいいとか。逆にお米はゆっくり食べるとお腹がいっぱいになるから早目に入れられるだけ入れようとか。素材の種類、あと料理が熱いか冷たいかも関係しますね。すべては制限時間内に胃袋に入れられるかどうかを意識して鍛えていくので。
──胃のテトリスみたいな……。筋トレの類はやったりしないんですか。走り込みとかウエイトトレーニングとか。
MAX鈴木:以前はウエイトをやってましたけど、最近は歩いたりマラソンをするくらいでしょうか。うちのチビが大きくなってきたので抱っこして1時間ぐらい散歩してみたりとかですね。ただ、YouTubeの収録はある意味で本番の大会のトレーニングを兼ねているといってもいいかもしれません。
こんなに違う! 日米の大食い事情
──日本一に返り咲いた後の2018年からはアメリカの大食い大会でも有名な「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」に出場されています。これは大食いと早食いがミックスされた競技なんですよね。
MAX鈴木:そう、言ってみれば「早大食い」なんですよ。日本だったらカレー10kgを60分で食べてくださいというのを、アメリカの大会では10分で完食しちゃうような感じ。まず大食いがあって、それをさらに早食いへと特化しているんです。
──とするとアメリカの大会に出るために早く食べる訓練も?
MAX鈴木:そこに成長の秘密がありました。以前は固形物5kg、水分5kgを90分かけてゆっくり胃を広げて食べていたんですが、ネイサンズに向けて同じ量を10分で胃袋に入れる訓練をしたんです。胃袋に与える負荷は10分の方がはるかに辛いけど、それが伸びしろにつながっていくんです。
──早食いと大食いは似て非なるものだと思ってたんですけど、早食いってすごいんですね。
MAX鈴木:早食いこそ最強、早食いこそ頂点だと思いますね。でも日本の国民性だと受け入れられづらいかなぁと。YouTubeでアメリカ人と同じような食べ方をしたら、「汚いよ」「こぼれてるよ」「何してるの、ちゃんときれいに食べて欲しいんだけど」「落ちてるじゃん。これどうするの」ってコメントが殺到するでしょ。でも、アメリカは考え方が逆。「落ちてるのを拾うヒマあったらもっと食え」「(今拾わずに)後で計量すればいいじゃん」っていう反応なんです。
──そこまで考え方が正反対だったとは!
MAX鈴木:日本の大食い番組だと構成上、進行はゆっくりなんです。ネイサンズは10分が勝負だから、選手のボルテージが違う。その10分のために何カ月も練習して、すべてを捧げるわけじゃないですか。大会の10分間のためだけに、364日と23時間50分を捧げるようなものだから。本番の10分間がとんでもなく輝いてる。
──日米のフードファイターの実力差についてはどうですか。
MAX鈴木:外見ひとつとっても違います。日本ファイターは細身の人の方が多いんですが、アメリカだとわかりやすい、いかにもなマッスルタイプが多い。アメリカのトップ選手がメジャーリーガーなら、自分はリトルリーグ。正直、球が見えなかった。実力が違いすぎてまるで歯が立たない。次元が違いすぎました。
──お客さんの反応もかなり違うのでは。
MAX鈴木:まず数が違いますね。「あれ、これ90年代後半のGLAYの野外コンサートですか?」ってくらい人がいっぱいいるんです。「どこまで人いるの? 逆に人がいすぎて緊張しねえわ!」ってそういう世界。
──フードファイターの評価というか社会的な見られ方も全然違うんでしょうね。
MAX鈴木:アメリカだとアスリートとして評価してくれますからね。そもそもネイサンズの選手権は、中継しているテレビ局もESPN(アメリカ最大手のスポーツ専門局)とかABCとかFOXとか、大手が生中継するんですよ。しかも7月4日の独立記念日でしょ。これはやばいですよ。もう世界が違いすぎますよね。大会の様子はニュースでも流れるし、勝てば全米に名前が知れ渡るし。
──カルチャーショックでもあり、すごく刺激にもなりますよね。
MAX鈴木:日本だと勝たなきゃいけない立場ですが、アメリカだと完全に挑戦者。だから余計に楽しかったのかもしれません。自分より強い奴に会いに行って自分より強い奴を倒したい。なによりアメリカのノリが一発で気に入ったし、俺の本当のステージこっちかもって思っちゃいましたもん。
──では最後に、今後の目標を教えてください。
MAX鈴木:アメリカの大会で優勝すること。MAX鈴木として、日々活動するモチベーションは今はもうそこしかありません!
「全米制覇しか考えていない」ときっぱり言い切るMAX鈴木さん。そんな彼の潔さに胸を打たれた。ぜひ強靱な胃袋で世界をアッと言わせてほしい。彼ならやってくれるだろうから。
※当記事は2020年3月に取材しました
撮影/田中悠人
書いた人:西牟田靖
70年大阪生まれ。国境、歴史、蔵書に家族問題と扱うテーマが幅広いフリーライター。『僕の見た「大日本帝国」』(角川ソフィア文庫)『誰も国境を知らない』(朝日文庫)『本で床は抜けるのか』(中公文庫)『わが子に会えない』(PHP)など著書多数。2019年11月にメシ通での連載をまとめた『極限メシ!』(ポプラ新書)を出版。