東京にも「個人コンビニ」がまだあった!生き残りの秘訣はお弁当!?

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セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン……いつの間にか、街のコンビニエンスストアはこの大手三社ばかりになりました。

サンクス、am/pmすら姿を消す中で、もはやチェーンですらない「個人コンビニ」は絶滅危惧種。しかしそのうちのひとつが、実は東京都内にありました。

コンビニ大手三社に加え、大手チェーンのディスカウント店やドラッグストアといったライバルばかりが並ぶいまの東京で、なぜ個人コンビニを続けられるのでしょうか?

その答えを聞きに、吉祥寺までやってきました。

 

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▲この見慣れない看板が個人コンビニの証

 

先代のお菓子屋を、コンビニに!

出迎えてくれたのは、オーナーで店主の井口和彦さん。個人コンビニ「PAL(パル)」は1996年からスタートし、以来23年にわたって、地元民の生活を支えてきました。

 

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井口さん(以下敬称略):もともとは建築関係の営業をやっていたんだけど、家のお菓子屋さんを継ぐことになってね。そこからお菓子と並行してサンドイッチも売りはじめて、今後を考えた上でコンビニとして再出発したんだ。

 

──これからはコンビニの時代だと。お弁当やランチメニューの調理も井口さんがされているんですか?

 

井口:そう。コンビニに方向転換するとき、料理人の方にお金を払って煮物や筑前煮とかの献立を学んだわけ。

 

──それで料理を自前で作れるんですね。まずこのお店で目に付くのが、イートインのスペースとメニューですが、カレーやうどんもそのときに教わった味ですか?

 

井口:それはあとからだね。ちなみに昔はラーメンも350円ぐらいで出していたよ。 

 

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▲ハッシュドビーフにも似た香ばしさの、おいしいカレーライス(400円)

 

──安い! いいですね。

 

井口:でも、ラーメンは手間がかかるからやめちゃったね、うどんやそばのほうが早くできるから。

 

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▲イートインスペースは開店時からいち早く導入していた

 

──雑誌は大手コンビニと同じように最新号が並んでいますね。

 

井口:でも、売れるのは写真週刊誌や漫画雑誌くらいだから、今年の10月からもう置かなくなるんだよ。

 

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井口:このへんは飲み物コーナー。有名どころからそうでないものまで揃えてる。大手のコンビニだったら、メジャーなメーカーの看板商品は黙っていても入ってくるけれど、マイナーなメーカーの商品はなかなか置かせてもらえないんだ

 

──そういえば、大きなコンビニは同じメーカーの商品ばかりですね……!

 

井口:だけどウチは自由に調達できるから、下位メーカーの商品も置いているよ。 中には「安ければ何でもいいから、お弁当にお茶を付けて欲しい」ってオーダーもある。そのときは有名でないメーカーの安いお茶を付けて、セットで600円などにして応えているんだ。

 

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井口:ウチの商品の7割ぐらいは市場で買ってきてるの。大手のコンビニの置く売れ筋ベスト3以外でも、お客さんが欲しい商品はあるじゃない? そういう安いものなんかを買うの。

 

──かゆいところに手が届く品揃えになっていますね。

 

井口:ちなみに、お菓子や雑貨はあまり売れないんだよね。ドラッグストアに行けばウチよりも安く売っているでしょう?

 

──そうか、価格競争になりますし。

 

井口:安さ勝負ではかなわないからね。

 

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──そんな中で、強いて言えば売れているというものはありますか?

 

井口:全体的に売れてねえよ……(笑)

 

──(笑) 。昼どきに来たら繁盛しているように見えましたが……

 

井口:いまお客さんは昔の半分だから。マクドナルドもあるし、コンビニもいっぱいあるし、食べるところが多様化しちゃったからね。

 

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コンビニって大変

──コンビニ経営で苦労することはなんですか?

 

井口:光熱費が高いよね。いまはLEDライトを使っていて電力会社も自由に選べるようになったから、ひと月20万円台まで下がったけど、前は30万円以上、1日1万円かかっていたからね。

 

──1日1万……? いちばんかかるのはなんですか?

 

井口:冷蔵庫はかかるね。あと調理器具とか。

 

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────やっぱり立地は重要ですか?

 

井口:うん。ここは駅から歩くけれども、やっぱりコンビニは駅前のほうが稼げるんだ。大手が駅チカよりもっと近い駅ナカだとか、どんどん土地代やテナント料が高いところへ行くのも、そういうふうにしないと売り上げが伸びないから。

 

──競争相手が多いのは大変ですね……!

 

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井口:競争といえば、吉祥寺には成蹊大学があるんだけど、大学のある通りには昔コンビニが4軒ぐらいあったんだよ。いまはもう近くに1、2軒しかなくなったね。

 

──なぜ?

 

井口:キャンパス内にファミリーマートができちゃったから。

 

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──そこにお客さんを取られて……!

 

井口:いいところに出店しても、もっといいところに出店されるからね。このまわりも、ほぼセブンイレブンだから。こっちに行けばセブンイレブン、あっちにセブンイレブン、こっちにもセブンイレブン……さらにこっちにはローソンとかもあって、そしてこっちをずーっと奥に行けばまたセブンイレブン。

 

──やっぱりセブンは強いんですよね……! セブンイレブンはなぜ強いんですか?

 

井口:宣伝もしているし、商品も研究して出しているからね。セブンイレブンのおにぎりはおいしいよ。そばもおいしいし、他にもうまいものがあるね。商品開発っていちばん大切なんだよ。

 

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井口:ちなみに大手のコンビニだってね、売れ線のサンドイッチやおにぎり、お弁当が売れなかったらつぶれちゃうんだよ。

 

──そうなんですか?

 

井口:まちがいなくつぶれる。売り上げが一定以上達しなければ、本部につぶされちゃうから。それで違うところに行かされる。

 

──有無を言わせず転勤……。

 

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個人コンビニだから、できること

井口:そう考えると、個人経営だからいいこともある。料理を自前で作れば利益率もいいし、お弁当が足りなくなったらすぐ作れて、食材のロスもあまりないから。

 

──目の前で状況を見て臨機応変に動けますからね。

 

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井口:あとはね、ほかに売っていないものを売っているの、ウチは。デパートでも売っていないようなもの。

 

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▲井口さんが厳選したやきのりを販売

 

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▲波佐見焼の食器を置いており、茶碗は680円と手ごろ

 

井口:付加価値のあるものは、定価でも売れるから、ちょっとマニアックな自慢の商品を置いているんだよ。ほかのコンビニではまず置かないと思う。

 

──大手チェーンでは見たことないですね。

 

井口:あと、休みが取れるのも個人店のいいところだね。ただ、ウチは金曜日が定休日だけど、年間で350日くらいは働いているかな。

 

──ええ……休みの日は何の仕事が?

 

井口:お弁当の配達がある。お店は休みだけれども朝6時ごろに起きて、市場へ行って、食材を買い出しに行かなくちゃ。

 

──働くなぁ。

 

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武器はお弁当! おいしさと配送で評判に

井口:配達するお弁当は基本日替わりで4種類用意していて、お客さんから電話が入ったら作り始めて、午前中には持っていくの。

 

──基本的にワンコイン(500円)なのはいいですね。

 

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▲お店で売るお弁当も豊富なラインナップ

 

井口:ごはんも白いごはんと味付けごはんを選べるし。

 

──へえ、うれしい。

 

井口:春はタケノコごはん。三鷹にある母の実家のタケノコを使うの。秋になるとマツタケごはんもやるよ。

 

──地産地消ですね。マツタケごはんもワンコインなのはすごい。

 

井口:マツタケ、薄いけどね(笑)。ほかに夏だとあさりごはん、秋になると山菜ごはんやおこわも用意する。

 

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──このお店が生き残った理由は、何が大きいと思いますか?

 

井口:やっぱりこのお弁当や、オードブルの配達だと思う。だって朝6時におにぎりセット100個を持っていくのは大変だよ?

 

──そこまでやれるところは、あまりないですね。

 

井口:ないでしょ? おにぎりだけじゃなくおかずまで入れるから。「300円でかんたんなオリジナルのお弁当を作ってくれ」って言われれば作るし。おにぎり2つにからあげ、ポテトと、なんかもう一品を入れてね。

 

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井口:遠いところだと、剣道の全国大会で九段下の日本武道館にも行くし。高速代だけで4,000円はかかるけれども、断ったらもうオーダーは来ないから。だから無理しても作って持って行く。

 

──泥臭くやってますね。

 

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▲仕出し弁当は、こちらの弁当箱を使う

 

井口:ちなみに大口の注文も入るよ。百何十人来るような大きめのイベントだと、ほかでは30万円ぐらいでやっているようなことも、ウチなら20万円ぐらいで大丈夫だからね。

 

──安く上がりますね。

 

井口:その代わり、片付けだけは一緒にやってくれってお願いする。ゴミはこちらが全部持っていくから。ふつうはセッティングや片付け専門のスタッフを手配するケースが多いけど、ウチは全部自前で済ませるから安くなるんだ。

 

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井口:ちなみに、コンビニ弁当の原価なんてだいたい見ればわかるよ。大手のお弁当は中間業者の取り分なんかもあるし、ふつう原価が3割ぐらいだけど、ウチの原価は5割以上

 

──ホントですか? すごい……。

 

井口:おいしいっていう評判こそが、いちばんの宣伝になるからね。

 

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「ここだけじゃ、食べていけない」

──いまからでも個人コンビニって参入できると思いますか?

 

井口:新たに参入するのはむずかしいかもね。ウチだってはっきり言って、ここだけじゃ食べていけないんだよ?

 

──え、そうなんですか?

 

井口:マンションと駐車場からの収入があるから何とかなっているけど、ここだけじゃまず無理。でも昔からここで続けてきていて、いまさらやめるわけにはいかないから。

 

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──この取材をする前に調べたんですが、個人コンビニは本当になくなるスピードが早いですね……。

 

井口:このへんにあった個人コンビニもなくなったよ。だって営業を続けるのは無理だもん。ここだって自分のビルだからいいけど、賃貸料を払ったら完全に無理だよ。コンビニでは1日で家賃分売り上げなきゃ金銭的にむずかしいの。月50万で借りたら、1日で50万売り上げないと。

 

──ハードルが高いですね……。

 

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大変だけど、面白おかしく!

──個人コンビニをやっていてよかったことはありますか?

 

井口:自由が利くこと。置きたいものも置けるし、休めるからね。ただ、休業を周囲に告知してもお客さんから注文がきて結局働く日も多いけれど。それだってありがたいよね。

 

──それを嫌とも思わず……。

 

井口:俺の座右の銘は「損して得取れ」だから。安くやったぶん短期的には損しても、定期的に来てくれれば長い目で見たら損はしないし。

 

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──そんなご主人にとって、このお店はどんな存在ですか?

 

井口:……勉強になる場所だよね。いろんなお客さんも来て、人間関係も学べるし。

 

──「生きること」を学べる場所。

 

井口:まあ大変だけどね、バカ話ばっかりしながら、面白おかしくやってるから!

 

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お店情報

PAL(パル)

住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町4-12-25
電話:0422-52-0710
営業時間:6:00~20:00
定休日:金曜日 

書いた人:辰井裕紀

辰井裕紀

卓球と競馬とサッポロ一番みそラーメンが好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当しておりローカルネタが得意。

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