34歳の若さにしてDMMの社長に電撃就任
各業界の釣りバカに、釣りをしながらメシについて語ってもらうというこの企画。
今回のゲストは株式会社DMM.comの片桐孝憲(かたぎりたかのり)社長だ。
株式会社DMM.com(以下、DMM)といえば、さまざまなサービスを仕掛け、なにかと話題の超有名企業。
そのDMMの社長として、2017年1月に電撃就任したのが片桐孝憲さんだ。
大学生時代から音楽バンドのホームページやミュージックビデオを手掛けていた片桐さんは、2005年に大学をやめてWeb制作会社を設立。
その後、2007年に友人が立ち上げたイラスト投稿型SNS「ピクシブ」の運営を引き受け、ユーザー数3000万人超のスーパーサイトへと成長させた。
と思ったら、34歳の若さにしてDMMの社長に就任ですよ。いやー……スーパーサイヤ人からスーパーサイヤ人ゴッドになってしまった感がありますな。
実はそんな片桐さんは、海外まで遠征で釣りに行くほどの「釣りバカ」。行く先々で非常に珍しいメシも食べているという。
ちなみにこれは片桐さんが食べた「ピラニアの味噌汁」。
そしてこちらは「電気ウナギのかば焼き」。
そんな片桐さんだが、最近はフライフィッシングにハマっているとのこと。忙しいなか「釣りしながら話を聞きたい」という無茶ぶりを快く引き受けてくださった片桐さん。さっそく、今日の釣り場となる埼玉県朝霞市にある「朝霞ガーデン」に向かった。
途中に釣具店の上州屋が見えた時、「あ!」って思った
── なんでフライフィッシングにハマっているんですか?
片桐:もともと淡水から海まで、エサ、ルアーなんでもやっていたんですけど、去年の夏、ウガンダにナイルパーチを釣りに行ったんですよ。それもルアーとエサで狙ったんですけどね。ツェツェバエの猛攻や暑さ、嵐のような夕立、カバの恐怖など、滞在中はつらいこともあったけど、すごく楽しかった。でも、ナイルパーチ釣りの夢がかなったことがきっかけで(やり尽くしてしまった気がして)釣りが終わってしまった。自分の中で。
── 今年のゴールデンウィークは、マレーシアまでライギョを釣りに行ったらしいですね。
片桐:そう、チャドー(ジャイアントスネークヘッド)ね。で、「海外の釣りはいいんだけど、日本で釣りって何したらいいんだろうなー」って悩んでいたら、6月に知り合いが北海道のフライフィッシングに誘ってくれたんですよ。それまでフライフィッシングはやったことなかったし、やりたかったんだけどハードルが高すぎて、誰かに教えてもらわないと無理。でも、教えてくれるんだったらやってみようかと。そしたら見事にハマってしまった。基本的にはドライ(水に浮くタイプ)でイワナやニジマス、ヤマメを釣ってます。
── 片桐さんの「釣り歴」を教えてください。
片桐:僕の実家は静岡の超田舎で、家の横が川だったんですよ。そのとき釣りは普通だった。というか、釣りぐらいしかやることがない。コイとかフナとか。でも、高校を卒業して東京の大学に行くようになると、自然相手の趣味が手軽じゃなくなるわけですよ。時間もコストもかかる。釣りもまったくやらなくなった。
そして23歳で起業して、25歳のときpixiv(ピクシブ)ができた。そのころは土日も会社に行ってたんですけど、2年ぐらい経ってようやく会社がまわるようになってきたある日、社員が三郷のコストコに行くって言うからついていったんですよ。途中に上州屋(釣具店)が見えた時、あ! って思った。
「コイ釣りでもやるか」
片桐:そのままお店に入って「巨ゴイ釣りたいんで、道具全部ください」って言ってしまった(笑)。子どもの頃、高くて買えなかった道具が、今なら手に入るわけですよ。ただし、道具は買ったんだけど、釣り方がさっぱりわからない。雑誌とか読んでも専門用語が多すぎるし……。だから多摩川に行って、コイ釣りをやっている人に片っ端から声かけて教えてもらうっていう作戦に出たんだけど、これが超大変で。
── すでに釣り方を知っている人から学ぼうとしたんですね。
片桐:僕ってずっとインターネット業界で仕事していて、まったく違う世界の人と会うことってあまりなかったのね。向こうも「あ、あのpixivの……」みたいな人ばかりで。だから、まったく知らないオジサンに声かけて、道具とかをチラチラ見ながら釣り方を聞き出すっていうのがまず大変だった(笑)。面白かったけどね。
── ネット業界の風雲児が多摩川でオジサン相手にコイ釣りの技を聞き出そうとしているのは、なかなかシュールですね(笑)。
片桐:コイ釣りにハマりすぎてパン焼き機も買ったなぁ。エサにするパンを焼くためだけに買ったんですよ。コイはパンが好きだから。焼いたパンは自分では食わない。コイ専用。でも、コイって岸からだと、どこにいるか見えない。だからもっとコイをよく見るためにボートに乗ることにしたら、ついでにバス釣りでもやるか! ってなった。コイを探すためのボートだけど。
── コイへの情熱がハンパない!
片桐:バス釣りを始めてみたら、コイ釣りとはまったく違う。コイ釣りは、とにかく待っている時間が長いし、やめどきが見えない。ボーッと座っているだけだとヒマだし、釣れないとすっげぇストレスがたまる。あと、コイ釣りは一緒に行ってくれる人がいなかったけど、バス釣りなら来てくれる(笑)。こっちのほうが楽でいいなと思いつつ、それでもコイ釣りを続けていたら、ネット業界でも「片桐は釣りが好きらしい」っていう話が広がって。今度は海釣りに誘われたの。
片桐:それまでコイ釣りやっているときの僕にとって、遠征っていうと、行っても箱根とか河口湖レベル。そこまで行ったらマジで遠征だった。「コイ釣り界」の人に聞いても、琵琶湖とかに数年に1回行けるかどうか、みたいな世界で。鹿児島とか青森とかまで行くなんて、一生に1度の大遠征みたいなイメージだった。
── 基本、ホームグラウンドでやるのがコイ釣りなんですね。
片桐:ところが、海釣りを始めると、普通に釣りのために沖縄とかまで行くようになって、自分のなかの「遠征の範囲」が飛躍的に広がった。和歌山でバラムツを釣ったり。「釣りは移動してやるもんだ」という認識ができつつあった。
「怪魚」に出合って、世界が広がった
── 海外で釣りを始めたきっかけはなんですか?
片桐:コイがまったく釣れない日があって。俺はコイのことまったくわかってねえなぁ……と思って帰り際に池袋のジュンク堂に行ったんですよ。本を買って知識レベルから鍛え直すつもりで。そのとき『世界の怪魚釣りマガジン』と、小塚拓矢の『怪物狩り』っていう本を見つけて「なんじゃこりゃ!」ってビックリした。こんな世界があるのかと。
── 日本では怪魚ってそんなあっちこっちにいないですからね(笑)。
片桐:その2冊をいつも手に持って歩いていたら、1週間後くらいに小塚くんの弟さんが働いている会社の人と偶然ご飯に行く機会があったの。で、『怪物狩り』を読んだって話をしたら、小塚兄弟を紹介してもらったんですよ。それから一緒に釣りに行くようになった。でも釣りでわざわざ海外まで行くとか、あり得ないって思ってた。小塚くんの場合、普通にアマゾンまで1ヵ月間とか行ったりしているから、経験と時間がないと無理。自分のなかでは遠い国の話だと思ってた。
── そりゃ、1カ月も社長がいないと社員も不安になります。
片桐:そしたら、沖山(朝俊)くんっていう、これまた怪魚ハンターがいて、彼は「ツアーを使ってガイドを雇ってやれば10日から2週間もあれば、アマゾンなんて行けますよ」みたいなことを言う。
── それは合理的ですね。
片桐:じゃあ、ってことで沖山くんと2014年2月だったかな? 一緒に南米のガイアナ共和国に釣りに行った。そっから海外の釣りってめちゃくちゃ面白いなって感動して、海外に行きまくるようになった。そうなると、箱根あたりとか、もう隣じゃん、多摩川より近いし(笑)、みたいになって……実際は遠いんだけど。そうやって「遠征力」が上がっていったって感じですね。
── 海外まで行ってしまうと、もう「釣りバカ」ですね(笑)。
片桐:SNSに釣りの写真とかアップしていると、超釣り好きって思われているかもしれないけど、釣りが好きっていうよりも「旅とセットになっている釣り」が好きなんですよ。テーマがない旅ってつまんないと思っているから。本当の釣りバカって僕なんか足元にもおよばない。まったく寝ないで釣り続けるとか、そういう世界だから……そこまでしたくない(笑)。
── それらを経て、フライにたどり着いたわけですね。
片桐:今はフライにハマってます。これまでは、とにかくデカい魚を釣ることがいいと思っていた。でも、フライを始めるようになって、小さくてもいいから釣るプロセスを大切にする釣りも楽しいんだって気づいた。大漁とかどうでもいい。大きさもデカけりゃうれしいけど、そこまでこだわってない。
起業したら、自信なんて一瞬で粉々になった
── いまでこそ、アマゾンから北海道まであっちこっちに釣りに行ってますが、起業した当時は釣りどころじゃなかったんじゃないですか?
片桐:僕、学生時代、アルバイトの面接しても受からないし、アルバイトしてもすぐ辞めちゃったんですよね。アルバイトやってみて大変すぎて、絶対に行きたくなかった。だから2005年に起業したときは大変なことになった。バイトすらしたことないから、仕事っていう概念が抜け落ちてて、「自分が会社やったら、超うまくいっちゃうんじゃないかな」っていう謎の自信があって(笑)。
── 謎の自信(笑)。
片桐:で、起業したんですよ。そしたら一瞬で自信なんか粉々。「これじゃ、生きることすら難しいな」って。「なんでオレ、あんなばかなことを思ったんだろうな」って。「ただ会社が作りたかっただけで、なにか仕事をやりたかったわけじゃなかったんだ」って。
── よく、pixiv立ち上げ初期のころ、お金がなくて金策に走り回ったりとか、家賃を滞納してアパートのドアが封鎖されたって話を聞きますが……。
片桐:pixivができた後というのは全然大変じゃないんですよ。だって、やることが決まっているわけだし。それよりも「どんな仕事をやっていいのかすらわかってない」っていう起業したばかりのときの方が、地獄でしたね。
これまで食べたなかで一番豪華なメシ
── 食に対するこだわりってあるほうですか?
片桐:食に対するこだわりがまったく無い人に会って、自分はこだわりあるほうだなって思いました。(DMMの)亀山会長がまったくそういうの無いんですよ。ゼロです。いいお店に行くと料理の説明とかあるじゃないですか。そしたら、「説明いらん」って感じ。そういう(高級な)お店とかにもぜんぜん興味ない。普段はコンビニのサンドイッチとか食ってますね。
── 亀山会長にメシのインタビューを申し込むのはやめておきます(笑)。
片桐:僕は実家が飲食店だったんですよ。自分で『ミスター味っ子』に出てた超分厚いカツどんとか作ってみたくて実験してました(笑)。あと2度揚げするやつとか。そういうのを思うと、それなりにこだわりあるのかも。
── 下世話な話ですいませんが、今まで食べたなかで一番豪華なメシって何ですか?
片桐:これまで食べたなかで一番豪華なメシ……内容というより場所でいうなら、有名なアーティストのレセプションパーティーで連れて行っていただいたバチカンのディナーかな。普通はまず体験できないんで。ミケランジェロの絵とかに囲まれているなかで食べるんですよ(笑)。
── すごくうまい、もしくは忘れられない味は?
片桐:思い出とセットになるんだけど……僕、毎年、阿波踊りに行っているんですよ。徳島の「虎屋 壺中庵(とらや こちゅうあん)」。そこはお盆に行くとめちゃいい。川が流れていて雰囲気がいい。
片桐:もう1つ挙げるとしたら新宿二丁目の「オンマキッチン」っていう韓国料理屋。もう、とにかく面白いお母さん(オンマ)がやっているお店なんですけど、ここはマジでいいっすね。人が温かいし、料理もうまい。
ここで片桐さんにヒット! なんとアルビノのトラウトだ。超レアキャラ。
さすが、もっている男は違う。
まったく釣れなかったらどうしようと、内心ドキドキしていたスタッフも一安心。
── お疲れ様でした! 残り時間が少ないなかでのヒットでしたね。
片桐:かなりギリギリでした(笑)。
仕事も釣りも一緒。まずは1匹、釣らないと
── 1匹だけど、釣れてよかったです。
片桐:結果として釣れるのが1匹でもいいんですよ。仕事も釣りも一緒で、まずは1匹釣らないと釣り方すらわからないまま。小さくてもいいから、成功したほうがいい。1匹釣れると、なにかが合ったってこと。
── 釣れている常連っぽい人を観察して、フライを交換したり、立ち位置を変えてましたね。
片桐:フライの種類かもしれないし、狙っているポイントかもしれない、それで1匹でも釣れれば次はどうしたら大きいのが釣れるかとか、考えられますよね? トラウト釣り場でGT(ジャイアント・トレバリー)用のルアーを1日中投げていたって、絶対に釣れない。時間の無駄。わざわざ失敗から学ぶことなんてない。
お店選びでその人のセンスがわかる
── 仕事柄、接待や打ち合わせでいろんなお店に呼ばれることも多いんじゃないですか?
片桐:呼ばれますね。呼ばれるんだけど、そこでけっこうセンスを感じます。高級店ならなんでもいいって人と、とにかく駅前だったらOKっていう人、それからネットの評価が高いところを選ぶ人。僕はネットで評価が高いからってだけで何ヵ月も前から予約するのとか、ホント「さむい」と思っている。それよりも、サクッと入って食べられるようなお店のほうが圧倒的に好きです。
── センスがよかった人はいますか?
片桐:センスいいなって人、いますよ。さっきの「オンマキッチン」を教えてくれた人は、格好いいお店選びだなーって。自分よりずっと年上の人に「飯食い行こう。俺おごるからさ」って呼ばれて行って、マジで庶民的なカウンターで、うわ~! って。一発目の会食でこれ? カッケー! って思った。
── かなりレベルが高い接待ですね(笑)。
片桐:とにかく高いお店を選ぶ人もいますよ。●●●●●の偉い人はとりあえず値段もネットの評価も高いお店に呼んでくれるんですよ。でも、そういう雰囲気の会社だから、わかるわ~みたいな(笑)。お店選びのセンスで、その会社や、その人の生きざまが現れます。
── 今後は何を釣りたいですか?
片桐:フライで、ニジマスやオショロコマとか。年末はアマゾンに行くので、アマゾンでフライやろうと思ってます。
── 期待してます!
撮影:渡邊浩行
撮影協力
朝霞ガーデン
住所:埼玉県朝霞市田島2丁目8-1
電話番号:048-456-0258
ウェブサイト:Asaka Garden Official Web Site
書いた人:星☆ヒロシ
夫婦で食べ歩きが趣味。夫は食べる専門で、妻は呑む専門。若いころは海外へも足を運んだが、最近は日本の良さを再認識し、旅をしながらその土地ならではのおいしいものを食べ歩く。