ホットペッパーグルメ外食総研とは?

業界支援・セミナー

「ホットペッパーグルメ外食総研」主催 「外食総研セミナー」開催

2017.09.06

他の産業と比べて労働生産性が低いともいわれる外食産業。いかにテクノロジーを導入し、付加価値を創り出し生産性を向上させていくかが、今後業界全体で求められる課題だ。
その課題を広く知ってもらい、意見を交換しながら今後のヒントを見つけようと、いち早くテクノロジーを導入して付加価値向上につなげている外食産業3社を招いて「外食総研セミナー」(メディア向けセミナー)を開催した。
セミナーには農林水産省食料産業局食文化・市場開拓課外食産業室長の新藤光明氏も出席し、冒頭で挨拶。「近年、外食産業は労働生産性が低いのが指摘されている。その中でタイムリーなテーマ。本日は有益なお話が伺えるのでは」と、期待を寄せた。
続いて登壇した3社は、いずれも「顧客ニーズの追求」や「味の再現性の向上」など、それぞれの目的のためにテクノロジーを活用し、成果を上げている。そんな3社の報告内容や、意見交換から浮かび上がってきた今後の課題についてレポートする。

【登壇者】
稲垣昌宏(ホットペッパーグルメ外食総研 上席研究員)
竹田クニ(ホットペッパーグルメ外食総研 エヴァンジェリスト)
小林克明(株式会社すかいらーく マーケティング本部デジタルマーケティンググループディレクター)
四家公明(株式会社イタリアンイノベーションクッチーナ 代表取締役社長)
砂岡祐也(株式会社ダイニングファクトリー 九州男児事業部長)

外食市場の動向と、そこから見える今後の課題

まずは、ホットペッパーグルメ外食総研上席研究員の稲垣昌宏が、首都圏、関西圏、東海圏の20~69歳の男女約1万人を対象に毎月行っている「外食市場調査」より、「2016年度外食&中食動向(2016年4月~2017年3月:東名阪夕食)」の結果について報告。

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稲垣は、16年度の外食市場の減り幅は-3.6%で、中食市場は-2.5%だったと説明。これは人口の減り幅(-0.6%)よりも大きい数値だったと発表し、改めて、外食産業が置かれた厳しい現状が浮き彫りになった。

上記の図の通り、広義の外食とは、中食を含んでいる。
従来の競合環境は、料理店VS料理店というように、同じ飲食店でも各カテゴリ内での争いだったが、料理店が「ちょい飲み」に進出し、また朝から営業を行う居酒屋も登場したことにおり、近年では料理店VS居酒屋店といった業態間の競合関係が増えている。また、テイクアウト型の店舗のクオリティ向上やイートインの強化などから、狭義の外食対中食という競争も激しくなっている。

そんな中、外食に対抗するように脅威となってきているのが内食
働き方改革やプレミアムフライデーの実施により帰宅時間が早期化し、「早く帰れる日は家でご飯を食べる」という内食傾向が強まっている事が要因と考えられている。また、新規参入のプレイヤーとして食系フェスや高級冷食スーパーなどが登場し、競合の複雑化が進んでいるのが現状だ。

そのような状況の中、稲垣が注目したのは「この一年で飲食に予定外にお金をかけてしまったことがある」という人が63.5%もいたこと。回答から「限定品などの季節メニューがあったから」「予想以上においしかったから」「サービスがよかった」など、客単価を上げるためのいくつかの要因が見えてきたことを指摘し、「この調査結果が今後のヒントになる」と展望を語った。

外食産業の生産性向上における注意点とは?

続いて登壇したのは、ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリストの竹田クニ。「外食市場調査」の結果を踏まえたうえで、「外食産業は生産性を向上させること、つまりテクノロジーを導入していかに付加価値を創り出すかが課題」と主張。

これまで効率化や合理化といった「分母」ばかりに目が向けられてきた外食産業。しかし竹田は、今後は効率化や合理化だけではなく、付加価値向上や新規市場の開拓といった「分子」にも目を向けるべき、と指摘。これからの外食産業の在り方として、「テクノロジーを合理化や効率化に使い、人の力をマーケティングやクリエイティブ、接客力に用いて生鮮性の向上につなげていく」という手法が必要と訴えた。

三者三様のテクノロジーへのアプローチ

登壇したのは、ファミリーレストランチェーンとして日本の外食産業を長らく牽引してきた株式会社すかいらーくのマーケティング本部デジタルマーケティンググループディレクター・小林克明氏と、無添加・無化調を外食に広めることで価値の高い経営を推進する株式会社イタリアンイノベーションクッチーナ代表取締役社長の四家公明氏、そしてICT(情報通信技術)を戦略的に活用している株式会社ダイニングファクトリー九州男児事業部長の砂岡祐也氏の3人だ。

トップバッターとして、小林氏が口火を切る。株式会社すかいらーくは、近年ビッグデータを活用したマーケティングで成果を上げていることで知られる。「客単価を上げるのには限界がある。魅力的な商品の開発やエリアごとの販促戦略など行っており、成果を高めるためのテクノロジー、マーケティングアプローチを行っています。確実に利益につなげるプロモーションを行うことが大切」というのが小林氏の意見だ。

稲垣がセミナー冒頭で指摘したことと同様に、「外食に求められるものは何かということを追求する」ことが、今後のテーマだと小林氏。
ニーズが多様化する中、「いかにその人が求めているものを届けるか」という点に向けてデジタルツールを使用していくべきだろうと、小林氏はテクノロジーの活用法についての持論を展開した。

続いての話は、ミートソースの上に麺を乗せた『日本一おいしいミートソース』で知られる『東京MEAT酒場』などを経営する四家氏から。
四家氏は自身も料理人で、その経歴から、テクノロジーを食の安全・安心に用い、人々を健康に、そして笑顔にするという信条を持つ。「安全なものを使って楽しんでもらい、安全なものを使うことで人を幸せにするのが仕事」と言い切る四家氏は、安全・安心で、クオリティが変わらないものをどこでも提供できるようにするために、冷凍技術を積極的に活用している。
『東京MEAT酒場』名物の、麺を味わうためにミートソースの上に麺を乗せた『日本一おいしいミートソース』も、その技術の賜物だ。冷凍技術をうまく使うことで、どの店舗でも同じ味を再現できるではなく、調理時間の大幅な短縮、そして労働環境の改善にもつながっているそう。

最後は、顧客のニーズに合ったメニューをオススメできるようにICTを活用しているという株式会社ダイニングファクトリー九州男児事業部長の砂岡氏が、現状と今後の展望を報告。全国で100以上の飲食店を運営する同社がテクノロジーを活用するうえでポイントになっているのは、現場スタッフがタブレットなどを用いてデータを活用していることだ。
「一番の問題はICTを導入しても人が間違えては仕方ない。そうならないように進め、最近ようやく効果を実証できた」と砂岡氏は胸を張った。
他の業種と比べ、外食産業のテクノロジー導入が遅れているとされる要因の一つが現場スタッフへの教育に関する問題。砂岡氏はそこをクリアしたことになる。しかも、顧客満足度だけでなく、現場スタッフの満足度も上がったというのだから、まさに一挙両得の結果。
「データを見ることで、マネジメントする立場の人がどんどん育っていくように進めたい」と今後の目標を語った。

三者三様のテクノロジーへのアプローチを聞いた竹田は、生産性といえば合理化や効率化という話になってしまいがちだった外食産業に対し、「そろそろその議論に終止符を打たなければ」とし、この日登壇した3社のテクノロジーの利用方法について「まさに三者三様」と評価。
顧客データを分析、レビューすることや、手作りでは難しい味の再現や料理時間の短縮の実現は、テクノロジーを生かしてこそできること。これまで手作業では時間がかかり過ぎてできなかった部分を、テクノロジーを用いることで効率的に済ませ、その分人の力を付加価値向上や新市場の開拓に費やす。このように「分母」をテクノロジーに任せ、「分子」を人の手で向上させていくことこそが、新しい時代の生産性の上げ方だといえる。今回登壇した3社のような知見を世に広めていくことを通して、今後も外食産業の生産性向上に対して力になっていきたい。

竹田邦弘

竹田 邦弘ホットペッパーグルメ外食総研  エヴァンジェリスト