まずは見てくださいよ、この美女!
2014年に公開されたジョージ秋山原作の映画『捨てがたき人々』で熱演を見せ、報知映画賞で主演女優賞にノミネートされた実力派女優・三輪ひとみ。
『D坂の殺人事件』(実相寺昭雄監督)、『呪怨』(清水崇監督。一番ヤバイと言われるビデオ映画版)、『発狂する唇』(佐々木浩久監督)など、これまで主演、出演したホラー映画、カルト映画は数しれず、“和製ホラークイーン”の名を欲しいままにした彼女が、なんと1人で切り盛りする完全予約制の隠れ家的なお店が赤坂にあるのだという。しかも、飲食店激戦区の赤坂でつい先日3周年を迎えたというのだから驚きだ。
はたしてどんなお店なのか? 本当に美しき女優さんとお店で会えるのか? そして噂になっている“夜の定食”とは何なのか?
さっそく予約を入れて伺ってみた。
赤坂といえばコモエスタ赤坂。昭和の時代は、料亭、キャバレー、ナイトクラブなどが並ぶ高級な繁華街というイメージが強かったが、現在はさにあらず。赤坂サカスを筆頭に、カジュアルに飲食を楽しめる街へと変貌した。まずはTBSの巨大な建物に背を向けて、ネオン街へ向かおう。
外堀通りの方に向かい、赤坂みすじ通りを右折して進む。左側には韓国料理店が密集する「赤坂リトルコリア」があるが、今夜はスルー。
みすじ通りの突き当たりに、いなせな階段がある。写真は明るいが、実際はもっと暗い。ちょっとコワイかもしれないが勇気を持って登っていこう。
ネオンがほとんどない赤坂のマンション群を縫って歩く。と、突然お店の気配が……。
ついに発見!
こちらが女優・三輪ひとみさんの店「Bonne eau 煩悩」。“Bonne eau”も“煩悩”も“ボンノウ”と読む。ホラークイーンらしいダークで妖しい店の名前だ。赤坂駅から徒歩にすると10分足らずだが、初めての方は住所のメモとGoogleマップがマストだと思う。
お店に入ると、いきなり出迎えてくれるのが、足! 血まみれの足! さすが和製ホラークイーン……。
「いらっしゃーい」と気さくに迎えてくれたのは、三輪さんご本人!
おお、お美しい……。
スタッフがいた時期もあったが、現在は1人で切り盛りしているとのこと。ちなみに完全予約制にしているのは、敷居を上げるためというわけではなく、女優のお仕事で店に来られない日があるためなのだという。事前に電話で連絡すれば、当日でも大丈夫とのこと。
こちらが店内。カウンターのみのバーなどではなく、ゆったりとしたラウンジ。店内のそこかしこに三輪さん好みの小物やインテリアが置かれている。赤坂でこんなにゆったりとリーズナブルに飲める場所はそんなにないような気がする。
僕「じゃ、とりあえずビールください!」
三輪さん「は~い。銘柄いろいろありますけど、何がいいですか?」
僕「あ、おまかせします」
……というやりとりの後、ドン! と出てきたのが
サタンビール!
ギャー! でも、実は軽めの飲み口でスパイシーかつフルーティーなベルギービールなのだ。キンキンに冷えていてうまい!
ほかにも「ギロチン」や「ルシファー」など凶々しい名前のビールがメニューに。もちろんエビスやヒューガルテンなど「自分の好きなおいしいお酒だけ揃えているんです」とのことで、定番ビールもアリ。
お店を始めたきっかけについて、「お酒が好きだったからです!」とキッパリ言い切る三輪さん。
一番好きなお酒はラム。海賊がよく飲んでいるアレだ。
「ブランデーよりも飲みやすくて、ブランデーのように香りも立つし、甘味もあるし。水割りでもソーダ割りでもおいしいですよね」
三輪さんがそうおっしゃるならおいしいに決まってます!
こちらで手にしているのは、ジャマイカラムの「CORUBA」(左)とテキーラの「ORTIGOZA」。どっちもアルコール度数は軽く40%超え。
その他、ウィスキー、日本酒、ワインなども豊富に取り揃えている。
そんなお酒好きの三輪さんだったが、あるとき、このビルのオーナーに「店が空いてるからやってみたら?」と言われて、「じゃ、やってみちゃおうかな!」と店を出すことになったそう。ちなみにビルのオーナーとは俳優の瑳川哲朗さん。『大江戸捜査網』の井坂十蔵役や『ウルトラマンA』の竜五郎隊長役でおなじみの名優だ。
「お酒のお店だから、水に関係のある名前がいいと思って、フランス語で“おいしい水”という意味の“Bonne eau”に決めました。書いてみたら“煩悩”とも読めるじゃないですか(笑)」
煩悩とは欲望という意味でもある。明るく健康的でないところがすばらしい。夜にしっとりとお酒を飲む店は、やっぱりちょっとダークな雰囲気がほしいものだ。
「お店の中は、すべて私の脳内世界です。ゴシックと大正ロマンをかけあわせた感じですね」
店内のインテリアや小物などのセレクトは、出演してきたホラー映画や、愛読してきた江戸川乱歩の世界なども反映されている。印象的な赤い緞帳は、乱歩の「赤い部屋」のイメージだろうか。なお、三輪さんは『D坂の殺人事件』で小林少年役(美少年!)を演じている。
現在、定休日以外は、ほぼ毎日お店にいるという三輪さん。女優業との両立が本当に大変だったそう。
「もう3年も経つのよね~。自分でもびっくりです」
三輪さんにオススメのお酒を出してもらったところ……出てきたのが沖縄の津嘉山酒造の泡盛「国華」。全国で唯一、重要文化財に指定された蔵元なのだそう。これ1本で、なんと30万円! 「Bonne eau 煩悩」ではグラス9,000円で提供している。フトコロに余裕がある酒好きは、ぜひ挑戦してほしい。
とはいえ、料金は全体的にリーズナブルだ。お酒を2、3杯飲んで、ちょっと食べてもトータル5,000円ぐらいで収まるのだから都心のちょっとしたバーよりも安いと言える。
「そんなに高くないのにな~、といつも思うんですよ(笑)」
それほど料金のことを気にせず、ゆったりしたソファーで落ち着いて飲める店は赤坂では希少だろう。
これは10数年前に撮影した雑誌用のカット。チェーンソーがよく似合う!
三輪さんの接客もフレンドリー。見てみ、この笑顔。
ファンの常連もいるが、映画を観て初めて来店する客もいたり、近辺で働いている人が来たりと客層はさまざま。三輪さんの女優という仕事柄、あるいは場所柄もあり、業界人が少々多めかもしれない。
最近は「実験室」という名の音楽やワイン、カレーなどについてのイベントも行っている。今後は落語会なども考えているとのこと。
「このお店は、私の興味を満たす場所なんですね。やってみたい! と思ったことを実現させていく場所なんです」
なお、イベントなどの折には、庵野秀明監督『ラブ&ポップ』に主演した実妹の三輪明日美さんも手伝いに訪れることがある(先日の3周年イベントにも来店していた)。
さて、小腹もすいたところで、噂に聞いていた“定食”をオーダーしてみる。
「は~い、煩悩定食ですね。ありがとうございます!」
さっそく調理にとりかかる三輪さん。一線で活躍する女優さんの手料理が食べられるお店なんてめったにあるまい。
野菜は長野の実家にある畑から定期的に収穫してきたものが中心。三輪さんのFacebookには収穫の模様もアップされる。
「このピーマン、小さいでしょ? こういう種類なんだって!」
メインのお肉も調理中。メニューは日替わりで、この日はチキンソテー。
手際よく完成! アツアツです。
ポイントは手作りのオニオンソース。甘くて辛くて酸っぱくて、チキンによく合う。
ごはんとサラダをつけて、「煩悩定食」一丁あがり。ボリュームはばっちり。この日はほかに家庭菜園で採れたミニトマトがついた。何もつけなくても甘い! ペロッと完食。
お店で定食メニューをはじめたきっかけは、来店したお客さんにアルコールが飲めない人が少なからずいたからだという。
「アルコール以外のメニューもありますけど、せっかく来ていただいたわけですし、ガッツリめの定食メニューがあれば食べていっていただけるかな、と思ったんです」
もちろん、メニュー作りも食材選びもすべて自分で行っている。こだわっているポイントは、「お野菜も食べられるようにバランスよく」。「外で食べると、どうしても偏っちゃいますからね。家庭で食べる夕ごはんの気分で食べてくださいね」という言葉に愛を感じる。メニューによって料金も変わるが、この日は1,500円。やっぱりリーズナブルだ。
「こういう人と知り合いたいな、と思っていると、お客さんのどなたかが連れてきてくだって、いつの間にか知り合いになれたりするんです。そういうとき、お店をやっていて良かった! と思いますね。あと、お店をはじめてから社交的になったと言われました。ウフフ」
「Bonne eau 煩悩」は都心の非日常な空間で、くつろぎながらお酒と食事を楽しめる店。三輪ひとみファンならずとも、一度足を運んでみるのもいいと思う。
なお、三輪さんの最新出演映画『海難1890』(田中光敏監督。日本・トルコ合作)は2015年12月、全国東映系で公開予定。要チェック!
お店情報
Bonne eau 煩悩
住所:東京都港区赤坂2-16-6 赤坂TKビル1-R
※このお店は現在閉店しています。
※飲食店の掲載情報について。