【舌対音感】第6回:真城めぐみ【俺が愛したローカルフードたち】

f:id:hotpepper-gourmet:20160308114757j:plain

「旅をしない音楽家は不幸だ」という言葉を残したのはモーツァルトだが、では、旅する音楽家の中でもっとも幸せなのは? それはやはり、その土地土地ならではの旨いものを味わい尽くしている音楽家ではないだろうか。そこで! ライブやツアーで各地を巡るミュージシャンたちに、オススメのローカルフードや、自分の足で見つけた美味しい店を伺っていく連載企画。

第6回は、ヒックスヴィルのヴォーカリストで、小沢健二、田島貴男、畠山美由紀、NONA REEVESなど、数多くのアーティストの作品やライブのコーラスとして引っ張りだこのシンガー、真城めぐみさん。ツアーで各地を回ることが多い真城さんは、旅先でレトロなパンを探して食べるのが好きなのだそう。一風変わった、しかし目からウロコな旅の楽しみ方を語ってくださいました。

 

話す人:真城めぐみ

真城めぐみ

1989年、ロッテンハッツに参加。1994年の解散後、メンバーの木暮晋也、中森泰弘とヒックスヴィルを結成、現在まで活動中。また、コーラスとしてさまざまなアーティストのレコーディングやコンサートにも参加。2015年には、ザ・クロマニヨンズの真島昌利、ヒックスヴィルの中森泰弘と新バンド「ましまろ」を結成し、1stアルバム『ましまろ』をリリース。さらに八橋義幸との新ユニット「Yoshiyuki & Megumi」では、11月27日にミニアルバム『Echoes In Winter』をリリース。

 

ローカルで昭和から続く「ご当地パン」に惹かれて

──真城さんはツアーなどで地方へ行かれた際に、その土地土地で菓子パンを買って食べるのがお好きだそうですね。

「まあ菓子パンに限らず、パンは全体的に好きなんですけどね。やっぱり地方ってレトロなパンが残ってるんですよ。昔からある町のパン屋さんの、昭和の感じが残ったパンが好きでね。たとえばコッペパンにピーナッツバターやジャムを挟んで売ってるような、そういうパンに昔から異様に惹かれてたんです。だから、ツアーに行く前に調べて、会場やホテルの近くにあるのを見つけると、午前中から買いに行ってみたり。店構えはボロボロなんだけど、地元の人が自転車乗ってじゃんじゃん買いに来るような店があったりするもので、気がつくと2千円分ぐらい買ってるんですよ。他に誰かが食べるわけでもないのに(笑)」



──愛情の深さが伝わってきます(笑)。

「最近のブーランジェリー?っていうんですか。そういうオシャレな店とか、カウンターの外から欲しいパンを頼んで、まるで宝石でも扱うかのように取ってくれる感じのお店とかね。それはそれでいいんですけど、私はトングとトレイを持って、わざわざ焦げたところがついてるパンを自分で取りたいのに! って思うタイプだから、ちょっとさびしいんですよね。だから、旅先で昔ながらのパン屋を見つけると嬉しくなっちゃうんです」

 

──たとえば真城さんのお気に入りのパン屋さんを、いくつか教えていただけますか?

「お店自体の歴史は古いのかどうかわからないけど、岩手県・盛岡にある〈福田パン〉はいいですね。ここはコッペパンにいろんなものを挟んでいくスタイルなんですけど、組み合わせが無限大なんですよ。ジャムやピーナッツバターはもちろん、あんこだけでも何種類かあってね。他にもツナ、チーズ、カツ、コンビーフ、スパゲティ、ハンバーグ……たくさんある具材から、好きな組み合わせで挟んでくれる。ここは有名だし、ミュージシャン仲間からも人気が高いです」

f:id:Meshi2_IB:20151108174851j:plain

 

──ちなみに「福田パン」で、真城さんが好きな組み合わせは?

「私はコンビーフとチーズ、あとはあんバター。必ず2本は食べますね。1本がかなり大きいんですけど、パン自体ももちっとして美味しいし最高なんですよ!」

 

──聞いてるだけでヨダレが垂れてきそうです(笑)。

「あと、滋賀にある〈つるやパン〉のサラダパンも有名ですね。コッペパンの中にマヨネーズであえたたくあんが入ってる。こういうルックスのパンは最強ですね」

 

──パンにたくあんですか! それは珍しいですよね。

「他にも岡山〈木村屋〉っていうパン屋には、バナナクリームロールっていうのがあって。本物のバナナが入ってるわけじゃなくて、バナナ風味のクリームが入ってるだけなんだけど、それも好きですね。岡山へライブの仕事で行くと、お客さんが毎回15本ぐらい差し入れに持ってきてくれて。本当にありがたいんですけど、帰りの車内がバナナ臭に包まれるっていうね(笑)」

 

「たぬきケーキ」は見かけたら絶対に買う

──パンの話になると、とまりませんね。

「あと、広島にある〈タカキベーカリー〉。ここは最高ですよ。たしかアンデルセンのグループだと思うんですけど、一番好きなのはバターランチっていう、ちょっと甘いロールパンの中にバタークリームが挟まってるパン。広島行った時には2軒ぐらい回って、スーツケースに入るだけ買って帰りますもん。やっぱりね、自分が美味しいと思うパンを人にあげたいんですよ、私は。『もしかしてお腹空いてるの? じゃあこれ食べなよ~』ってカバンからパンを取り出してプレゼントしたり。一時期はパンおばさんって呼ばれてたぐらいですから(笑)。最近はあまり有り難がられなくなっちゃったけど」

f:id:Meshi2_IB:20151108175038j:plain

 

──それにしても、都内ではなかなかそういうローカル色の強いパンって見かけないですよね。

「今や地方でも、コンビニにはこういうご当地パンって置いてないんですよね。全国にチェーン展開してるコンビニでも、昔は地元で作ってるパンも少しは置いてたんだけど、今はそのコンビニのラインで作ってる、ちょっとしゃれた感じのしか置かなくなっちゃった。だから狙い目なのは、駅や空港の売店。そういうところには、まだご当地パンは売ってますね。あと、町の洋菓子屋さんで売ってる、おしゃれでもなんでもないケーキとか探すのも好きですね。バタークリームのケーキを見かけたら、なるべく食べるようにしてるんです。中でもたぬきケーキは絶滅しかかかってるから、見つけたら絶対に買いますね。たぬきケーキっていっても、今の若い人はなかなか知らないかもしれないけど」

 

──スポンジの上にチョコがコーティングされていて、たぬきの顔がデコレートされた可愛らしいケーキですよね。たしかに、昔は都内はもちろん、いろんな町にあったと思います。

「私は自分のおばあちゃんが住んでる松本に有名なたぬきケーキのお店があったから、自分にとっては当たり前のものだったんですけどね。中には現存するたぬきケーキを食べ歩いて、Zineを作ってる方もいらっしゃるぐらい、たぬきケーキ愛好家っているんですよ。こういうケーキを売ってるお店って、城下町に意外と多いんですよ。和菓子と洋菓子を一緒に作ってる老舗の店とかね」

 

おせっかいだから人にあげたいし、感想まで求めちゃう

──パン屋さんや洋菓子屋さん以外に、真城さんが地方に行った時に行く場所なんかはあるんですか?

「地方にツアーに行くと、その先々にある地元のスーパーには必ず行きますよ。とくに調味料とか常備菜のコーナーって、その土地土地の個性が出るんです。それを覗くのが大好きですね」

 

──たしかに、知らない街のスーパーの棚を覗くと、聞いたことのないブランドの醤油とか売ってたりしますよね。

「そうそう。たとえば地方のメーカーが、小さいボトルでだし醤油とかいっぱい出してるんですよ。そういうのを探すのが楽しいんです。お土産にするにも手ごろじゃないですか? 私は、九州に行くと必ず味噌を買うんですよ。帰りの荷物がものすごく重たくなるんだけど、2、3個買って帰っちゃう」

f:id:Meshi2_IB:20151108175527j:plain

 

──なんかセレクトショップのバイヤーさんみたいになってますね(笑)。

「前に、ツアーで行った会場のすぐ隣にスーパーがあったので、ライブが終わって味噌を買いに行ってたら、観に来てくれたお客さんから『今日よかったですー!』なんて声かけられちゃってね」

 

──さっきまでステージにいた人が、味噌抱えてスーパーのレジに並んでるとは思わないですもんね。

「その時はさすがに、夢がないところを見せてはいかんな、とも思いましたね(笑)。関西行ったら昆布とか佃煮は買って帰るし……大阪で好きなお店は、スーパーじゃないんですけどおきな昆布大阪に行ったら必ず買って帰るし、お取り寄せたりもしてます。そうやっていろいろ買うのも、どっちかっていうと、自分が食べるよりも、人にあげる分とか田舎の母親、あと母親の友達の渡す分とか、そういう用途でいくつも買うのが楽しいんですよ。何しろおせっかいなもんで、自分が好きなものを人にあげたくなっちゃう。

作家の向田邦子さんもそういう気質だったみたいで、エッセイを読むと同じようなことが書いてあるんですね。向田さんは、お土産にいただいたものとか、食べて美味しかったもののラベルや包装紙を全部取っておいて、今度は自分が地方に行った時に自分で買ってみるっていうことを習慣になさってて。読んですごく共感するし、こういう楽しさって、たしかにあるんですよね」

 

f:id:Meshi2_IB:20151108174557j:plain食べ物、料理に関する愛読書も数多い


──たしかに、すごく素敵な趣味だと思います。

「で、向田さんは、おせっかいで勝手にお土産を買ってきて人にあげて、後から『美味しかった?』って何回も聞くんですって。それも、どういう風に美味しかったかをちゃんと伝えてもらわないと満足しないって。そこらへんもなんか自分と似てるなぁ~って思ってね(笑)。

私も『アレ食べた?』って、実際にあげた人が食べるまで質問し続けますからね。家族に対しても同じことやってるんで、今やおみやげを買ってきても全然喜ばれなくなって(笑)。あとはたまにあるのが、テレビを観てる時に、地方の隠れた名物みたいなのが紹介されると、家族が『あっ、これ美味しそうだね!」とか言ってくるんですよ。でも、だいたい『それ、何年か前に一度買ってきたやつだよ』っていうね。買ってきてあげたことも、全然覚えてなくて腹が立つんです(笑)」

 

──地元のパン屋さんやスーパーのように、旅先であえて生活の匂いを感じられる場所へ行って、その土地土地の生活習慣や特色を楽しむというのは、ちょっと目からウロコが落ちるような旅の楽しみ方だと思いました。

「そうそう。非常にお金がかからない、旅の楽しみ方ですよ。ただ、帰りの荷物はかなり重たくなっちゃいますけどね(笑)」

 

撮影:松木雄一

 

書いた人:宮内健

宮内健

1971年東京都生まれ。ライター/エディター。『バッド・ニュース』『CDジャーナル』の編集部を経て、フリーランスに。以降『bounce』編集長、東京スカパラダイスオーケストラと制作した『JUSTA MAGAZINE』編集を歴任し、2009年にフリーマガジン『ramblin'』を創刊。現在は「TAP the POP」などの編集・執筆活動と並行してイベントのオーガナイズ、FM番組構成/出演など、様々な形で音楽とその周辺にあるカルチャーの楽しさを伝えている。

過去記事も読む

トップに戻る