「松茸は東京で買うと高いけど、産地で買うと安い」 そんな話を聞いたことはないだろうか?都内のスーパーであれば、海外産でも1000円以上、国内産であれば1万円以上の値段で販売されていることも珍しくない松茸。
今回、たまたま10月上旬に岩手に行く機会があり、岩手も松茸の産地だったことを思い出し、「現地で食べれば松茸が安いのではないか?」そんな考えが浮かんだ。
岩手県の沿岸中部にある山田町の松茸を出す居酒屋に電話をしてみると、岩手に行く時期には松茸が取れるらしい。その情報を信じてお店に行ってみることにした。
地元のお店の松茸がめちゃくちゃ安い
目当てのお店に行く前に、町のスーパーで松茸を見てみた。大きなものになると2万円ほどのものが売られていたが、最も安いものは衝撃の500円台だった。「エッ、これ輸入ものじゃないの……」とも思ったが、パッケージには山田町産の文字が。収穫される松茸の中には、虫に食われているものもあるらしく、そういったものは食われた部分を取って、欠けた状態で販売したり、松茸ご飯、干し松茸などの加工品として売られるらしい。なるほど、それでこんなに安い値段で売っているわけか。
これだけ安ければ、飲食店で食べてもかなり安い値段で食べられそうだ。
目当てのお店、初音へ
スーパーで買う松茸も安いが、旬の時期にはお店でも松茸を手頃な値段で食べられるとの情報を聞きつけて、町の居酒屋「初音」へ。このお店は地元の魚や野菜が食べられる居酒屋らしい。
カウンターは常連の人で賑わっていた。座敷の人の話を聞いていると、震災の仕事で来ている人も多くいるようだった。
焼き鳥やおつまみ、山田町で取れた魚や鳥などが主なメニュー。店長の佐々木さんに話を聞くと「うちはほとんど地元のものを使っている」とのことだった。
地元産の白身魚、マグロ、イカの刺身などどれも新鮮でおいしい。
鶏も地元のものを使っている。鶏の焦げた香り、自家製のタレ、大きめに串刺しされた鶏。家では味わえない居酒屋の味だ。
目当ての松茸を食す
続いて、目当てにしていた松茸を注文。山田町で収穫されたもので、とても大きい。すだちのサイズを見ても、どれだけ大きいか分かるだろう。山田町は環境にも恵まれ、岩手県内でも有数の松茸の収穫量を誇るそうだ。
カボスをひと切れ載せた状態で松茸の土瓶蒸し(1000円)がやってきた。
土瓶蒸しの蓋を開けると、ふわっと松茸の香りが。大きく切られた松茸がたくさん入っていた。
鶏やエビなどの出汁も効いているが、なんといっても主役は松茸の香り。大きいので歯ごたえもしっかりとある。これをわざわざ食べに行く人がいるというのも納得だ。
初音の歴史
初音は約45年前山田町にオープンした。店長の佐々木さんは、東京や横浜の和食店で15年ほど働き、1975年からこの地で居酒屋を営んでいる。
このお店の歴史を語るうえで避けることができないのは2011年の3月11日。当時人口1.8万人ほどの小さな町を地震と津波が襲い、824名もの死者・行方不明者(2021年11月現在)を記録した。
昔営業していたお店は流されてしまい、今は残っているものはなにもないという。震災後約6か月間はお店を再開できず、プレハブでの営業など2回の移転を経て、新しい場所にお店を出店した。苦労があった中でお店を再開した理由は、地元の人の声があったからだという。
お店や町のこれから
山田町の海沿いを歩くと巨大な防潮堤がいたるところに見られ、真新しいショッピングモールがある一方で、空き地などに震災の爪痕が感じられる。初音はどういうお店でありたいかとお聞きすると、佐々木さんは「地元の人に愛されるお店にしたいと」答えた。
山田町のまちなか交流センターにある「山田町震災伝承ギャラリー」では当時のことを詳しく知ることができる。静かに、着実に復活している街を歩きながら、初音に訪れてみるのいいかもしれない。
※新型コロナウイルスのため公開が遅れ、撮影は2019年に行いました
※松茸は収穫時期限定です。また、シーズン中でも天候状況により入荷がないこともございます。