メシ通読者の皆さんは、世界最古の花街である「島原」をご存知ですか?
京都の玄関口、JR京都駅のひと駅となり、JR丹波口駅から南東に歩いて10分ほどにある地域で、かつては老若男女が楽しめる遊宴の街として発展しました。
幕末には新選組の隊士たちもよく島原に通っていたと言われています。
▲当時の面影をそのままに残す島原大門。かつてはここが島原の入り口でした
江戸期はずいぶん栄えたそうですが、次第に衰退し、現在は住宅街となっています。しかし、島原大門やいくつかの古い建物は、当時を忍ばせる建築物として残っています。
こちらの建物もそう。
本日メシ通読者の皆さんにご紹介するのは、揚屋としてつくられた「きんせ旅館」です。
「え、『メシ通』なのに旅館の記事?」と、読者の皆さんの声が聞こえてきそうですが……、よ~く見てくださいっ!
看板には「CAFE and BAR」の文字が!
きんせ旅館は、1階がカフェ&バー、2階が1日1組限定の宿として営業されているんですよ。2階の宿泊客は9割が外国人の方なんだとか。京都の風情を求めてやって来るそうです。1日1組限定なんて、なんだかVIPですねえ! 機会があれば私も泊まってみたいものです。
さてさて揚屋って、一体どんな建物だったんでしょう? Wikipedia先生は「揚屋(あげや) は、江戸時代、客が、置屋から太夫、天神、花魁などの高級遊女を呼んで遊んだ店」とおっしゃってますが、どんな中身なのか気になる!
早速店内に入ってみましょう!
美しすぎる、揚屋の空間美!
玄関を抜けると、欄間に鳳凰(ほうおう)、正面に牡丹のステンドグラスがお出迎えしてくれます。あまりの美しさに思わずため息が出てしまいます。
床には大小さまざまなタイルが敷かれ、色とりどりで豪華なたたずまい。当時の太夫さんやお偉いさんがここを通ったと思うと、ワクワクしてきますね。金色の鹿が置かれていても違和感のない空間、ここしかない!
が、
うっとりするのはまだ早い!
ガチャッ。(扉オープン!)
お、
おっっっしゃれ~!!
外観の印象とは違い、内観は意外にも西洋風。優美で上品な空間です。ランプやシャンデリアがかかっているのに、建築は木造というのが独特ですね。あれ、いまって平成27年だっけ。明治初期かなにかの間違いでは……。
と、私が混乱するのも無理はありませんでした。この建物の基礎と外観はなんと推定築年数250年。2015-250……、1765年っ!? 明和2年、なんと江戸時代に建てられたものなんです。明和の頃と言えば教科書で必ず載っている、江戸幕府の老中、田沼意次なんかが生きていた時代。
すごすぎて「すごい」しか言葉が出てきません。月並みでごめんなさい。
▲内装は大正後期~昭和初期に改装されています。だから店内が洋風なんですね
ビロードの椅子に飴色のテーブル。シャンデリアの光が店内に反射して……ああ、究極のうっとり空間。250年分の歴史の重みがただよっています。それにしても、なぜこんな昔の建物をカフェに? 店主さんにお話をうかがいました。
渡米をきっかけに、きんせ旅館の価値を実感
──なぜ旅館をカフェにしようと思ったのですか?
もともと旅館を営業していたのが僕のひいおばあさんだったんです。僕は東京生まれ、東京育ちだったこともあり、僕も家族もこの建物にほとんど関心がありませんでした。しかし旅館が休業になり、物置場と化していたこの場所を文化交流の場として活用したいと考え、2009年にリノベーションしました。
──この建物に思い入れのなかった店主さんが新しく生まれ変わらせようと思ったのには、どんな理由があったんでしょう。
20代の後半でアメリカに行ったのが大きな転機でしたね。外国で生活することで、きんせ旅館の建築物としての重要さがはじめてわかり、『保存しなければ』という気持ちに変わったんです。それから京都に移住し、2年かけて物置だった旅館をきれいにしました。
──なるほど~。ではアメリカに行かなければ、この建物は今頃なかったのかもしれないんですね。
店主さんいわく、家具や床などもともと建物にあったものはできるだけ残しているそう。壁が少しはがれたりしてしまっているのもの、「古い方が雰囲気が出る」という理由で、あえて全部をリノベーションせず、そのままにしているみたいです。
あちこちにいる猫たち
いろんな調度品に目を奪われながら店内を見回していると、目に止まるのがあちこちにある猫の置物。これは一体……?
ひいおばあさんが猫好きだったようで、物置の中にあった猫の置物をいくつか店に並べてみました。お客さんがそれを見て“僕が猫好き”と思ったのか、たくさん猫の置物をプレゼントしてくださるようになったんです(笑)。そんなこともあって、店内の猫の置物が徐々に増えていきました。
古いものも新しいものも、いろんな猫が店内にはひそんでいます。何匹いるのか、数えてみるのも楽しいかも。
縁側に置かれているのは、店内で行われるコンサートのための音楽機材。多いときで月4回コンサートが行われるそうです。コンサートの予定はお店のTwitterアカウントをご確認ください。こんな素敵な空間の中で音楽に耳を傾けながらお茶をする……とってもステキな気分になれそう!
歴史ある建物だけど、ラフでOK!
私はこのような場に慣れていないので、こうしてソファーに座っているだけで緊張の嵐。「もっとオシャレせんとあかんかったか!?」とか、「私みたいな田舎もんがこんな場所にいてええのんやろか……」とか。なんだかソワソワしちゃうんですけど……。
リラックスしてご利用していただいて大丈夫ですよ。僕たちスタッフも暑いときは半ズボンを履いたり、足下はビーサンだったり(笑)、ラフな格好で接客しています。お客さんは本を読みながらまったり過ごされる方や、観光でいらっしゃる方など様々で、それぞれがご自身の楽しみ方をされています。
店主さんにそうおっしゃっていただけると安心! それでは、カフェタイムを心置きなく楽しみたいと思います。
空間美に酔いしれながら、格別の一杯を
カフェのコーヒーは、「IWASHI COFFEE」のマスター、真下さんが焙煎した豆を使用。もともと別の場所に焙煎所があったのですが、引っ越し場所を探していたところ店主さんが誘致。現在はきんせ旅館の入口横で毎日コーヒー豆を焙煎しています。
▲フォトジェニックな焙煎所
▲コーヒー(500円)
同じ店内で焙煎された豆から淹れたコーヒーをいただけるなんて、コーヒー好きにはたまりませんね。レトロなカップもおしゃれです。やっぱりこの雰囲気で飲むコーヒーは特別! おしゃれなカップを持つ手が震えました……。
うろたえっぷりで、どれだけ毎日オシャレな空間に行っていないかがよくわかりますね。私はキョドってましたが、コーヒーは爽やかな酸味が舌に抜ける、なんとも味わい深い味でした! 美味!
▲ハイボール(600円)
ビールにワイン、ウィスキーなどお酒のメニューも豊富。リノベーションの際に新しく設置したというカウンター席で夜を過ごすのもいいですね。ムード満点なのでデートにもいいかもしれません。
ようやくリラックスして、ぼんやりソファに座っているうちに日が傾いて、窓からは少しずつ夜の気配。ガラスの向こうに広がる薄藍が、店内の明里をより引き立てて……幻想的な光景に、最後は夢の中にいるような気持ちを味わいました。
そこにいるだけで感じることができる長い歴史に、店主さんが吹き込む新しい時代の風。京都の“昔”と“今”を知りたいなら、是非きんせ旅館に足を運んでみてください! きっと、京都という街が歩んできた時間を体感できる、ひと味違ったカフェタイムを楽しめます。レトロ建築マニアも垂涎確実!
超オシャレ空間で、すこし大人になったライター川上がお届けしました!
店舗情報
きんせ旅館
住所:京都府京都市下京区西新屋敷太夫町79
電話番号:075-351-4781
営業時間:お電話か、きんせ旅館twitterをご参照ください。
※本記事は2015年9月の情報です。