【食べる温故知新】イナダシュンスケ氏が手がけた岐阜「円相 くらうど」で郷土料理の最新形に触れてきた

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今回のテーマは、岐阜めしです!

 

岐阜駅前の新店「円相くらうど」

岐阜県、行かれたことありますか? まずは位置を確認しましょう。

名古屋のすぐ上なんですね。横隣は長野福井

県の人口は約200万人で、県庁所在地は岐阜市。日本のほぼ中央に位置しています。

 

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で、いきなりですがJR岐阜岐阜のうまいもんをギュッと集めた居酒屋さんが近くにあるんですよ。

 

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駅隣接の商業施設「ACTIVE G」の2階に、

 

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そのお店はあります。のれんに岐阜の酒とつまみとめしがあるよ」とシンプルに示されていますね。

 

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「円相 くらうど」(えんそう くらうど)が店名で、昨2017年の12月4日にオープンしたばかり。

 

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入り口脇に並ぶは岐阜の日本酒。酒好きホイホイな光景でさっそく飲みたくなりますが、まずはお店のかたにお話をうかがいましょう!

 

手がけたのはイナダシュンスケ氏

いざ店内に入ると、

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オープンして間もないお店独得の、清新な雰囲気。

そして出迎えてくれたのが……

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お店を経営する円相フードサービスの専務取締役、稲田俊輔(いなだしゅんすけ)さん。名前を聞いて「あれ……?」と思う方もいるでしょうね。

そう、ツイッターでも知られたイナダシュンスケさん、その人。東京名古屋で話題の南インド料理店「エリックサウス」のプロデュースや運営を手掛けるかたわら、世の食全般に対するするどいコメントを日々発信されています。

 

 

 

イナダさんの名が一気に知られたサイゼリヤ考察のブログがこちら

inadashunsuke.blog.fc2.com

その稲田さんが「岐阜食に特化したお店をつくった」と聞き、「こりゃあ行ってみたい!」と駆けつけたわけです

 

インド料理店のノウハウを活かす

まずは稲田さんに、お店の成り立ちからうかがってみましたよ。

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稲田:去年(2017年)の夏、このビルで県内の地酒イベントがあったんです。いろんな蔵元さんが集まって、1カ月間におよぶイベントだったんですが、終了後の打ち上げで『こういうお店が常設であったらいいね』と、ビル側のかたから声があがったんですよ。

 

── こういうお店というのは、岐阜の酒をあれこれ楽しめるお店、ということですか?

 

稲田:そうです。そうしたら、蔵元さん達もすごく乗り気で。実際にやってくれないか、とビル側から依頼があったのはその年の秋でした。

 

── とんとん拍子ですね!

 

稲田:はい。そして岐阜の地酒を楽しむお店なら、フードも岐阜のものであるべき。岐阜の色に染めたお店にしよう』とコンセプトはすぐに決まりました。

 

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▲「円相 くらうど」の日本酒リスト。常時、岐阜県産の20銘柄以上が並ぶ。キャプションが的確で読むのが楽しい。※写真の価格は税抜

 

── 秋に計画が始動して12月4日にオープン……けっこう急ですよね。すでに一号店があるお店ならともかく。“岐阜めし”といってもいろいろでしょうが、メニュー決めは難航しませんでしたか?

 

稲田:それが、実にスムーズにいったんです。インド料理店でやってきたノウハウをそのまま活かせたんですね。

 

── と言いますと?

 

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稲田:インド料理なら『インド料理』と聞いてみんながイメージする、キャッチーなものをまず配置する。それらがある程度配置されて全体にキャッチーな感じになったら、今度はすごく狭い、ニッチなものを放り込んでいくんです。

 

── ほ、ほう……!


稲田:ニッチといっても、それだけではいけない。みんなに好まれる可能性のあるものを選びます。『たまたまマイナーなままで終わっているけど、広めたら気に入る人絶対いっぱい出てくるよ!』と思えるものを。

 

味わい深い岐阜の郷土料理

── では実際のメニューで、ニッチな岐阜めしとはどれになるんでしょう?

 

稲田:まずこれですね。

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▲いももち 生姜醤油(450円/税抜)

 

── お、北海道にも同じ名前の料理がありますよね。ジャガイモをつぶして焼いた素朴な料理。

 

稲田:岐阜のは里芋をふかして、うるち米とつき混ぜるんです。恵那地方(県の南東部)の、ごく狭いエリアで食べられてきたもの。女性に人気が出るだろうな、と食べてすぐ思いました。ひとついかがですか。

 

── 醤油が香ばしくて、表面がカリっとしていていいですねえ。スナック的にもなるし、酒好きも好みそうだ。

 

稲田:地元の岐阜県人から『知らなかったなあ』とよく言われます。もともと里芋がとれるところではよく作られていたようなんですがね。続いて、うちの前菜盛り合わせです。

 

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岐阜もの八寸(900円/税抜)

 

稲田:赤カブ漬けやニジマスの甘露煮、こも豆腐(豆腐をすのこで包んでから煮て作られる、飛騨地方の郷土食)など、ひとつひとつはとても地味なもの。しかし盛り合わせにすることで、華やかさが出る。

 

── ちょっとずついろいろ、はうれしいですよね。甘酢漬けや甘露煮(醤油と砂糖類でしっかり甘めに煮つけたもの)は保存の意味から生まれたものだけど、それが酒飲みにはたまらない味わいですし。

 

「ルーツ」を想像する面白さ

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稲田:これ、八寸の中の『にたくもじ』という料理です。漬かりすぎた漬物を塩出しして、煮るというもの。

 

── くもじ=漬物の意味なんですよね。漬けすぎで酸っぱくなった漬物を、水に浸けたりゆがいて塩気を抜いて、醤油や砂糖で味つけする飛騨地方の料理。「煮た・くもじ」というストレートなネーミング。こちらの「にたくもじ」、ちょい甘めで食べやすい。

 

稲田:これまた地味だけど、誰もがDNA的に懐かしいと感じる味ですね、親しみやすい。濃くてハッキリした味は現代的でもある。

 

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▲メニューを示しつつ解説してくれる稲田さん。もともとは鹿児島の生まれ。サラリーマン時代を経て、現在の会社の社長と出会い、1997年に岐阜で居酒屋さんを立ち上げる。岐阜名古屋を活動の拠点としつつ、全国で飲食店のトータルプロデュースを手掛けている

 

── ニッチだけどウケるであろうと、稲田センサーに引っかかったわけですね。

 

稲田:ええ。ちょっとニッチなところからは脱線するんですが、同じく飛騨地方に漬物ステーキという料理があるんです。

 

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▲漬物ステーキ(690円/税抜)

 

── これも漬かりすぎた漬物を使った料理ですね。油で炒めて軽く卵とじにするというか。漬物の酸味がマイルドになって、おかずにもつまみにもいい。

 

稲田:この漬物ステーキ、文献をあさっても全然出てこないんです。郷土で生まれたものじゃなく、飲食店で生まれた料理だと思うんですねおそらくは、卵が安くなった高度経済成長時代の後に誕生したものだろう、と。

 

── なるほど。

 

稲田:ここで先の『にたくもじ』ですが、『油を加えて煮る』というやり方をある文献で見つけました。油を加えることで味わいがマイルドになる、と。

 

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▲県内では現在、古漬けではなく、浅漬けで漬物ステーキを作るお店も多い。手軽に入手でき、コストダウンにもつながるからだ。「円相 くらうど」ではしっかり漬かった古漬けを使用、昔ながらのスタイルを貫いている

 

── お、漬物ステーキのルーツっぽい。

 

稲田:さらに岐阜の食を調べていると、貝焼きという料理法に出合いました。飛騨は冬になると寒すぎて昔は漬物が凍った、その凍った漬物を削って、貝殻の上で焼いて食べたという記録があるんです。

 

── 「にたくもじ」の「油を加えて漬物を煮る」という調理法、貝の上で漬物を「焼く」という調理法、そして卵が安価になった時代……。

 

稲田:その3つから自然と生まれてきた料理なんじゃないか……と思うんですよ、漬物ステーキって。これは僕の推測ですけど、そんなことも伝えていけたら面白いですよね。

 

── 郷土食って「その地でとれたものをどう保存・加工してきたか」の努力の結晶だと思っているんですが、そのあたりの工夫の歴史がいろいろかい間見えますね。

 

「けいちゃん焼き」とは?

── さて稲田さん、岐阜のみなさんがイメージする岐阜めし、というとどれになるんでしょう」

 

稲田:やっぱり、これでしょうか。

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▲けいちゃん焼き(780円)

 

── お、出ましたねけいちゃん! 鶏肉を味噌や醤油で炒めた、下呂市や高山市の料理。これも漬物ステーキ同様、昭和30年代に飲食店で生まれたとされますね。

 

稲田:ええ、うちではこってり濃いめの郡上味噌を味つけに使って、みりん多めで甘めにしています。

 

── けいちゃんって、味噌バージョンと醤油バージョンがあって、味つけも人によっていろいろですよねえ。ざっくり「鶏とキャベツなどを炒める、鉄板焼きにする」というルールが存在する、面白いローカルフード。稲田さんはどんな成り立ちだったとお考えですか?

 

稲田:ある資料で、卵を産まなくなったひね鶏を祝い事のごちそうとしてたまり醤油で味付けし焼いて食べた、というような記述を見かけたことがあります。農村で鶏を飼っている家ならどこでも見られた、しかし「めったに食べられないごちそう」だったんだろうなと思います。そういう文化がもともとあったところに、繊維(緬羊)産業の関係で北海道からジンギスカン料理がもたらされる。

 

── 岐阜は繊維産業で栄えた歴史があるんですよね。羊毛仕入れの関係で北海道とパイプがあった、と。

 

稲田:はい。しかし羊肉は一般には受け入れられず、かわりに鶏肉が用いられた。そこに同じく北海道の『ちゃんちゃん焼き』の味付けとネーミングが応用された……のではないかと考えています。名も無き廃鶏料理、ジンギスカン、ちゃんちゃん焼き、という異なるルートが複数あるため、現在でも味つけが醤油だったり味噌だったり、ニンニクやショウガ、唐辛子の有無など、同じ料理とは言いがたいほどのバリエーションがあるのではないでしょうか。

 

鮎(アユ)、サーモン、そして地酒

── さてこれまでいただいてきて、飛騨高山地方の料理が多いですね。

 

稲田:岐阜県人がイメージする郷土料理って、ほぼ飛騨高山のものなんですよ。全体で共通して『郷土の食』とイメージされるものといえば、でしょうか。

 

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▲鮎刺し身(650円/税抜)

 

── 長良川の鵜飼いが有名だし、観光資源でもありますよね。「円相 くらうど」では通年、鮎のお刺身が食べられるそうですね。

 

稲田:はい、中津川で刺身用に育てられている若鮎を一年中ご提供します。

 

── 揚げた骨付き、ってのがまたうれしいなあ。

 

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稲田:それから更紗サーモン(1,000円/税抜)もおすすめ。こちらも中津川で養殖されているものです。身がしまって、白身魚に近いようなあっさりした風味で、こりこりした食感がある。もちろん臭みはありません。

 

── 鮎はうるか(内臓の塩漬け)もあるんですね。ああ、日本酒がほしくなっちゃうなあ。

 

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稲田:ちょっとこれ、試してみませんか。羽島市のお酒『千代菊』のLifeというお酒なんですが、面白いんですよ。

 

── いただきます。お……なんだ、白ワイン感がありますねえ!

 

稲田:酸味のニュアンスがワイン的なんです。岐阜の蔵元さんが造るお酒、いろいろ試していってください。岐阜の蔵元さん、ちょっと自虐的で『新潟の酒のほうがうまいよー(笑)』なんて冗談でよく言うんですけどね、それぞれちゃんと個性がある!

 

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▲取材日の日本酒冷蔵庫はこんな感じ。値段は一律、グラス 360円、徳利 720円(税抜)。店員さんも酒好きがそろっているので、好みがあればどんどん伝えて、おすすめしてもらっちゃってください

 

海なし県ならではの一品

── その他にも稲田さんイチオシのメニューがあるそうですね。

 

稲田:はい。個人的に大好きなのが、これ(写真下)出汁に酒、塩、醤油で味つけしたところにサバ缶を汁ごと入れ、豆腐と煮たものですが、単純にもう、うまいんです! 家でもしょっちゅう作ってますよ。

 

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▲サバ缶とうふ汁(690円/税抜)

 

── わ、ショウガがきいてさっぱりしてる。あったまるなあ。

 

稲田:中濃地域(県の中南部)の料理です。岐阜は海なし県なので、魚を食べる機会はないから、サバ缶をよく料理に使っていたようなんですね。昭和初期ごろは、もてなしや祝い事にもサバ缶は使われていたようです。

 

── いやはや、いろいろ本当に興味深い。おいしくいただいてるうち、岐阜のいろんな姿が見えてきました。稲田さん、今日はありがとうございました!

 

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▲稲田さんは板場で腕をふるうこともある。※常時いらっしゃるわけではありません

 

岐阜名物の飛騨牛や朴葉焼きも食べたかったけれど、今回はここまで。

岐阜駅すぐというロケーションで、県の郷土食と地酒をあれこれ体験できる……ってのは、旅好きにはたまらんですな。

名古屋駅から岐阜駅までは早い電車だと約20分で着いちゃいます岐阜を旅する人にはもちろん、名古屋によく用事のある食いしん坊にもおすすめしたい。

各地のローカル食は楽しいですよ、ぜひ体験してみてください!

 

【おまけ】

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JR岐阜駅を出たすぐにある金ピカの織田信長像。

取材を終えて帰るころには夕日に輝いておりました。

 

お店情報

円相 くらうど

住所:岐阜岐阜橋本町1-10-1 ACTIVE-G 2F
電話番号:058-265-3256
営業時間:11:00~15:00、17:00~22:30(LO 22:00)
定休日:奇数月の第3火曜日(施設の休館日に準じる)

www.hotpepper.jp 

 

企画・構成・撮影:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』、『ホットペッパー』、農水省の広報誌『aff』などで執筆中。食と健康、郷土料理がメインテーマ。著書に「にっぽんのおにぎり」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)など。

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