食レポ。それは奥深く、終わりなく、果てしない。そんな食レポの道を究めるため、地主恵亮は今日も往く。「食」を求めて彷徨い歩く。そして、散る!……のか!?
地主恵亮の「食レポに散る!」第4回
自分で釣った魚で寿司を握ってもらう
自分が釣った魚をお店に持ち込み、料理してもらう。なんだか釣り人として、人として、格が上がった気がする。自分で料理をしてもいいけれど、やはりプロが料理すれば格段に美味しくなるだろう。
そこで寿司屋に釣った魚を持ち込んで、お寿司にしてもらおうと思う。新鮮な魚に、プロの腕前。絶対に美味しいだろう。問題は、私が釣り初心者なことだけだ。
持ち込む憧れ
人には「格」というものがある。社長やクリエイターなどといった肩書きではない。「格」なのだ。では、その格はどのようにすれば高くなるのか。それは、回らない寿司屋に行くことだ。現代の日本では回らない寿司屋が最も高い格にある。
回らない寿司屋に行くことで格が高くなる
さらに格が高くなるのが、そんな寿司屋に自分が釣った魚を持ち込むことだ。常連な感じがするし、それだけ自分が趣味に時間を割くことができる格にいることになる。だって、釣らなくても寿司屋に行けば魚がいる。それなのに、自分で釣った魚を持ち込むのだ。
ということで、釣具屋にきました!
本当は初心者
ということで、私も寿司屋に自分が釣った魚を持ち込もうと思う。ただ問題がいくつかある。回らない寿司屋に行ったことがないのだ。そこは強引にアポを取ってお願いした。さらに、私は釣りをほぼしたことがないのだ。釣り初心者なのだ。
お店の方に教えてもらいました!
いまの私は医者としての知識がないのにバチスタ手術をするようなものだ。バチスタ手術は慢性心不全に対する左室形成術の一術式のことで、天才医師にしかできない手術だ。私にとっての釣りはそういうことなのだ。釣り初心者なのに、釣った魚を持ち込むので寿司にしてください、と板前さんに事前にお願いしてある。よく考えるとすごいことだ。
いろいろ買いました!
冬は魚が美味い、と勝手に思っていたけれど、この時期の釣りは難しいらしい。だが上手くいけば、マコガレイやフッコ(スズキの小さいやつ)が釣れるかもしれない、とのことだった。釣具屋さんにいろいろ教えていただき、いぜ海へと向かった。
海に来ました! 天気がよすぎて逆光です!
やる気は人一倍
空も海も青く、絶好の釣り日和に感じるが、風は強く寒い。東京ではこの週、雪も降り、沖縄でも雪が降るかもとニュースは報じていた。全国的に、とにかく寒いのだ。人影もまばらで、「今日は釣れないよ」と、ベテランの釣り人がわざわざ教えにまで来てくれた。
とりあえず仕掛けを作って、
投げて、
待つ。
他人が釣れなくても、「私は釣れるかも」と心から思っている。だって、寿司屋にすでに「釣った魚を持っていきます」と言ってあるのだ。釣れないという選択肢はないのだ。常に私は逆境にいた。しかし、どんな時もその逆境に打ち勝つ実力を兼ね備えていたのだ。
ダメだね。
竿先は、近くにでかいイオンができた商店街のように静かだった。全く釣れる気がしない。2時間近く、ずっと静かだ。暖かい日ならば「こんな日もあるか」と思えるが、寒いので、こちらも静かになりそうな気配を感じる。
とにかく寒いね。
他の釣り人がやってきて、いろいろと釣りの基本を教えてくれる。この触れ合いは温かい。そして、教えてくれた話をまとめると、「今日は釣れない」とのことだった。引き潮だし、風が強くて海が荒れているし、無理かな、とのこと。寿司屋さんに魚を持っていくと言ってあるのだけれど、どうしよう。
4時間粘ったけど、ダメだった……。
魚を手に入れる
人生のヒントは常に「サザエさん」にある。だから、サザエさんは長寿番組なのだ。そして、サザエさんにどんなヒントがあるかと言えば、釣れないなら買えばいいということだ。確か、波平が釣りに行って、釣れなくて魚屋で魚を買っていた気がする。
ということで、浦安魚市場に来ました!
閉まってました。
魚と言えば「魚市場」だと思い、寿司屋に近い「浦安魚市場」に来たけれど、すでに営業時間を過ぎていた。魚市場の朝は早いのだ。後で聞いた話では、この日、魚市場の魚も少なかったそうだ。釣り初心者の私に釣れる日ではなかったことを裏付けている。
ということでスーパーで、
アジ(118円)を買って、
寿司屋に行きました!
寿司屋の腕
釣れなかったのだから仕方がない。しかし、仕掛けや餌にお金をかけてしまったので、高い魚は買えず、とりあえずスーパーでアジを買って、「釣りました!」という自信満々の顔で浦安にある寿司屋「泰平鮨」に持ち込んだ。
ご主人に(スーパーで買った)アジを渡す。
ご主人の渡邊さんにアジを渡すと、「買ったね」と言われた。早い。こんなにも早く見抜かれるとは思わなかった。私と渡邊さんは初対面なので、第一印象が「嘘つき」になってしまった。
一応寿司にしてもらう。
よく満員電車に揺られているサラリーマンを揶揄して「死んだ魚のような目をしている」というが、買ってきたアジがまさにそれだった。私には分からなかったけれど、プロが見ると分かるらしい。また捌きながら「身が柔らかい」と言っていた。新鮮な魚は身が硬いらしい。それがよく言う「プリプリ」になるそうだ。
握ってもらい、
完成!
自分で釣った魚ではないけれど、持ち込んだ魚がお寿司になった。118円で買ったアジとは思えない美しさだ。やはりプロの技が光っている。おそらくあのスーパーで売られていた魚で、一番素晴らしい調理がなされたのではないだろうか。
やっぱり美味しい!
寿司屋に修行は必要か
やはり美味しかった。スーパーで買った魚とは思えなかった。私は一応魚を捌けるけれど、このように美味しくはできなかったと思う。同じ魚で、しかも寿司という基本的には調味料を使わない料理。寿司屋の職人と素人で差が出るのはなぜなのだろう。
このお店はカラスミが有名で(自家製)、手前のものはキロ5万円もするらしい。
以前、堀江貴文(ホリエモン)さんが寿司屋に修行はいらないと言って話題になっていた。しかし、寿司屋には修行が必要な気がする。その辺はどうなのだろう。
「寿司屋に修行って必要ですか?」
「今の時代はいらないかもしれないね。昔はアナゴのタレにしても自分で作らないとダメだったから、修行をして暖簾分けみたいな感じで、タレをもらったりする利点があった。でも、今は売っているからね。最低限はいきなりでも作れる。」
「技術的な面では必要ですよね?」
「寿司を握る、という意味では頑張れば、一週間で習得できる」
「早い!」
「魚の捌き方や魚を見る目の方が大切なんだよね。魚の種類によって捌き方が異なるし、キチンと捌かないと細胞が壊れて旨みが逃げていく」
「ですよね」
「魚を見る目も大切。私は寿司を握り始めて30年以上だけど、未だに騙されるときがある。見た目はいいけど、捌いてみると身が痩せていたり。そういうのを見抜く目が、寿司屋には大切だね」
当たり前だけれど、寿司屋は寿司を握るだけではなく、捌くことや魚を見る目も大切だ。そういうのを養うためには、修行はいるのかな、と思う。
ちなみにこちらは15年物のカラスミ。一本10万円!
日本酒に合う!
「回転寿司とかってプロから見るとどう思いますか?」
「別にいいと思うよ。別のものなんだよ。回転寿司は「食事」、こういう寿司屋は「寿司」なんだよ。カテゴリーが違うと思ってるよ」
「若者というとあれですが、こういうお寿司屋さんは高いイメージが、、、」
「安くはないね。ただ回転寿司に3回行くなら、こういう寿司屋に1回来た方がいいんじゃないかな」
「なるほど!」
持ち込んだ魚ではなく、いつもこのお店で出しているお寿司も食べさせてもらった。たぶんここ数年で一番驚いたと思う。今まで食べてきた寿司(回転寿司しか行ったことがなかった)と全くの別物なのだ。というか、料理として格が違う。美味しすぎるし、もはや別次元なのだ。
お寿司を握ってもらった!
違う! 今までの寿司と別物。
「メニューがないし、値段も書いてないですよね、、、」
「そうだね、うちは値段を書いてない。時価なんだよ。ただね、言えばいいんだよ。5,000円でお願いしますとか。そしたら握ってくれる。だから怖がることなんてないんだよ」
「言えばいいのか!」
「寿司なんて江戸時代なんかはファーストフード。そんなに敷居を高いと思わなくてもいいんだよ。自分で魚を持ち込む方がよっぽど敷居が高いよ」
「確かに!」
言えばいいのだ。私は今まで値段的な恐れから、回っていない寿司屋に行ったことがなかった。ただ言えばいいそうだ。ちなみに最低が5,000円くらいかららしい。ただ先にもご主人が言っていたように、回転寿司に3回行くなら、こちらに行った方がいい!
美味すぎるの!
泣きそうになるの!
もう一回書くけれど、本当に美味しいのだ。マグロを食べて、「これなんて魚?」と聞いたのは初めてだった。美味しすぎて、今まで食べてきたマグロとは別のものに感じた。寿司としてはもちろんだけど、料理として今まで食べてきたものと格が違った気がした。
幸せでした!
幸せは寿司屋にある!
自分で釣った魚をお寿司にしてもらう予定が、それは叶わなかった。釣れないのだ。しかし、プロの握った寿司の美味しさを知った。魚釣りも、寿司もプロに任せればいいのだ。一つ上の世界を知れた気がした。
また行きたい
お店情報
泰平鮨
住所:〒279-0001 千葉県浦安市当代島1-7-20
電話番号:047-352-2423
営業時間:11:00〜13:00/17:00〜22:00
定休日:木曜日
※金額はすべて消費税込です。
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