カカシ(案山子)の魅力に取りつかれた男の話【趣味人の食卓】

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いやぁ、世の中には面白い人がいるねぇ。

今回は、カカシ(案山子)が好きすぎて、青春18きっぷで全国をまわり、カカシの写真を撮りまくっているというお方。ピート小林さんだ。

 

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年齢不詳だけれど、たぶん僕よりは年上だと思われる。

待ち合わせたのは、東京メトロ千代田線の乃木坂駅。

ここから、厚木駅を目指す。海老名市で行われている「中新田かかしままつり」へ行くためだ。

車中、いろいろとお話が聞けた。

ピート小林さんはカカシ以外にも桜前線を追いかけたり、甲子園の高校野球を見続けるなど活動の幅は広い。

ちなみに、ピート小林さんはカカシの写真集『カカシバイブル』(東京書籍)を出していらっしゃるカカシ写真の第一人者だ。

カカシバイブル

カカシバイブル

  • 作者: ピート小林
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 2009/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • クリック: 12回

 

カカシにはまったきっかけを聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainそれまでもなんとなくカカシの写真は撮っていたんだけど、ドはまりしたきっかけは、長野県上田市別所温泉での出来事。カカシを探して田んぼのわきを歩いていると、50メートルくらい先に肥料袋を持ったおばさんがいたの。

 

── 普通の、農家のおばさんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainで、「このあたりにカカシいますか」って聞いたけど、返事がない。まあ、いいかってそのあたりをひと回りしてきたら、またその人がいた。その日は暑い日だったので「暑いですね、腰痛くないですか」って話しかけても返事がない。近づいてみると、なんとそれは精巧につくられたカカシだった。もうね、全身総毛だったよ。それがハマったきっかけ。

 

そのときピート小林さんが撮った写真がこちらだ!

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撮影:ピート小林

 

おお、まさに人に見える。

この写真は『カカシバイブル』にも収録されている、ピート小林さんがカカシにハマることになった1枚。

このとき、その周囲にいた本当の人間にこのカカシをつくった人を聞き出し、会いに行ったりしている。

 

他にもピート小林さんの作品を紹介しよう。

ご本人が一番気に入っているというカカシの写真だ。

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撮影:ピート小林

 

額装されたこの写真は、東日本大震災後の宮城県山元町の海岸に近い沼地にたたずんでいた「レディ案山子」だそうだ。

あれこれ話を聞くうちに厚木駅に到着。駅から歩いて5分の場所に「中新田(なかしんでん)かかしまつり」の会場があった。

 

この日、カカシの取材だから自らもカカシの格好できたというピート小林さん。

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田んぼの中の道にずらりとカカシが並んだ景色は壮観だ。

平日の午後だが、地元の人もけっこう見に来ている。もちろん入場は無料。

 

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入り口すぐの場所にあったのが、このカカシ。

 

もう25回目になる「かかしまつり」。

カカシの隣にはタイトルや製作者の名前が書かれている。

 

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すぐにカメラを取り出して撮影するのかと思ったが、そうではない。

ピート小林さんはまず、じっくり見て歩いている。

 

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おっ、いよいよ撮影するのかと思ったら、スマホを取り出して、撮影しているではないか。多く目につくのは、キャラクターをそのままカカシにしたものやカールおじさんやパンダだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainこういうフェス系のカカシは、時事ネタが多いんだよな。

 

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そうか、パンダの赤ちゃんが生まれたとか、お菓子のカールが東日本で販売終了になるとか、そういうニュースをカカシにしているので、かぶることも多いのだ。

 

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こういうオリジナルものだとかぶらないね。タイトルは「赤毛の乙女」。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainカカシって、作る人にとって、自分の分身なのよ。だから、どことなしか自分自身の姿が投影されるんだね。

 

なるほど。

おっと、こっちは典型的なカカシ。

僕などがまず思い浮かべるのはこのタイプだ。

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f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainへのへのもへじって、やはりカカシの基本だね、これでわら人形だったりするともう完璧だ。

 

── 一本足というのもいいですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainカカシは神で、田んぼの中に一本足で立ち、歩けないんだけれど、じっと世間の動きを見て。すべてを知っているんだね。

 

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と、いよいよ、ピート小林さんがバッグからカメラを取り出した。

 

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カメラを向けたのは「ゴジラ」。

 

ピートさんにどんなカメラを使っているのかと聞けば、なんと昔ながらのフィルムカメラ。

それもあって、デジタルのようにたくさんシャッターを切らない。その分、スマホではたくさん撮っている。

 

次にカメラを向けたのは、こちら。

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タイトルが「関取 きぬ光」。

お相撲さんのカカシだ。

 

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まわしがゆるゆるで、ドキドキしちゃうね。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainこれ、ダブルミーニングだと思うよ、お相撲さんとお米ね。カタカナでキヌヒカリっていう米の品種ね。

 

そういえば、ピートさんはお相撲にもお米にも詳しい。

と、いちばん端にあったアンパンマンのカカシの横に腰をおろして少し休憩。

アンパンマンを指さしながら、こう言った。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plain子どもなんかはこういうのをいちばん喜ぶんだよ。だって、子どもってカカシっていう概念はないでしょ、だから自分の興味のあるものに喜ぶんだね。

 

あー、キャラクターもののカカシが多いのはそういうことだったのか。

 

── せっかくだから、ここで「趣味人の食卓」をやりませんか。

 

f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainここじゃなくて、今泉で食べようかと思っているんだよ。

 

そうそう、最初にネットからダウンロードしたというPDFのプリントアウトしたものを電車の中でもらった。

それによれば、「今年も2会場でやります」とあった。

ここ、中新田と今泉だ。

少し距離があるというので、タクシーで向かうことにした。

 

ところが、今泉地区にはたった2体のカカシしかなかった。

というか、「かかしまつり」の看板もない。

 

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f:id:Meshi2_IB:20171002190407p:plainおかしいなぁ、この前きたときは15体くらいあったんだよ。ちょっとさっきあげた紙を見て。

 

9月8日(日)~9月23日(祝)(月)に今泉地区第15回今泉地区かかしまつりとあった。

実はその時には気がつかなかったのだけれど、このプリントは今年のものではなかった。2013年のものだ。

9月8日が日曜日だったいちばん最近の年は2013年なのだ。

あらためてネットで調べてみたが、今年(2017年)は中新田地区だけで開かれているようだ。

ここにあるのは、地元の小学5年生がつくったカカシだ。

手前が男子生徒たちのつくった「おでんくん(ドラえもん)」。

奥が女子生徒たちのつくった「ブルゾンちえみ」だ。

なるほど、カカシが自分の分身だというのがよくわかる。

今の小学5年生はこういうものに興味があるんだね。

 

ピートさんはもともと粗食だそうで、カカシを見ながらの食事はおにぎり、しかも何も具がない塩むすびがいいんだとか。

 

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なんだか、おにぎりというより、ピートさんが持つと “にぎりめし”というかんじ。

 

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それでは食べてもらいましょう。

 

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これまた、うまそうに食うねぇ。

 

ところで、ピートさん『カカシバイブル』の続編を出してくれる出版社を探している。

前作が出たのが2009年で、当時は3,000体ほどのカカシの写真があったのだが、それが今では7,000体ほどになったんだそうだ。

興味のある出版社があれば、ピート小林さんのFacebook

メール(petekobayashi@gmail.com)まで。

さて、次回も趣味人の方の食卓にお邪魔しちゃうよ。

 

※この記事は2017年10月の情報です。

 

書いた人:下関マグロ

下関マグロ

1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)など著書多数。

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