イラストレーターにフードコーディネーター、コラムニスト、そしてモデルとして超マルチに活躍する小鳥遊しほが、世の悩める人々のために自ら家へ足を運び、料理を作り、ややナナメ上から人生相談にまで乗ってしまう企画。
人の数だけ悩みはある。悩んでいても腹は減る。小鳥遊しほは、人類にとって永遠のテーマともいうべきその2つの問題を、同時に解決いたします!
小鳥遊しほのメシ付き人生相談
第2回:タメ口に照れる独身デザイナーのお宅で、鶏もも照り焼きをふるまいます。
こんにちわ。小鳥遊しほです。
さぁ、やって参りました「メシ付き人生相談」第2回です!
やったー、やったー!
前回は、独身男性3人暮らしのシェアハウスという無縁の地へ足を踏み入れたわけですが、今回はいったいどんなお宅が待っているのでしょうか。わくわくすること山の如しです!
本日の舞台はココ。
ボケてて読めませんね。
小田急線で新宿から約15分。
スーパーや飲食店も多くとても住みやすい街、そう「経堂」です。
私も昔、下北沢に住んでいたので小田急線大好きです! このまま私を箱根まで運んでほしいです! いますぐ温泉につかりたいです!
さて働きます。
駅前のスーパーで買い物を済ませ、男性宅へ。
今日は旬の食材を使ったお酒がすすむくんメシにしようと思います。
ビールもばっちり買いました。足りるかなぁ。
てくてくすること数分。
本日の訪問先発見
渋めのアパートです。
ネギを片手にクールなポーズをキメてみる。
さぁ、ドキドキのピンポン。
ピーンポーン。
ガチャ。
「あっ。はじめまして、こんばんは。今日はよろしくお願いします」
ちらっ……。
「……」
こわい!
笑えー! 笑ってくれーーー! 頼むーーーー!
本日の家主は、ゆうきくん26歳。私より1歳年下です。
笑顔で迎えてはくれなかったけど、企画に参加してくれたからには多分いい人だと思う。多分。
ひとまずお部屋に通してもらいました。
めっちゃダンボール。
めっちゃ0123。
どうやら引っ越し後なのだとか。
あ、ごめんね。バタついてるとこ……。
「いつ越してきたんですか?」
「えーっと3カ月前とかですねー」
(……半年後もこのままだろうなー( ^ω^ ))
やたらとモフモフしたぬいぐるみが。
愛媛県今治市のPRキャラクター、バリィさん(左)が好きなんだそうです。
デザイナーになりたくて上京
「ゆうきくんは何をしてる人なんですか?」
「デザイナーです」
「かっこいい。なんでデザイナーに?」
「小さいころからの夢だったんです。就活で悩んだり、紆余曲折あったけどなんとか実現できました」
小さいころからの夢を、実際に叶えるってすごいことだと思う。
さっそく調理タイム
本日の食材はこちら!
旬のカツオに春キャベツ。
さてどんな料理になるでしょう。
エプロンもつけて、準備ばっちり!
「あ、好きと聞いてたカツオ買ってきました」
「やったーーー!」
わかりやすく喜んでくれました。かわいい。
(好き嫌いは事前にアンケートをとっています。)
包丁を握ると人が変わる
……なんてことはないですが、包丁を持ったら緊張感も持ちます。
手を切ると、痛いからです。
鳥もも肉は余分な脂をとりのぞきます。
玉ねぎは涙で前が見えなくなります。
手元をのぞかれるのは、そこそこ緊張する。
いつもより下手な切り方になるのでやめてほしい。でも本当はうれしい。
じゅーーー。
じゅわーーーー。
料理が出来上がっていくうちに、ある大きな問題に気づきます。
テーブルがない。
そうか、そういうおうちもあるか。
適当に床とかで食べるのか。
でもなー。今日は料理4品もあるんだよなー。さすがになー……。
「任せてください!」
え? 折りたたみ式のなにか出てくるの?
まさか
「じゃーーーん!」
こっこれは、必殺ダンボールテーブルやーー( ^ω^ )(引越し後あるある)
無事テーブルも用意されたので料理を運びます。
お通しの味噌キャベツでーす。
カツオとキムチのユッケでーす!
枝豆と塩昆布のまぜごはんに
たっぷり九条ネギの鶏もも照り焼き(春関係ないけど食べたかった)
ビールのこと考えてたら塩分高めなメニューになってしまったが、まぁそんな日もアリでしょ。
さてさて、ひとまず乾杯します。
「カンパーーーーイ」
「くーーーーーー!」
わかる、わかるよーー!!
今日もがんばってよかった!
生まれてきてよかった! 大人になってよかった!
うぉー! お母さんありがとーーーーー!!
(という瞬間の顔ですね。)
さて、最初のひとくちを食べてもらうこのハラハラする瞬間たるや。
ドキドキ。
「んんっ……?」
「おぉっ! うまい! 普通にうまいっ!」
「やったーーーー! (「普通に」は余計だけどー!)」
お悩み相談開始
「ところで早速なんですけど、聞いてほしい悩みがあるんです」
「はい、なんでしょう。私でよければ」
「人とのコミュニケーションがうまく取れなくて」
「ほう、コミュニケーション?」
「そうですね、例えばタメ口の使い方がわからないんです」
「使い方……?」
「小鳥遊さんや上司に敬語なのは当たり前じゃないですか。でもボク、同僚とか年下とか新卒の子とかにまで敬語になっちゃって変な目で見られるんですよ……」
「えっ、なんで(笑)」
「ボク的にはその方がラクというのか、自然というのか……。でもきっと人によっては壁を感じますよね」
「ん〜、まぁ確かに失礼には当たらないけど、変といえば変だね」
「ですよね。男女問わずそうなんです」
「へぇ〜。『タメ口でいいよ』って言われても、敬語になっちゃうの?」
「かなりぎこちなくなります(笑)」
「じゃあ、いいよタメ口で( ^ω^ )」
「えっ」
「今からタメ口で話してみようゲームしましょう」
「わ、わかりま……わかっ……た///」
「おっ、照り焼き食べてね、食べてね」
「おいしい?」
「おいしい(ぎこちない)」
「鶏好き?」
「鶏好き(ぎこちない)」
「彼女は?」
「彼女いない(ぎこちない)」
「あーそっかぁ。さびしい?」
「さびしい。常に」
ぶははははは!!
「ごめん、耐えれなかった(笑)。まぁ、ギリタメ口だね」
「お酒の力をかりてなんとか(笑)」
「あ、お酒好きなんだね。飲みに行ったりはするの? 友達とか誘ってさ」
「あんまり行かない。誘い方がわからない。ボクは友達だと思ってても向こうはどう思ってるかわからなかったりするし。でもひとりではいけないし」
「え、なにそれ。さびしい泣ける」
「誘うのもなんでも、周りの目とかすっごい気になってしまう……」
「コミュニケーションが苦手な人、人見知りの人って被害妄想がありそうなイメージ」
「思い当たる節が(笑)」
「被害妄想ってさ、自分を“被害者”にした妄想なわけだから、だれかを勝手に“加害者”にしてるってことじゃない。例えば『話しかけても無視されるのでは……』って考えるのって、勝手にその人のことを“無視をするような人”に見立ててるってことだから超失礼だと思うのよね。相手のことを思うんだったら被害妄想癖は治そう! と私は日頃思っているわけです。もし本当に無視してきたらそのときは嫌っていいと思うけど(笑)」
「なるほど目からウロコです。たしかに」
「案外みんなさびしがり屋だしさ、誘われたらうれしいってことのが多いはず」
「なんかひとりで過ごすうちに、いつのまにか“友達をつくる”とはなんだろうとか思うようになっちゃって。友達とはいったい……と(笑)」
「うーん。まぁ、ひとりの時間がたくさんある人って何かに打ち込んでいたり、趣味も多くて……なんてこともあるし別に問題はないとは思うのね」
「はい。ボクも趣味は多い方です」
「友達ってのはさ、そんな仕事や趣味を円滑にこなしたり潤したりするために居るんじゃないかな」
「なるほど……」
「だから『友達をつくろう!』って思ってつくる必要はないけど、仕事で失敗したときとか、人と一緒に行きたい場所を見つけたときとか、なんかそういう衝動で飲みにでかけて人と仲良くなったりしてみたらいいんじゃないかな」
「そうか……」
「何事も動機が不純なときはうまくいかなかったりするし。人と会いたい、しゃべりたいってときに、トライ!」
「(笑)。トライしてみます」
話も落ちつき笑顔も増えた、ゆうきくん。
このあと残さずごはんを食べてくれました。
「あ、前回の記事で格言みたいの書いてましたけど、うちホワイトボードとかなくて……。どこに書きます?」
「いやっ、格言残すのが恒例プランなわけでは……!(笑)」
「あえてダンボールとかでもよさそうですね!」
(書くこと決まっておる……( ^ω^ ))
「ココとかどうでしょう!」
「ペン、貸してください!」
何事もいさぎよさって大事だけど。
ひとんちの床に寝そべって格言を残そうとする、私の職業はいったい。
世の中、何事も経験。
やってみなくちゃわからないことだらけだし、
いつ始めても遅くなんかないと思うのですよ。
そうだ、明日は今日よりがんばろう。
明日は明日の風がピュゥです。
「では、そろそろおいとましますね」
「ありがとうございました! 明日あたり同僚と飲みにいけるようがんばってみます!」
「がんばってね! 大丈夫きっとうまくいく!」
「あ、ちなみに」
「はいっ!!」
「タメ口使うゲームはしないほうがいいよ、確実に負けるから」
気づけばすっかり敬語に戻っていたゆうきくん。
いいんだ、いいんだ。その少しの挑戦が人を成長させるのさ。
がんばれ26歳。
がんばろう一人暮らし。
さぁ、つぎはどんなお宅が待っているのでしょうか。
また会う日まで。
※本記事は2016年4月の情報です。
写真:石川真魚