「ジャークチキン」という料理、ご存じだろうか。
聞き慣れない人も多いと思うが、カリブ海の国、ジャマイカの定番料理。スパイスに漬け込んだ鶏肉をバーベキューのように焼いた、肉汁とスパイスが絡みあうジューシーな料理なのだ。
ジャマイカ発祥の音楽「レゲエ」は、ボブ・マーリーなどのスターがいたおかげで日本にも浸透。そこから周辺文化も輸入され、ジャマイカ料理を出すお店が日本にもぼちぼち存在する。
週末限定営業の、ゆる〜い営業スタイル
▲見逃してしまいそうになるほど、民家ライクな店構えのワケは……
そのひとつがここ、東京品川区にある「AM-A-LAB(以下、アマラブ)」。お店は、東急目黒線の武蔵小山駅からすぐ。マスコミでもよく紹介されている、駅前の大きな「武蔵小山商店街PALM」から一歩入った路地裏にある。
3階建ての物件の1階にある店舗は、いかにもハンドメイドで仕上げたような手作り感溢れる内装。席数は少ないが、アットホームな感じがどことなく漂う。
そして路面には大きな窓があり、テイクアウトなら窓からそのまま商品が受け渡し可能になっている。さらに特筆すべき点。それは、2階より上には店主たちがルームシェアをして住んでいるということだ。
▲2階、3階部分はお店のスタッフらが住んでいるというのもうなづける外観!
店主のシンケさんは、普段ここに住みながら本業である建築やデザインの仕事に携わり、お店の営業時間は土曜と日曜だけと、ゆる〜い営業スタイル。
店舗を共同運営しているメンバーは、他に2人。一緒に住んでいる友人と、世田谷から通う友人だ。店内の奥を覗いてみると、洗濯機など生活用品がチラっと見えるのもご愛嬌。都心にありがちなせわしない雰囲気とは無縁の、実にゆったりとした時間が流れている。
▲この方がシンケさん。お店の前にて
シンケさんが、この物件に友人と住み始めたのは10年前。再開発エリアで安く借りられたからなんだそう。そのうち立地的に何かできるんじゃないかと思い始め、6年前にこの「アマラブ」を始めた。
▲チラシやWEBサイト用に撮った写真。右側がシンケさん(写真:南 阿沙美)
通常、飲食店を始めるとなれば、どこかの店で修行して、費用をコツコツ貯めて、足りない分は借金して……とそれなりの時間や資金が掛かる。
しかし彼らはあくまでマイペース。自分に負荷をかけず、元々得意だった料理を作り、見事開店へと結びつけた。まさにDo It Yourselfな運営方針。やればできる!
▲こちらがレギュラーメニュー。ドリンクだけの注文も可!
公私の境界をあえて曖昧にして街と関わる「住み開き」
▲店内から窓越しに見える路地裏の風景。行き交う人とも思わず目が合う距離感だ
シンケさんは建築を本業としているのもあって、東京の空き家問題や、まちづくりにも興味を抱いている。
こういうスタイルの飲食店を始めたのも、まちづくりとリンクしています。自分の家を店にすることで、住、食、街とどう関わっていくのか確かめたかった。(シンケさん)
「アマラブ」では、路上にテーブルが置いてあり食事をすることも可能だ。よって、晴れた日は非常に気持ちいいオープンスペースとなる。ちなみに向かいはパチンコ店、隣はバーなどが並んでいるので、よほど騒ぎ立てない限りは苦情もなく都合がいい。
もともと路上にはみ出したいっていう欲があって。悪乗りじゃなく和気あいあいと羽目を外したかったんですよね。店舗と路上の線引を曖昧にしながら、自分のプライベートをパブリックに投げていく方が赤裸々で面白いんじゃないかって。
確かに「コイツら何やってんだ?」って目で見られることもないわけじゃないけど、別に悪いことしてるわけじゃないし(笑)、むしろ街の空気感を少し変えるぐらいの気持ちでやってますよ。(シンケさん)
街中での人付き合いの少なくなった現代において、「アマラブ」は街との関わり方を考えさせられる存在だ。取材中も近所の青年がぶらっと現れ油を売りに来ていたりで、自然と街に溶け込んでいるのが確認できた。「ヒマしているから寄ってみよう」ぐらいのほどよい距離感だ。
▲店内のライブラリには、建築や旅、音楽、アート関連の書籍が並ぶ。選書は仲間のとみぃさん
▲本は持ち出しもOK、貸し出し料なんと0円!
そんなシンケさんにとって、読書体験は行動力の源泉となっている。
中でも重要な書籍が『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)という1冊の本。「住み開き」とは「住み」ながら「開」業するという、著者のアサダワタル氏によって付けられた概念で、自宅を使って開業のハードルを低くし、公私の線引きをゆるくすることで積極的に街や人と関わっていくという生き方のことだ。
実はシンケさん、カルチャー系雑誌『スペクテイター』で、ちょっとした商売を紹介する「小商い」の特集で取り上げられ、住み開きの実践者として取り上げられたこともある。
ビールに合う! スパイシーでジューシーなチキン
と、店内を拝見しながらシンケさんと店について話をしているうちに、スパイスと肉がジュージューと焦げる香ばしい匂いが立ち込めて、気付くと料理が出来上がった。
こちらがこの店のメインである、ジャークチキンプレート(850円)。サイドメニューのライスアンドビーンズというジャマイカのご飯付き。
ジャークチキンの作り方は、20種類もの食材をペーストにして鶏肉に漬け込み、2日間ほど寝かす。それをオーブンに入れて、ぱりっと焼く。
漬け込むエキスは、シーズニングというソース、生野菜のたまねぎ、しょうが、酢、オレンジジュースなど。スパイスは、オールスパイス、シナモン、ナツメグ、チリパウダー、タイム、ネギ。かなり手が込んだ料理ということがおわかりだろうか。
香ばしい匂いを堪能しながら、食べやすいサイズにカットされた肉を口へ放り込む。各種の素材を漬け込んだ味が染み合わたり、ジューシーな肉汁とマッチして、噛めば噛むほど味わえる。表面はパリッと焦げ目が付いて、カリカリ感がたまらない!
ライスアンドビーンズは、ココナッツミルクでご飯と豆を炊いたもの。ほんのり甘みがあって、肉と一緒に口に含めば味わいも格段にアップ。ジャマイカ人はこれを毎日食べていると思うと羨ましい……!
ジャマイカのビール、レッドストライプ(650円)。スパイシーなメニューを頼んでしまうと、アルコールがついつい欲しくなってしまう……。国産のビールに比べるとさわやかな味わいで、独特な苦味が喉を潤してくれる。
故郷の味「芋煮」がきっかけに
こちらはジャークポーク単品(600円)。表面のカリカリ感が楽しめるチキンと違い、豚肉ならではのやわらかい食感が楽しめる。こちらも下味がばっちり染み込み、豚肉の濃厚な旨味を一口サイズで堪能。もちろんビールにも最高にマッチ!
この店のオリジナルのホットソース。友人が種を輸入して育てた唐辛子から作ったという、ここでしか味わえない辛さだ。肉に垂らすとまろやかなのに、一滴だけ舐めるとかなりの刺激。うおっ、辛い!
もともとジャークチキン専門店にしようと思い立ったのは、シンケさんが宮城県出身ということもある。当地では、河原などでの芋煮が恒例行事。シンケさんも都内に上京してから、地元の友達と芋煮会を毎年多摩川で行い、その時にジャークチキンを焼いていたのがきっかけだった。ただ、最近の都内の河原は入場料や時間の規制があるので、やりずらくなってしまったそうだ。その思い出の名残がこの店にはある。
▲秋から冬にかけては限定メニューに芋煮も登場!
ちなみに、本場のジャマイカでジャークチキンを焼く際は、バーベキュー形式。ドラム缶の中に肉を入れて炭でガンガン焼く。
やはり、野外で焼いてみたいという思いは消えませんね。本場に近いような環境で焼く実験をしたいので、いっそ田舎に焼き場を作っちゃおうかという野望もあります。(シンケさん)
近所にあったらぶらっと寄りたくなる気軽な雰囲気がたまらない。また自分で店をやってみたい人は参考に来店してみるのも良し。住み開きという独自のスタイルで街と関わり合いながら、目標を徐々に更新してくアマラブの今後が楽しみだ。
▲アマラブ発行の新聞も!
お店情報
AM・A・LAB(アマラブ)
住所:東京都品川区小山3-24-14
電話番号:03-3787-3606
営業時間:土・日曜11:00~20:00
定休日:月〜金曜
ウェブサイト:http://am-a-lab.jimdo.com/
書いた人:高岡謙太郎
オンラインや雑誌で音楽・カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。