愛すべき近所のインディーズ系弁当屋さんの「のりから明太弁当」の話

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こんな弁当屋さんが、あなたの近所にもありませんか

開いているのかよくわからない地味な外観。

お世辞にも立地もいいとは言えない。グルメサイトにも掲載されていない。

そんな弁当屋さんが、あなたの住まいの近くにありませんか。

 

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▲私のランチを支える「きゃべつ弁当」

 

西小山にある弁当屋さん「きゃべつ弁当 小山店」は、いつから営業しているのかわからない怪しい雰囲気の(言い過ぎました許してください)古びた弁当屋さんなのですが、唐揚げがめちゃくちゃうまくて、昼時になるといつも行列ができます。

近くの交番の警察官も列に並ぶほど、近所に住んでいる人たちからおおいに愛されているお店なのです。

でも、ネットに情報はほとんで出ていません。

 

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▲雨の日でも並ぶ常連さん

 

弁当を作っているのはご主人。

息子さんらしきアルバイトもいるようですが、基本的には注文を受けて出来上がった弁当を袋に詰める作業を担当しているので、厨房は実質ワンオペ状態です。

慣れた常連さんは、注文した後に、近くのコンビニで買いものをして、再び弁当を受け取りにきます。

 

このあたりは比較的静かな住宅街。この弁当屋さんがどんな経緯でここに出店して、どんな歴史をたどってきたのか気になってしまいました。

話を聞いてみましょう。

 

脱サラして弁当屋さんに

店主の重増さん宮崎県の出身。もともと冷凍食品の営業マンをしていましたが、30歳すぎて脱サラ。四谷にあった弁当屋さんに転職しました。

 

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▲唐揚げは175度の油で揚げる

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:弁当屋は楽だと思ってんですよ、全然そんなことないんだけど。ずっと飲食店をやりたいと思ったけど、僕は気前がいいから、「酒を出すお店だとサービスしすぎちゃってお店をつぶす」って、親から大反対されたの。

 

それで入ったのが四谷にあった弁当屋さん。当時は景気も良く、営業マン時代から知り合いだった社長にはいきなり300万円を渡され、お店の運営を任されたそうです。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:弁当屋を運営していたその会社は他にも事業を手がけていて、節税対策でやってたみたいね。だから、特に利益出さなくてもいいよって言われてたの。そのうち弁当屋が入っていたテナントが高く売れるからって、お店をたたむことになってね。

 

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▲弁当屋さんの楽しさに目覚めていた重増さんは、その会社を離れて、自分でお店を開くことを決意

 

そこに現れたのが今の「きゃべつ弁当」の社長でした。

 

フランチャイズ展開が夢だった

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:「金出すから、支店をやってくれないか」って。その人も冷凍食品の営業マン時代のお客さん。それで自分で物件を見て回って、この場所を選んだの。それが30年前のこと。

 

いずれはフランチャイズ展開するという誘い文句に飛びついた重増さん。月に1回売り上げを報告していたのですが、1年半ほどたっても思ったような数字が出ません。

 

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▲メニューの多さもこのお店ならでは

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:社長からは「このお店を閉めて、鵜の木の本店に専念してくれ」って言われたんです。「じゃあ、ここにいるバイトの子たちはどうするの」って聞いたら「申し訳ないけど……」って言われて。彼らは僕が四谷から引っ張ってきて、いずれ支店を任せようと思ってたから、それは彼らに悪いじゃない。

 

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▲看板の右下には「小山店」の表記が。電話番号の市内局番も3桁のまま

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:「だったら、自分でやります」と、機材を買い取る形で円満に独立したのが30年前。以来、この場所で「きゃべつ弁当」として営業を続けてる。ここ1店舗しかないけど、看板に「小山店」の表記があるのはそのときの名残りです。

 

──独立されたのにフランチャイズの名前はそのまま引き継いでしまったんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:最初は名前も変えようと思ったけど、電話番号も登録しちゃったし、近所でこの名前が定着してたから、このままでいいかなって(笑)。

 

1日8キロも揚げる唐揚げ

1日80個ほど売れるという「きゃべつ弁当」のお弁当。どんな人が買っていくのでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:近くで働いている人、一人暮らしのサラリーマン、主婦、あとは学生さん。一番のお客さんはおまわりさんだね。いろんな課から電話があって自転車で取りに来る。近くにある派出所の人も、全員来る。

 

──売り上げナンバーワンのメニューはやっぱり?

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:のりから明太」でしょうね。唐揚げはうちの看板メニューだから、1日8キロ、土日は11キロくらいなくなりますよ。

 

──たしかに重増さんって、いつも唐揚げを揚げているイメージがありますね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:唐揚げはうちの看板だからね。売り切れてなくなったら、お店を閉めちゃう。お米は炊けばなんとかなるけど、肉は前日から漬け込んでいるから、急には増やせないんです。

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▲創業当時から評判の唐揚げ。1日タレに漬け込んだむね肉を使っている

 

──前日から漬け込んでいるんですね。だからあんなに味がしっかりついているんだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:四谷のお店にいた時に、板前さんが作ったレシピを学んだの。面白いのはね、モモ肉にすると売れないんだよ。売り上げが半分になったこともある。衣がうまくマッチしないみたい。あと、モモの唐揚げだったらどこでも売ってるって言われちゃうんだよね。

 

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▲むね肉の唐揚げが「きゃべつ弁当」のアイデンティティーである

 

──ちなみにどんなタレに漬け込むんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:秘伝のタレ……と言いたいけど、醤油とニンニクと、生姜。あとはりんごジュース。

 

──りんごジュース!

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:本当は本物のりんごを使いたいけど、高いからね。

 

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▲このお店の副菜はすべて100gで100円。付け合わせのスパゲティサラダは特に評判で、この容器2個弱が毎日消費される

 

食材が余ると、常連の近所の学生さんに無料で配ってしまう

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▲一番好評の「のりから明太弁当」(470円)。のりの下には明太子がたっぷり敷いてある

 

常連さんにオーダーされるうちにメニューが増えてしまったと笑う重増さん。原則的におかずはその日に使い切るのがモットー。だから、食材が余ると、よく買ってくれる一人暮らしの学生さんに無料で配ってしまうんだとか。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:学生さんの番号を4個くらい登録してるから、順番に電話をかけて「おなか空いてない?」って言うと、みんな喜んで来てくれるね。

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▲「鶏甘酢あんかけ弁当」(550円)。甘酸っぱいあんが鶏肉とベストマッチ。近くにあるギャラリーのオーナーが連日食べるほどお気に入りだとか

 

──このお店は常連さんが多いですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:多いねえ。親子3代で来てくれてるお客さんもいるんですよ。でもね、みんなうちの弁当を喜んでくれるけど、後継者がいないから……。あと1、2年でお店をやめようかと思ってるんですよ。

 

──え。やめちゃうんですか。やめないでー。いつも働いている息子さんは跡を継がないんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:あの子は息子じゃなくてアルバイト。10年以上ここで働いてくれてるから、息子だと思ってるお客さんも多いみたいね。

 

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▲今回初めて頼んだ「ハンバーグ焼肉弁当」(750円)。「焼肉唐揚げ弁当が650円だから100円でハンバーグがついてくる。男性から大好評だよ」(重増さん)

 

──勝手な意見だとはわかってはいるんですが、まだまだお店を続けていただきたいです……。

 

f:id:Meshi2_IB:20181012092407p:plain重増さん:ありがとうね。本当は木曜日が定休日なんだけど、「楽しみにしてたのに」ってお客さんがたくさんいるから、悪くて休めないの。僕は気前がいいからさ、頼まれると断れない。体が動くうちは、もう少しだけ頑張って続けたいと思ってますよ。

 

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▲この唐揚げが食べられる幸せを噛みしめたいと思います

 

今日のお昼ご飯はもちろん、「きゃべつ弁当」にします。

みんなも自宅近くにこんなインディーズ系弁当屋さんがあったら、足を運んでください。

 

お店情報

きゃべつ弁当 小山店

住所:東京都品川区小山6-22-7
電話番号:03-3783-9744
営業時間:10:30〜19:30(唐揚げが売り切れ次第終了)
定休日:木曜日

 

書いた人:キンマサタカ

キンマサタカ

編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)

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