【たまごふわふわ】
この単語を見てネガティブな印象を持つ人なんてほぼいないはず。
なんつったって、まずその字面。平仮名ってのがニクイ。
すべての字の形が丸くてころんとしている。
そして、なんだかよくわからない。わかるようで、わからない。
卵を使った何か、ということぐらいしかわからない。
この「たまごふわふわ」は静岡県袋井市のご当地グルメ。
袋井市ってどこだよって人は、ひとまず「掛川市と磐田市の間にある市」と認識してほしい。
両隣が有名過ぎて全国的な知名度はいまいちですが、お茶とメロン、夏になると打ち上げ数2~3万発の『ふくろい遠州の花火大会』が全国規模で有名。法多山や油山寺などの名所・旧跡もたくさんあります。
なぜなら、袋井は東海道五十三次のど真ん中の宿場町だったから(間どころかど真ん中!)。
この「たまごふわふわ」も、実は袋井宿で朝食のお膳に出された料理なんです。
さらにいえば、将軍徳川家の祝宴料理として登場したこともあり、当時は名のある武士や豪商が食したセレブ料理だったとか。こう見えて、由緒正しい高級卵料理。
江戸時代の文献『東海道中膝栗毛』や豪商の旅行記に記録が残っていたため、それを参考にして袋井市の観光協会が再現したんだとか。
材料は、卵とだし汁。その2つが、
こうなる。名は体を表すというか、巨大なメレンゲのような実態そのもの。
見た目のインパクト大です。
実は県外からやってきた筆者も数年前に初めてその存在を知り、ふわっとした名前の雰囲気に惹かれ、某B級グルメのブースで食べました。
長蛇の列に並んで食べました。
しかし、初めて食べたときの印象は、戸惑い。
泡を食べているような、ふわっとした食感。
かなり薄味で、スイーツなんだかおかずなんだか、よくわからないまま終了。
完全なる不完全燃焼ですよ。
でもきっと徳川家の献上料理の実力はこんなものじゃないはず。
イベント用の量産型とは格が違うはず! その格の違いを感じたい!
本気を出した「たまごふわふわ」を食べてみたい!
……そして数年後。リベンジ先として向かったのが『遠州味処 とりや茶屋』さん。
(前置きが長くなりましたがレポートはここからです)。
ふわふわだけど味の輪郭がある「たまごふわふわ」
JR袋井駅から徒歩7分ほど、約80年前からこの地域で代々続いている食事処です。
壁には著名人のサインが多数。
ポスター発見。これも某イベントで食べた時のようにふわふわしてます。
今日は是非ともその真価を見せてもらいたい。早速ご主人に作っていただきます。
小さな土鍋にだし汁をよそい、火にかける。
── 市内の数店舗で食べられるようですが、違いはあるんですか?
ご主人:うちの出汁は昔ながらの昆布と鰹節。シンプルだけどいいもん使ってるよ。お店によって鶏がらを使ったり、具を入れたりするところもあるけどね。
なるほど、シンプルだからこそ、素材や作り方で大きな差が出そうな予感。
そして卵を取り出し、ボウルに白身を入れる。
── え、1個? 卵1個だけであんなに膨らむんですか!?
ご主人:そう、1個。これをひたすら混ぜる。ハンドミキサーを使うお店もあるけど、江戸時代にそんな機械はないからねぇ。うちは全部手でやってるよ。
そう言って、ごく普通(に見える)の泡だて器でシャコシャコやり始めたご主人。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
(メレンゲ状になったものに、黄身を加えて)
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
シャコシャコシャコシャコシャコ。
……10分ぐらいシャコってたんじゃないだろうか……。
ご主人:一度にまとめて注文が入ったときも作るのは1個ずつだからね、時間はかかるよ。そもそも大量に作れるもんじゃないんだよ。
確かに注文が入るたびにいちいち手作業なのはめちゃくちゃ手間です。
自分なら注文が殺到したら舌打ちしてしまいそう。
そして、もったりした卵液を沸騰したお出汁の上に一気に流し込み、
三つ葉を散らして蓋をして完成。
▲たまごふわふわ 単品432円(税込)
違う……。
あのイベントで食べた量産型と見た目からして違う……!
巷でよく見かける泡状の姿と違って、これには「輪郭」があります。
そう、まるでシフォンケーキのように。
ご主人:あ、いつもは真ん中の穴はできないからちょっと失敗(苦笑)。
ちょい失敗だった!
(調理場でずっと話しかけていたからだと思います。すみません)
では、いただきます。
▲澄まし汁の上に、ふわっとしたものがのっている状態
肝心のお味も……違う! あの日、戸惑った味と全然違う!
力強い旨味をしっかりと感じる上品なだし汁に、卵の歯ごたえもあります。
ある程度火を通したからか、卵も泡ではなく、存在感のある具として食べられます。ここの「たまごふわふわ」には、味の輪郭がしっかりある。
ご主人:うちに来る人はよくそう言うよ。イベントなんかで食べたことがある人は違いに驚くね。常連さんにはお酒を飲んだ後の〆で食べる人もいるし、病後食として食べさせたいからってレシピの問い合わせがあったこともある。病気で弱った母親に一カ月食べさせたら、食欲も湧いて元気になったって娘さんが手紙をくれてね。あれは嬉しかったなぁ。
確かにこれは風邪ひいて弱ったときに食べたいわ~。茶わん蒸しをぐっと上品に、柔らかく仕上げたようなこの優しい味は、子供や病後食にもいいはず。
ご主人:でも昔ながらの作り方でやろうと思ったら作る量には限度がある。うちでは1日20食ぐらいかな。
値段も単品なら安いし、手間と時間を考えるとミキサーでガーッとやったほうが早いうえに、ぶっちゃけあの泡っぽいスタイルの方がインパクトもあります。
ご主人:でも昔ながらの味を再現ってそういうことでしょ。
地元、袋井を愛するご主人の心意気!
── その立派な腕っぷしもあのシャコシャコが作り上げたものなんですね!
ご主人:まぁこれは武道やってるからね。
……そこはシャコシャコのおかげで! そういうことにしといて!でもこの筋肉のおかげで手作業で成り立ってるともいえます。
かくして「たまごふわふわ」のイメージはガラリと変わりました。
これはご当地グルメなんてどこかミーハーな呼び方をしてはいけないものです。
いや、呼んでいたけれども。
あの時はどうもすみませんでしたー!(平伏す)
今日から訂正。
「たまごふわふわ」は立派な「郷土料理」である
そして記憶の上書き保存。
本物の味は、是非現地で味わってもらいたい。
全然違うから! れっきとした日本最古の卵料理だから!
ちなみに、お店のメインは魚介料理。
コチ、カワハギ、平目、穴子、カサゴ、もち鰹(春先によれる餅のような食感の鰹)など、魚の種類数は日本一といわれる遠州灘でとれた旬の魚が味わえます。
▲冬はふぐ、夏場はハモ、すっぽん、クエ料理も
▲ランチは1,000円(税抜き)で袋井の味が楽しめる
▲シャコシャコしながら遠州の歴史や食文化について教えてくれたご主人(松下さん)
お店情報
遠州味処 とりや茶屋
住所:静岡県袋井市高尾町15-7
電話番号:0538-42-2427
営業時間:11:30~14:00/17:00~L.O.21:30
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
袋井市で食べられる創作系たまごふわふわ!
市内には「たまごふわふわ」の新しい味を追求した創作系の店もあります。
本物を堪能したら、是非いろんなふわふわを試してみて!
地元産有精卵のバニラアイス×たまごふわふわのコラボ!
▲たまごふわふわアイス盆 400円(税込)
じぇらーとげんき 可睡斎門前店
住所:静岡県袋井市久能2952-1
電話番号:0538-43-7766
営業時間:9:00~18:00(11月~3月は17:00まで)
定休日:木曜、第3水曜
【創作】A じぇらーとげんき 可睡斎門前店 | 袋井市観光協会
塩麹入りの遠州焼きにたまごふわふわをトッピング
▲たまごふわふわお好み焼き 850円(税込)
Honey! ハニー!
住所:静岡県袋井市新池389-1
電話番号:0538-43-9233
営業時間:11:00~L.O.14:00/17:30~L.O.22:30(夜は要予約)
定休日:火曜、第3月曜
※「たまごふわふわ」が食べられるお店は袋井市観光協会のHPでチェック!