「市場に出回ってないし、見た目も気持ち悪い」でも ”うつぼ料理専門店”を開いた料理人の熱と想い

静岡県伊東市、2023年5月にオープンしたうつぼ料理専門店「うつぼ」。なぜ、食用としてほとんど利用されていないうつぼの専門店を開いたのか。店長さんにお話しをうかがった。

 

 

 

うつぼ。恐ろしげな見た目から、海のギャングとも呼ばれる大型肉食魚。

高知県や和歌山県など一部エリアで郷土料理として食べられているが、ほとんどの地域で食用されていない。

 

静岡伊東市に、そんなうつぼ料理の専門店が2023年5月オープンと知り、うかがった。

 

 

▲うつぼ料理専門店「うつぼ」

 

軒先テントに店名が書かれてないシンプルな外観。一見、何のお店か分からない。

 

 

 

が、近づいてみると、立て看板に書かれているのは

 

・うつぼ刺身

・うつぼ唐揚

・うつぼ天ぷら

・うつぼみりん干し

・うつぼ蒲焼

・うつぼたたき

 

と、うつぼメニューのオンパレード。

このラインナップ、店名が書かれてなくても間違いない。絶対、うつぼ料理専門店だ。

 

 

▲軒先に干されているうつぼ

 

そもそも、うつぼが食用であまり使われない理由は、骨が複雑に入り組んでるから。数百本もの骨があり、さばくのが大変な魚なのだ。

 

 

▲ずらりと並ぶうつぼメニューの数々

 

店内は落ち着いたムード。カウンター席とお座敷席があり、小料理屋さんのような雰囲気のなか、ゆっくり食事ができる。

 

揚げ、焼き、たたき……。

ありとあらゆるうつぼ料理が楽しめる。

選びきれないので、いろいろ頼んでみた。

 

 

うつぼの頭部をからっと揚げた!迫力満点のギャング揚げ

▲ギャング揚げを、横から

 

▲ギャング揚げを、正面から

 

最近、よく注文されるというギャング揚げ550円(税込)。

なんたって見た目のインパクトがすごい!

さすが海のギャング、揚げられてなお、食らいついてきそうな勢いを感じる。

鋭い歯に注意しながら、食べ進めよう。

 

 

 

マグロのカマ焼き同様に、頭の身をほぐしながら食べていく。

ほほや首の付け根あたりに、思った以上に身がついてるぞ。

 

 

 

エイリアンチックな恐ろしい見た目とは裏腹に、ジューシーながらに上品な味わい。

噛みごたえのぷりぷりとした肉感が最高。めちゃくちゃウマい!

白身魚みたいな淡泊さを想像してたけど、いい意味で裏切られた。魚に対して変な表現だけど、なんだかフライドチキンみたいだなと感じた。

 

 

「うつぼなんか気持ち悪いし、無理だよ」の反対意見がエネルギーに

▲うつぼみりん干し膳1,200円(税込)

 

うつぼのみりん干し。

骨がすべて取りのぞかれてるので、小さな子どもからお年寄りまで、なにも気にせずバクバクいける。

カリッと香ばしくて、ギャング揚げとはまるで違ったウマさだ。

 

このお店に来るお客さんは、うつぼを初めて食べる人がほとんど。

食べたら百発百中で美味しいと感想を抱くそうだが、ほんと分かる。これ、日常食としてしょっちゅう食いたいもん。

 

 

▲うつぼ天ぷら膳1350円(税込)

 

 

天ぷらは、うつぼの身がホクホクしていて、みりん干しやギャング揚げとはまるで異なる美味しさだ。

店長さんのたしかな料理の腕と、食材としてのうつぼの面白さが嚙み合って、どの料理も違ったうつぼの魅力が引き出されてる!

 

 

▲うつぼたたき膳1,300円(税込)

 

店長の米田さんは、和食メインに修行してこられた料理人。

中学校卒業後、熱海のホテル、大阪の寿司屋、神奈川静岡の和食屋などで修行をし、26歳で創作和食店を開業。

コロナ禍の影響で創作和食店は閉業するも、2023年5月にうつぼ料理専門店を開業した。

 

なぜ、うつぼ料理専門店だったのか。米田店長はこう答える。

「2年前、静岡三島市で創作和食店を営んでいました。その頃、コロナ禍が始まり5月に緊急事態宣言。三島市の飲食店はテイクアウトだけならやっても良いですよと。

 

そこで、和食の弁当とうつぼの弁当を出したんです。うつぼの弁当は注文されないだろうと思ってましたが、なんと注文の8割がうつぼの弁当だったんです。

その時、うつぼ料理専門店をしようと、従業員にも相談せず直感で決めました。」

 

なぜ、急にうつぼのお弁当を出したのか。そこも直感だったそうだ。

「ちょうど知り合いが、緊急事態宣言の時にうつぼを持ってきた。特に深い考えはなしに、なにも考えず、直感でうつぼの弁当を始めました。ただ、お客さんも従業員も、食べたら必ず美味しいと言ってたので、こりゃ間違いないと思ってました。」

 

一般的にうつぼは骨が多くて、さばくのが大変だとされている。

現在、店長さんはさばくのにどのくらい時間がかかるのか。

はじめてうつぼをさばいた時は1匹に1時間かかりました。

現在は、うつぼと真剣に向き合い、骨の位置、骨の入りを頭に叩き込むことで、3分かからずさばけます

 

 

▲うつぼ唐揚げ

 

テイクアウト対応が引き出したおもわぬニーズ、料理人としての経験があったから選択しえたうつぼ専門店という選択肢だった。

とはいえ、ほとんど食べられる習慣がない食材だ。うつぼ専門店を開店することに不安はなかったのだろうか。

 

「うつぼは市場に出回ってないし、見た目も気持ち悪い。食べる習慣もない。そんな食材、普通なら売れるわけないと思いますよね。

周りからも反対されました。うつぼなんか気持ち悪いし無理だよって同業者にも言われましたし。そのマイナスな発言が、僕にとってものすごいエネルギーになったんです。

いつもの食材だけじゃ新しい食材に出会えない、誰もやらないなら僕がやってやると思い、専門店にしました」と店長さん。

 

市場に出回らないうつぼ、どうやって調達していたのか?

静岡県でも基本的にはうつぼを食べないので、漁師さんたちは獲れても、市場で売らず捨ててしまうんだとか。どこにも売られてないので、当初、店長の米田さんは営業終了後に釣りをして、うつぼを調達していた。」

 

うつぼに対して、熱い想いがあふれてる!

 

海のギャングと米田店長の熱々コンビが、うつぼを次世代の定番食材に押しあげるかもしれない。

ぜひ、現地でうつぼの未体験なウマさに触れてみて欲しい。

 

 

お店情報

うつぼ

住所:静岡伊東市大原1丁目5−1
営業時間:11:30~14:30、17:00~23:00
定休日:日曜日、月曜日

 

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。

 

 

 

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