徳島生まれのロングセラーカップ麺「金ちゃんヌードル」はなぜ西日本で長年愛され続けるのか【徹底解剖】

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私が東京から大阪に引っ越してきてよかったと感じたことの一つに「金ちゃんヌードル」が手に入りやすくなったことが挙げられる。

「金ちゃんヌードル」は徳島県に本拠を構える徳島製粉株式会社が製造・販売しているカップ式のインスタントラーメンである。

販売エリアは西日本が中心で、大阪のスーパーでもよく見かける。

 

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こちらが家の近所のスーパーで買ってきた「金ちゃんヌードル」だ。

 

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容器はプラスチック製でフタがついている。

 

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フタを開けると中には袋入りのかやくと粉末スープ、そして麺が。

 

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かやくの中では特に大きめのエビが印象的だ。

 

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熱湯を注ぎ、フタをして3分待てばできあがり。

 

個人的に「金ちゃんヌードル」の麺の食感が大好きである。コシがあって、歯切れがよい。この食感はあまり他のカップ麺の麺にはない気がする。

 

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ちなみにカップはこんな風に2層構造になっていて、手に持った時に不思議な触り心地がする。

 

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また、醤油味ベースの「金ちゃんヌードル」の他に「金ちゃんヌードル コク旨カレー」など味に6種類のバリエーションがある。 

 

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半世紀近く愛されるロングセラー

そんな「金ちゃんヌードル」の発売が開始されたのは1971年(昭和46年)の3月のこと。発売から47年にもなるロングセラー商品なのだ。

今まで私は「あ、『金ちゃんヌードル』だ。買おう」という感じて買って、食べて「そうそう、このちょうどいいおいしさがいいんだよな」と思って、そうやってぼーっと日々を過ごしてきたのだが、ふと立ち止まってみることにした。私は「金ちゃんヌードル」のことをもっとよく知っておくべきではないのか?

そこで今回、「金ちゃんヌードル」を販売している徳島製粉株式会社に取材を申し込み、「金ちゃんヌードル」の歴史、シンプルでちょっと懐かしいパッケージデザインについて、そして発売当初からの50年に近づこうとする長い年月の中でどんなことを大事にしてきたのかなどなど、担当者にお話をたっぷりうかがってみることにした。

 

── 「金ちゃんヌードル」は1971年から発売されているとのことですが、その前に袋麺タイプの「金ちゃんラーメン」の発売が開始されていますね。

 

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担当者:「金ちゃんラーメン」は1967年(昭和42年)の2月から販売されています。それまで、弊社では“徳島製粉”という社名の通り製粉業が中心だったのですが、大手の製パン会社が徳島に進出して小麦粉の売り上げが落ちてきたため、自社の小麦粉を使った商品開発を始めようと考えました。そうして生まれたのが袋麺タイプのインスタントラーメンです。自社ブランドの小麦粉が「金鶴(きんつる)」という商品名だったので、最初の商品は「キンツルラーメン」という名前で売り出しました。それが1966年です。しかし同じ名前の商品がすでに存在していたため、徳島名物の鳴門の渦潮を商品名に盛り込んで「ナルトナミキンツルラーメン」と変更しました。

 

── だいぶ長い名前だったんですね(笑)。

 

担当者:TVコマーシャルを制作することになったのですが、そのために短い時間で伝わる商品名にする必要がありました。そこで「金鶴」の“金”を取って、親しみを込めた“ちゃん”をつけ、「金ちゃんラーメン」という商品名が生まれました。そのような経緯があり、1967年からは「金ちゃんラーメン」として販売し続けています。

 

── 「金ちゃん」というと人物のニックネームのように思えますが、実際は小麦粉のブランド名から来ていたとは知りませんでした。

 

担当者:そうなんです。それからだいぶ後になって、パッケージに描かれている男性が「金ちゃん」だということにしようということになりました。ですから今はあのおじさんが「金ちゃん」ということになっています。

 

── あのパッケージも素晴らしいですよね。懐かしさを感じる絵柄がかわいくて個人的にも大好きなんですが、あれはどなたのデザインなのでしょうか。

 

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担当者:残念ながら当時のデザイナーの方などの情報は残っていないんです。発売当初は白色を基調とした別のデザインだったんです。その後、現在のデザインに変更されています。

 

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── あのイラストを使ったオフィシャルグッズがあったりしたら個人的にすごく欲しいのですがそういったものは……?

 

担当者:残念ながら資料が残っていないのですが過去にはいろいろなグッズが存在していたそうで、イラストやロゴを使ったものもいくつかあったのではないかと思われます。

 

── うわー!「金ちゃんラーメン」のTシャツがもしあったら着たいです!

 

あえて60〜80点の味に設定

── ではそろそろ本題「金ちゃんヌードル」のお話を。「金ちゃんラーメン」が1967年発売、「金ちゃんヌードル」が1971年発売ということでしたね。

 

担当者:カップ式の「金ちゃんヌードル」は、袋麺タイプの「金ちゃんラーメン」の応用製品として開発されたもので、特徴としてかやくに大きめのエビを使っています。当時の社長はこのエビにかなりこだわったようで、サイズ・色味・風味などを原料メーカーに細かく指定していました。また、具材にシイタケを入れた点で他社製品との差別化をはかりました。具材はエビ、シイタケのほかに豚肉、玉子、ねぎが入ってボリューム的もたっぷりで、彩りの良さにもつながっています。

 

── たしかに、「金ちゃんヌードル」は具材がたくさん入っている印象があります。あと、歯応えがある麺も好きです。

 

担当者:麺には肉エキスを練り込んでいます。それによって香ばしさと香りづけを行い、コシがあり歯切れがよいものに仕上げています。スープは何度食べても飽きないさっぱりした醤油味です。ちなみに開発当時、いくつかの試作品を作った中で、“おいしいと感じる度合が60%~80%のもの”をあえて採用したそうです。少し物足りない味の方がリピート購入していただけるという前提があったようです。

 

── 興味深いお話です! また食べたくなるような絶妙なおいしさを目指したわけですね。ちなみに今お聞きした「醤油味」というのがオーソドックスな「金ちゃんヌードル」で、その他にもたくさんの味がありますよね。

 

担当者:現在(2018年4月時点)、「金ちゃんヌードル」シリーズには味の違う6種類があります(以下参照)。

 

■ 金ちゃんヌードル

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■ 金ちゃんヌードル すっきりしお

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■ 金ちゃんヌードル コク旨カレー

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■ 金ちゃんヌードル しょうゆとんこつ

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■ 金ちゃんヌードル 辛味

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■ 金ちゃんヌードル とんこつ

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担当者:このうち、「しお」や「カレー」はリニューアルを行って発売当初とはパッケージに若干の違いがあります。

 

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担当者:また、過去には黒胡椒を効かせた「金ちゃんヌードルエスニック」(1993年頃発売)、カルシウムとベータカロテンを含んだ「金ちゃん カルデカロヌードル」(1994年頃発売)といった商品も販売されていたのですが、こちらも残念ながらパッケージ資料は残っていません。

 

── 「カルデカロヌードル」とは! いったいどんな味だったんだろう。ちなみに売り上げ的はどの商品がナンバーワンですか?

 

担当者:やはり「金ちゃんヌードル」です。

 

── なるほど。それ以外のおすすめとなると……?

 

担当者:おすすめは「金ちゃんヌードル とんこつ」ですね。2018年2月に発売してから好評で、おいしいとのご意見をいただいております。炊き出したようなとんこつ臭を再現した白濁のまろやかスープです。麺は極細めんで熱湯2分でできあがる硬めの麺に仕上げております。具材は、豚肉、キクラゲ、ねぎ、紅生姜、ごま入りです。

 

「田」に隠された秘密とは

── 「金ちゃんヌードル」シリーズのパッケージもすごく個性的というか、文字だけでシンプルなのにポップなかわいさがありますよね。

 

担当者:「金ちゃんヌードル」についても、このデザインとなった流れははっきりとはわからないのですが、ロゴのレトロな感じが手に取りたくなる愛らしさがあるので、そこも人気のポイントの一つかもしれません。デザイン自体は発売当初から現在までそのまま変わりありません。

 

── ひとつ気になっていたのですが、デザインの中に“田”という字を丸で囲んだマークがありますよね。これは何を意味しているんでしょうか。

 

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担当者:これは弊社の創業者・田中殖一の“田”を取ったものなんです。

 

── 社長のお名前だったのですか! これはファンなら知っておくべき豆知識ですね(笑)。パッケージのことでいえば「金ちゃんヌードル」はフタがついているというところが特徴的ですね。

 

担当者:プラスチックのフタは、消費者の方が持ち運びしやすい利点のほか、保温効果もございます。また弊社のカップは二重構造となっています。お湯を注いだ際にカップを持つ手が熱くならないようにといった工夫の末、このような形状となりました。食べ終えたら内側のカップを外し、いろいろな用途で再利用される方などもおられるそうです。

 

── お湯を注いだあとに手軽にしっかりフタができるのがうれしいです。

 

担当者:「金ちゃんヌードル」は中国・四国地方をはじめとした西日本で主にローカルカップ麺として親しんでいただいています。さらに意外かもしれませんが静岡県と沖縄県では特に根強い人気があります。このうち沖縄では、カップにフタをする「金ちゃんヌードル」の形状が畑仕事のお供として持ち運びしやすいといった点から需要が拡大したという話も耳にしました。

 

── あのフタの利便性のおかげで普及したということですか!

 

担当者:あっさりした醤油味が沖縄県民の皆様の好みに合っているという声もお聞きします。様々な側面があるとは思いますが、おかげ様で昔から親しんでいただいています。また、静岡県では土地の味覚にあっていたことに加え、歴代の営業マンが販売先との信頼関係を築いて頑張った結果、需要が拡大したと聞いております。静岡県の方々には弊社の独特のコマーシャルも馴染深く感じていただいているそうです。

 

── 静岡県と沖縄県でも定番の味なんですね。

 

担当者:ありがたい限りです。また、東京都内でも一部の店舗で販売されているため、「金ちゃんヌードル」の味を気に入って食べてくださっている方がいらして、大変うれしいです。

 

コマーシャルもイイ味出してる

── 先ほどお話にも出たTVコマーシャルですが、こちらも独特の味わいがあって好きです。

 

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担当者:おかげさまで懐かしいコマーシャルから新しいものまで好評をいただいており、ネット上にもたくさんアップしていただいているようです。近年、徳島製粉の公式Twitterを始めたのですが、そちらでもコマーシャル動画を紹介しています。また、ツイッターで芸能人の方が弊社の「金ちゃんヌードル」についてつぶやいて下さっているのを見るとうれしくてつい「いいね!」を押してしまいます(笑)。

 

── 最後に「金ちゃんヌードル」を製造・販売する上で大事にされていることを教えてください!

 

担当者:“飽きのこない味づくり”を心掛けています。一口目で「おいしい!」というよりは、一杯を食べ切ったときに「ああおいしかった、また食べたいな」と思えるような商品開発に取り組んでおります。

 

── ありがとうございました。今後もリピートさせていただきます!

 

お話を聞いてみて、ついついまた食べたくなる「金ちゃんヌードル」の魅力の一端を知ることができた気がする。あの絶妙な“ちょうど良さ”は実はかなり確信的に作られていたのだ。

「金ちゃんヌードル」が自分の住むエリアで販売されておらず食べたことがないという方もぜひ一度味わってみて欲しい。「金ちゃんヌードル 通販」などと検索するとオンライン販売を行っているショップが多数見つかるのでぜひチェックを!

また、徳島製粉株式会社では、「金ちゃんヌードル」シリーズや「金ちゃんラーメン」以外にもさまざまな製品を作っているので、公式サイトから確認してみてほしい。

 

取材協力:徳島製粉株式会社 http://www.kinchan.co.jp

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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