フェリーほどぜいたくな旅はない
大阪・難波の地下街を歩いていて、こんなチラシに目が止まった。
「徳島へ 2,000円!!」
えっ! 2,000円!?
チラシをもらって帰ってよく読んでみると、南海電鉄が販売する「とくしま好きっぷ2000」という割引キップが販売されているという。
なんば駅や、新今宮駅、天下茶屋駅などの指定駅で購入が可能。販売駅から和歌山港駅まで南海電鉄に乗ることができ、和歌山港から徳島港まで南海フェリーに乗れる。そこまで全部含めて2,000円である。平日限定、とかそういう縛りもなく、いつでも乗ることができる(販売は、2018年3月31日までの期間限定)。
これは安い! と驚いたのだが、考えてみれば大阪から徳島までは淡路島を経由する高速バス路線が充実しており、最安値のものだと片道2,000円を切るバスもある。大阪と徳島間を自家用車以外で移動しようと思えば高速バスという交通手段が一番手ごろだということになる。
ただ、フェリー好きの私にとっては2,000円で徳島まで行ける上、途中で南海フェリーにも乗れる、という点がなんといっても魅力的なのだ。世の中にはさまざまな交通機関があるが、フェリー(というか客船全般)ほど広々とした乗り物があるだろうか。乗り物に乗って移動しながら、その中をウロウロしたり、売店で飲み物や食べ物を買ったり、ゴロゴロしたり、視界いっぱいに広がる海をぼーっと眺めたり、そんなことができるのである。考えようによっては、最もぜいたくな乗り物だとは言えないだろうか。
前置きはこれぐらいにしよう。これから、「とくしま好きっぷ2000」を使って徳島まで日帰り旅行に行ってきたレポートを紹介したい。こんな一日の過ごし方もあるということをチラッとでも知っていただければ幸いである。
出発前日に南海フェリーの公式サイトをチェックしてみたところ、なんば駅を朝7時2分に出発する電車に乗れば、和歌山港に8時15分に着き、8時30分発のフェリーに乗ると10時35分に徳島港に到着することがわかった。
トータル3時間半ほどの行程となり、電車に1時間ちょっと、フェリーに約2時間乗るという感じだ。
帰りは18時55分に徳島港を出るフェリーに乗ることができれば、その日の内になんば駅に戻ることができる。
徳島で過ごす時間は8時間ちょっとと、それほど長くはとれないが、街を散策しつつ昼ご飯と夕飯ぐらいは食べて帰れそうだ。では、いざ出発!
駅からフェリーに乗り込む
朝6時過ぎに家の最寄り駅から電車に乗る。
南海電鉄なんば駅まで行き、券売機を見てみると「とくしま好きっぷ2000」のボタンが用意されており、簡単に購入できた。
この小さなキップで徳島まで行けるなんて! 嘘みたい。
電車に揺られ和歌山港駅に到着。
「南海フェリー連絡口」の表示に従って通路を進んでいくと、そこはもうすでにフェリーの上。
船内を見て回る
テンションがあがった私はまずフェリー全体を見てまわる。
椅子席。
フロント兼売店。
酒類を売る自販機。
スロットゲームコーナー。
じゅうたん敷きのごろ寝スペース。
他にコンセント付きの仕事用デスクもあり、作業をしているお勤め人の姿も。
船室の外に出るとベンチやテーブルが並ぶエリア。
展望デッキもあり、海風が気持ち良い。
旅客定員427名。総トン数およそ2,600トン。割合小規模なフェリーなので、結構揺れるかなと思ったが、左右にゆっくりとゆらーりと揺れる感じで、私としては気にならない程度だった。
昼寝から覚めたら徳島だった
売店をのぞくと、お菓子やおつまみの他にお弁当も売られていた。
「四あ和せ弁当」(500円)を購入。朝食がてら、このお弁当をつまみに一杯やろうではないか。
四国をイメージしたらしい弁当で、主に4パートに分かれ、そぼろご飯、卵ご飯、フライやウィンナー、シューマイなどが入った弁当で、酒のアテとしてもこの上ない。
そして缶ビールをゴクリと飲んで周りを見ればこんな感じ。
甲板へ出てみる。
最高だ!
このまま引き返しても2,000円分の喜びはもう得たと思う。ああ、フェリーって素晴らしい。
広い景色を堪能し、早起きした私は少し眠くなってきた。というわけでごろ寝スペースでウトウト。
目が覚めるとそこはもう徳島港だった。
バスに乗って15分ほどで徳島駅。ポストの上に阿波踊り像がある。
観光PRムービーのナレーターは地元徳島出身のチャットモンチーだ。
というわけで、まぎれもなく徳島に着いた!!
駅前からのびる「ポッポ街」という味わい深いアーケード街を歩く。
「理容ミロード」のカット、シャンプー、顔ぞりのセット価格2,000円もかなり安いが、同じ額で徳島に来れたと思うと相当なお得感だ。
徳島ラーメンを食べてみる
時刻はおよそ11時。まずは昼ご飯だ! と、散歩がてら徳島駅の隣駅の佐古駅まで歩き、徳島ラーメンの名店を訪ねることに。
徒歩20分ほどかかってたどり着いたのが「春陽軒」だ。
徳島ラーメンはスープの色から茶系、黄系、白系の3つに分類される。ベースとなるダシも味付けもそれぞれに異なるのだが、一般に徳島ラーメンとしてイメージされるのは、甘じょっぱい濃い口の醤油味に豚バラがトッピングされ、そこに生卵を落として食べるのが定番の“茶系”だろう。
「春陽軒」はその“茶系”の徳島ラーメンを代表する有名店。11時から16時までという比較的短めの営業時間ゆえに常に混雑しているらしく、私が入店した時もほぼ満席状態であった。
メニューは「中華そば」とサイドメニューのライスのみ。「中華そば」の小に豚バラと卵が入った「肉玉入 小」(700円)をオーダーすることにした。
運ばれてきたのがこちら。
ワイルドな美しさがある……。麺はプツプツと歯切れのいい細めのストレート。
そしてこの豚バラ肉。味がとことん染み込んでかめばかむほどうまいのである。
卵の黄身を麺に絡めてズズッと吸い込むこの幸せ。
黒っぽいスープの色から想像できないほど後味はすっきりしている。
食べながらすでに「明日も食べたいよ」と思っていた。やたら後を引くのだ。
お店情報
【閉店】春陽軒
住所:徳島県徳島市南田宮4-4
営業時間:11:00~16:00
電話:088-632-9818
定休日:月曜日
徳島の街を散策する
お店を出て、晴天の徳島を散策。
阿波踊りの町・徳島だけあって、道沿いに「横笛あります」という看板が出ていたり(このお店は「横笛教室」を兼ねた喫茶店だった)、
自販機前で足を止めてみると「阿波踊り専用エナジードリンク」が売られていたりする。
また、町を歩いてるとたまに見かけるド派手な花輪。
開店祝いなどに贈られる「慶花環」と呼ばれるものだが、徳島の花輪はこんな感じ。かなりアッパーな色使いである。
独特の文化を感じつつ歩いていると「阿波おどり会館」にたどり着いた。
館内で阿波おどりの実演が行われていたり、徳島の物産も取りそろう、徳島駅周辺でも評判の観光スポットだ。
この「阿波おどり会館」の5階からすぐ裏手の眉山までロープウェイに乗ることができるというので乗車してみた。
2台一緒に進むかわいいロープウェーは数分で山頂へ到着。
山頂の展望台からは徳島市の町並みが見渡せて、遠くの海には淡路島の島影の見える(写真の中央あたりから左の方に広がっているのが淡路島)。
美しい景観を楽しみつつ、青空の下、ゆっくり飲む。
展望スペースには恋人たちが永遠の愛を誓って鍵を取り付けていくスポットがあったのだが、そこに「白鵬 紗代子 出逢い」と書いたプレートがあって驚いた。
帰宅後に調べてみると、横綱・白鵬関とその夫人の紗代子さんの初デートの場所がこの眉山だったんだとか。
うおー! 根拠はないけど、他のどんなカップルよりもご利益ありそう!!
また、山頂には雰囲気のいい「焼きもち屋」があったのだが、残念ながらシャッターが下りていた。
近くでお掃除をされていたスタッフの方に聞いてみると、かなり不定期にしか営業してないお店で、長いことロープウェイの管理をしているその方も1回か2回しか開いてるのを見たことがないという。めちゃくちゃ気になる……。
徳島の大衆酒場で飲む
再び徳島市街を歩き、鮮魚や肉、野菜、果物を売る店舗が立ち並ぶ「中州総合水産市場」で徳島名物の練り物を買い食いしたりして楽しむ。
のんびり過ごしていると、気づけば帰りの時間が近づいて来た。最後の仕上げに、と、徳島駅前にある居酒屋「安兵衛」へ。
ここは朝から飲める大衆酒場で、地域の方にも観光客にも愛される有名店。まずはよく冷えた生ビールをグビッと飲む。
せっかくだから新鮮な魚を食べてみたいと思い、お店の方におすすめをうかがうと「アジとかハマチとかマグロ、なんでもおいしいですよ」とのこと。「じゃあ、アジを」を注文すると豪華なお造りがドーンと登場。
▲アジの刺身(920円)
「こりゃあ豪勢になっちまったなー!」と思いつつ、ぷりっぷりの身をかみ締めると口の中に甘みがあふれ、思わず宙を見上げる。
また、添えられたスダチを醤油に絞ると味が劇的に爽やかになっておいしいのだ。
常連さんに好評だという「手羽先ギョウザ」(570円)は肉厚でジューシー。
「レモンチューハイ」(420円)に刺身に添えられたスダチを絞り入れて作った即席オリジナルドリンクによく合う。
時間があまりないので焦りつつ、お酒メニューから「三芳菊 本醸造」(360円)をいただき、「ああ、今、徳島にいるんだなー」とその味わいをかみ締める。
締めに「貝汁」(230円)をオーダー。大ぶりのアサリがたっぷり入って滋味あふれる一品。「絶対また来るぞ」と念じつつ飲み干す。
駅前でお土産を買ってバスに乗り、フェリー乗り場へ。
少し早く着いたので堤防近くで、軽く飲みながらフェリーを待つ。
しばらくしてフェリーがゆっくりやってきた。船の全体を見るのはこれが初めてだ。
フェリーに乗り込み、海風を浴びながら遠ざかる徳島港を眺める。
どこか夢の中のできごとのような、現実感の薄い不思議な一日だった。
あっという間に空の青が濃くなり、遠くに夜景が輝き始めた。
それを眺めながら、フェリーの旅には電車や飛行機の旅とはまた違ったスローな喜びがあるなーと改めて思った。予想以上にリーズナブルに、手軽に大阪~徳島間を行き来できることがわかったので、今度は友達でも誘ってもう少しゆっくり堪能してみようと思った。
お店情報
安兵衛
住所:徳島県徳島市一番町3-22
営業時間:10:30~21:30
電話:088-622-5387
定休日:無休
書いた人:スズキナオ
1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。