金沢カレーご存知ですか?
鼻毛の森です。理想論撲滅をJ-POP仕立てで歌う(ワケあり)シンガーソングライターです。
さて、私の活動拠点であり、生活拠点である金沢(石川県)は、北陸・日本海の新鮮な海産物の宝庫。和食メインの美食処との印象がポピュラーですが、その裏では“B級”グルメも多数ありまして。
中でも、(近年)全国メディアでも頻繁に紹介されている「金沢カレー」の定着感は群を抜きます。
ただ、「捏造した町おこしネタちゃうやろな」なんて懐疑的な声が(未だに)散見するのも事実。
このくすぶりを完全鎮火すべく、いかに歴史深く、オリジナリティに溢れているかを(改めて)紹介するため、今取材へと乗り出したわけです。
▲こちらが金沢カレーの基本形
さあ本題! 「そもそも金沢カレーってなんやねん!」という疑問にざっくりと答えていきます。
まず、「金沢カレー」の元祖として知られる「カレーのチャンピオン(チャンピオンカレー)」のオフィシャルヒストリーページには
- ルーは濃厚でドロッ!
- ルーの上にはカツが乗り、その上にソースが。
- ステンレス製の舟型のお皿を使用。
- 先割れスプーンかフォークで食す。
- キャベツの千切りが付け合わせに。
- カレーのルーは全体にかけ、ライスを覆い尽くす。
的にまとめられていますが、なんだかちょっぴり他人事目線です(笑)。
▲ツッコミを入れられる前に、立て看板に顔を突っ込んでみました
そんなわけで確認に訪れましたのは、「金沢カレー」の元祖「カレーのチャンピオン(通称:チャンカレ)」野々市(ののいち)本店です。野々市市は、金沢市に隣接し、都市化が進む県内屈指のベッドタウンです。
え? 「じゃあ、金沢カレーじゃなくて野々市カレーじゃん」って?
そのツッコミは、地元では使い古された言わないお約束です。
実はもともと、「チャンカレ」の原点「洋食タナカ」は金沢市高岡町で創業し、「金沢カレー」を定着させてきたのですが、数度の名称変更を経てこちらへと移転しているのです。その複雑な事情については、「チャンカレ」のオフィシャルヒストリーページにて(のちほど)お読みください。
店舗の隣に「チャンカレ」本社事務所があったので直撃(迷惑)
▲経営者としても敏腕な南社長が取り組む「働き方改革」がTシャツからにじみます
さて、不審者に過ぎない私の突撃を受け入れてくれたのは、「チャンカレ」の原点・「洋食タナカ」の創業者であり、不動の“金沢カレー”レシピを考案した故・田中吉和氏の実孫にあたる南恵太さんです。
若干34歳にして“3代目”代表、しかも前職が大手企業の証券アナリストという、地位と名誉を兼ね備えた“デキル”男(※筆者鼻毛の見立て)……なので、以降の会話は日●劇場的な倍返し感満載の演出でお届けします。レッツ・ドラマチック。
▲「ニューカナザワ」シェフ時代の田中吉和氏。この写真の中には「アルバ」、「ユキ」、「インディアン」の創業者も
南:「金沢カレー」とくくられるレシピは祖父によるものです。今は、その見た目を担保すれば概ね「金沢カレー」と認識されますが、もとの「洋食タナカ」のレシピが共有されているのはウチと「アルバ」さんと「ユキ」さん、そして「インディアン」さんで、他の店舗はそれぞれ独自に新しく作っているものと認識しています。
▲ひねったコメントで倍返しを試みる鼻毛の森(永遠の33歳)
鼻毛:金沢カレーにも主流と亜流があるんですね! これは……なんだか裏側には濃厚でドロッとしたものがありそうですね。美味いこと言いました。カレーだけに。
▲圧倒的な目力(+髭)で受け流す南社長。いい倍返しだ。
南:続けていいですか? 厳密にいうと、ルーの中身のお肉で見分けることができます。主流はビーフ、亜流はポークを使ってている可能性が高いです。肉で味わい自体がけっこう変わるんですよ。うちは元々はビーフを使っていて、数年マトンになってまたビーフに戻りました。
鼻毛:マトンカレー……それはそれでクセがあってハマりそうですね!
南:ああ、クセになってハマると言えば、トンカツ用の豚肉を柔らかくするための酵素(白い粉)を、瓶からビニール袋に入れている様子をお客さんに見られてしまい、界隈がザワついたという逸話があります。
▲社長の証言をもとに食塩で再現しました。※酵素が現存しないため
鼻毛:勘違いしたまま遠ざかった人もいると思いますので、訂正しておきましょうね。潔白です。白い粉だけに。
現役半世紀!? 金沢カレー界のレジェンドに生の声を聞く
▲金沢カレー史を知り尽くすレジェンド職人・小倉さん。彼が「チャンカレ」にやってきたのは「タナカのターバン」時代の32年前。知る人ぞ知る「インディアン」名物「やさたま(野菜と卵焼きがメイントッピングのリーズナブルなカレー)」との考案者で、繁華街に構えていた自身の店「スパイスロード」はもはや伝説
さて、南社長から「職人に話を聞いた方が早いですよ」と促され、厨房へと移動し、“金沢カレー創世記を知るレジェンド”小倉さん(72歳)に話を聞きました。
小倉さんは金沢初のカレー専門店「インディアン」のチーフシェフを務めた今度氏(「洋食タナカ」のカレーレシピを唯一直接手渡された人)のもとでキャリアをスタートさせ、53年に渡ってカレー道を歩んできたお方です。うん、風格が違いますな。
▲揚げたてのロースカツの愛称は「Lカツ」。これも「洋食タナカ」時代からのモノだ!
小倉:まず、今の「金沢カレー」と呼ばれるカタチは、「洋食タナカ」の2枚看板メニューだった「カレー」と「とんかつ定食」を、そのまま合わせたのがはじまりなんですよ。
鼻毛:なんたる奇跡のマッチング! なるほど、それでカレーにソースがかかっていたり、キャベツが添えられていたり……見たまんまですね。
▲かつては腕一本で長時間混ぜ続け、そのコクを保っていたカレー。機械化が小倉さんの現役寿命を延ばしたと言っても過言ではない!
小倉さんによると、カレーのルーそのものに関しては、「洋食タナカ」のレシピで完成されており、基本的なスパイスの配合はなにも変わっていない(はずだ)そう。
ただ、昔よりも巨大寸胴を使うようになり、レシピよりも道具の変化に随時対応してきたとのことです。
変わらない味を守るために技術と経験を捧げて来た小倉さんの半世紀……なんとも頼もしすぎます。
▲現役でありながら、後身の指導も担うべく、厨房を見守る小倉さん
鼻毛:ぶっちゃけ、カレー以外の料理を作りたいと思わなかったんですか?
小倉:他の事は趣味でやればいいと思っているんですよ。とはいえ、仕事の時間も毎日新鮮です。何十年来のお客さんが、ふらーっと現れたりしますし。学生の頃から知ってても、すっかりおじいさん、なんて人もいて。それでも「おー! 久しぶり」なんて。そんな人が増え続けているわけだから、まだまだ辞められませんよね。
▲安心してください。倍返しはしませんよ
インタビュー終盤、思い出したように「そういえば、昔は甘口なんてなかったんだよ!」と小倉さん。クリーミーな甘口は子供向きではあるものの、近隣の男子大学生らがオーダーする姿には「中辛を食べなさいよ」との本音をこっそり抱いている模様。
レシピを大切にするからこそのレジェンドのお言葉、「大人なんだから」ハラスメントでないことだけはお察しください。
では味わわせてもらおうか。金沢カレーの今とやらを
▲オールカウンターの店舗は回転率がすごいんです
さて、本来の目的地であるフロアへと降り立ちました。まずは食券機でお好みのカレーとトッピングをセレクトし、購入した食券をスタッフに手渡す超効率的なシステム。
熟練のスタッフは、ガラス越しに見える常連さんを判別し、入店前にカツを揚げ始めたりするのだとか。その結果、食券差出しから最速1分で……なんて神業が生まれたりします。ただ、普通に考えたらフライングです。まあ、いいか。カツはフライだし。
▲あなどってはいけない。コリコリで美味いんだわ。この福神漬け
スチール製の桶の中には福神漬けがたっぷり。アクセントどころかメインの具にできます。入れ放題ですが、塩分の取りすぎにはお気をつけあそばせ。
さらに、オーダー時に「マヨで」と一言添えると、ルーにマヨネーズをかけてくれるそうです。決して「なみだのか~ずだけ~♩」とか歌いだしませんのでご安心ください。それは「真夜」ですから。
▲神メニュー・5大トッピング全部乗せ(1,420円/税込 ※サービスタイムは1,320円/税込)
で、着丼(皿)しました! 優柔不断な僕がオーダーしたのは、社長のおススメする5大人気トッピング「Lカツ」「チキンカツ」「ヒレカツ」「エビフライ」「ウインナー」全部乗せ。
この茶色に包まれたビジュアル、やっちまった感に溢れていますが、戦隊ヒーロー感も半端ありません。
▲皆さんは用法用量を守って美味しくお召し上がりください
「重い、重いぞ!」
実年齢40オーバーの胃袋にとって、若き日の夢トッピングはもはや悪夢……なはずなのに「旨い、旨いぞ」の衝動の連鎖でフォークが止まらない純情。
さらにお世話になった南社長、小倉さんの笑顔、そして学んだ歴史的な深みが限界を超え続けさせてくれます。本音で取材対応してくれた彼らのためにも「あとでスタッフが美味しくいただきました」なんてズルはしない。そして……一人で食べ切りました。一人でできるんだもん。そう、これが……ヤミツキってやつだ!
金沢遠いし……なんて言わせません。自宅で食べられますから
▲本店のテイクアウトコーナーにはレトルトパックも勢揃い
実は現在、ルーだけは白山市の工場で一括生産している「カレーのチャンピオン」。この衛生環境は同業の中でもおそらくトップクラスのもので、一番の自慢とのこと。
チルドパックも追加の加熱加工がない新鮮なもので、「お店で食べるルーをそのままお家で食べられますのでこちらもどうぞ」と南社長。現在は派手な全国展開をにらんではいないということなので、通販で試食して、聖地・本店まで足を運んでみては。
あ、金沢市ではなく、野々市市にあることだけはお忘れなく。
お店情報
カレーのチャンピオン野々市本店
住所:石川県野々市市高橋町20-17
電話番号:076-248-1497
営業時間:11:00~24:00、日曜営業
定休日:夏季、年末年始
書いた人:鼻毛の森
フリー(すぎるシンガーソング)ライター。王道では描き切れない人間の(残念な)本質をそれっぽく彩った「理想論撲滅J-POP」専門のシンガーソングライター。北陸を拠点としながら東名阪でメディア露出(アウトデラックスなど)、ライブ・コンサート活動を行っており、独自の屁理屈を活かしたライター活動で生計を維持する。代表曲は「誰でもよかっただから君でもよかった」「社会にあるだけの中の一つ」「真にうけないで」などで、メジャーを含め、10枚タイトルのCDをリリース。活動15周年の新譜「味しめたい/NEMAWASHI~地味に届け~」」は、過去最高の仕上がりで、売り上げ停滞中。