食と恋愛や、デートと食事をテーマにした女性クリエイターによるリレー連載「21世紀の外食……いやGUY食問題」。
第3回目は前回のトイアンナさん同様、Twitterで絶大な支持を集めるフリーライターのさえりさん。テーマは男性なら誰もが悩む「初デートのお店選び問題」です!
先日、女子会にて一人がこう口を開いた。
「この間、ある人にね、デートに誘われたの。行ってみたら地下にあるやたらと暗いカウンター席ばかりのレストランで」
ここまで言うともう一人の女性がこう答えた。
「うわ〜、キモい」
女性曰く……。
最初から暗いお店に連れて行かれると、あぁ今夜この男性は口説くつもりなのだ、と予感するという。お店の雰囲気まで知り得た上で用意周到に口説こうとしてくる、その下心が見え透いているところがキモい、というのだ。もちろんたまたま行ったお店の照明がたまたま暗かった……という場合は異なるのだろうが、予約しておいてくれた「俺の好きなお店」とやらがそこだったりすると、たしかに多少、身構えるかもしれない。
「初デート、どんな食事に連れて行こう?」
好きな女性をデートに誘った男性としては悩ましいところである。お店の雰囲気は重要だし、かといっていきなり高層階での食事は気負うかもしれない。とはいえ庶民的すぎるのもいかがなものだろうか。多国籍料理は好みが分かれるだろうし、そもそも肉派か魚派か、果たして。
そうして悩んだ結果、自分の“好きなお店に連れて行く男性”が多いのかもしれない。行きつけは、何度も行ったことがあるので安心だろう。
「初デート、どんな食事に連れて行かれるのだろう?」
一方、女性にも色々な考えがある。わたしたちはこの食事をきっかけに付き合う方向に空気が流れていくのだろうか……? 「デートに誘われた」以上は、男性のことを「今後一緒に過ごせるかどうか」を少しは見極めたいという気持ちが多少はあるものである。
打算的というよりは、真摯(しんし)と言ってもいい。今後自分とその男性が合うかどうかを見極めたいのだから。
最初に連れて行ってくれるお店で男性のだいたいの経済力をはかる、と言い切った女性もいたし、最初にわたしが知らないようなお店に連れて行ってくれなければ嫌だ、と言った女性もいた。予約してくれないと嫌、予約されていると緊張して嫌、居酒屋さんは無理、居酒屋さんくらいがちょうどいい……とかく女性側にも「こうしてほしい」「ああしてほしい」の色々な欲求が渦巻いているらしい。こうなってくると、ますますお店を決めなければならない男性の任務は重大な気がして、やや気の毒になる。
互いの思惑が交錯する初デートには、一体何が正解なのだろうか。
「もうさぁ、べつにどこでもよくない?」
別になんでもいいじゃない? とわたしがそう抗議すると、女性のうち一人がすごい形相で「ぜったいそれは嘘」と言う。「それは、もう既にあんたも彼のことを好きな場合のみ適応される解で、まだ迷っている、というときに変なところに連れて行かれたら一瞬で冷める」と言うのだ。
なるほど、たしかに今までがっかりしたことはあった。たとえば初デートが大嵐の日で、「俺の好きなお店に行こう」と言われて横殴りの雨の中20分歩いて辿りついた謎の異国料理屋のこと。また体調が芳しくない日に、それを知った上で「ごはんくらい食べよっか」というので待ち合わせに向かったら「さっきフレンチのフルコースを予約した」と言われたこと。
でもおしゃれでしょ?
でも美味しいでしょ?
と彼らは言う。彼らからすれば「他の部分は悪くても、でも100点の部分があるでしょ?」と言うことなのかもしれない。
でもわたしは疑問だった。なぜよりにもよって、そんなチョイスを。
そして続けてこうも思った。
「この人と付き合っても、わたしのこと、大事にしてくれないかも」
そうして彼らとは二度と会わなかった。大げさだと思うかもしれないが、これじゃうまくいかないだろう、と思ったのだ。
「ごめん、たしかに、どこでもいいは嘘だった」
わたしは素直に謝って話は続く。
「でも、お店がどんなところだったかよりも大事なのって、その背景じゃない?」
「たしかに。そもそも、お店なんかどうでもいいね」
「夜景が見えりゃいいってもんじゃないし、高級ならうれしいってわけじゃないし」
彼女たちの話はこう続く。
女性にとって食事は、「食べる行為」だけではないのだ、と。選んでくれた相手の考え方や、自分への配慮、そこに至るまでの道のり、会話、それらすべてを含めて「食事」である、と。
雨の日なら、美味しさよりも快適に行けることを。具合が悪いなら、オシャレさよりもくつろげるところを。お店の善し悪しではなく、男性が「食事を選んだ柔軟な理由」がお店選びの中で重要なポイントになるという。「この料理が美味しい」「この内装がきれい」などお店そのものがもつ魅力で勝負したい男性と本当に相容れないものである。
そこで一番の恋愛上手な女性が口を開く。
「結局、状況判断ができるかどうかは、お店が良かったかどうかよりも重要だよ。わたし、雨の日に濡れたりするとすごく機嫌が悪くなるから、男性は濡れないルートでお店を選んでくれるもん」と。
(話はそれるが、わたしがそういう男性に全然出会えないのは「雨なのに何で歩かせるの」とか「具合悪いからフレンチなんて無理」とか怒ることができないからなのかもしれない、とも思った。そういう素敵な男性に出会えないのは、自分の欲求をはっきりと口にできない女性側にも原因があるのだ)
「なんか、男性も大変だね」
「雨が降ってたら変更してとか長い道は歩きたくないとか。わたしたちわがままね」
「たしかに。何選べばいいのか、わかんなくなっちゃうね」
わたしたちの会話が行き先を見失ったころ、恋愛上手な女性が再び口を開いて結論を口にした。
「どこに連れて行けばいいかわかんないんだったら、行くお店を3~5種類ピックアップすればいいだけなのよ。男が選ぶ余地を与えてくれたら誰も文句は言わない。女は『なんでもいいよ』などと言わずにきちんと選べばいいのよ。自分の欲求も伝えずにただついて行ってそれで男性を判断するなんて、考えがズルいのよ」と。
女子全員が黙った。
誰かが小さく「それは」といい、わたしは小さく「たしかに」と続ける。
初デートに何が正解か、答えは簡単だった。相手のことを考えてもわからないのなら、いくつかの選択肢を用意して聞いてしまえばいいのだ。ただし「どこ行きたい?」なんて漠然な質問で丸投げではいけない。そんな風に聞かれた女性は思わず「なんでもいい」と答えてしまって、デートは迷宮入りだ。
いくつかのカードを持って聞けば優柔不断な女性だって好みのものを選べる。勝手に考えて勝手に空回りするより、ずっと平和ではないか。
「伝えずに、一人で考えて決めつけるからよくないのよね。男も、女も」と誰かが小さくいい、わたしたちの女子会は終わりを迎えた。
忘れてはいけないのはたったひとつだ。初デートの答えは、自分の中にはない。相手が持っているもの、なのだ。