生涯ベストなカレーパンに出会いました
そんなわけで、私はこれまで数々のカレーパンを食べ歩いてきました。
王道カレーパンだけでなく、ヘルシー系の焼きカレーパン、趣向を凝らしたオリジナルカレーパンなどなど。
まあ、基本的にカレーパンはカレーパンである以上、どれも甲乙つけがたい魅力にあふれた逸品ばかりではありました。
が、しかし。
私は出会ってしまいました。私がこれまで食べてきた中でもっともおいしいと思う、生涯ベストなカレーパンに!
そのマイ・ベスト・カレーパンを提供するお店がこちら。
店名はブーランジュリ シマ(Boulangerie Shima)、通称「しまぱん」。
東京・三軒茶屋駅からテクテク歩いて徒歩15分ほどのところにあり、2024年の2月で創業17周年を迎えた地元密着型のパン屋さんです。
店内にはおいしそうなパンたちがズラリ。
食パンやバゲットなどのシンプルな食事パン、アイデア満載の総菜パン、おやつに最適なスイーツ系のパンなどなど、思わず目移りしてしまいます。
だがしかし。たくさんのパンが並んだ棚を見渡しても、カレーパンの列は存在しません。いったいカレーパンはどこにあるのかというと……。
いました、カレーパン!
しかし、ここに掲げられているのは「見本」の二文字。
そう、しまぱんのカレーパンは注文するとその場で揚げてもらえる「揚げたて方式」。
つまり、いつでもアツアツサクサクというわけです。これだけでも控えめに言って素晴らしすぎますよね。
さらに、このカレーパンは、日本カレーパン協会主催の第1回カレーパングランプリで東日本揚げカレーパン部門グランプリを受賞するほどの逸品。
実は私が推すまでもなく高い評価を得ているしまぱんのチキンスパイスカレーパンなのですが、はたしてどんなカレーパンなのか、じっくりお伝えしたいと思います。
絶品すぎるチキンスパイスカレーがたっぷりのカレーパン
▲チキンスパイスカレーパン(352円)
はい、きましたー。これぞ私が選ぶ最強のカレーパン。
本当に揚げたてです。薄めの衣とパン生地の中に、たっぷりのカレーが包まれております。……これは明らかに、視覚だけでもうまいやつ。
どれだけぎっしり中身が詰まっているのかを見てもらいたかったので、今回は特別にカレーパンをカットしてもらいました。
では、実食。アツアツのまま、ひと口かじれば、じゅわっとした油とパンとカレーが混然一体に……。はっきり言って至福です。
そして何より、具材であるチキンスパイスカレーのクオリティーがとんでもないんですよ。鼻腔をくすぐるスパイスの深い香り、その風味が染みこんだ柔らかなチキン、そして複雑なうま味。
「えっ、これがパン屋さんのつくるカレーなの……?」と思わずうなってしまいたくなるほど本格的な、スパイスカレー専門店とも渡り合えるレベルのカレーです。
そんなスパイスカレーを包み込むパン生地のおいしさは言わずもがな。なぜ、こんなにも印象的なカレーを生み出すことができるのか……?
その秘密を探るべく、しまぱんのオーナーシェフである島健太さんにインタビューを決行しました。
しまぱんの「チキンスパイスカレーパン」開発秘話
──しまぱんの看板メニューであるチキンスパイスカレーパン。いつ頃から提供されているのでしょうか?
島健太さん(以下、島さん):うちは2024年の2月に17周年を迎えたのですが、チキンスパイスカレーパンを販売し始めたのは12年前からなんです。オープン当初はひよこ豆のキーマカレーをのせた焼きカレーパンをつくっていました。
──最初はチキンスパイスカレーパンではなかったのですね。
島さん:その頃はまったくスパイスに詳しくなかったんですよ。オープンして3年目くらいに、ある著名なカレー研究家さんの取材を受けて意気投合し、研究会に呼んでもらうようになったことがスパイスカレーとの本格的な出会いです。
そこで食べたスパイスを使った料理の数々には心から衝撃を受けました。「自分のカレーは、全然カレーじゃないぞ」と。そこからしまぱんのカレーパンを見直すことにしたんです。
──具体的にどのような見直しを図ったのですか?
島さん:そのカレー研究家さんの本に書いてあるレシピをつくりまくり、日々スパイスの勉強と研究を重ねました。そのうち「スパイスを使ったカレーパンをつくってみたい」という気持ちが湧き上がり、同時に「やっぱり揚げカレーパンが一番おいしい」とも再認識しました。焼きカレーパンの販売はその時にいったんストップしています。
──それまで焼きカレーパンに絞っていたのは、何かこだわりがあったのですか?
島さん:ぶっちゃけてしまうと、パンの工房で揚げ物をすることがそんなに好きじゃなくて(笑)。でも、私が高校生の時に通学途中にあったパン屋さんで、開店直前に買わせてもらっていた揚げたてのカレーパンのおいしさが忘れられなかったんですよね。
──思い出の味ですね。
島さん:だからスパイスカレーでカレーパンをつくるのであれば、お客さんにもあの感動を味わってもらおうと思ったんです。新しいしまぱんのカレーパンを生み出すために、それから2年くらい研究を続けました。「スパイスカレー」と「揚げたて」の二本柱での研究の日々でしたね。その間うちでは一切カレーパンを出していません。
──試行錯誤の末にようやく完成したチキンスパイスカレーパン。どんなスパイスが使われているのでしょうか。
島さん:ホールスパイスは、クミン・クローブ・カルダモン・シナモン・マスタードシード。パウダースパイスはターメリック・パプリカ・コリアンダー・ブラックペッパーです。とはいえ、今のスパイスカレーは初期のものとはまるで違っていますよ。常にブラッシュアップはし続けています。
「スパイスカレーを使ったカレーパン」をもっと普及させたい
──まだ到達していない理想のチキンスパイスカレーパンがあるということでしょうか?
島さん:いえ。それはすでに完成しています。でも、うちのカレーパンは「カレーに遊ばれているカレーパン」なんです。なので、「いつ来ても同じ味ではない楽しさ」があってもいいのかな、と。トマトの味が強い日もあれば、少しクリームっぽい日もあったり……。
──へえ。毎日微妙に味が違うんですね。
島さん:でも、それはちょっとずつの変化なので、きっと毎日通ってくれているお客さんはわからないんじゃないかな。半年ぶりくらいに来たお客さんだと「あれ? 前とちょっと違うかも」と気が付くと思います(笑)。
──しまぱんではレギュラーのカレーパンの他に、月替わりで週末限定のカレーパンが出ていたり、たまにカレー弁当やビリヤニ弁当が出ていたり、普通のパン屋さんにはとどまらない幅広いメニューづくりをしていますね。
島さん:スパイスの研究を今でも続けているので、限定メニューについてはその一環でもあります。でも、純粋に私は料理が好きなんですよ。正直、コストもかかりますが自分がおいしいと思うものをみんなに食べてもらいたいんです。
──今後の目標はありますか?
島さん:揚げたてのスパイスカレーパンをつくるパン屋さんをもっと増やすことですね。うち以外でやっているところって、実はほとんどないんですよ。
──同業のライバルが増えてもまったく気になりませんか?
島さん:むしろ、スパイスカレーパンの存在がもっとパン業界に広がってほしいくらいです!
──ありがとうございました!
しまぱんのカレーパンは、島さんのスパイス研究とともに、これからも進化を続けていくはずです。
取材終了後、チキンスパイスカレーパンをもう一つ注文し、再び揚げたてを頬張りました。
この日2個目のそれも、やっぱり絶品でした。
お店情報
ブーランジュリ シマ(Boulangerie Shima)
住所:東京都世田谷区三軒茶屋2-45-7-103
電話番号:03-3422-4040
営業時間:9:00~19:00(木曜日〜日曜日)
定休日:月、火、水曜日
書いた人:西たまお
大学在学中より映像ディレクターを志し、映像制作会社で宣伝を務めた後に、広告代理店に社内ライターとして勤務。2016年より独立し、フリーに。主にWEBサイトで健康や食、お笑いに関するさまざまな記事を執筆中。