超ハイカロリー飯の考察 ~豚の脂身だけでトンカツを作る~【理系メシ】

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「豚の背脂トンカツ」で脳内麻薬ドバドバ?

今回のアシスタントは、ミス理系コンテスト2013グランプリの五十嵐美樹さんだ。上智大学で超伝導を研究していた、才色兼備のリケジョなのだ。

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「よろしくお願いしま〜す」

今日は脳と脂の関係を科学したい。脂には麻薬的な性質があるんだよ。

「え〜! なんか怖い。何するんですか?」

これだ。

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「やだ、これ何?」

豚の脂身だ。背アブラチャチャチャの元はこれだ。

「背アブラ?」

知らんのか? ラーメン屋であるだろう、背アブラチャチャ。

「知りません」

……。トンカツは好きかね?

「好きです〜」

ロース派? ヒレ派?

「ロースですね」

それでだ、トンカツ食べるだろう、端っこに脂身があるだろ?

「あれ、おいしい、大好き」

それだけでトンカツを作る。脂身だけでトンカツを作るぞ!

「え〜! マジですか、ヤバくないですか」

ヤバいだろうな。たぶん、こんなトンカツを食べたことのある奴は0.01%ぐらいしかいないんじゃないかと思うな。

 

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作り方はトンカツと一緒だ。まず塩コショウを振って、下味をつける。

 

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小麦粉をはたいたら、卵液に通す。あとはパン粉……なに?

「これのどこが脳の科学なんですか?」

ナイスな質問だな。脂には強力な習慣性がある。龍谷大学農学部の伏木亨教授の研究によれば、脂を食べた時、脳の報酬系が興奮するのだそうだ。

ようは気持ち良くなるんだな。

「アブラで?」

おいしいものを食べるとβエンドルフィンが脳内に発生、ケシ(=モルヒネまたはヘロイン)の受容体であるオピオイド受容体に作用する。ケガしたら、最初は痛いが、だんだん痛くなくなるだろ? あれがオピオイド受容体の働きだ。

 

オピオイド受容体に脳内物質がはまると、おいしいと感じるんだな。その物質のひとつがβエンドルフィン。

「私、物理なんで〜化学はちょっと〜」

あのなあ。まあいいや、とりあえず揚げよう。

 

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それでだね、βエンドルフィンを出す食べ物=おいしい食べ物なんだが、脂を食べるとβエンドルフィンが分泌されるらしいのだ。

「らしい?」

まだ研究中。でも脂を食べさせて太らせたネズミの脳を調べると、βエンドルフィンの分泌量が低下している。

 

脂はとてもおいしいのだよ。脂肪を食べるとβエンドルフィンが大量に分泌されて幸せになるが、その結果、分泌が追いつかなくなる。糖尿病は糖を摂り過ぎて、インシュリンが枯渇するが、それと一緒だな。

 

同じ量のβエンドルフィン、つまりおいしさを手に入れるには、回数が増えれば増えるほどもっと脂肪をとらないと分泌量が足りなくなる。

 

普通の食事はおいしいというのも大事だけど、まずは体がエネルギーを欲するからだろう。でも脂はメカニズムが違うんだ。脳が気持ちよくなるためには、どんどん脂が必要になる。で、気持ちよくなるためにどんどん食べると。

どうだ、

「麻薬みたい」

だろ?

 

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はい、一丁あがり。

「トンカツですね」

見かけはね。切ってみよう。

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おお、うまそうだな。

「そうですね」

 じゃあ、食べて。

「ええっ! 私が食べるんですか」

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そりゃそうだよ。

「マジで? なんで私が……」

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どう? ほら、ちゃんと噛んで。

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「……ヤバい」

ヤバい?

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「これ、ヤバい、絶対ヤバい! 危険だ、おいしすぎる!」

そんな、隅っこに逃げなくても。どれ、私も……!!!

 

ヤバい、これはヤバい、危険過ぎる! こんなの、いくらでも食べちゃうじゃないか。 

豚の脂身が、俺の脂身に変わっていくではないか。

「ダメですよ、これ。危険過ぎます」

お店のお客さんに出〜しちゃお〜う。あ、いらっしゃいませ!

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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