【電気ビリビリ?】 戦中・戦後にブームになった「電気パン」を作ってみる【理系メシ】

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「電気パン」を作ろう!

「あんころはパンを電気で焼いとったっちゃんね」

私の母は昭和9年生まれである。トースターは電気だろうと思うのは早計だ。

戦時中、トースターやオーブンなんてものは、艦船か戦闘機の部品にするべく供出されてしまい、町のパン屋さんは休業状態だった、らしい。

 

しかし配給で小麦粉が来る。わずかだが、砂糖も来る。それでパンを焼く。

「みかん箱壊してくさ、ブリキ板貼って、電気流しっとっと。それでパンが焼けるたい」
ふーん、とは思ったものの、電流をパン生地に直接流して焼くなんて、無茶だろうと思っていた。茉衣ちゃんに聞いても、

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「そんなの、知りませ〜ん、わかりませ〜ん」

……平成生まれに聞く方が間違っている。

ところが当時の実物があるのだ。本当だったのか。

 

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▲電気パン焼き器。東京九段下 昭和館の所蔵品

(出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Denkipan_shouwakan02.JPG 撮影:海獺)

 

電気で食べ物を焼く方法、実は食品工業ではメジャーである。「ジュール加熱製法」という。

電気が通りにくい物質に電気を流すと、通りにくさに応じて、物質が熱くなる。これがジュール熱。ジュール加熱製法は、食品に電気を流して調理する技術なのだ。

 

ジュール加熱製法では、食品が自分から発熱する。熱を外から加えるのではなく、「食品そのもの」が電気抵抗の熱で焼ける。それゆえ、食べものに均一にむらなく熱が発生するという。

オーブンで焼くのとは違い、焼きムラがない! ……はずなのだ。

 

自作で電気パン焼きマシンを作ってみた

ホームセンターで板切れとアルミ板を買ってきた。

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釘を打って組み立てたら完成。10分かからなかった。

 

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次に生地。実はこの木箱を作る前に、楽をしようとケーキ用の紙箱に電極をつけて、パン生地を入れてやってみたのだが、完全に失敗。1時間経ってもまるで焼けず、原因が不明なので、ゼロからやり直しなのだ。

 

失敗の原因はパン生地だったかもしれないので(電気を通すには塩や重曹などのイオン化しやすい物質が必要だが、パンには少なかった)、今度は重曹も食塩も入っているホットケーキの生地で試してみた。

 

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木箱にクッキングシートを敷いて、流し込む。

 

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通電はするものの、成功するかどうか不安。原因がわからないのだ。

 

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15分経っても、まったく温度が上がらない! 

また失敗。原因は何だ? 

初めて電気パンの作り方を見てみる。こんなの簡単だろう、とバカにして見もしなかったのだ。

 

  1. キッチンペーパーを敷き、水を含ませる
  2. 市販のホットケーキミックスを水で溶いたものと食塩を混ぜる。余分な水分は枠と底の隙間から滲みだす
  3. 通電し、約20分経過後
  4. 枠を外す

(出典:電気パン - Wikipedia

 

ん? キッチンペーパーを濡らす?

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問題はこれかあ! 

水分がないために、電気が流れていなかったのだ。それを聞いた嫁さんが「水で濡らせばって言おうと思ったけど、忙しそうにしてたからやめた」だって。

 

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やり直し。濡れタオルを敷いて、そこへ生地を流し込む。

 

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おお! どんどん膨らんでいるぞ

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完成したのか? 電気を流して、すでに1時間。この電気パンのすごいところは、焼けると水分が減るので電気が流れなくなり、自動的に終了になるところだ。だから長い時間、電気を流しても無駄、というよりも、焼けると電気が流れなくなる。

 

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できているんじゃないか?

 

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さっそく切ってみると……中が焦げている!

これが内部から加熱するというジュール加熱の意味か!

 

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味は蒸しパン。おいしい!

 

簡単にできて面白い実験である。わかってしまえば簡単だ。肉だってこれで焼けるかもしれない。

ジュール加熱。古くて新しい、これからの調理法である。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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