
カップラーメンをどう食べるか。それが問題だ。
数年前、CMでとあるタレントが、アフリカの大平原で太陽を見つめながらカップラーメンをすすっていた。とても、絵になっていた。
カップラーメンを食べている様など、普通は絵にならない。どこでどう食べようとも、ちょっとバカに見える。それがカップラーメンという食べ物である。スケールの大きな「アフリカの大平原」および「太陽」を投入することで、やっとカップラーメンのバカっぽさは打ち消される。そんな方程式をあのCMは提示していたと思う。
この「アフリカの大平原で太陽を見つめながらカップラーメンを食べる=絵になる」は、非常にデリケートな方程式である。ちょっと値を入れ換えるだけで、たちまちバランスは崩れてしまう。「アフリカの大平原」と「太陽」、それぞれの値を別のものに変換してみよう。
「自分の部屋で『ONE PIECE』の最新刊の表紙を見つめながらカップラーメンを食べる」
やっと発売された、大好きなマンガの最新巻。待ちに待った、最新巻。この表紙をめくった先で、ルフィは今回も伸びたり縮んだりしているんだろうな。さあ、読もうっと……、いや、ダメだ!あえていまここでカップラーメンを食べることで、さらに自分を焦らすんだ!
=まったく絵にならない。
「自分の部屋で蕁麻疹を見つめながらカップラーメンを食べる」
この季節になると、必ず腕にできる蕁麻疹。ブタクサが関係しているのだろうか?それとも、さっき猫を触ったのが原因かしら。やっぱり皮膚科とか行ったほうがいいのかなあ。でも、かゆみとかはそんなにないしなあ……。カップラーメンを食べ終わったら、母親に相談しようかなあ……。
=まったく絵にならない。
「自分の部屋でカップラーメンを見つめながらカップラーメンを食べる」
オレはいま、カップラーメンを見ながら、カップラーメンを食べている。ふはは! カップラーメンだらけだ! オレは、カップラーメンを司っているんだ! 世界のカップラーメンよ、オレにひざまずくがよい! カップラーメン王に、オレはなる!
=まったく絵にならないし、大好きなマンガから変な影響を受けてプチ狂ってる様子が怖い。
キリがないのでこの辺りでやめておくが、かようにカップラーメンとは危うげな食べ物なのである。「アフリカの大平原」と「太陽」を持ってこないかぎり、カップラーメンのバカっぽさは制することができない。そして僕はアフリカの大平原ではなくいつでも自分の部屋にいるし、窓を開ければそこには隣の建物の壁が立ちはだかり太陽を見ることなどかなわない。
小学五年生の時、お小遣いでこっそり、カップラーメンを買った。自分の部屋にそれを持ち込み、音も立てずにすする。食べ終えた瞬間、クイックで「この一連の行為がバレたら親に叱られる気がする!」と不安になり、窓から空き容器を投げ捨てた。数日後、カップラーメンの空き容器を発見した母親に問い詰められるも、「知らない。妖精の仕業だと思う」と玄武岩のようなウソでごまかした。
これが、人間とカップラーメンの、本来の共存の姿である。
僕たちは、カップラーメンが似合わない。



