
セクシーJの行列王
第2回:「吉祥寺さとう」の揚げたて“元祖・丸メンチカツ”にならぶ
ある思想家の言葉に、
「食にお金をかけるのは楽、時間をかけるのは快楽。
行列に並ぶのは、快楽の一つである。」
と言う言葉があります。
食文化の歴史の中で、本当の粋人が密やかに嗜んできた愉しみ、「行列道」という作法をご存じでしょうか?
「行列に並んでまで、食べたくないよ」なんて思っている貴方。
「早く、手軽に」は、本当に食を楽しむ正解ですか?
私、行列道の伝道師、セクシーJが、行列に並ぶことの楽しみ方、
「じつくり、尊く」食を楽しむ素晴らしさをご紹介したいと思います。
「夏空の下、カリッカリになるまで並び、揚げたてのメンチカツを頬張りたい。冷たい飲み物とともに」
やって来たのは吉祥寺。魅惑の行列店があるとのこと。

歩くまでもなく、視界に行列が目に入る。
よく祖父が、「富士山と行列は、見ると心が躍る」と言っていたのが、そろそろわかる年齢になってきた。

行列と見て思わず飛びついてしまったが、交通バスの行列であった。一興である。

気持ちの良い炎天下。商店街をすすむ。


すると……

何とも素敵なたたずまいのお店。
お肉屋さんである。たまらず駆け寄ると

私はすぐに、

店頭の華やかさ、芳しい揚げものの香り、

お手頃なお値段に魅了された。
それもそのはず……

行列が出来る名店、国産黒毛和牛で有名な「吉祥寺 さとう」とは、まさにここだったのである。

「いいね」

こちらの名物は、
元祖・丸メンチカツ。
早速この行列に着列。時間を確認。
メンチに逢えるなら、炎天下だろうが何時間だって待ってやろうじゃないの!!!!
さあ愉しもうか!! 色々準備してきたし!!
素揚げにでも何でもしてもらおうかい!!
しかし……
さすがは「吉祥寺 さとう」。
むこうの準備も万全であり、
なんと行列に並んで5分で

三百秒で

……買えてしまった。

「ネットで調べた時は、いつも凄い行列って書いてあったんだけどなぁ……」
「やっぱ、真夏の昼間に揚げ物の行列ってのは、粋人の域を攻め過ぎだったかなぁ……」

とはいえ、「吉祥寺 さとう」の丸メンチカツを、短時間で手に入れることが出来る時間帯もあることを、この際覚えていただけたら幸いである。

出来立てアツアツは

包みの上でもまだまだジュージュー聞こえそうなほど






旨い!!!
サクサク、熱うまジューシーである!!!!
肉汁たっぷり、粗たまねぎもシャクシャクと甘くて、最高。

着列から20分あまり、沢山ドラマがありすぎて、少し頭を冷やす。
……そういえば、こんな昔話があった。

「昔、中国に、李列という粋人がいた」

「彼はある店の行列に惚れ込み、事あるごとにその店に並んだ」

「ある日、李列がその店に行くと」

「……行列ができていなかった」

「すると、李列は店の前に並んで植わっていた柳の木に並び」

「こう言った」

『我を十分に待たせる行列が出来るまで、我はこの柳に並ぶ』
~『古代行列詩集「できれば早く食べたい」より』~

行列が出来るまで、待つ……

まずは

詩を詠み


時を過ごし……

炎天下を彷徨い、

バス待ちの行列を見つければ、すぐさまならんでみる。

目的の行列ができるまで、べつの行列にも並んでみる……
そう、この高等テクニック、

これぞ行列道究極奥義・『他人行列』である。
(※初心者は絶対に真似しないでください。必ず経験者の指導の下で行うことをお勧めします)

先人の知恵を借り、再び目的地へ向かうと

ちゃんと長い行列が出来ている!!

ここまで正味二時間、素晴らしいペースである。

店長さんの心の声が聞こえる。
「この男、大した行列者だ……」
私も心で答える。
「ふふっ、このお店を信じていたからこそですよ」

列が進み、私の後ろにも人が並ぶ。

その列を愛でるために


再び後ろに並びなおす。
奥義・「ダブル行列」。

艶やかな和牛達が語りかける。
「おかえりなさい。また来るって、わかってた」

「ただいまっ!!」

頭の中が、面白くなってくる。
「ゾーン」と呼ばれる状態に入ったのだ。

メンチカツ、三つ!!

幸福の重みが、先ほどとはまるで違う。

これが、「行列ハイ」!!

時間を追うごとにまだまだ伸びつづける行列に、商売繁盛の縁起の良さを感じつつ、列を後にする。

さあ、役者も舞台も整った!!
カラカラになって、欲しいものっていったら……

これでしょう!!!!

そして、


これでしょう!!!!

すべてを出し切って、

「お疲れさま」って言って、

最高のメンチに


ビール流し込むんだよ!!!!


丸メンチカツから溢れる肉汁……

脳内から溢れる快感……

粋人は言った。
「宵月を見て杯をあおり涙す」
私は行列を経て、
炎天の下で丸メンチカツを頬張り、麦酒をあおる。

優しい風が、涼やかに通りすぎた。

お店情報
吉祥寺さとう
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-8
電話:0422-22-3130
ウェブサイト:国産黒毛和牛 さとう
※本記事は2015年7月の情報です。



