ママが皮から作る本格餃子とおつまみが体に染みる……。 横浜・野毛で37年続くスナック「華」の素晴らしさを伝えたい

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飲み屋さんがずらりと並ぶ、横浜・野毛(のげ)の都橋商店街

駅でいえば最寄りはJR桜木町駅、または京急日ノ出町駅となる野毛エリア。さまざまな飲食店が約600店も密集しています。

 

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裏側にまわってみるとこんな感じ。都橋商店街は、川に沿って建っています。もともとは露天商が集まっていた場所だそう。

そこに長屋風の2階建ての建物を造り、みなを入居させて「都橋商店街」と名づけられたのが昭和30年代後半。以来約半世紀の間、野毛のランドマークとなっています。

 

開店37年のスナック「華」

この都橋商店街の2階に、今回ご紹介するお店があるんです。

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真ん中あたり、赤字で書いてある「華」の看板が見えますか?

 

お店の形態としてはスナックなんですが、ママさんのつまみがうまくて評判のお店。皮から手づくりの餃子にほれて通い出したのは、いつだったかなあ。

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さあ、上がりましょうか。「お気軽にどうぞ」なんて書いてありますが、最初はちょっとハードル高いですよね(笑)。

でもご安心を。

 

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このドアを開けると……

 

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ママさんがいつもの笑顔で迎えてくれます。

お名前は、岡田容子さん。お店のオープンは1985年、今年(2017年)の9月25日で、めでたく開店37年目を迎えられました。

 

容子さんは横浜中華街の生まれで本牧育ち、生粋のハマっ子です。

7人きょうだいの下から3番目で、実家は広東料理店。小さい頃から、お店の手伝いをされて育ちました。

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習うでもなく料理を身につけられ、その腕が現在、お店のおつまみにいきています。

 

むっちり、みっちりの蒸し餃子

ともかくも、まずは容子さんの餃子を見てください!

3種類一気にいきますよ。

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容子さん:じゃあ蒸し餃子からどうぞ。皮の味が一番わかると思いますよ。

 

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蒸し餃子 (800円)。

 

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ほどよくむっちりと弾力のある皮に、さっぱりとした肉あんがみっちり。

豚ひき肉にキャベツ、白菜、ニラ少々、そこにショウガとニンニクで香りづけ。ニンニクはあくまで薬味として、上品な味わいに仕上げるのが容子さん流。

※肉あんは3種共通

 

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つけダレに技あり! 薬味にパクチーと白ネギ、そして間にあるのは豆板醤(トウバンジャン)ではなく、中国の辛みそ

 

容子さん:豆板醤だとしょっぱすぎると思うのね。この辛みそだとちょうどいい。ここに醤油、酢、そして中国の赤酢を好みで入れてください。

 

焼きと水餃子もはずせない

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さあ、焼き餃子(800円)と、

 

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水餃子(800円)もできあがりました。

焼餃子はやっぱりビールのアテにぴったりで、焼かれることで皮に香ばしさが生まれています。さっぱり軽くいきたい派は水餃子がおすすめ。

 

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さっきのタレ、酢が苦手じゃなければ「赤酢+醤油ちょい」でやってみてください。皮の味と肉あんのうまさをシンプルに味わえます。

直接餃子につけず、一度タレ全体をからめて、汁をまとったパクチーやらネギを餃子に“ちょいのせ”で食べるのも、うまいよッ。

 

ファンの多い「麺メニュー」

いきなりですが、麺ものもファンが多いんです。「汁なしそばをつまみに飲む」、いいんですよ……これが。

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こちらは「汁なしネギソバ」(1,000円)。麺と青菜をゴマ油で和えて、醤油、コショウ、少々のオイスターソースで味付けした上に、刻んだネギチャーシューがのっています。麺は熱々、上のネギチャーシューは冷菜。

ごった混ぜにしていきますよ。

 

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これがね……つまみにいいんだ。アテになるんだ!

中国野菜のターサイのシャッキリとした食感と、甘辛いネギチャーシュー、コショウの香味、さりげないオイスターソースのうま味、それぞれが食べるごとに見え隠れして、なんとも楽しい。

 

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さっきの餃子のタレ、ありますね。餃子の肉汁が加わったこのタレ&薬味を、焼きそばにかけるのが裏ワザ。この「味変え」によってまたビールが進むんだ、空いちゃうんだ!

 

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蒸し魚、なんてメニューもあります。この日はサワラでした。値段は魚によって変わりますが、800~1,000円。酒と塩しておいた魚に切り込みを入れて、豚肉、戻した干し椎茸、ネギ、ショウガを挟んで蒸しあげたもの。広東料理のスタイルだそうです。最後にアツアツの油をかけて、パクチーをのせてできあがり。

味を思い出してこの記事を書きつつ……また食べたくなってます(笑)。魚、豚、キノコ、香味野菜といったさまざまな味わいが、蒸すことできれいにまとまるものですねえ。

酒が進んじゃうんだなあ。

 

財布に優しい明朗会計

さて、スナックというとちょっと値段が心配な人もいるかもですね。

ここで一応説明しておくと、お通しは500円で、ビール中ビンが1本 700円。餃子が3種類どれも800円。

なのでビール1本、餃子1皿で帰った場合は2,000円です。何年も通っていますが、いつも明朗会計ですよ。

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容子さんのお通しがまたいいんだ。ちなみにこの日は、砂肝の炒めもの。砂肝をニンニク、ショウガ、唐辛子で軽く炒って、醤油とオイスターソースで味つけしたもの。と、聞くと「味濃そう」と思うでしょうがさにあらず。

容子さんの料理はどれもさっぱりとしてるんですよ、それでいて、しっかりとつまみになる。先の蒸し魚もそう。素材の味をいかした最低限の味つけで、つまみになるギリギリの塩加減。料理の腕って、こういうところに出るよなあ。

 

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これは別の日に出てきたお通し、大根の煮物。ニンニクと鷹の爪でから炒りした大根を、コンソメと醤油、少々のオイスターソースで煮るのだそう。これも上品な味つけなんだけど、ちょいとピリッとして、いい酒のアテでした。

 

「華」のヒストリー

さて、そろそろお店のことをお聞きしましょうか。

 

── オープンは1985年というから、好景気で華やかなりし頃ですね。容子さんはなんでまた、この野毛で商売をしようと思ったんですか?

 

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容子さん:私はもともと関内でクラブのホステスをやっていたんです。でも、いつまでもこんなことできないな、と思いましてね。何か免許を取ろう、お金になる免許は何だろう……と考えて調理師学校に一年通ったんですよ。

 

── いつ頃のことですか?

 

容子さん:うーん……40年前ぐらいですかね。そうこうするうち、野毛でスナックをやってた友達が「近くで1軒、店舗が空くよ」って教えてくれて。家賃も安いし、じゃあやろうかと思って開店したのがこのお店。

 

── どうしてまた、中華のおつまみを出すことになったんですか。

 

容子さん:(きっぱりと)自分が子どものときから食べてきたものしか作れませんからね。ですから別に、自分では中華つまみのお店とか思ってないんですよ。

 

味の評判が広がったのは……

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容子さん:最初の頃はそんなに忙しくもないし、 ラーメンの出前もしてたんです。並びのお店のママやなんかにね。その頃(80年代後半)は都橋商店街はほぼスナックでね、みんなカラオケスナックでした。うちも置いていたんだけど、うるさいからやめちゃった(笑)。それで、「出前お願いできない?」って頼まれて。

 

「あそこの料理はうまい」という評判がまずスナックのマスターやママに広がり、それぞれのお客さんへと話は広がりました。

次第にお店は繁盛し、忙しくなって出前もできなくなるほどに。そんな娘を気づい、お母さんがよく夜食としてお弁当を届けてくれたそう。

 

容子さん:母が料理の上手な人だったんです。特にシュウマイがおいしくてね、あれはまねできない。何度も作ってみたんですよ。でも、やっぱり“あん”の味が違う。調味料の手加減が違うんですかねえ……。

 

── 作り方を教わろうとは思いませんでしたか。

 

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容子さん:(即座に)何度も習おうとしましたよ。「お母さん、お昼に行くから教えてね!」って言っても、行くと出来てるの。こういう仕事だから夜遅いし、(あまり早く起きては)行けなかったから、待ちきれなくて作っちゃうんでしょうね。習っておきたかったですね。

 

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▲きょうだいの多い容子さん、姉は3人とも中華料理店に嫁いだというから驚く。そのうちのおひとりは香港在住。「2年に一度は香港に行って、料理の勉強をしてくるんですよ」と容子さん。親戚中から料理の情報が集まり、スキルアップに役立っている。上の写真は「華」定番メニューのひとつ、腸詰

 

── 名物ともなっている餃子は、いつぐらいから出されているんですか?

 

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容子さん:20年ほど前ですかね。中華のオーナー料理人である義理の兄が八王子にいるんですが、毎週のように通って皮づくりを習いました。

 今はまとめて仕込んで、冷凍しておくんですよ。一度に27人前ぐらいは作るかな。四日に一度ぐらいは餃子の皮を作ってますね。

 

── 他の料理の仕込みもありますよね。大変と感じることもありますか。

 

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容子さん:ありますよ! 「餃子、またやんなくちゃいけないの!」ってね(笑)。「商い=飽きない」なんていいますけど、ウソ。20何年やってると飽きますよ、やっぱり。きれいな服着てハンドバッグ持って、しゃなりしゃなりとした営業のお店、一度でいいからやってみたい(笑)。でもそれは、ないものねだり。

 

── 今日はもう楽しよう、って思えばできますよね。ママさんだから。「ごめん、今日は餃子ない」って言えばすむ。でも、できない性格ですか。

 

容子さん:自分でもなんでこう「横道にそれられない性格」なのかと思いますよ。餃子ないよと言って、お客さんに「えーっ」って言われたくないんです。だからやろうか、と。それにね、(ストックが)なくなってからバタバタと作ったって、やっぱりおいしくないんです。そういうのじゃ、いい仕事できないんですよ。

 

── 37年商売されてきて、野毛への愛着ってやっぱりありますか。

 

容子さん:ありますね。ここは個人経営のお店が多いから、経営者同士がお互い顔を知っている。そういう気さくさがありますよ。私、他の街だったらここまでもたなかったと思う。

 

つもる話をうかがっていれば、ちょうど開店時間に。今夜最初のお客さんは、20代後半ぐらいの女性1名。取材中であることを告げ、尋ねてみれば初めての訪問のよう。

 

正確には初めてじゃないんです。おつまみや紹興酒がおいしいって聞いて、何度か挑戦したんですけど、お店はいつもいっぱいで。開店時間なら空いてるかな……と思って来たんです。

 

と笑顔で答えてくれました。さて、お店も忙しくなってくる時間だ。おいとましますか。

ママさん、また来ます!

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▲店内はカウンターのみ。都橋商店街のお店は基本、このぐらいの広さ

 

容子さんには、まだまだいろんな話をうかがいました。

小さい頃、疲れたときなどに親御さんが作ってくれた漢方のスープが、とてもおいしかったこと。

 

お店の品書きにないものでも、リクエストがあれば作ること。「野菜が足りてないんだ」というお客さんには野菜炒め。冷やし中華は一年中好評なメニュー。玄米チャーハンなんて料理もあること。

 

「健康のために何かしてますか」という質問には即座に「なんにもしてない。疲れたら寝る。それだけ!」と言って笑われた容子さん。

ハマっ子らしさ、という気質がどういうものかよく知らないけれど、なんだか江戸っ子みたいなサバサバとしたところが容子さんにはある。

その竹を割ったようなまっすぐなお人柄が、料理にもよく出ていると思う。迷いのない味。そんな容子さんに会いたくて、あのつまみを食べたくて、電車に乗って野毛まで私はまた来てしまう。

 

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お店は人ですね。

 

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帰りの階段にはこの看板。いえいえ、こちらこそ。

この素敵な空間が、いつまでも残りますように。

 

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取材を終えれば、外はとっぷりと暮れておりました。

最初の写真の景色が、こんな感じに。いつもならはしご酒だけど、今日は容子さんの味だけを舌に残して、帰るとしますか。

 

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お店情報

スナック 華

住所:神奈川横浜市中区宮川町1-1都橋商店街2F
電話番号:045-241-7854
営業時間:17:30~24:00(19時以降の予約は不可)
定休日:日曜日、祝日 

※この記事は2017年9月の情報です。
※金額はすべて消費税込です。

  

執筆・撮影:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』、『ホットペッパー』、農水省の広報誌『aff』などで執筆中。食と健康、郷土料理がメインテーマ。著書に「にっぽんのおにぎり」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)など。

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