謎に満ちた日産チェリーキャブの秘密は──?40年以上「ホットドッグ」だけを売り続ける店主さんに話を聞いた

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フリーライターという仕事柄、車であちこちへ行きます。道中「いったいこれは何だろう?」と気になる場所を見つけることもしばしば。

 

阿蘇くまもと空港近くの空き地にポツンと佇む錆びた廃車……。ずっとずっと気になっていました。

 

この廃車、実はホットドッグ店だという情報を耳にしました。しかも、普通のホットドッグ屋さんではなく伝説レベルにおいしいのだとか!?

 

いったいこの場所でどんなホットドッグが売られているのでしょうか。店主さんはどんな方なのでしょう。意を決して立ち寄ってみました。

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▲かなりの人気店。ひっきりなしにお客さんが買いに来ていました。

 

びっくりするほど美味しい

さっそく注文してみましょう。正直なところ廃車の雰囲気に気圧されて不安を感じていました。

怖い店主さんだったらどうしよう? 

特徴的な外観のお店に入るときって、大体こんな風に緊張しますよね。

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しかしそんな心配はまったくの杞憂。注文すると気さくに話しかけてくれる店主さん。熊本弁の柔らかい語り口が耳に心地よく響きます。

白い帽子と制服を身に着けていて、錆びた車の雰囲気とは裏腹にとてもきちんとした雰囲気の方でした。

 

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▲メニューは7種類

 

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▲一番豪華そうなミックスを注文

 

肝心のホットドッグのお味はというと……本当にびっくりするほどおいしいです!!! 

 

何一つ変わった素材を使うわけでもなくプレーンなホットドッグなのですが、パンと具材、ケチャップ、マスタード…すべての味が完璧に調和しているんですよね。

さらに、パンがサックサクで癖になります。

 

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あまりのおいしさに、食べ終わった後にもう一つ買いに戻りました! この時はチーズを注文。

ちなみに、初めて食べた時の私の感想がこれ。

 

 

錆びた廃車とすばらしくおいしいホットドッグの不思議な組み合わせ。いったいこのお店はいつから営業しているのでしょう。どうしてホットドッグを売り始めたのでしょうか。

謎に満ちたこのお店について知りたいと思い、後日ご主人に思いをしたためたお手紙を送って取材のお願い。話を聞かせてもらえることになりました!

 

チェリーキャブとともにホットドッグ一筋40数年

というわけで再びホットドッグ四つ葉へ。

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──今まで食べたホットドッグの中で間違いなく一番おいしいです。人生で一番!

 

店主:こんなので感動したってしょうがないよ(笑)。

 

──いつから営業しているんですか?

 

店主:昭和51年から。まあ、マズかったらつぶれとるけん。それは自信があるね。あとはお客さんの好み。好きっちゅう人もおれば、好かんっちゅう人もおるかもしれんね。

 

──好かんっちゅう人いるんですかね~? いつもひっきりなしにお客さんが来ていますよね。

 

店主:昔は適当にぱらぱらお客さん来とって行列なんてなかったよ。病気して1年半くらい休んどって、去年(2018年)の10月に「またがんばらんとね」と再開したらなんでーって思うくらいバンバンお客さんが来るようになった。土日はもう行列たい。今はみんなTwitter見てくる。

 

メニューも営業スタイルも大きく変えることなく、ホットドッグを売り続けて40年以上。時代の流れとともに入れ替わりの激しい飲食業界において、“変わらない”ってかなりすごいことなのではないでしょうか。

休業していた1年半の間は「もうホットドッグ四つ葉は閉店した」と寂しく思っていたお客さんが多かったよう。だから再開したとの情報をTwitterで見て、たまらずやってきたファンがたくさんいるそうです。

 

──長い付き合いのお客さんも多いですか。

 

店主:長い人とは30年~40年の付き合いで、今では孫を連れてくるね。でも不思議と会った瞬間その時代に戻るなあ。

 

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▲食べるスペースも用意されている。阿蘇の抜けるような青空の下で食べるホットドッグはたまらない

 

──ずいぶん前は、深夜まで営業されていたと聞きました。

 

店主:昔はコンビニもスーパーもなんもなかった。近くに本田技研の工場があって、遅番で深夜に仕事が終わった人が「おっちゃん腹減ったー」って寄ってくれてね。だから彼らが帰るくらいの時間までやろうかねちゅうことで、16時から深夜3時まで営業しとったとよ。今はコンビニもスーパーも24時間営業しているし、若い人が夜遊びをしなくなったから営業は12時から24時くらいまで。売り切れたら17時とかに閉めちゃう。時代の流れには逆らえんね。

 

アメリカ流じゃない、飽きの来ない味を

──そもそもホットドッグ屋さんを始めたきっかけは?

 

店主:中卒で就職して学歴がなかったから。飲料会社の生産ラインで働いとったけど、後から入ってきた高卒や大卒の人が出世していく。このまま働く人生はつまらんと思って、じゃぁ何かしようかと思っても起業するには資金も人脈も足らん。でも屋台ならできるかと。結婚して奥さんと子ども2人おって。奥さんに相談したら「私もやってみたい」ちゅうから車2台買って2人で始めたよ。

 

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▲そうして購入したのがこの移動販売車の日産チェリーキャブ。10年前までは動いたそうだが、車検を受けても部品が手に入らなかったらしい。そこでこの空き地に置いて、通って営業することに

 

──どうして屋台のメニューにホットドッグを選んだのですか。ご自身がお好きだったとか?

 

店主:「どぎゃんしようか」と嫁と相談して。嫁がパン屋さんに勤めていたから、じゃあパンに手を加えて何かしようとホットドッグを売ることにしてね。それまでサンドイッチはよう食べよったけどホットドッグは経験ない。ホットドッグは当時珍しくて熊本にも2~3軒しかなくてね。食べに行ってみたけど好みの味と違っていた。だから、自分の味を作り出そうといろいろ試したよ。

 

当時アメリカから日本に入ってきていたホットドッグは、ケチャップとマスタードがたっぷりのったものがほとんど。一方で、四つ葉のホットドッグはマスタードはうすくパンに塗られており、ケチャップの量もほどほど。ひと味違います。

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──四つ葉のホットドッグは、味のバランスが絶妙ですよね。

 

店主:マスタードはピリッとするけど、飲み込んだ時すーっと消えるよう特別な配合にしてあるけんね。アメリカそのままの味だったら日本人の口には合わんとよ。口の裏にケチャップとマスタードがべちゃっとくっつくからその時はおいしくても毎日は食べられんでしょ。だから飽きのこない味を作ろうと思うてね。

 

当初は山椒やコショウ、中華味などいろんな味付けを試したのだそう。けれど、何日か食べると飽きてしまう。毎日食べてもおいしい味を追求していった結果、今の味に落ち着いたといいます。

 

貴方に幸福

──パンがサクサクなのがすごく好きです。必ず注文を受けてから焼いてくださるんですね。

 

店主:作り置きはせんよ。パンが水分を吸ってべちゃーっとするでしょ。焼き方もいろいろ試してね。電子レンジでぬくめたけどまずい。電気オーブン、ガスオーブン両方試してガスオーブンが一番よかったけん。

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▲サックサクの焼き立てホットドッグは中毒になりそうなおいしさ。冷めてもおいしいが、まずは焼き立てをその場で味わってみてほしい。ちなみにパンは、奥さんが勤めていたパン屋さんに頼んで特注。病気で休んだ1年半を除いて、創業時から変わらず40年以上の取引だ

 

──営業し始めて、順調にお客さんが増えていったのですか?

 

店主:初日からお客さんが来たけど、珍しさで並ぶこともあるとたい。だけん「自分がお客ならこうして欲しい」ちゅうことを考えてやろうと続けてきたら1年過ぎてもお客さんが減らん。これならやっていけると思うたね。

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▲「自分がお客ならこうして欲しい」を徹底しているホットドッグ四つ葉。焼きあがったホットドッグは袋に包んで、種類をマジックで書いてくれる丁寧さ。中に何が入っているか一目瞭然だ

 

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▲紙袋の中には、ビニール袋に包まれたホットドッグが。これは手を汚すことなく食べられるようにという配慮。お客さんが手に取る時のことまで考え抜かれている

 

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「貴方に幸福」のコピーが本当に素敵。なんてシンプルで力強く、温かい言葉なのだろう

 

計算し尽くされた具材の順番

──どのホットドッグがいちばんの売れ筋ですか?

 

店主:やっぱりミックスはみんな頼むね。それで、ミックスの最後のひと口がチーズになっとる。すると、後を引くみたいでみんな次はチーズを頼む(笑)。

 

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▲ミックスは、口に入る側から卵とウィンナー、チーズと具材が並んでいる。(ハムは全体に)最後のひと口がチーズなのは、あと味と熱さを考慮してのこと。焼き立てのチーズがひと口目にくると熱すぎるけれど、卵なら程よい温度。お客さんが口にする段階のことまで計算され尽くしている。

 

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▲私も初めて訪れた時、ミックス→チーズの順番で頼んだ。まさに店主さんの計算通りだ

 

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▲ミックスとチーズ(プロセス)の他は、ソーセージ(魚肉)、ハム(スライス)、エッグ(玉子)、ウインナー、シーチキン(ツナ)と全部で7種類。ちなみに私は全部食べたが、どれを食べても必ずおいしい

 

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▲これはハム。端っこが赤いハム(スライス)は、ちょっとジャンクで懐かしい味がする

 

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▲これはエッグ(玉子)。どのホットドッグにもマヨネーズであえたきゅうりとキャベツが入っていて、ほどよいシャキシャキ感を与えている

 

震災でも相棒は倒れなかった

──ご主人のお子さんたちはどうですか? やっぱりホットドッグ好きだったり?

 

店主:買いにくるよ。家なら作ってあげるけど、ここは商売しとるところだから店先ではちゃんとお金を貰っとる。他のお客さんと同じ。

 

たとえ血のつながった家族であっても境界線をしっかり引く姿勢は、長年誠実に商売を続けてきた人の矜持。ホットドッグ四つ葉は、味だけでなく接客姿勢もプロフェッショナルなんですね。

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▲飲み物は130円。近くの自動販売機で売られている値段と同じ良心価格

 

──別の場所で営業されていた奥さんが先に引退されたんですね。

 

店主:平成21年くらいまでやっとったけど、嫁の車が使えなくなって。子どもたちも巣立ったし、2人なら俺一人で仕事すれば食べていけるだろうと。でも65歳過ぎてから体力落ちてね。自分では用心しとるつもりだけど。

 

──熊本震災(2016年4月)の時も大変だったと伺いました。

 

店主:朝ここ来たら車内は棚からテレビ、オーブン全部めちゃくちゃ。でも車は無事だったからよかったよ。

 

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▲創業から苦楽を共にしたチェリーキャブは震災でも倒れなかった。「見てくれは廃車ばってん、嫁と同じくらい大事な相棒」と店主さん

 

店主:その後、病気で休業しとってね。それでもお客さん待ってくれているからやめようとは思わんかった。体調よか時やろうかねと。今は雨の日は休みにしとる。無理はよくなかね。体壊したり、ストレス溜めると続けられなくなるから。

 

──お店を再開されて喜んでいらしたお客さんが多かったのでは?

 

店主:今年の正月1~4日営業しとったら、たくさんお客さんが来て毎日17時には売り切れ。「おっちゃんやりよったね、辞めたと思ってたよ」ってね。

 

お正月の時期。熊本に帰省した人が、昔懐かしいホットドッグ四つ葉が営業しているのを見て嬉しくて寄ったのかも。これからも雨の日や疲れた日は休むけれど営業できる時はやる、と地道に続けてくれるそうなので私も嬉しい。

 

店主:まあいろいろあったけどぼちぼちやってきて楽しい人生やった。この仕事は人に束縛されないのがいいね。

 

取材中、何組もお客さんがホットドッグを買い求めに来ていました。一本だけ買って食べた後に、おいしさに感動したのかまた買いに戻ってくる人の姿もちらほら。私も初めて訪れた時はまったく同じことをしたので気持ちがよくわかります。

 

日産チェリーキャブ越しに、熊本の夜の街、働く人々、産業の移り変わりを見てきた店主さん。昭和から平成、令和と時代は移り変わりましたが、ホットドッグ四つ葉の味は創業当時から変わらず守り続けられました。

 

熊本を訪れる機会があれば、ぜひ寄ってみてください。一度食べたらたちまちとりこになるはず。ランプが光っているのが営業中の目印です。

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店舗情報

ホットドッグ四つ葉

住所:熊本県上益城郡益城町平田2240
電話:非公開
営業時間:12:00~24:00(売り切れ次第終了)
定休日:不定休、雨の日は休業

 

書いた人:横田ちえ

横田ちえ

鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。

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