『笑点』のディレクターから転身。美人女将が切り盛りする落語が聴ける小料理屋さんで粋な夜を

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いま、世の中では空前の落語ブームが起きています。

 

さまざまなメディアで取り上げられることも多くなり、日本で唯一の演芸専門誌『東京かわら版』は、

寄席定席(鈴本演芸場・浅草演芸ホール・末広亭・池袋演芸場・国立演芸場)情報のほか、東京近郊で開かれる大小の会をとりまぜて毎月900件以上、紹介しています。

とのこと。

 

毎月900件以上……!

知ってました? そんなに落語会があることを。

 

かく言うぼくは、週3ペースで都内の落語会に通っているんですが、神奈川県在住なので、終わると同時に帰路に着かないと電車がなくなるんです……。

 

で、落語のネタには『二番煎じ』や『禁酒番屋』、有名どころだと『芝浜』など、お酒の話が多い。せっかくなら一杯ひっかけて帰りたいじゃないですか。まあ、『芝浜』は酒をやめる噺(はなし)ですけども。

 

もちろん寄席に行けば飲食も飲酒もOK(じゃない、定席もあります)ですよ。ただ、ぼくがメインにしているのはホール落語会のため、飲食は基本禁止。仲入り(休憩時間)のときに、もそもそとコンビニで買っておいた、いなり寿司をつまむ程度です。

 

そんななか、『東京かわら版』で気になる記事を発見しました!

 

「落語が聴ける小料理屋『やきもち』オープン」

 

なにそれ! 気になる!

……これ、行かねばなるまい!!!

 

まるで秘密クラブ!

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最寄り駅は以下の通り。はじめて行くとちょっと見つけづらい立地です。  

  • JR秋葉原駅昭和通り口:徒歩8分
  • 東京メトロ日比谷線秋葉原駅1番出口:徒歩8分
  • つくばエキスプレス秋葉原駅:徒歩10分
  • 都営新宿線岩本駅:徒歩10分
  • 東京メトロ銀座線末広町駅1番出口:徒歩10分
  • JR御徒町駅南口:徒歩12分

どの駅からも近いような……さりとて、遠いような……。

ぼくは、2度目も迷いました。

 

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お店のある建物の路面店も小料理屋さん。その脇を進んでいくと……

 

ありました。

 

ホームページにも“「秘密クラブ」みたいなお店”と書かれていましたが、まさにその通り! と思いきや、女将曰く「家賃が安くて、落語ができる広さがあるところを探したら、この奥まった変な場所を見つけたんです。これはもう『秘密クラブ』にするしかない」と、まさかの後づけコンセプト!

 

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それより、なにより、よく見てください!

のれんに書かれた「桂 歌丸より」の文字を!!

 

そして、「やきもち」という字の脇には、寄席文字、勘亭流、江戸文字書家の橘右橘さんの名が刻まれているではないですか!

 

これは、かなりの落語マニアが開いたお店であることの証左です。

女将……恐るべし。

 

【18:00】女将さん、オープンの時間ですよー

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若干フライング気味でしたが、同じタイミングで来られたご夫婦とともに、オープンと同時に店内へ。席数は、24席+補助席4つ。落語会は、毎週火曜日が基本。それ以外は、小料理屋さんとして営業しています。

 

小料理屋さんというと、かなりハードルの高さを感じますが、ここならカジュアルな雰囲気もあるので、気兼ねなく入れます。貸し切りパーティーにも対応しているそうなので、高座をお借りしての発表会にもよさそうです。

 

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しかし、なぜ、歌丸師匠からのれんをプレゼントされているのか。

それは、女将である中田志保さんの経歴に秘密がありました。というのも、お店を始める前は、日本テレビで『笑点』のディレクターをしていたからなのです。

 

だ・か・ら、歌丸師匠だったのです!

 

「お店をはじめる際、歌丸師匠から「なんでも好きなのをつくっていいよ」っておっしゃっていただいたので、「じゃあ、のれんにします」と。でも、『笑点』を担当するまではあまり落語を聴きに行っていませんでした。それが、出演者の方の落語会に行ったらすごく楽しかったので、自然に自分でもっと見たい、聴きたいと思って行くようになりました」

 

その後、中田さんはプチ席亭(個人で落語会を主催すること)も始めます。

 

「最初は知り合いがやっている落語会のお手伝い。噺家さんを呼ぶだけだったのですが、ちょっと入りが悪かったりしたときがあって、『もう、ぜんぶ私がやる』みたいな感じになってしまい(笑)。なので、成り行き上やるようになった感じですね」

 

なるほど……。

ふと、お店を見渡せば、そこかしこに元笑点ディレクターであることを示すアイテムがありますね。

 

笑点座布団

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まず高座には、お正月の「笑点 特別版」の賞品だという「紅白座布団」が置かれていました。

これは、女将が『笑点』を卒業する際に番組から頂いたもの。 赤い壁に紅白の座布団、年中おめでたい高座です。

 

特製のランチョンマット

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各テーブルに敷いてあるランチョンマットも、よく見ると落語家さんの手ぬぐいですよ! こちらは、ピンクの着物でおなじみ三遊亭好楽師匠のもの。

 

「こういうものをつくろうと思っているって(林家)たい平師匠に話したら、『うちにいっぱいあるからあげるよ』って紙袋1個分、ドンってくれたんです」とのこと。 座る席によって誰のものに当たるか、落語ファンならずとも楽しい趣向です。

 

新司会者からの贈りもの

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 店先では、6代目司会者の春風亭昇太師匠の名前が入ったのぼりがお出迎え。こちらは昇太師匠からの開店祝いです。

 

【18:30】なかなかどうして、料理のレベルが高い!

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女将へのインタビューも終えたので、もう、落語の前に飲みだしますよ!

 

まずはコース代(落語一席+1ドリンク+前菜+メイン2品+お食事 or デザート)4,800円を先払い。テーブルに置かれた封筒には、お品書きとともにポチ袋が入っていました……が、この使いみちはのちほど紹介するとして、ドリンクチケットとして、ひとつ500円分のおはじきも頼んでおきます。

 

先払いやドリンクチケット制にしたのは、少人数で営業するための工夫だそう。

 

楽しくなって、どんどん注文して、落語がはじまる前にべろべろー。あれ、いま何杯目? とならないので、お客にとっても明朗会計はうれしい心遣いです。

 

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コースは日替わりで、この日の前菜は、左から「蓮根きんぴら」、「長芋のレモンポン酢漬け」、「ピーマン煮浸し」でした。

 

脱サラして、まずは日本橋にある高級割烹料理店で仲居として働いたという中田さん。その後、新橋の居酒屋さんで調理場を経験します。

 

「どこで修行したわけでもないんです。強いて言えば、祖母が岐阜で料理研究家をしていたのがわたしの料理の素養になっています」なんて謙遜していましたが、どの料理もおいしくてビックリ。しかも、数十人分のコースをひとりでこなすのわけで、なかなか大変ですよ……!

 

岐阜愛知の調味料、お酒などは関東ではあまり見かけないものを入れています」と言う通り、「玉柏」や「百十郎」といった岐阜の地酒もそろっており、お酒がどんどん進みます。いや、進みすぎます。

 

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地の味付け(調味料)は、その土地のお酒と相性がいいわけで、気がつけば冷で二合……ツーっと喉を通るんですよね〜。このとき、まだ19時過ぎ。落語がはじまるまで、まだ1時間近くもあるじゃん。

 

はじまるまえに、酔うな、これ。

 

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ということで、(日本酒は飲みすぎるので)山形の月山トラヤワイナリー「月山山麓」をグラスでいただきます。

 

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ちなみに、ウィスキーも岐阜の玉泉堂酒造による「PEAK WHISKEY」というこだわりようの岐阜ずくめ。

 

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いい心地で飲み進めていると、メインの「豚角煮」と「三重産の鯖(サバ) 味噌煮」が、順々にやってきます。どちらも酒飲みにはうれしい味付けと量。多すぎず、かと言って少なすぎずで、お腹の心地も丁度いい。

 

ふと時計を見れば、19時45分。お店もほぼ満席になっていました。

 

【20:00】お待ちかね。さあ、落語のお時間です

待ってました。

はじまりの予感、直感、第六感!

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まずは、女将から注意事項の説明。お連れの方との会話は控えてね、写真は撮っちゃダメですよ、などなど。

とは言え、飲食はOKなわけですよ。おいしい料理とお酒に舌鼓を打ちながらの落語鑑賞というのが、なによりもうれしいポイントです。

 

出囃子(でばやし)が流れて、春風亭百栄師匠の登場です!

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しかし、近いな!!!

 

寄席の最前列でもそこそこの距離感がありますが、ここは高座と最前列の距離が10cmほど!(メジャーを忘れたので目測で恐縮です)

 

目の前というよりも、ほぼ見上げる感じ。なかなか、新鮮。

 

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ちなみに、最前列以外はおおむね視界良好。この辺りは好みですので、予約時に相談してみるといいかもしれません。(希望に添えないこともありますので、あしからず)

 

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「やきもち」では毎月テーマを決めて、それに沿った噺をかけてもらうそう。

この月のテーマは「文化祭」ということで、師匠は自身の新作『キッス研究会』を口演されました。

 

いやあ、一言で言えば、ヤバイ!!!

 

マクラで、日本一汚い“モモエ”ですと自己紹介する師匠のビジュアルに対し、ギャップのある艶っぽい声色に独特の世界観、絶妙な設定などなど。あまり内容を説明するのもやぼなので、YouTubeにも上がっていますし、DVDも出ていますので、ぜひ聴いてみてください。

 

でもね、この距離感だからこその破壊力があるネタですよ。機会があれば、ぜひライブで聴いてほしい!

 

【20:30】落語の後はコースも締め

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コースの締めは、食事とデザートからお好みで選べます。この日は、ご飯モノが「鯖の船場汁」で、デザートは『キッス研究会』に合わせたスペシャルメニュー「キスチョコサンデー」でした。

 

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高座を降りた師匠に「キスチョコサンデー」を持っていただき、記念撮影。

 

さて、ここで前述のぽち袋の使いみちを。

 

おはじきは、ひとつ500円分でしたね。このおはじきをポチ袋に入れて師匠に手渡すと……そう、ご祝儀になるんですね〜。

 

このアイデアは、そもそも文人墨客がお座敷遊びで噺家さんを呼んでいた文化を現代によみがえらせたいというお店のコンセプトにつながります。

 

「(春風亭)昇太師匠から聞いた話で、昇太師匠の大師匠である春風亭柳橋師匠のお宅を掃除していたとき、ご祝儀の目録が出てきたんだそうです。そこには、そうそうたる名前が書いてあって、そのご祝儀の額がすごかったんだよって話を聞いて。

すごく素敵だなって思ったんですが、今はもうないですよね。なので、そういう文化が復活したら面白いかなと思いまして」

 

自分のひいきにしている噺家さんをお座敷に呼んで、ご祝儀をはずむなんて、実に粋な遊びですねぇ。

高座を降りた百栄師匠もカウンターに座り、なじみのお客さんと楽しそうに飲んでいました。

 

【21:00】スタッフも落研に所属してるってよ!

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ずっと調理場に入っていたので気が付きませんでしたが、スタッフのなかに唯一の男性がいる。もしや……落研?

 

「……はい(笑)」

 

やっぱりか!

二松学舎大学に通うアルバイトの廣瀬さんは、1年生の頃までやっていた野球部を離れ、2年生になってから落研に移籍。とくに好きなのは、柳家喬太郎師匠の『純情日記渋谷編』だとか。自身でも新作をつくっているとのことなので、機会があればぜひ聴いてみたい!

 

しかし、スタッフが落研というのが、なんだか、いいじゃありませんか。ほんと、店中に落語愛が詰まった最高の小料理屋さんです。

 

***

 

毎月の出演者は、スケジュールよりチェック可能。落語好きの方はもちろん、まだ落語未体験の方にこそ「やきもち」で落語に触れてほしい。

 

アニメや若手の活躍も相まって、500円で入れる新宿末広亭の深夜寄席に行列ができたりしていますが、すこし背伸びをして、粋な落語会に足を運ぶのも乙なものですよ。

 

お店情報

落語・小料理 やきもち

住所:東京都台東区台東1-12-11青木ビル1階B号室
電話番号:03-6803-2050
営業時間:火曜日~金曜日 18:00〜23:30、土曜日・祝日 17:00~23:00、※月曜日は予約のみ
定休日:日曜日

※この記事は2017年2月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:D.O.B

D.O.B

フリーランスの編集・ライター。基本、裏方担当。達磨好き。落語会は週3までに留めるよう気をつけています。

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