【レキシ】特別対談「歴史はメシで作られる!」池田貴史×永山久夫【前編】

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日本人はいったい何を食べてきたのか。封建社会や江戸時代では、どんな食材や食事がポピュラーだったのか。現代人は味わえない、古代の豊かな食文化とは?

日本史に魅せられた音楽家・池田貴史(レキシ)と、食文化研究の第一人者・永山久夫が『メシ通』で初対面。縄文から平安時代の歌人、さらに戦国武士まで「歴史を作ってきた食」をアツく語り倒した!【前編】

※【後編】はこちら

 

池田貴史

池田貴史

福井県出身。1997年よりSUPER BUTTERDOG、2004年からは100sのキーボーディストとして活動。日本の歴史に造詣が深く、ソロプロジェクト「レキシ」として2007年アルバム『レキシ』でソロデビュー。ファンキーなサウンドに乗せて歌う日本史の歌詞 と、ユーモア溢れるステージングで話題を呼ぶ。現在までにアルバム『レキツ』『レキミ』『レシキ』を発表。2015年11月にはファーストシングル『SHIKIBU』が発売。さらに最新作として2016年6月22日には、5枚目となるアルバム『Vキシ』をリリース予定!

 

永山久夫

永山久夫

福島県生まれ。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。長寿食、健康食の研究のほか、NHK大河ドラマ「独眼竜正宗」「春日局」などでは当時の食膳の再現・時代公証も手がけた。テレビ、ラジオ、講演会の出演多数。『たべもの戦国史』(河出書房新社)『大江戸食べ物歳時記』(新潮文庫)『武将メシ』(宝島社)『古代食は長寿食』(保育者)など、著書多数。

 

紫式部はイワシが好物だった!?

池田:今日は先生に、日本の食の歴史にまつわる話をいろいろ訊けたらと思ってます!

永山:よろしくお願いします。今回の対談はうなぎ屋さんの座敷で行ってますが、うなぎは『万葉集』にも出てくるほど古い食材なんですね。大伴家持が「石麻呂に我れ物申す夏痩せに よしといふものぞ鰻(むなぎ)捕りめせ」と詠っている。

池田:僕はレキシっていう名前で日本史を題材にした音楽をやってるんですが、だいぶ前に『万葉集』って曲も書いてるんですよ。

永山:そうでしたか? じゃあ今日は大伴家持(おおとものやかもち)の格好で来てもらえばよかったかな(笑)。

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▲今回おじゃましたのは東京池袋駅東口にある「山吹」。蒲焼き(2,300円)など、うなぎ料理が絶品

 

池田:ハハ(笑)。去年は紫式部をテーマにした『SHIKIBU』というシングルをリリースしたんですが、まず先生に訊きたかったのは、紫式部(むらさきしきぶ)のことで。一説によると、紫式部はイワシが大好物だったらしいんですが、それって本当なんですかね?

永山:そもそも貴族階級はイワシを食わないものなんです。しかし、紫式部はイワシが好物だったという説があります。イワシを食べたいが、夫の前で食べれば怒られてしまう。なので、出勤した後にこっそり食べるんですが、どうしても匂いでバレちゃうんですね。夫にそのことを問われると、式部は「イワシ食べました」と平然と答えるわけです。もちろん夫は怒るんですが、それに対して式部は歌を詠んで返すんですね。
「日の本にはやらせ給ふ岩清水 まゐらぬ人はあらじとぞおもふ」
つまり「岩清水という大きな神社にお参りしない人がいないように、こんなうまいものを日本に住んでいながら食べないというのは、人間として損ですよ」と返した。平安時代の非常に保守的な貴族社会の中で、紫式部は活き活きした人間性を忘れなかったというエピソードなんですね。

池田:なるほど~。

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永山:ただ、これは伝説みたいな話でしてね(笑)。平安時代の文献には、この件について残された記述はないんです。だけどね、あながちデタラメな話ではないんじゃないかと、私は睨んでるんです。

池田:おおー、それはどういうことですか?

永山:平安の貴族社会というのは、階級社会であると同時に、きちっと一日の生活も定められた社会なんですよ。朝も夜も食べるものが決まっていた。そういう中で、貴族が食べていい魚と食べちゃいけない魚があったんですが、食べちゃいけない魚の中にイワシが入っていた。イワシは大衆魚ですし、生臭くてすぐに腐りますからね。そういう大衆的な食材を紫式部があえて食ったということは、そういう常識に私は囚われるような人間ではありませんよということの表れなんですね。

池田:貴族の決まりなんかに私は従いませんよっていう、女性としての強い意志というか。

永山:そうです。紫式部は、社会通念や常識に囚われるのが嫌いな人だった。そのくらいオープンな心を持っていて、意思の強い人間じゃないと、『源氏物語』という大長編の恋愛小説も書けなかったんじゃないかと思うんですよね。

池田:おお、面白い! 先生に話を聞いてから曲を書けばよかったわ~、マジで(笑)。

 

平安時代の味噌は、今にたとえるなら高級キャビア

池田:しかし当時にしてみれば、そういう恋愛小説自体が社会通念から逸脱してるわけですもんね。

永山:当時、女性は家で待ってるわけですが、男性にしょっちゅう通ってもらうためには魅力がないといけない。魅力のひとつとしてもちろん〈容貌〉もありますが、もうひとつは〈知性〉だったんですね。当時は男性も女性もある程度教養を身につけて、さらさらっと歌も詠めるぐらいに感性が豊かじゃないと好印象を持たれなかった。そうなると「オメガ3」が大事になってくるんです。具体的には、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、αリノレン酸など。イワシに多いのはDHA。記憶力がよくなって、表現力を豊かにする要素ですね。紫式部が実際にイワシを食べたことかどうかは定かではないけれども、あの人の行動や創作能力を考えると、かなりイワシを食ってたと判断して間違いない。ものを書いて感動させる力というのは、社会通念を破るぐらいの力がないと。

池田:すごいね。目からウロコ落ちまくりですよ、イワシだけに(笑)。

永山:いいものはいいと言えるのは、人間としての自信があったんでしょうね。

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池田:自信があったから、清少納言(せいしょうなごん)のことをDISったんじゃないですかね?

永山:紫式部と清少納言は、お互いに牽制しあってましたからね。やっぱりライバル意識は強かったでしょう。このイワシの和歌は、そもそも和泉式部が詠んだものだいう説もあるんですが、実はそれもはっきりしない。俗説みたいなものですから。だけど紫式部が詠ったとしても説得力はある。もともと誰かの作り話だったにせよ、紫式部像というものをかなり研究してるはずで。イワシのような大衆魚と、紫式部のような貴族社会の女傑がエピソードとして結びついたことに意味があるんだと思います。

池田:なるほど、ここから見えてくる紫式部像っていうのは、わりと真に迫ったものだったのかもしれないんですね。

永山:いま話に上がった和泉式部(いずみしきぶ)も、またすごい女性なんですよ。彼女は平安時代きっての恋多き女だったと言われてる。今もそういう方っていらっしゃるでしょ?しょっちゅう恋してないと生きてられないタイプ。
池田:恋愛体質ってやつですね。アーティストでもそういう人はいますよ(笑)。

永山:はっはっは(笑)。でね、その時の恋人に味噌をくれとリクエストされるんです。味噌というのはあの時代は貴重品で、今の食べ物で例えるとなんだろうな。

池田:高級キャビアとかドンペリみたいな?

永山:そうですそうです。大変貴重なもので人になんてとてもやれるものではないけれど、恋しい貴方のために差し上げます、と「花にあへばみぞつゆばかり惜しからぬ あかで春にもかはりにしかば」という歌を詠んだのが、文献にも残っています。

池田:へぇ~!

 

小野小町も女子力UPのマニュアルを読んでいた?

永山:平安時代といえば、もう一人有名な女性がいますよね?

池田:小野小町(おののこまち)!

永山:そうです。三大美女と呼ばれる小野小町は、肌もツヤツヤしてたそうなんです。何を食べたらそうなると思います?

池田:コラーゲンですか?

永山:そうです。じゃあコラーゲンを何から摂っていたか。なんと熊の掌なんですね。『玉造小町子壮衰書』(たまつくりこまちこそうすいしょ)という本があって、ある日食べたご馳走がずらっと記述されてるんです。そこにメインディッシュとして記されてるのが、熊掌(ゆうしょう)なんですね。

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池田:熊掌……現代人には縁遠い食材ですね。当時の女性にも、食事から美容を追求しようという部分はあったんですかね?

永山:平安時代にまとめられた『医心法』という日本最古の医学書があるんですが、この中に美容についての記述が出てきますね。そこに出てくる食材は、当時の貴族の女性はほとんど食べています。ちょっと変な話ですが、この本には健康には性的交渉も必要だとか、どういった方法で何回行えばいいか、という記述も出てきます。

池田:ほほう~。で、何回が理想的なんですか?

永山:あっはっは! それはまぁ今度、夜の対談の時にでも(笑)。それにしても平安王朝の食と貴族たちの行動を研究するのは、面白いですよ。平清盛なんかは糖尿病で亡くなったと言われているんですが、贅沢三昧しすぎるとそうなっちゃう。だから、貴族も贅沢をしつつほどほどにブレーキ感覚もあって。身体を大事にする人は『医心法』を読むんです。当時、紫式部も清少納言も読んでましたね。だって、人生は明日どうなるかわからない。次々と異変が起きたりと常識で考えられないようなことが沸き起こりますから。そうすると登場するのが陰陽師。

池田:キターー! 安倍晴明(あべのせいめい)!

永山:安倍晴明は陰陽師の中でも有名ですが、いろんな人物の話題に必ず出てきます。占ってもらったり厄除けしてもらったりして、人生の無事を祈るわけです。

池田:しかし聞けば聞くほど、平安時代の女性たちも、いかに女子力を磨くかってことに躍起になってたんだろうなって思いますね。食に美容に占いにセックス……って、ほとんどこれ今売られている女性誌の特集だもん。昔の人も考えることは一緒なんだね。

 

【後編】につづく。

 

お店情報(取材協力)

山吹

住所:豊島区南池袋1-27-8サンパレスビル
電話番号:03-3971-1287
営業時間:11:00~21:15(L.O.20:45)
定休日:無休
ウェブサイト:https://www.hotpepper.jp/strJ000145739/

 

撮影:松木雄一

 

書いた人:宮内健

宮内健

1971年東京都生まれ。ライター/エディター。『バッド・ニュース』『CDジャーナル』の編集部を経て、フリーランスに。以降『bounce』編集長、東京スカパラダイスオーケストラと制作した『JUSTA MAGAZINE』編集を歴任し、2009年にフリーマガジン『ramblin'』を創刊。現在は「TAP the POP」などの編集・執筆活動と並行してイベントのオーガナイズ、FM番組構成/出演など、様々な形で音楽とその周辺にあるカルチャーの楽しさを伝えている。

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