仕事帰りにちょっと一杯。
焼鳥屋さんは全国にありますが、この街ではちょっと変わったメニューが市民に愛されています。
その名も「新子焼き」。
常連さんは何の疑問も持たずに、席に座るやいなや、このメニューを注文するのです。家族が集まれば、そこに「新子焼き」があるのも珍しい光景ではありません。クリスマスには朝から晩まで1000人前を焼くというから驚きです。
同じ北海道でも旭川市だけで通じるメニューで、数キロ離れた街では一切通じなくなるというローカルなB級グルメをご紹介します。
老舗の焼鳥屋さんで味わう
札幌のススキノに次ぐ、北海道第2の繁華街ということで、観光客で賑わう界隈ですが、雑踏から少し離れたこの小路には地元の人ばかりが集います。
その名も「ふらり〜と」。
昔は焼鳥屋が軒を連ねていたことから「焼鳥通り」とも言われていたそうです。
旭川市の焼鳥屋さんの多くで「新子焼き」というメニューが提供されており、この全長200メートルほどの小さな「ふらり〜と」の中にも「新子焼き」を味わえるお店が数軒あるそうです。
その中でも老舗の「ぎんねこ」さんにお邪魔しました。
看板のタヌキが通行人を監視しています。
店の外までモクモクと焼鳥を焼く美味しい香りが。これは素通りなどできません。
飲兵衛の天国のような店内
昭和25年創業。この雰囲気、なかなか出せるものではありません。何人もの酔っ払いが何杯ものグラスで磨いたかのようなカウンター。
焼いている様子が見える最高の席に座れました。炭火がパチパチと鳴っています。
ちょっと落ち着いて作戦会議
ここでいきなり「新子焼き」を頼んでも良いのですが、お楽しみは最後派ですので、まずはお店の評判メニューを注文しました。店内は地元の人ばかりで大にぎわいです。
鶏もつが登場
美しい! これは名店の予感がプンプンするではありませんか。
1串110円、タレで注文しました。焼鳥が焼きあがるステージを最前列で観戦しながらビールを流し込みます。
ガソリンが入ったところで、今日の本題、いっちゃいますか!
すいません、「新子焼き」をお願いします
店主を含め、常連さんにとっては日常の光景かもしれませんが、「新子焼き」が何なのかもわからない旭川以外の人からすると、注文もドキドキです。
「塩とタレどちらにしますか?」
「それじゃあ…タレでお願いします」
30分ほどかかりますからね。そう言って網の上に鳥の半身をドカンと置いたのは、店主の久保さん。
なるほど「新子焼き」とは、豪快な半身焼きのことですか!
どうして「新子」っていうんですか?
奇をてらったメニューでなくて、一安心。しかし、「新子」って何ですか?この質問に対して店主・久保さん。
「コハダという魚をご存知ですか。あれは出世魚なんですよ。コハダ、ナカズミ、コノシロと名前が変わっていくんですが、コハダの手前を新子って呼んでいたそうなんです」
なるほど、それがルーツで、「若鳥」=「新子」ということですね。
しかし、これはあくまで仮説。
祖父の代から「新子焼き」は販売しているものの、常連さんも高齢になり、特に文献が残っているわけでもないため、正式な名前のルーツはわからないといいます。
よく聞かれるんじゃないですか?
旭川以外の方からは100%聞かれますと久保さん。
先ほど、私に教えてくれた「コハダ」の話は、もうテンプレートになっており、頭で考えなくても口からポイポイと出てくるそうです。
焼きあがりました、「新子焼き」!
旭川市のローカルなグルメが登場です。「新子焼き」1,200円。
これは…たまらない! すごいボリュームで、ひとりで食べるには多いくらいです。
タレの甘く香ばしい香りに、胃袋がギュッとなります。
食べやすいようにカットしていただきました。グループで食べる常連さんは、好きな部位をめぐっての攻防戦になるそうです。モモにムネ、手羽と味わいも違います。
それにしても、このタレがたまりません。3代目店主の久保さんは、おじいさんから「何かあったらタレを持って逃げろ」と教えられたそうです。
他にも「働いている時は酒を飲むな」という遺言を残されたのだとか。それをしっかりと守り、焼き場に立ちます。
「でも、じいちゃんは飲んでた」という噂を聞いたことがあると久保さんは笑います。
日本酒もいただけますか?
「ぎんねこ」の日本酒は火で直接温める「焼き燗」です。それだけでも珍しいというのに、なんですかその銚子!
「鳩燗」と呼ばれるもので火鉢などに直接刺して使えるそうです。
いや〜、味がありますね。
一合を計るマスは創業から使っているもの。店主やスタッフ、それに常連さんも代替わりしていきましたが、このマスだけはずっとこの店で働き続けています。
なんだかロマンを感じますね。
ちなみに、すり減って一合以上入るんだとか。
飲兵衛に優しいマスということですね。
クリスマスは倒れるほどの忙しさ
さすがは「新子焼き」のマチ。
クリスマスには予約が殺到し、朝から晩まで焼き続けるそうです。七面鳥やグリルチキンの代わりにするのでしょう。その数なんと1000人前というから驚きます。家族でワイワイ新子焼きとはたまりませんね!
ということで、旭川のソウルフード「新子焼き」とはボリューム満点、鶏の半身焼きのことでした。
みなさんも旭川市内の焼鳥屋を巡って、お店ごとの「新子焼き」を探求してみるのはいかがでしょうか。
お店情報
焼鳥専門 ぎんねこ
住所:北海道旭川市5条通7丁目
電話番号:0166-22-4604
営業時間:13時~22時
定休日:月曜日