全国に会員140名が在籍する日本たぬき学会。
たぬき文化の探究と情報発信を目的とし、1997年に四国で発足した組織である。
・肉が使われてるわけでもないのに、なんでたぬきうどんって言うの?
・たぬき汁って美味しいの?
・信楽狸の置物の徳利には、何が入ってるの?
などなど。
たぬきと食にまつわる疑問を、会長むらたぬきさんにぶつけてみた。
駐車場に捨てられた狸の置物に、自分を重ねた
▲オリジナルの信楽たぬき
ーむらたぬきさんはなぜ、たぬきが好きなんでしょうか
生き物のタヌキも好きなんですけど、私のメインは信楽焼きの狸の置き物でして。
2010年頃、駐車場に置かれたプランターに、小さな信楽狸が植えられてたんです。植物でもないのに半身、土に埋められてて。
「縁起物なのにこんな扱い方されていいんだ!」ってなんだか気になっちゃいました。
これ話すと心配されるんですけど、当時仕事が大変な時期だったので……。
駐車場の隅っこで、捨てられるように置かれた狸の置物に感情移入しちゃったんです。
ーまるで自分のようだと……
それから、狸の置物が気になって。
あらためて近所を眺めると、一つの通りに狸がいくつも置かれてたりする。駅前のお店の軒先にもたくさん狸がいる。
狸の置物がつぎつぎ見つかるので、写真を撮ってSNSで「#街角狸」で発信していきました。
狸の置物には色んなバリエーションがあるので、全部観てみたい、もっと知りたいって、どんどん興味が湧いてきたんですけど、今どこで誰が作ってるかって情報がネットに全然なかったんです。
ーへ~、意外! 情報ないんですね
最初に作ったのが誰か、なんで全国的に広がったのかっていう過去の情報はネットにあるんですよ。
職人の藤原銕造(ふじわらてつぞう)さんが信楽焼の狸の置物を作りはじめた。昭和天皇が滋賀県の信楽に行幸された際、街道に狸の置物を並べてお迎えしたことが報道されて、全国に流行していった。そういう情報はあるんです。
でも、逆に、今、信楽のどこに窯元があって、誰が作ってるのかの情報がまったくない。そんな情報が欲しくて、2018年に日本たぬき学会に入りました。
ー日本たぬき学会の会員数は?
140人ぐらいですね。徐々に増えてます。
年会費2,000円で、年1回会報と総会への招待状が届くんですけど、非常にゆるくてですね。実際、毎年欠かさず年会費払ってる人、半分ぐらいしかいません(笑)。
▲総会の様子
ーそれはゆるい!
昔からの会員さんの中には、ご高齢で固定電話しかない人も多くて。
会員さんの半分ぐらいはメールアドレス持ってないんで、事務連絡を手紙でやりとりするしかない人もいます。
ーめちゃくちゃアナログ!
テレビやラジオ、SNSでたぬき学会の活動を知って新しく入会した方々は、メールアドレスが分かるので、最近Slackのチャンネルを始めまして。今60名ぐらいチャンネルに入ってます。
ー手紙からスラックまで! テクノロジーの高低差激しいですね。
たぬきうどんの由来にも、たぬきの掴みどころのなさが現れている
ー『メシ通』なんで、たぬきとメシに関することについてうかがいますね。ずっと疑問だったんですけど、たぬきうどんってたぬき肉が使われてるわけでもないのに、なんでたぬきなんですか?
諸説あるんですけどね。
天かすがのってるうどんが、たぬきうどんですよね。
天かすは天ぷらだけど中身がない。つまり、タネ抜き。タネヌキだから、たぬきになった。
まぁ、ダジャレって説ですね。
あとは、狐との比較で、たぬきという説もあります。
油揚げがのってるうどんを作った。油揚げといえばキツネだ。じゃあ、きつねうどんにしよう。その対比で、天かすのうどんを、たぬきうどんにしたという説です。
ーなるほど! タネ抜きでたぬきって、すごく納得感あります
でも、京都でたぬきうどんは天かすじゃなくて、あんかけうどんの事らしいんです。
キツネがどろんと化けて、どろっとしたあんかけになったって由来だそうです。
ーえ、キツネが化けてあんかけになった? じゃあ、たぬきじゃなくて、化けキツネうどんじゃないですか。なんでたぬき?
私が言いたいのは、そこです!
たぬきってほんと掴み所がなくて、よく分かんないんですよ。だから、こういう由来にしても化かされたみたいに曖昧なんです。
リアルのタヌキも、実は特徴がなくて、みんな間違えて認識してる。だから、たぬきは化けるって思われてるんですね。
▲てごねのたぬきバッチ
ー特徴がない? しっぽのシマシマとか、丸くて黒くなってる目の模様とか、けっこう特徴あると思うんですが
それ、アライグマです。
キャラクターとしてのたぬきって、しっぽがシマシマで、目の周りが黒いイメージですよね。でも、それ、定番の間違いなんですよ。
ほんとのタヌキは目の下にCの字型に黒い模様があって、しっぽもシマシマじゃありません。
仮に、暗い山道でばったり出会っても、よく分からない毛の塊がいたってなって、いろんなものに見えてしまう。たぬきのイメージが人それぞれで違う。だから、たぬきは化けるって言われるようになったんじゃないかと思います。
たぬきって身近な存在ではあるんだけど、家畜になることもなく、人間とはつかず離れずの状態だったんで、それでリアルとイメージが一致してないのかもですね。
信楽狸は、酒買い小僧に化けている
ー信楽狸が持ってるとっくり、あれって中身なんですか?
お酒です。
信楽狸は、酒買い小僧に化けた豆狸(まめだ)をモチーフにしてます。
瓶詰めの技術がまだ確立してない江戸時代、おつかいの子どもが、徳利持って酒を買いに行ってました。支払いも現金じゃなくて、通帳記入して年末にまとめて払う、つけ払いです。
豆狸はそんな酒買い小僧に化けて、雨の日に現れます。
笠をかぶって、徳利と通帳を持って、酒をくすねて帰るんです。
ーなるほど! そういうバックストーリーがあったんですか
豆狸は座敷童みたいな存在で、美味しい酒屋に住みつくと言われてます。
だから、居酒屋さんとか酒屋さんは、豆狸モチ―フの信楽狸を置くようになったんです。
たぬき汁、ウマいかマズいか分からない問題
ーたぬきって、食材として利用されてるんですか?
仕掛けた罠にタヌキがかかったら、猟師さんはたぬき汁にして食べてます。
でもですね、たぬき汁って、ウマいかマズいか分からない問題があるんですよ。
ーウマいかマズいか分からない問題
ややこしいんですけど、猟師さんによってタヌキと言っても何を指してるか違うんです。タヌキなのか、ムジナなのか、それともアナグマなのか。
地域によって、ムジナもひっくるめてタヌキって言ってる場合もあるし、アナグマをタヌキって言ってることもある。なんでもかんでもタヌキにしちゃってる。
たぬき汁ウマいって言ってるけど、この人が食べたのはほんとにタヌキなのか?
これまた曖昧で、非常にたぬきっぽいですね。
ーまさに化かされてるようだ……
そもそも、狸で検索すると、アライグマの画像が出てきますからね。
先日、AIにタヌキを描かせてみたんですが、見事にアライグマでした。
今の最先端技術まで、たぬきに化かされてます。
日本人にこんなにも愛されながら、どことなく曖昧さを残しているたぬき。
聞けば聞くほど化かされているようで、クセになる存在であった。
書いた人:松澤茂信
珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信