【食と恋愛】彼氏彼女の食事【辛酸なめ子】

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食と恋愛や、デートと外食をテーマにした女性クリエイターによるリレー連載「21世紀のGUY食問題」。

第3回目は、漫画家/コラムニストの辛酸なめ子さんが登場。「彼氏彼女の食事」というテーマで、デートにおける男女のパワーバランスについて考察していただきました。

 

彼氏彼女の食事

先日、サンシャイン水族館の入場待ちに並んでいたら、後ろの20代カップルの会話が聞こえてきました。

「お腹すいたね。夜、何食べる?」

「チキン南蛮! 恵比寿においしいお店があるらしいよ」

「じゃあチキン南蛮にしよう」

食べたいものを聞かれてチキン南蛮という具体的な名称が出てくる彼女、若いのに目的意識がしっかりしてます。二人の関係も何でも話せるオープンで良好な雰囲気。そして鶏肉というのが、適度に女らしくてポイント高いです。

以前、六本木ヒルズのカフェでバブル世代の男女が、デートの段取りについて話していたのですが、

「映画のあと、どうする?」

「しゃぶしゃぶが食べたいわ。六本木に霜降り肉のいいお店があるんだけど」

という女性の発言に、ギラギラした肉欲を感じました。しゃぶしゃぶという語感がもう……。

そして食事代も高くつきそうです。映画デート→しゃぶしゃぶ、というバブル世代の鉄板コースを今も踏襲している彼らに、尽きせぬ生命力をも感じます。この世代はおそらくデート費用は全て男性持ち。「これだけお金払ったんだからわかってるよな」と暗黙の了解のもと、きっとしゃぶしゃぶのあとは、しっぽり濃厚な行為に及ぶのでしょう。女性からデートで「しゃぶしゃぶを食べたい」とリクエストしてきたら、これはもうGOサインと受け止めて良いのではないでしょうか。
いっぽうチキン南蛮はというと、肉指定なのでそこはかとなくOKっぽいけれど、肉の中でも淡白な鶏肉なので、どちらともいえない部分があり、男子を惑わすリクエストです。焼き肉だったらいけそうだけど、チキンはどうでしょう。ただマヨネーズ系のねっとりしたソースが絡んでいるのは、リビドーを誘発しそうです。

 

お店選びで2人の関係が分かる

食のチョイスから勝手に人様の情欲を推測してしまいましたが、男女の食事のセレクションには二人の関係性が現れています。
オラオラ系、もしくは権力を持っている男性はコース料理の出る高級店に行きたがります。個人的には私はコース料理が苦手で、とくにフレンチは、好き嫌いが多い故、食事したとしても残しまくって気まずい空気になりがちです。仕事関係の会食でわりと高いフレンチに行かせていただいたものの、牛もフォアグラもジビエ全般も食べられず、経費とはいえ申し訳なかったです。コース料理で前もって勝手にメニューを決めてしまう人というのは、女性をコントロールしたいタイプかもしれません。コースだと2〜3時間相手を拘束することにもなります。もし最初のデートで高級フレンチに誘ってくる人がいたら束縛がキツい予兆です。

また、世を忍ぶ関係とか芸能人が選ぶのが個室のお店です。先日、誕生日にはじめて、 芝の高級とうふ店「うかい」に行くことができました。広大な敷地に建つ旅館のような建物。これだけの個室が、数カ月前から予約でいっぱいとは、密会している人の多さに驚かされます。庭には、なぜか油揚げを焼くだけの小屋が建っていて、敷地内を散歩して小屋を見学できるとのこと。この油揚げを焼くバイトをしたら、芸能界や政財界の闇情報を入手できそうです。せっかく高級店に行っても思考回路が下世話な方向に……。

 

相手を見定めるには食べ放題系

デートで食べ放題のお店に行くと、相手の品格を見定めることができます。意地でも元を取ろうとして、料理を全種類コンプリートしたら、結局最後は苦しくなったり……。食べ放題で本気を出しすぎる人は、前世では食料難で苦労したのかもしれません。

私は以前、食べ放題で焦って皿を割ってしまい、そのときは女性としてという以前に人間として反省しました。少量を上品に盛り付ける人はセレブ感がありますが、そもそも本当のセレブは食べ放題には来ないという説が。長年交際したカップルは連係プレーで、サラダ担当、メイン担当とかにわかれて効率良く盛り付けることができます。そこまできたら夫婦同然の仲です。

女性としてデートで家庭的な面をアピールできるのは、鍋やお好み焼きなど、半分セルフのお店。鍋に具を投入したり、お好み焼きを混ぜて焼いてひっくり返したり、大したことはやっていないのに、かいがいしく料理をしているような錯覚を起こさせます。また、鍋の場合は蒸気がスチームとなり、肌を保湿する美容効果も。相手に肉を多く盛り付けることでさらに好感度アップ。冬場のデートにぴったりです。

 

倦怠期にはフェスめしがおすすめ

はじめてのデートはこじゃれたカフェ、慣れてきたら鍋やお好み焼き、さらに関係を進めたいときは焼き肉やしゃぶしゃぶで発情、ちょっとした記念日に高級ディナー、と段階を踏んできたところで、どうしても訪れるのが倦怠期。この期間を乗りきるのにおすすめの食事があります。

それは、公園のフェスめし。代々木公園や日比谷公園などでは、タイフェスからうどんフェス、インドフェス、中東フェスにフィリピンフェス、北海道フェスなど年中、世界各国のフェスが開催されています。

屋台がたくさん出ていて、気軽に異国情緒が楽しめるのですが、食事の環境としては結構ハード。屋台にはたいてい行列ができていて、食べ物を買うのがまず大変です。肉フェスなど地獄のように混んでいます。タイフェスなども公園一帯かなり混雑していて席を見つけるのが至難の技です。他のフェスも、座席が少なかったり雨天用の屋根がなかったり。サバイバル気分で、二人の絆が深まります。

先日行ったインドイベントは、雨が降りしきる中、椅子もなく、あるのは雨に濡れたテーブルだけ。傘をさしたまま、カレー的なものを立ち食いする羽目に。しかも雨がどんどん料理に入ってきます。過酷すぎる食事ですが、これをデートで経験したら二人で試練を乗り越えた感が得られるでしょう。もうどんな環境でも一緒に生きていけます。食事という行為はそもそも本能的なものだという初心に戻れそうです。冷静に考えると、食事姿を見せ合うこと自体、恥ずかしいものなのかもしれません。

 

書いた人:辛酸なめ子

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『絶対霊度』(学研)、『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社)『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)など。

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